迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか- 作:ゴリラズダンジョン
ツヴァイの元を離れたあと、直ぐに大気が揺れるほどの大爆発が起きた。
彼が成したのだろう。数十分後にやっと煙が晴れると、既に死人たちの姿はなかった。
ベルは直ぐに、彼の姿を探しに向かった。何かとカッコ付かないのがあの小人族だ。
今もきっと、どこかで力を使い果たして、寝そべっているに違いない。
そうして爆心地に向かって直ぐ、彼の姿を見付けた。
「良かった……」
ベルは安堵の声を漏らす。ツヴァイは岩の上に座っていたのだ。
生命力の爆心地となったその場所だけ、丁度日光が差している。幻想的で、案外英雄として様になっていた。
体中に火傷のあとがある。それでも、既に失っていた右腕以外に、目だった欠損はなかった。
「……ベルか」
彼はただ、一点を見つめながら零した。違和感……そう、瞳に色がないのだ。
灰色ですらない、その色は完全に失われてしまっている。
「まさか、目が……!?」
「何言ってるか分からないし、何も映らないが、驚いているお前の顔が脳裏に浮かんでるよ」
「ツヴァイさん……僕です、僕はここに居ます!!!!!」
「体を揺らすな。分かるよ、お前が其処に居るのは」
目も耳も、既に機能してない。
ツヴァイの体は殆ど死んでしまっているのだ。今喋っているのは、僅かに残った『灯』である。
「待っていてください。直ぐにヒーラーを連れてきますから」
「無駄だぞ。俺はもう、助からない。それこそ、天使の力でもないと……」
「天使、そうだ……!彼女ならきっと!!!」
死の間際、その色を取り戻す死人をベルはこの目で見て来た。ならばと、辺りを見渡す暇もなく、星火の姿はそこにあったのだ。
胸に空いた風穴は魔石が砕かれていることを表している。
散り逝く中で、彼女は生命力に溢れる緑陽の瞳で天を仰ぎながら、祈った。周囲に広がる生命力の輪、それらはたちまち、この戦いで散って言った筈の冒険者たちを癒し、生き返らせたのである。
その全員が魂を失われておらず、意志のない死人になる事はなかった。
「ん。そうか、星火は最後にやってくれたか。これで、俺のせいで誰かが死ぬことはなかったわけだ」
「や、やった……!これで、ツヴァイさんも治って――」
「無駄だよ。天使の奇跡じゃ、もう彼の体は治らない」
その淡い期待を、現れたフィンが打ち砕く。
「周りを見て下さい。皆、星火さんの力で生き返ってます。ほら、僕の体だってもう自由に……」
あれほどアルフィアにやられたのは夢だったと思うくらいに、すいすいとベルの体が動く。
「それは君の体が生きているからだ。――既に、ツヴァイは死人の身だった」
「嘘だ。だってさっき、僕は色のあるあの人と言葉を交わした。その声も言葉も、本物だった」
「だが事実だ。あの時――宝剣を振った時に、彼の体は自壊をしている。それでも彼が起き上がることが出来たのは、死人として蘇ったからに過ぎない」
「そんな……それじゃあどっちにしても、この戦いが終わればツヴァイさんは死ぬ運命だって事じゃないですか!!!」
死人と星火は一心同体だ。
彼女消失すれば、死人も又、いなくなるのが道理である。
「僕のせいだ。僕がもっと――」
「ベル・クラネル、これ以上、後悔する事を僕は許さない。これは彼の決断だ、彼が成した功績だ。それを、踏み躙る真似をするな」
「何言ってるか分からないが、多分、ベルが後悔を初めて、フィンが怒ってる感じだろ。後にしといた方がいいぞ、その間に俺が死ぬ。別れの言葉を言っとかない方が、もっと後悔するだろうし。っていっても、届かない訳だが――まぁ、何となくで分かる」
「その通りだ。まず、僕から言わせて貰おう。――かつて、勇気は『前』だとフィアナは言った。前に進む事こそ、勇気の本質だと。君は臆病者で、その人生は逃げてばかりだったのかも知れない。でも一度として、前に進むことを君は辞めなかった。誰がなんと言おうと、君は『勇敢な小人族』だ。この僕が、それを保証する。君を心から尊敬している、ツヴァイ・ティミド。あわよくば、もっと君と肩を並べたかった」
「どーせお前は勇敢だ、僕が保証するとか、きざったらしいこと言ってるんだろうな」
「……ツヴァイ、君の頭に蜂が止まってるよ」
「うぉっ、蜂か!?」
「やっぱり、届いてるじゃないか」
フィンがかまをかけると、ツヴァイが慌ててで自分の頭を叩いた。
「くそ。聞こえてない筈なのに、全部読まれてる感の方がカッコイイと思ったのに……」
「流石に当て過ぎたね」
「ほら、お前の言葉は聞いたぞ。さっさと、失せろ」
「僕に、何か言う言葉はないのかい?」
「……はぁ、だから届かないフリをしてたんだ。今の俺は言いたくもない本音を言っちまう――同じ小人族として、お前を尊敬してる。それだけだ」
嬉しそうに微笑をしたフィンは、満足した様子でその場を後にする。
「…………」
ベルにとって親しき者の死は初めてだ。
お爺ちゃんの死に目には会う事が出来なかったし、目の前で失った
だが、もうツヴァイは助からない。中々現実を受け止め切れないベルでも、それは理解出来る。
だから、何と言っていいのか分からない。
「お前の……お前のファミリアは、団員を募集してるか?」
「……!はい丁度、
「そうか。又、ファミリアで冒険するのも、悪くないかもな」
「きっと、皆、受け入れてくれると思います。リリとは少し、喧嘩になりそうですけど……」
「確か、同じ小人族の奴だったか。以前見たが、確かに弄りがいがありそうな奴だったな」
「春姫さんっていう、
「どうだろうな、家名を捨てたとは言ってたが……確か『サンゴショウ』みたいな家名だった筈……」
「それってもしかして『サンジョウ』じゃ……兎に角、きっと仲良くできると思います!!!」
「そうだな、その夢も悪くなさそうだ……」
「だから、お願いです。まだ行かないで下さい。僕はまだあなたと沢山、話したい事がっ……」
「おいおい泣くなよ。男の別れに涙は禁物だぜ?」
涙が止まらない。
何か言葉を発するべきなのに、でてくるのは嗚咽だけだ。
誰かを失うのが、これだけ辛いことを少年は知らなかったのだ。
「ベル、ベル・クラネル。これが最後の言葉だ、聞け。これからきっと、お前は困難な道を歩くだろう。今日の日と同じように、誰かを失う時が来るかもしれない。愛する者の悲劇に心を痛め、愛せぬ者の非道を赦す事が出来ずに、優しいお前はきっと足を止める。だが立ち止まって振り返ることがあっても、決して後ろ向きに歩くな。もし心の整理が中々付かないなら、脆弱な小人族でありながら、最後まで走り切った俺を思い出せ。そして、今までより速く前に走れ。いいな?」
「は、い……必ず……思い出します」
「砂粒程の悔いも残さず、俺は人生を走り切った。俺が英雄として名を残す事はきっとない。なら、何れ至るであろう英雄の器に、俺を刻んでやる」
その場で立ち上がったツヴァイは、最後にその瞳を金で染め、高らかと言った。
「俺の名はツヴァイ・ティミド、最も臆病で勇敢な
悲しむことも、怒る事も無い。ただ心の底から楽しそうに笑って、小人族の戦士は灰に還ったのだった。
宝剣を振るったことの影響もありますが、もともと、長年にわたる体の過剰行使で、ツヴァイの体はボロボロでした。ここで死ななくとも、あと数年もたてば、勝手に命を落としていたと思います。
だからこの戦いで栄誉を得て死ねたことは、彼にとっては幸福以外の何物でもないです。