迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか- 作:ゴリラズダンジョン
「おいおい聞いたか?【
「まじかよ。あいつ、もうここまで来たのか」
「リトル・ルーキー……有名なのか?」
「おいおい、ツヴァイともあろうものが知らないのかよ。最速でLv2に至った下界の可能性、白い髪と紅い瞳が兎みたいにキュートな奴だ。名をベル・クラネル、冒険者の中では『ベルきゅんをもふもふしたい会』も設立されているらしい」
半分くらいはいらない情報だったが、兎に角、次代の英雄候補という奴なのだろう。
しかし、最近は若い世代がやけに突出している。【ロキ・ファミリア】の【剣姫】【
Lv2で百年も生きているツヴァイの気持ちも考えてほしいものだ。
「俺ぁ、ベル・クラネルの所に言って来るが、お前も来るか?」
「いかん」
「そうか、では俺だけがもふもふして来るとしよう」
ベル・クラネルというのは、毛量の多い獣人なのだろうか。
2m近い禿頭の冒険者がもふもふすると言っているのだから、まさか幼気な少年ということはないだろう。
しかし、ベル・クラネルか。なぜだろうか、その名前を聞くと――。
「小指が疼く」「親指が疼く」
「あ?」
同じタイミングで、同じような台詞が隣から被さった。
見ると、そこに居たのは自分と同じ背丈の少年――いや、小人族だ。
だがその容姿は全く異なる。白髪で目付きの悪いツヴァイと違って、金髪碧眼の美少年だ。
そして立場も又、真逆である。彼は迷宮都市に住まう冒険者なら、嫌でも知っているタレントだった。
「テメェ【
確かに【ロキ・ファミリア】は今、この階層に滞在していた筈だ。
「突然いきり立って、何か悪い事をしたかな?」
「何もしてないが、俺はお前のことが嫌いだ。以上」
ツヴァイは、英雄を嫌ってはいない。
実際、彼と同じファミリアにいる【
だが、フィン・ディムナだけは、決して英雄と認めてはいない。
別に何かをされた訳ではなく、ツヴァイの本能が嫌っている。
小人族でありながら、脚光を浴びて、すまし顔で壇上に立っている姿が胡散臭くて仕方がない。
酒が不味くなるため、さっさと逃げ出したいところだが、負けた気になるので立ち上がる事が出来なかった。
「しかし驚いたな。【
「貴重な経験が出来て良かったな」
「さっき、小指が疼くといったね。そういうスキルか何かかい?」
「さて、どうだかな。そういう、お前はどう何だ?」
「さぁ、どうだろうね。ただ槍を握っているとどうしても指を力を使う」
「はっ、そうかよ」
【
ツヴァイと同じ、一種の勘なのだろうか。
この小指は、危機を知らせる鐘の音と同じだ。何か悪い事が起きる時に、疼く事がある。
「君、かなり強いだろう?」
「その綺麗な目は節穴か?真面に腕も動かせない、ただの雑魚冒険者だ」
実際、この義腕は自由に動かす事が出来る。
ただ一目がある時は基本的に、だらりと下げて動かない様相を呈しているのだ。
「一見無防備だが、君は僕を警戒している。それにただの小人族なら、僕に歯向かおうとは思わない筈だ」
「ただの無謀な馬鹿かも知れないだろ」
「無謀な馬鹿なら、僕を警戒しないだろう?」
「駄目だ。俺、やっぱお前のこと嫌い」
いざ話してみて、何か変わると思ったがやっぱり嫌いだ。
底が知れない、気味が悪い。
それに可笑しな話だが、なんというか――まるで自分と喋っているみたいだ。対局な立場にいるツヴァイとフィンが、交わる事など、絶対にないのに。
「そろそろいかなくちゃね。話せて楽しかったよ」
「おぅ、二度と来るなよー」
「何時か、君に依頼を頼む時が来るかもしれない。その時は頼むよ、ツヴァイ・ティミド」
そう、肩をトンと叩いて、ツヴァイの分の酒代まで置き、
「そういうとこが、気色悪い」
最初から、ツヴァイの事を知っていたのだろう。
全く、あれがどうして勇者と呼ばれているのか。
しかし【ロキ・ファミリア】が遠征すると、階層主などの強い魔物を倒してしまうため、少しの間、冒険者が死ななくなる。
それに今から迷宮に潜る冒険者たちは、俺達も【ロキ・ファミリア】に続くぞ!と士気の高いものたちばかりだ。
暫くは、暇になりそうだな。
●●
「ゴライアスだ!黒いゴライアスが出たぞ!?」
「おいおい、又かよ」
それは何時の日かの再現だった。
しかも通常のゴライアスと違って、黒い。
本来のゴライアスはLv4相当のステイタスだが――。
「ぎぁあ!?」
「コイツ、強ェ!」
あれは、恐らくLv5相当だろう。
Lv5なら、別にリヴィラの町の冒険者達だけでも太刀打ちできる――とはならない。
あの巨体で、Lv5なのだ。Lv6相当が最低一人いなくては、蹂躙されるだけになるだろう。
しかし運の悪い事に、先日【ロキ・ファミリア】は帰ってしまった。小指の疼きは、この光景を予想していたのだろうか。
「ベル・クラネル……」
きっと、あれがこの階層に神を連れて来たせいだ。
責任をとって、倒してくれなくては困る。かつて、魔女が落ちていくところを見ていた見通しのいい丘にツヴァイは向かった。
冒険者が力を合わせて戦っている。
こっちに気付いたリヴィラの街の顔馴染みが、お前も手を貸せと言いたげな表情で見てくるが、ツヴァイは肩を竦めて、そっぽ向いた。
駆け引きがきかない怪物は、ツヴァイ・ティミドではどうにもならないのである。
「あれがベル・クラネルか」
白い髪、そして紅い目の少年。間違いない、あれがリトル・ルーキーだ。
速い。本当にLv2ランクアップしたばかりの冒険者なのだろうか。
ただ判断に少し、荒がある。あのままだと、踏み潰されて終わりだ。
「星屑の光を宿し敵を穿て――【ルミノス・ウィンド】!!!」
「おいおい、もしかしてありゃ【疾風】か?」
覆面を被っている薄緑の短髪エルフだ。
記憶に残っている彼女の髪色と異なっているが、あの魔法は間違いない。
彼女はあのあと復讐に走って、多くの『
「英雄になるなっていったのにな」
約束を破られてしまった。
だがむしろ、ツヴァイは笑っている。
それでいいのだ。
英雄になるなと言われて、なるくらい根性がある奴の方が、英雄に向いている。
だが、ここままでは不味い。ジリ貧だ、決め手がない。
ゴォーン、ゴォーン。
その時、ツヴァイの鼓膜を大鐘楼の音が震わせた。
見ると、ベル・クラネルの体に光粒が集まっている。何かの魔法――いや、スキルだろうか。
そのチャージが溜まる時間を稼ぐために、多くの冒険者が一斉攻撃を始めた。
怯むゴライアス。だが次の瞬間には、咆哮で冒険者たちを
チャージを辞めたベル・クラネルが、その光を解き放とうとする。だが、あのエネルギーでは少し足りない。
あと三秒――いや五秒あれば。
以前、この街が燃やされた時、ツヴァイは何もしなかった。いや、何も出来なかったのだ。
あの時は、空に絶対的な魔女が居た。
だが今は、瀕死の怪物一匹である。
次の瞬間、さび色のマントを翻したツヴァイは、地面を蹴って宙に舞っていた。
瞬く間にゴライアスの元に辿り着き、その銀の衝撃を振り上げられた右腕に放つ。
義腕の威力では、少しの時間稼ぎにしかならない。だが、これでいい。
それが英雄ではない自分の役割なのだ。
チャージが完了した少年は、その白光を大剣に集約して、解き放った。
凄まじい光が周囲を包み込み、その間にツヴァイは離脱する。
しかし視界が戻った先、ゴライアスの魔石は完全に砕かれていなかった。
ツヴァイは、少年の実力を見誤ったのだ。
あれで力を使い果たしてしまったのなら、これで終わりである。
だがあの少年が本当に英雄の器ならば――。
「あぁあああああああああああああ!!!!!」
刹那、硝煙から出て来た少年は、その短剣を核足る魔石に突き立てたのだった。
ツヴァイの義腕は、自分で作った魔道具の一種です。
火炎石を起爆剤としておき、魔石でブーストをすることで、Lv2の長文詠唱に匹敵する威力を実現しています。
因みに、ツヴァイの攻撃した時点で、既にベルはチャージを辞めてしまっていたので、その時間稼ぎには何の意味もありません。
本人は少しは役に立てたと思っているので、言わないであげてください。