迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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顕華

「この人が、アリーゼさん……!」

 

「可愛いからって、手加減するなよ。こいつはここで絶対に殺しておきゃなきゃならない」

 

「分かってます。今のアリーゼさんを見たら、きっとリューさんが悲しむ」

 

 死人は死人だ。

 だが実際に愛した者が蘇った場合、仮にそこに敵意しかなかったとしても、割り切ることはなかなかできない。特にアリーゼの場合は、生前の色をそこまで損なっていないのだ。

 ディックスとは又、別物の死人である。それはアルマが何かしたからなのか、それともアリーゼの遺体に素質があったのか。

 どちらにしても、死人に対する選択肢は『葬送』しか残されていない。

 

「前回と同じだ。最初、俺は見る。ベル、頼むぞ」

 

 以前は最初からツヴァイが戦わないことに不満を顕わにしていてたベルだったが、今度は了承して、一人前に出る。

 ツヴァイに対する多少の信頼もあるだろうが、今回は敵が一人とは限らない。

 

 後ろで腕組みをしているアルマが何時、何を起こすのか分からないのだ。

 

 死人との間に、戦いの合図などない。ベルがかつての英霊を前に息を呑むと、アリーゼの体が加速した。

 

「はやっ……!」

 

 既に魂が朽ち、胸の炎が風に攫われてしまった死人とは思えないほどの速度に、ベルは思わず驚愕する。

 アリーゼ・ローヴェルは、Lv4だった筈だ。同じくLv4で、しかもその上位に名を連ねる白兎の脚(ラビット・フット)が劣る道理はない。

 

 それに、少なくともディックス・ペルディクスは生前と比べて弱体化していたのだ。

 

 だが、その剣技、そして体の扱い方は明らかにLv4の域を脱している。少なく見積もっても、レベルは一つ上だ。

 

「ぐっ!?」

 

「屈め、ベル」

 

 短剣を弾かれてしまったベルを援護するべく、ツヴァイは糸を射出した。

 だがそれはアリーゼの体に付着する前に、剣であっさりと解かれてしまう。

 

「俺を警戒しているのか」

 

 ディックスは、小人族であるツヴァイを警戒していなかった。

 

 だがアリーゼは、その不意打ちに悠々と対処したのだ。

 

「アリーゼさんって、あんなに強い人だったんですか?」

 

「今も生きていればLv6にはなってただろうな。だが見ての通り、死人だ」

 

「ディックスさんの時と違って、攻撃のパターンに規則性がない。まるで、普通の冒険者と戦ってるみたいです」

 

「正にその通りだよ。特に彼女の胸に埋め込む魔石は良質なものにし、その中の殺傷石は普通の死人と比べて何倍にも大きくしている。僕の理論上、最も死人の底力を引き上げ、それでいて支配できている最高の状態だ」

 

 背後で見ているアルマが、そう講釈を垂れる。

 

「はっ、わざわざ教えてくれてありがとよ」

 

「それはどうも。何も出来ずに殺してしまうのは、あまりにも忍びないからね」

 

「余計なお世話だ。だが、駆け引きが通じる相手であれば、相応の戦い方がある。――俺も戦おう」

 

 傍に落ちていたベルの短剣を手渡したツヴァイは、初めて戦いの意志を見せた。

 

「三分で終わらせるぞ。付いてこれるか、ベル」

 

「は、はい!!!」

 

 今まで戦って来なかったのだから、「やっとか」と悪態を吐かれても仕方ないが、ベルは嬉しそうに返事を返す。

 

 ツヴァイは義腕が錆び付いていないか動作を確認した後、マントを翻した。そしてベルよりも早く、アリーゼに向かって突貫して――。

 

「ぐぉっ!?」

 

「……え?」

 

 そして余りにも簡単に、呆気なく、前に進んでいた筈のツヴァイの体は瞬きの後、遥か後方に吹き飛ばされていたのである。

 正義の剣で斬り込まれた訳ではなく、たかが蹴りの一撃だ。

 だが耐久がLv1と変わらない敏捷だけが取り柄の小人族にとって、少なくともLv5相当の力を有している冒険者の攻撃は全てが致命的なのはもはや言うまでもない。 

 

 どうにか防御態勢を取ったが、背中で花畑を削りながら止まったツヴァイの体は、至る所がボロボロである。

 

「悪い、ベル。腕橈骨と鎖骨が折れた、後は頼む」

 

「こんなことは言いたくないですけど、貴方は一体ここに何しに来たんですか!?」

 

 三分処か、僅か三秒で一人になってしまったベルは再び、一人でアリーゼに立ち向かう事になった。

 

「ファイア・ボルト!!!」

 

 ただ先ほどまでと異なって、ベルの動きが『格上』との戦闘スタイルに変わっている。

 

 空間を広く利用して、できるだけ距離を離し、機を伺っている。

 

 白兵戦を得意としている相手には有効だ。実際、アリーゼは特に近接戦闘を得意とする戦士職だった。

 ただ、今のままではジリ貧だ。ベルの必殺技――あの大鐘楼の音と共に集まってくる光粒であれば、打開できるかも知れないが、アリーゼの理性と死人としての本能が溜める隙を見逃してはくれないだろう。

 

 かといって、この場で唯一時間稼ぎができる可能性のある小人族は使い物にならない。

 

 たかだか蹴りの一撃で動けなくなった者など、もはやアリーゼにとっては意識外だ。

 

 そう、既にアリーゼはツヴァイを見ていないのだ。

 

 ――それでいい。それでこそ、わざわざやられた甲斐がある。

 

 ベルを強敵と認め、その意識が完全に向いたその時を、ツヴァイは待っていたのだ。

 

 確かに、骨が幾つか折れた。だが、手足は体にくっ付いているし、走るために必要な筋肉が断裂したわけではない。

 それに、『恐怖』は忘れていないのだ。むしろ、彼女の攻撃を受け、小指は更に逃げたがっている。

 臆病が(そこ)にあるなら、ツヴァイはまだ走れる。

 

「ベル」

 

 そう一言呼びかける。

 ツヴァイの瞳を見て察してくれたのか、ベルは捨て身の行動に出た。

 

「ファイア・ボルト!!!!!」

 

 保っていた距離を捨て、至近距離でアリーゼに放たれた炎雷は、しかし彼女の剣に切り裂かれる。

 灯は勿論、愛剣を失ってなお、その美しい一閃は賞賛に値する。

 

 だが、青い。

 

「死人なら、相手を殺すまで気を抜くなよ」

 

 既に、アリーゼの懐に肉薄していたツヴァイは、その義腕を押し当てた。

 ならばあとは、肩にある仕掛けを駆動するだけである。

 

 銀の衝撃は、少女の脇腹を抉り取ったのだ。

 

 ただそれは思った以上の威力が出た訳ではなく、単に肉体の強度が問題だ。ディックスの時も思ったが、やはり血の通っていない体はどうしても耐久性に欠けている。

 

 少女の脇腹を抉ったなど、聞くだけであまりにも惨い(グロテスク)だが、実際に血が出たり臓腑が零れたりすることはないので、壊れた銅像といった姿形である。

 

「今だ、ベル!」

 

「はぁああああああああ!!!」

 

 確実に仕留めるため、短剣に炎雷(ファイア・ボルト)を付与したベルが駆ける。

 

 仰向けに倒れるアリーゼの体は、その短剣に貫かれ、内側から魔石ごと灰燼へと化す――筈だった。

 

「『   』」

 

 それは言葉ではない。意味のない音が、彼女の口から零れた。

 

 途端、今まで多くの強敵に打ち勝って来た速攻魔法(ファイア・ボルト)よりも苛烈な炎が、彼女の体から爆発的に昇り、周囲を熱と光で覆い尽くしたのである。




結末まで書き終わったので、随時アップしていきます。あと丁度十三話程度ですが、お付き合いください。
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