迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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これからは語られることのない物語

 これから先は、語られる事のない物語。

 

 生き返しの術者である星火が死に、アルマ・イスファルトが抱いていた野望は打ち砕かれた。

 ただその表情は何故が満足気だったのだ。

 

「散ってなお、美しい命を私は初めて見た。私が抱いた理想は過ちだった」

 

 そう、あっさりと自分の非を認めたのである。

 

 だが問題なのは彼を裏で操っていた神の存在だ。死人に神血(イコル)を刻んだ悪神の正体が誰だか分かってはいないが、それは又、別の物語で語られる事だろう。

 

 ただ他国の辺境伯に冒険者の遺体が弄ばれていたなど、国際的な問題だ。

 

 今回の件に関しては、ギルドから直々に緘口令が敷かれる事になった。

 ならばその事件を解決した小人族の存在は、当然闇の中である。

 

 彼が成した勇気の物語はきっと、語り継がれる事がないだろう。

 だがその軌跡を、戦場に刻んだ足跡を、その場に居た全員は忘れる事はない。

 

 ―小人族は英雄に成れたのか?

 

 成れた、と胸を張っていっていいのかは分からない。

 

 ただその臆病な勇気は、多くに可能性を示したのだ。

 

 ―頑張れば、小人族は英雄に成れる。

 

 それが生涯を賭して、その小人族が体現した『答え』だった。

 

 

「そうか、遂に逝ったのね」

 

 オラリオに戻った僕は、ある神の元を訪れていた。

 

「どうして彼に【臆病者(ノン・ブレイブ)】の二つ名を付けたか聞いてもいいかな?」

 

 彼女は、ツヴァイ・ティミドが、かつて所属していたファミリアの主神だった。

 

 神であれば、彼がただの臆病者でないことくらい分かっている筈なのだ。

 

「彼が、危うい瞳をしていたから。ああ、この子は直ぐに死ぬだろうなって瞳は、神々は直ぐに見抜いてしまう。だから、それは私の願いだった。彼にはもっと臆病になって、死を避けて欲しかった……でもまさか、臆病になるほど前に進む子がいるとか、思わないでしょ」

 

「既に、彼は命を落とした。再び、その二つ名が神の会合で議論される事はない。どうか、彼の主神だった貴方直々に、新しい二つ名を付ける事は出来ないだろうか?」

 

「大丈夫なの、それ?」

 

「今回の功績を認めて、ギルドから特別な許可が出ているから問題はないよ」

 

「そうだねぃ……【勇敢たる臆病(フィアナ・ハート)】はどうだろう。勇者である君からすれば、一族の英雄の名を語るなど、言語両断かな?」

 

「いや、問題ない。いい二つ名だ」

 

「あ、そうそう。少し前に、僕のところにツヴァイが来てね。お土産を受け取ったから、少しお裾分けをしておこう」

 

 神の眷属が持って来たのは大きな麻袋だ。

 

 彼は最後に何を遺したのか――。

 

「これは……芋?」

 

「ただの芋じゃなくて、さつまいもだ。今年は美味しく育ったらしくてね」

 

「ふっ、本当にどこまでも自由奔放な英雄だな。彼は、ベル・クラネルを気に掛けていた。良ければ、持って帰って彼に渡していいかい?」

 

「勿論だ。幸い、サツマイモだけは多く残してくれたからね。あ、そうだ。この芋を、ジャガ丸くんに対抗して、迷宮都市で『ツヴァ芋くん』と称して売り出してはどうだろうか?」

 

「……ありかも知れない」

 

 後日、売り出された『ツヴァ芋くん』は、ジャガ丸くんとは異なって甘味が人気を博すことになる。

 

 そしてツヴァイ・ティミドはツヴァ芋くんの考案者として、後世に語り継がれていくのだった――。

 

 -fin-

 

 

 

【おまけ】

 

「貴方が、遺体の回収で生計を立てているという、噂の小人族で間違いないかしら?」

 

 その日、物資補給のために地上へ戻ったツヴァイのもとに現れたのは女神だった。

 

 この都市にいるものであれば誰もが知っている、美の女神フレイヤである。

 

「……驚いたわ」

 

「女神が俺を見て驚くようなことがあるのか?」

 

「普通の子は、私を見た途端に、魅了され釘付けになる。それは男であろうと女であろうと、そして神であろうとも変わらない。それなのに貴方は今、私から目をそらした。正直、不愉快だわ」

 

「別にアンタが美しくないから、目をそらしたわけじゃない。この灰色の瞳でも、美醜くらいはわかる。間違いなく、神フレイヤは俺が見て来た中で最も美しい存在だ。――だからこそ、恐ろしい。その美は俺にとって理解できないものだ、それが怖くて仕方がない」

 

 美しさすら、恐怖に感じる。臆病者の名は伊達ではない。

 

「人は理解できぬものを受け入れる事が出来ず、多少の恐怖を抱く。でも、それで私の美に抗うなんて……まさかそこまで臆病とは思わなかった」

 

「私の美も分からない不敬者!――と、斬り捨てるか?」

 

「しないわよ。恐らく、というか間違いなく私の魅了は貴方に通用しない。そしてその魂も、十分に気高い。――でも、駄目だわ。貴方は、私の伴侶(オーズ)には成り得ない。目を見れば分かる、貴方は必ず近いうちに命を落とす。自分から進んで未亡人になりたい女はいないでしょう」

 

「良く分からないが、俺って近々死ぬのか?」

 

「少なくとも、天寿を全うする事はない。どこかで必ず命を落とすわ」

 

「そうか」

 

「……貴方、死ぬのが怖くないの?」

 

「人は何れ、死ぬのが道理だ。勿論怖いが、割り切っている。それに、重要なのは『死に方』だ」

 

 今まで多くの、遺品を回収してきた。

 その全てが、誰かに引き継がれ、今も生きている。

 

 勿論、自分が誰かに想いを引き継げる死に方をするなど、難しい話だろうが――。

 

「それで、俺に何の用だ?」

 

「用はもう終わった。満足した死に方が出来るといいわね」

 

「美の女神の祝福を受けたなら、多少は華々しく散れるかも知れないな」




ここまで見ていただきありがとうございます!
初めてオリキャラ主体の二次創作を書きましたが、世界観を崩さずに進めていこうとするのは、やはり難しかったです。

 今回は一人の小人族が英雄になる物語でしたが、もう一つの『構想』もあったので、一応共有しておきます。

 それはベルがアイズに助けられなかった世界線で、ベルは憧憬を抱くこともなく、ミノタウロスに屠られます。

 たまたまその場面に通りかかったツヴァイに、ベルは「えいゆう……」と一言呟いて命を落とし、そこにある神が現れます。

「ベル・クラネルはここで死ぬ運命ではなかった。この物語は間違っている」

 ベル・クラネルのいない世界は、やがて崩壊するだろうとその神は言いました。
 ただツヴァイには、その崩壊を止める唯一無二の『魔法』があったのです。

 遺探者として活動する上で得たそれは、遺体に自らの魂を上書きする、入れ替わりの魔法。
 最も臆病な小人族は、『ベル・クラネル』を演じることができるのか……?というお話です。

 これを却下したのは、どうなってもツヴァイ・ティミドではベル・クラネルになれないからです。もし書くとしたら、リリ、ヴェルフ、命、春姫など、ファミリアの仲間を含めた大切な人たちを全て失うバッドエンドになっていたことでしょう!

 やっぱりハッピーエンドが好きなのでね!それでは!!!
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