迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか- 作:ゴリラズダンジョン
「ヒャッハー!!!汚物は消毒じゃい!!!!!」
そう戦場を駆け回りながら、次々と焔を解き放っているその姿を、きっと多くは悪役だと断言するだろう。
だが少なくともこの場において、その小さな影は巨悪に立ち向かっている英雄である。
「フハハハ。敵が、敵が簡単に倒れていく……!これが『力』か。愉悦、実に至極だ」
「ツヴァイさん……それじゃあ悪役みたいです」
ツヴァイの魔力保有量は、極めて少ない。
だが死人への特高である【エクス・ファイア】が使用する魔力は更に僅かだ。数百発程度では、マインドダウンを起こすことも無いだろう。
それよりも心配すべきは、ツヴァイの『スキル』に関してだ。
【
それに関して、問題はない。
実際、今までと同じ速度で、戦場を駆け回ることができている。
恐怖を忘れた訳ではないのだ。
臆病の風向きが変わっただけで、力を得ても眼前に広がる光景が恐ろしくて仕方がない。
だからこそ、走らなければならない。躓いて転べば、簡単にツヴァイは死ねるのだから。
「エクス・ファイア!!!」
死人たちの合間を駆け抜け、次々と弔いの炎を落としていく。これだけの冒険者と死人がいながら、『戦火』の二割はツヴァイで彩っているといっても過言ではないくらいには役立っていた。
ただ調子の乗っているのは事実である。
戦いが終われば、苦手なダンスを飄々と披露するのもやぶさかではない。
だが調子に乗った鼠を捕まえるのには当然苦労するのは言うまでもないだろう。
「つ、強ェ……あの小人族、Lv2じゃなかったのか!?」
「
「はっはっは、いいぞお前らもっと褒めろ!」
「ただ、調子に乗り過ぎるのは感心しないね」
勇者の忠告など無視して走り続けたツヴァイだったが――やがて、その脚を止める事になる。
「もっと調子に乗りたい所だったが――それが出来るなら苦労はしないわな」
死人の中に、異様な存在感を見付けた。
アリーゼとアルフィアなど、純粋な殺傷石を核としている者達とは異なって、その他大勢の死人に色はない。
だがその女は、一人夥しい程の死臭を放っていた。それが死人から発せられているが匂いではないのは、他の屍から漂ってこない事から分かる。
「確か……【殺帝(アラクニア)】か」
その二つ名を冠するヴァレッタ・グレーデでは闇派閥の中でも、飛び抜けた異常者だ。シリアルキラーとして有名だった。
「有り得ない。彼女の遺体は、僅かな骨しか残らないほどの『残骸』になった筈だ」
フィンが驚いた様子で言う。
星火の権能では、遺体の大部分が破損している場合、天使の奇跡を用いても生き返らせる事が出来ない。
もしや、今の星火の力は、少しでも本人のDNAが刻まれているものであれば、問題なく蘇らせ事が可能なのか――と、一瞬そう思ったが、それは有り得ないだろう。
それが出来るのであれば、過去に散っていった英雄達のすべてをこの場所に呼び戻している筈だ。
「とにかく、蘇ってるのは事実だ。どうする、どうやらお前にご執心らしいが」
虚無の奥で微かに灯る光は、ツヴァイではなくフィン・ディムナを見ていた。
「――フィ~~~~~~~ン~~~~~~ッ」
醜い怨嗟の声が、体を震わせる。
「おいおい、死人が喋ったぞ。折角だ、デートでも行ってきたらどうだ?」
「遠慮しておくよ。僕にとって彼女は二度と会いたくなかった人間の一人だ」
「そうか。悪いな、どうやら勇者は、如何にも品性下劣なお前のことが世界で一番嫌いらしい」
そこまで言っていないと、フィンは否定しない。
「段階くらい格は落ちるが、同じ小人族の俺で我慢してくれないか?」
「ァ――フィン、フィンッッッ!!!!!」
「おいおい、無視とはひどいな。存在がちっぽけ過ぎて、目に映らないってか?これはアドバイスだが、偶には足元を見た方がいいぞ。躓くのは、何時だって足元からだからな――って死人に言っても無駄か」
「少し苛立っている様子だが、彼女と何か因縁があったのかい?」
「個人的にはない。だが闇派閥にやられた冒険者の遺体を回収しに行ったとき、ぼろぼろに引き裂かれてたことが何度かあってな。その時は決まって遺品も盗まれてた。言わば、この女は俺の『商売敵』さ」
「そうか、そういうことにしておこう。……君も損な性格だね」
あれほど人の体を傷付けることができる存在を、ツヴァイは本能的に忌避している。
相手の強さを図る物差しは基本的に『恐怖』だが、少なくともヴァレッタ・グレーデに関しては『嫌悪』だ。
ただあの憎悪を、エクス・ファイアで表面から焼き尽くす事は難しいだろう。
そこでふと、ツヴァイはベルの技を思い出した。
確か、短剣に自らの魔法を付与し、スキルでブーストする技があった筈だ。
小人族であるツヴァイが唯一他の種族と比べて勝っていることはその『逃げ足』だけだと思われがちだが、その『器用さ』も中々のものである。
特に、ツヴァイは他人を真似る事に定評があるのだ。
エクス・ファイアを短剣に付与、スキルでブーストはできないので、速度を乗せ――駆けた。
転瞬、加速したツヴァイは、フィンに熱心なヴァレッタの視線を掻い潜って、悠々とその懐に入る。
「アルゴ・ウェスタ!!!」
「僕の技!?」
丸パクリだ。
少し離れた場所で戦っているベルが、まるで自分の必殺技だとでも言いたげに高らかと放ったツヴァイを見て、困惑の声をあげる。
技に名前を付けるなど面倒臭い。頭を悩ませる暇があったら、一歩でも多く前に進む方がマシだ。
女の懐に突き刺さった短剣、次の瞬間、弔いの炎が体の中で発火した。
血の通っていない体を巡る炎は、足元から死人の体を破壊していく。
「ァ――ァァアアアアアアア」
それでも、彼女は憎悪だけで体を動かして、フィンの元に向かう。
だがその指先すら届くことなく、直前で灰になった。其処にはもはや、骨すら残されていない。
残骸を通り越して、ヴァレッタ・グレーデが存在していた証拠は『無』になったのだ。
「助かったよ。灰で手を汚さずに済んだ」
「勇者にここまで嫌われるとは、悲しい女だな。さて、これで『貸し』は作ったぞ」
「貸し借りの話をするなら、ここに援軍に来た時点で君は僕に貸しが出来てる筈だが……」
「それはお前が勝手にやった事だろ。てか、お前はどうしてこの場所に来た?」
「勇気ある同胞に力を貸しに来た――というのは詭弁だ。単に、僕は君のファンなのさ」
「生憎、英雄譚を出版した思い出はないぞ」
「昔、ある日記を拾ってね。ツヴァイ・ティミドの英雄日記と書かれたそれには、君の物語が記されていた。心当たりはあるかい?」
「………………………………ない」
「随分と長い間だったね」
「一応聞くが、今それはどこに保管してある?」
「僕の書斎で保管しているよ」
「そうか。分かった」
この戦い、何としてでも勝って、生き抜かなければならない。
ツヴァイ・ティミドの英雄日記――それは自分が冒険者の頃、書き記した黒歴史だ。
ただの日記ならまだしも、内容は随分と誇張している。強い自分の理想を描いた、言わば夢物語なのだ。
あの日記を書いたからこそ、フィンはこの場に居る。だから、その行動にも意味があった――とは流石にならない。
これが終わったら、必ず燃やしに行こう。
「……?分からないが、どうやら更に覚悟か決まった様子だね」
「ああ、必ず生きて帰る。――早速だが、さっきの借りを返せ。まずあの少女を倒さなければどうにもならない」
前線が押し返される。
死人の群れから一人出て来たのは、死してなお美しい炎の少女だった。