迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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枯れない花の少女

「僕は、戦いが嫌いだった。戦場では、僕が好きな花が踏み躙られてしまうからね。故郷が魔剣で滅ぼされた時に、その想いを強く感じたよ。でも、世の中には戦いでしか解決できない問題もある。ならばせめて、早く戦いを終わらせ悲劇を少なくするために、僕は戦場で指揮を執ることにした。花を愛でることしかできないお前が正気かと同胞には言われたけど、どうやら戦略家としての才能があったみたいでね。やがてある人間(ヒューマン)の王から気に入られ、大きな軍の指揮を執ることになった」

 

 高潔なエルフは戦争を嫌うため、好き好んで加担する者も珍しい。

 人間の国となると、尚更である。

 

「最初は上手くいっていたよ。元々戦況的には優勢だったこともあって、数年でその戦争は終わる予定だった。――だがある小国が、それを覆してしまった。今ではこの周辺で最も大きな国家となっている聖王国は、たかだか五千の軍勢で五万の兵に打ち勝ってしまったのだ」

 

「一人の英雄は、千の兵士に匹敵する。彼我の戦力差をたった一人で覆した例は珍しくもないだろう」

 

「そうだね。でも小国を勝たせたのは一人の英雄ではなく、天使が起こした『奇跡』だった。五千の兵士全員とは言わないが、その中でも優れた兵士は殺しても、何度も蘇ってきたんだ」

 

「アリュー大地の奇跡か。星火がその力を使った、最初で最後の戦場だ」

 

 丁度、この場所だ。

 

 百年と少し前、星火はたった五千の軍勢で、五万の兵士に打ち勝った。

 

「傍から見れば奇跡かも知れないが、相手側からすれば正に『悪夢』だ。折角、倒した強い兵士が、生き返ってくる――しかも、彼らは死ぬたびにその恐怖を忘れ、攻勢を強めて来ていた。僕が指揮していた、今まで数々の戦場で戦っていた英傑たちの多くも、殺しても死なない敵に恐れを成し、士気の低下を引き起こした」

 

 星火の力は、数百、数千を同時に生き返らせる事が出来ない。

 

 頑張っても、日に数十人といった所だろう。それでも、彼我の戦力差を覆すに至ったのは、不死の軍勢という恐怖で敵の臆病心を突けたことが大きな理由に違いない。

 

「そこから破竹の勢いで周辺諸国を蹴散らし、小国は大国へと成りあがった」

 

「星火の力を欲したのは、『復讐』のためか?」

 

「いいや、違う。僕はあの敗北を恨んでなどいない。むしろ、逆だ。――花は何時しか枯れゆく。エルフも同じだ、悠久の時を生きられる訳でもない。だが天使の力は、死という終着に辿り着いた者をこの世に美しいままで再臨させる事が出来る。僕は、あの力に魅入られてしまったんだ」

 

「分からないな。結局、お前は彼女の力を使って何がしたい」

 

「ふむ、当然の疑問だ。――この世から戦いを無くし、誰もが花を愛でることができる世界にする。それが僕の究極的な目標だ」

 

「荒唐無稽な話だ。それこそ、世界を滅ぼすくらいしないと」

 

「ああ、だから僕は今から世界を滅ぼし、新しい世界を創造する。それが僕の役割だ」

 

「なっ……!」

 

 毅然と輝いている瞳は、アルマの老いた印象を取り払う。冒険者以上のギラギラした信念、いや妄執にも近い想いが其処にはあった。

 

「そのやり方は、ただ憎悪を生むだけだ。誰もが花を愛でる世界からはかけ離れている」

 

「憎しみの一つも残さず、徹底的にやるから問題はないよ。この世界で生きる全てを一度破壊する。そのあとで、新しい世界に必要なものは生き返らせればいい」

 

「そんなの、無茶苦茶です」

 

「その無茶苦茶が出来てしまうのが、天使の権能だ。さて、それじゃあ本題に入ろうか。――ツヴァイ・ティミド、君にはチャンスを上げよう」

 

「チャンスだぁ?」

 

「ああ。僕は、星火君の生きた遺体を通じて、君のことを知った。彼女が一番信頼していたのが、君だ。その力を使う者として、せめてもの責務は果たしたい。――もし僕の行いを見逃し、力を貸してくれるのであれば、君の安全は約束しよう。君だけじゃなく、君の望む人……例えば、そこのベル・クラネルも、新しい世界に名を連ねることを許可する」

 

 あれだ。世界を半分やるから、仲間にならないかという鉄板の謳い文句だ。

 

「分かった、手を貸そう」

 

「そうか、やはり君は僕の前に立ち塞がって――今、何と?」

 

「だから、俺はお前の行いを肯定して、力を貸す事に決めた」

 

「ちょっと、ツヴァイさん!?」

 

「俺の目的は、星火の遺体を回収する事だ。それが果たされれば、世界がどうなろうが関係はない」

 

 そういって、ツヴァイは手を差し出す。

 

「嘘だね。僕が知っている君は、その決断をできるほど勇敢ではない」

 

「そう、今のは嘘だ。だがこれで分かった、お前はそもそも俺を受け入れる気などない」

 

 甘い言葉を囁かれて、はいそうですかと首を縦に振れるほど、生ぬるい人生をツヴァイは送っていないのだ。

 

「……僕に受け入れる気があったのなら、君は本当に首を縦に振ってくれたのかな?」

 

「やるか。星火の力で世界が滅ぼされれば、俺は生きている意味がない。それに、俺の友達――ベルがそれを許さない」

 

 意見とは総意だ。ベルを友と認めたのであれば、もはやツヴァイ一人で決められる問題ではない。

 

 それを聞いたベルは、血迷った訳ではなかったのかとほっと胸を撫で下ろす。

 

「それで、本当はどうして、お前は俺達の前に現れた?」

 

「それは、君を一番の難敵だと思っているからだよ。仮に、僕の計画が止められる事があるとすれば、それはツヴァイ・ティミドという存在だけだ」

 

「はっ、ベル。どうやらこのエルフの目は相当な節穴らしいぞ」

 

「あるいは、そうかも知れないね。でも、実際に君は最も早くこの場所に訪れた。警戒しておいて、損はない」

 

「どうやら、話は纏まったようだな」

 

 対話の時間は終わりだ。

 

 自分の臆病心に耳を傾け、ツヴァイは戦闘態勢に入る。

 ベルも同じく、持ち前の短剣取り出し、身を固めた。

 

 だがそれでも、アルマは危機感のない様子で肩を竦める。

 

「最後にネタ晴らしをしておこう。屋敷の地下室に、縦型の培養装置が三つあっただろう。あれは、特に重要な三人の遺体を腐らせないために保管していた。一人は君の大切な友人である星火君の遺体だ。あとの二人は……ダンジョンから運び出したある冒険者のものだ」

 

 そうアルマが言った突端、赤い花びらが風で舞い上がる。

 

「彼女が運ばれて来た時は、酷い状態だった。体の破損部分が多く、生き返らせるのに今日まで時間が掛かってしまった」

 

 現れたのは、花畑が似合うヒューマンの少女だ。

 だが一目で、彼女が死人であることを確信する。

 

 ツヴァイは、彼女と面識があった。とはいっても、何度か遠目で見ただけで、実際に顔を合わせたのはただの一度だけだ。それも僅かな時間で、会話と呼べほど言葉を交わした訳ではない。

 

 それでも忘れられないきらめく赤の長髪と、透き通った正義の瞳は、彼女が死して数年経っているのにも関わらず、ツヴァイは鮮明に記憶している。

 

「この人は……」

 

 ベルは面識がないだろう。彼が冒険者になる前に、彼女は既にダンジョンで命を落としている。

 

 だが完全に、無関係でもない筈だ。彼女の仲間だったエルフ――リュー・リオンに何か聞いているかも知れない。

 

「リュー・リオンを連れて来なくて、本当に良かったと思うよ。彼女の名前は、アリーゼ・ローヴェル。二つ名を紅の正花(スカーレット・ハーネル)、かつて【アストレア・ファミリア】の団長だった少女だ」

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