迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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魔女

「退避、退避ぃいいいいいい!!!!!」

 

 アリーゼが撃破され、戦場の死者の炎が一つ消失した同時、静寂を貫いていたアルフィアが遂に動き出した。

 

 眼下の冒険者たちに、挨拶代わりの一撃。それだけで、その場にいた殆どの者達は無理や不可能といった感想を抱かざるを得ない。

 この場に居る冒険者の士気は高い。皆が一人の小人族のために集ったのだ、風に吹かれたくらいでは揺らぐ事はないだろう。

 

 そして今は、その小人族の勇士が皆に火を付けた直後だ。

 

 それなのに、魔女はその炎を簡単にかき消してしまった。

 

「ここで、諦める訳にはいかない……!」

 

 その中でも唯一前を向くのは、やはりベル・クラネルだった。

 

 最もその理不尽を味わっている筈の彼は、未だに諦めてはいない。

 

「そうだぞ。ここまできておいて、諦めるな。今更逃げられると思うなよ」

 

「ツヴァイさん……!その傷、大丈夫なんですか?」

 

「急所はずらしている。傷口は焼いたから問題ない。それで、どうだ?」

 

「見ての通りです。あの人――アルフィアさんには、近付く事も出来ません」

 

 不可視の音は、避けることが難しい。

 

 あの必殺を掻い潜って、彼女の元に辿り着くのは至難の業だ。アリーゼの炎のように視認できるわけではないが、彼女の周囲には鉄の茨が張り巡っている。

 

「第一級冒険者が十人くらい居れば、行けるかもしれないが……おいフィン、どうせくるなら【ロキ・ファミリア】の強い奴を一人でも連れてこいよな」

 

「僕は独断で抜け出してきただけだからね。ただ確かに、あれはこの場に居る戦力では少々手に余る」

 

「御託はいい。切り札があるなら、早く出せ。それを用意していない勇者でもないだろうに」

 

 バツが悪そうに肩を竦めたフィンは、次に振り返って手招きをする。

 

「やっとこの剣の出番すね……」

 

 背に布で覆われた大剣を乗せ、脚を引きずりながら現れたのはヒューマンの青年だ。

 

 確か【超凡夫(ハイ・ノービス)】だったか。【ロキ・ファミリア】所属のLv4だが、戦力的にはパッとしない男である。

 

「ちょっと、あからさまにがっかりな顔しないでほしいっす!」

 

「ラウルこそ、僕たちの切り札――を持って来た、ただの荷物持ちさ」

 

「団長も俺で遊ばないで下さい!まあ実際、その通りっすけど……」

 

「それで、その大剣が切り札なのか?」

 

「ただの剣じゃない。その剣は『宝剣』と呼ばれる代物だ」

 

 ラウルが大剣を覆っていた布を剥ぐ。

 

 姿を現したのは、至る所に宝石――と見間違うほどの美しい魔石を散りばめた大剣だ。

 

 それぞれの魔石は全て色が異なっている。だが異なる魔石を繋ぎ、大剣をめぐる緋色の光は常に一定だった。

 

 魔石は細胞、そしてめぐる緋色は血。ただの無機物ではなく、宝剣は生きているのだ。

 

「宝剣……?魔剣の一種ですか?」

 

「違う。宝剣は振うたびに持ち手の魂を喰らう禁忌の代物だ。だがその威力は絶大で、宝剣は何世代にも渡って喰らった魂の力を保有している。中には、英雄と呼ばれた者も居たと聞いた」

 

「僕も実際に見るのは初めてだ。宝剣はその危険性から、殆どが『封印』の処置を施されているからね」

 

 宝剣は壊れない。

 

 それは素材の問題ではなく、そういうものなのだ。魂を喰らう剣は錆びる事無く、永遠に生き続ける。

 

「ひぃ、まさかそんな恐ろしいものを運ばされていたとは……」

 

「魂を喰らい続けた宝剣の力は絶大だ。昔は、少し代償がある魔剣程度の認識だったが――下手な冒険者は、握っただけでその魂を持って行かれるだろう」

 

「ある魔術師(メイジ)から受け取ってね。できるなら、使わない方がいいとは言われていたけど……」

 

「そうは言ってはいられないわな。さて……じゃあベル、頼むぞ」

 

「えっ。僕ですか?レベルならフィンさんの方が――」

 

「これは勘だが、恐らく僕の魂が宝剣に勝る事はない。これは器の問題ではなく、意志の問題だ」

 

「いい意味でも悪い意味でも、お前は愚直だ。魂が侵される可能性は極めて少ない……多分」

 

「不安!!!」

 

「大丈夫だ。お前は主人公だから、死ぬことはない」

 

「何を言ってるか分からない筈なのに、妙な説得力があるのはどうしてだろう」

 

「ごちゃごちゃいうな――来るぞ」

 

 風車塔の上から動かなかったアルフィアが、地面に降りて来る。

 

 宝剣を見て、何か感じ取ったのだろうか。

 小指の疼きが、ツヴァイに人生最大級の危険を知らせる。ただこの期に及び、逃げる選択肢はない。

 

 その恐怖を糧に、前に走り出した。

 

「ベルの為に隙を作るぞ、フィン!!!」

 

「僕が囮か。どこまでも、君は強欲だ」

 

 宝剣の力が、今のアルフィアに達する保証はない。

 

 それに宝剣の性質上、溜め(チャージ)が必要になる。ならば、時間稼ぎは必須だ。

 

 音が轟く。真面に被れば、内側から弾けるのは明白だ。

 だから足を止めるわけにはいかない。静寂を靴音でかき乱すべく、駆け回る。

 

 しかし走ってるだけでは、アルフィアは見向きもしない。実際、ツヴァイと違って、その長槍で襲い掛かるフィンしか相手にされていなかった。

 

 かといって、距離を詰める訳にはいかない。幾ら必殺の炎があっても、近付けるLv差ではないのだ。

 

 ならば異なる雑音を――。

 

「――今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々」

 

 その虚無の底には、微かな理性があることは既に分かっている。

 実際、ディックスもアリーゼも、その死に際で意味のある言葉を発した。

 

 アルフィアは【アストレア・ファミリア】の少女達に追い詰められて『敗北』している。

 

 これは、其処に居たある妖精の唱だ。

 

「愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を」

 

 (ブラフ)である。他人の魔法を用いる術など、この身にはない。

 

 ただ魔力を高めているだけで、並行詠唱も出来ないのだ。

 

「来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ」」

 

 しかし、真剣な顔で詠うツヴァイの嘘を嘘だと断言するのは難しい。

 

 ならば必然、その脅威に意識を割くだろう。

 

「星屑の光を宿し敵を討て――えーっと、ハチノス・ウィンドウ!!!」

 

「君という奴は本当に……!」

 

 アルフィアとしては、眼前のフィンを無視する事は出来ない。

 

 最近、Lv7になった彼は、今の彼女にとっても脅威である。だがかつて、自分を敗北に追い詰めた妖精の技も又、静観を貫いてはいられない。

 

 両腕を左右に突き出した彼女は、周囲の空間事態を音で震わせる強行に出た。

 

 絶対的な範囲攻撃。離脱する事は出来ずに、ツヴァイの体は衝撃で後方に突き飛ばされる。

 

 体がひしゃげる事がなかったのは、範囲攻撃で衝撃が拡散していたからだろう。だがアリーゼとの戦いで既にぼろぼろだった体にとっては決定打だった。

 

 立ち上がろうとしても、視界が揺らぐ。体が言う事を聞かない。

 

 距離的にアルフィアの近くに居たフィンも同様で、瓦礫に埋もれた体は中々起き上がらなかった。

 

 だが隙を作る事は出来た。

 

「はぁああああああああ!」

 

 全身を使って大剣を持ち上げ、ベルはアルフィアに向かって振り下ろす。

 

 やはり握っただけで、少年の魂が喰らわれる事はない。その英雄の輝きに呼応して、内なる魔力を高めていく宝剣だったが――。

 

「どうして……何も起こらない――!!!」

 

 その輝きは『頂点』に達する前に失われてしまったのだ。

 

 宝剣は、ベル・クラネルを拒否したのである。

 

「―――――――」

 

 そして、重い鉄塊を持って立っているだけの少年を、アルフィアは悠々とその音で薙ぎ払ったのだ。

 




代償を伴いそうな魔剣を自由に振るう事が出来るなら、代償のあるもっと強い剣があってもいいよね、ということで宝剣の登場です。
詠唱を丸パクリするオリジナリティの無さには目を瞑ってやってください。
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