迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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メンテナンス作業

「あぁ、疾風が人殺しダァ?」

 

「リヴィラの街で冒険者が、奴に殺されたらしい。疾風はブラックリストの賞金首だ。ボールスたちが、討伐隊を率いていくってよ」

 

 ツヴァイが彼女と最後にあったのは確か、黒いゴライアスが出た時だったか。

 

 あの時は随分とマシな目になっていると思ったが……逃がした闇派閥の残党でも見付けたのだろう。

 

「殺された遺体の場所は?」

 

「確か西地区の方だった筈だ」

 

 興味本位で向かうと、人だかりができているところを見付けた。

 

 小さな体で潜り抜けると、確かに随分と派手に殺されている遺体を見付ける。

 喉元を裂かれていることが、致命傷になっていた。……恐らく、これは疾風の仕業ではないだろう。

 

 あれほどの実力があれば、この程度の冒険者を瞬殺する事も出来る筈だ。実際、喉元の傷以外は明らかに急所を外され、手加減されていることが分かる。

 情報を引き出すためにいたぶって、最後に致命傷に殺した――という線もあるが、最初から殺す気だったのなら、手加減をしない。

 実際、ツヴァイなら最初に目を潰して、それでもだめなら利き腕ではない方を折るからだ。

 

 さて。

 ただそれが分かっても、ツヴァイには何もする事が出来ない。

 

 殆どの冒険者に闇派閥(イヴィルス)との関係を疑われているツヴァイが潔白を晴らそうとしても、仲間であることを疑われるだけだ。

 

 かといって、助けに行く間柄でもない。

 

「あれは――【白兎の脚《ラビット・フット》】か」

 

 討伐隊の中には、あの兎の【ファミリア】も加わっている。先日『未知』のモンスターに襲われたばかりだというのに、忙しい奴らだ。

 

 少し前には、武装した怪物――ゼノスたちの地上進行の渦中にも居た。

 

 しかし、あの時は大変だった。

 フェルズに頼まれて物資を運びにいったら、黒いミノタウロスに敵と勘違いされて――いや、思い出したくもない。

 

 兎に角、ベル・クラネルと一緒にいては、命がいくつあっても足りない。どこかの体は大人、頭脳は子供の名探偵と良い勝負である。

 

 だが彼が行くのであれば、『大丈夫』だろう。

 

 あれは足が速い。臆病な心も持っている。

 

 むしろ、ボールスたちの事を心配した方がいいだろう。あいつらの遺体を拾いに行く準備でもしておこうか。

 

 ――ここで、突然だがツヴァイが『大丈夫』だと断言して、今まで大丈夫だったことはない。

 だから基本言わないようにしているのだが、ふと口に出してしまうことがある。そういうときは大抵、大丈夫ではないことがおきたときに、そういやさっき言ってしまったなと思い出すのだ。

 

 

「ダンジョンが哭いてる……?」

 

 そして今回も、遂数時間前に『大丈夫』といってしまった事を思い出す。

 

 ゴライアスが現れた時とは少し違うが、似た『揺れ』だ。あれだ、あの時――。

 あの日【アストレア・ファミリア】が全滅した時に起きた揺れと似ている。

 

 迷宮自体が産声を上げているような、この感覚。

 

 ツヴァイの小指も又、疼くのではなく、もはや震え過ぎて泣いてしまっていた。

 何かヤバイ事が、下で起きている。

 

「――ツヴァイ・ティミド」

 

 通信機が反応して、フェルズの声が聞こえてくる。

 

「どうした」

 

「今から『水の迷都』に向かって貰いたい」

 

「何か運べばいいのか?」

 

「いいや、違う。頼むのは、遺体の回収だ。――ベル・クラネルとリュー・リオン、両方が命を落とす可能性がある。そうなったら、速やかに遺体を回収して貰いたい」

 

「……は?」

 

「最悪な事態が起こるかも知れないということだ。体が極端に破損していなければ、私の魔法でどうにかなる可能性がある」

 

「おいおい、まてまてまて。つまり、俺にあいつらが死ぬかもしれないヤバイ状況の階層に向かって、もし死んでたら、遺体を回収して帰って来いってことか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「俺を殺す気か」

 

「……これは言わない気だったが――。今、ベル・クラネル達を襲っているのは、貴様の【ファミリア】を全滅させたモンスターに関係している個体だ」

 

 それを聞いて。

 

 次の瞬間、何とも言い難い衝動に駆られたツヴァイは『水の迷都』に向かっていったのだった。

 

●●

 

 知っての通り、今『水の迷都』に現れて、その爪牙を振っているのはジャガーノートと呼ばれる怪物である。

 

 その破壊者は、迷宮に対し悪意を持って過剰な破壊活動を起こした場合、『破壊した者達の排除』をするべく迷宮の意志によって生み出される厄災である。

 いわば、迷宮の『免疫機能』と言っても良い。

 

 今までに現れたのは、五年前――【アストレア・ファミリア】が疾風を残して全滅した時だけだ。

 迷宮の管理者であるウラノスが認知したのも、その時である。

 

 だが長い迷宮の歴史の中で、たった一度しか機能する機会がなかったのであれば、迷宮は有事の際に機能してくれるのか、心配になる筈だ。

 

 だから過去に何度か、免疫機能を確かめるために、試験的な実験をしていた。

 

 おおよそ数十年から数百年に一度、迷宮はジャガーノートに似た『試験個体』を生み出していたのだ。

 

 ウラノスも、ジャガーノートの存在を知るまで、迷宮で起こるありきたりな異常事態(イレギュラー)だと片付けていたため、その事を知ったのは遂、五年前である。

 

 そしてその時、彼の神は思い出した。

 

 自分が目に掛けていた【ファミリア】が一人の小人族を残して全滅したのも、確かあれに似た存在だったなと。




メンテナンスは大事だよね。
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