迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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取り残されたもの

「待ちなさい。其処の貴方、もしかしてツヴァイ・ティミドという名ではありませんか?」

 

「おう、確かに俺はその名前だぞ」

 

 その日、何時もの酒場で葡萄酒を飲んでいたツヴァイの元に訪れたのは、金髪のエルフだ。

 覆面で顔を隠しているが、彼女が【疾風】だと直ぐ気付いた。

 

「私の仲間――【アストレア・ファミリア】に所属していたものたちの遺品が、貴方の手元にあると聞きました」

 

「保管してるぞ。鍛冶師じゃないから、埃は被ってるかもしれないがな」

 柳眉を顰めた彼女は「そうですか」と瞋恚に喉を震わせて、

 

「卑しい盗人め。直ぐに彼女たちの遺品を返しなさい」

 

 木刀を首元に押し付けて来る。

 静まり返る酒場。ただ、グラスの中で葡萄酒と一緒に転がされる氷の音が響く。

 

 ツヴァイに助け舟を差し出してくれる物好きはいない。

 それは人望がないわけではなく、ただ皆、逃げ足の速い小人族ならどうにかするだろうと、一種の信頼を寄せられているからだ。

 決して「そのまま殺されてしまえ」と嫌われている訳ではない、多分。

 

「分かった、渡そう」

 

「……は?」

 

「だから、返すといってる。返してほしくはないのか?」

 

「いや、その……貴方は、冒険者の遺品を漁って、売り捌いている『探索者』ではないのですか?」

 

「そうだが」

 

「ならば、安々と首を縦に振る意味が、私には分からない」

 

「お前のことが好きだから」

 

「……は?」

 

 二度目の疑問は、先ほどとは又違った困惑を孕んでいる。

 弄りがいのありそうなエルフだが、木刀を突き付けられている状況なのだから、これ位にしておこう。

 

「お前たち【アストレア・ファミリア】を個人的に応援してた。それだけだ」

 

 又、違った意味で目を丸くした疾風は、木刀を降ろし、頭を下げて来る。

 

「どうやら私は勘違いしていたようだ。貴方に矛を向けたこと、心から謝罪します」

 

「いいよ、慣れてる。それじゃあ、ついてきな」

 

 葡萄酒を飲み干したツヴァイは代金をおいて、【アストレア・ファミリア】の遺品を保管している場所に向かう。

 

「ここだ」

 

「……確かに、アリーゼたちの……これほどの武具を、貴方一人で回収しに行ったのですか?」

 

「生憎、パーティは性に合わなくてね」

 

「馬鹿な。貴方はLv2ではないのですか?」

 

「Lvで相手を図るのは辞めた方がいいぞ。実際、お前らもLv3で、Lv7――いや下手をすりゃ、Lv8,9にも成り得る魔女を倒してただろ」

 

 百年間Lv2やってるツヴァイが三十層に一人で行って帰ってくるのと、たかだか十数年しか生きていない冒険者歴数年の少女たちが【ヘラ・ファミリア】の怪物を倒すのでは、圧倒的に後者の方が難易度は高い。

 

 その発言は、小人族だからと舐めているからでてくる台詞だ。

 

「すみません、失言でした」

 

「いや、過小評価してくれてた方が、俺にとってはありがたい事だ。だが悪いな、持って帰ってこれたのは武具だけだった」

 

「いえ、十分です。あとで、相応の代金を――」

 

「いらん」

 

「そういうわけにはいきません。私は、恩義に報いない恥知らずでは在りたくはない」

 

「言っとくが、もし代金をとるなら、五千万ヴァリスは貰うぞ」

 

「ご、ごせんまん!?」

 

「あの一件で、アストレア・ファミリアの評価は上がってるからな。マーケットに流せば、三千―四千万はくだらない。だが目の前に喉から手が出るほど欲してる奴がいるなら、上乗せするのが普通だろ?」

 

 それも又、駆け引きだ。

 マーケットに一度流してしまったら、五千万でも取り戻す事は出来ないだろうし、多大な労力を浪費するだろう。

 

「くっ……わかり、ました」

 

「だが、そうだな。何も貰わないのも、まるで英雄みたいで気持ち悪い」

 

 英雄を見るのは好きだ。

 だが自分自身がなるのは、御免である。そうした思考が生まれる時点で、大きな隙となって、そこに『毒』が入り込むのだ。

 金銭以外の形で何か対価を要求しようと、疾風の体を舐め回すように見る。

 

 当然、彼女は少し身を引いて、柳眉を顰めた。

 

「おーっと、馬鹿にされてるのは慣れているが、そういう瞳は趣味じゃない。何も、お前を取って食おうっていう腹じゃないさ。――そうだな。じゃあ、俺からお願いがある。……お前は、英雄になるな」

 

 アリーゼ・ローヴェルの最後を見た訳ではない。

 だが彼女は英雄として散っていったのだろう。他の団員たちもきっとそうだ。

 

 しかし、彼女は逃げ出して来た。

 どういう経緯であっても、ここにたっているのは彼女一人だ。

 

 かつての、自分と同じだ。

 

 ここで彼女たちの意志を引き継ぎ、振り返ることなく走り出そうものなら、きっとどこかで躓いて同じ結末を辿る。

 

「……一人、生き残った時点で、既にその道は諦めています。――もう、覚悟は決めている」

 

 それは紛れもない復讐の瞳だ。

 今からきっと彼女は泥を被り、仲間を葬ったものたちに報復するのだろう。

 

「それなら、いい情報屋を紹介してやる」

 

「止めないのですか?」

 

「自分の人生だろ。俺が止める道理はない」

 

 ツヴァイが情報を手に入れる時に頼っている、腕の良い情報屋が居る。

 彼の居場所を書いたメモを、疾風に手渡した。

 

「あ、あと俺は闇派閥とは何の関係もないからな。俺を恨む奴が、名前を出してくるかもしれないが、殺しにくるなよ」

 

「それは、関係がある人がいう台詞では……?」

 

「兎に角、これで会う事も無いだろう。じゃあな」

 

 手をひらひらと振って、その場を後にしようとする。

 

「墓を――」

 

「あ?」

 

「この階層に、彼女たちを弔おうと思います。暇な時は、お参りにでも来てあげて下さい」

 

「誰だか分からない小人族がお参りにきたら、おちおち眠ってもいられないだろ」

 

「貴方は中々に面白い小人族だ。もし生きていれば、ライラとは気が合ったでしょう」

 

「そのライラっていうのが誰かは知らないが、捻くれた奴に違いないな」

 

「ええ、本当に」

 

 

 それからしばらくして、18階層の奥――森林の中、日光が差しこむ開けた場所に【アストレア・ファミリア】の墓標が立てられたとの噂が、リヴィラの街に広まった。

 

 無防備に彼女たちが遺した剣が刺さっているその場所を、しかし誰も墓荒らしには訪れなかったらしい。

 

 なんでも、下手に近付こうとすると、人間を超越した速度で足の速い少年の亡霊に襲われるとか。

 

 その、墓守の亡霊は【迷宮の楽園(アンダーリゾート)】の七不思議として、語り継がれていくのだった。

 




ハーフのハーフであるツヴァイの寿命は、二百年ないくらいです。

今が117歳なので、人間でいうと40-50くらいになるでしょうか。

Lv2に到達したのは百年程前で、ステータスは敏捷以外、それから殆ど上がってません。
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