迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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小さな勇気、大きな達成感。

 ツヴァイは狡猾な小人族だ。

 

 迷宮での立ち回りや駆け引きに関して、自分の右に回る者はそうはいない。

 ただ昔の自分はもっと感情的な『愚か者』だった。

 

 人間の本質は変わらない。

 

 勿論、克服することができるものもいるが、『愚者』とは生まれながらに体に刻まれる癖である。

 そして少なくとも自分は、それを克服できるほど立派な人間ではない。

 

 走っていた。

 ただ、走り続けていた。

 

 魔物から気配を消すのを忘れ、ただ甲高い靴音を響かせながら、小指の疼きに抗う。

 

 後悔ばかりの人生だ。あの時、ああしたら良かった、こうしたら良かったと、何度愚痴を零した事か。

 

 その中でも最大の後悔は、あの時、自分だけ逃げて生き残ってしまった事である。

 

 ツヴァイ・ティミドは、あの化け物に殺されるべきだったのだ。

 だがどれだけ探しても、仲間達を殺したモンスターは見付からなかった。

 

 遺品を集めるという役割は『妥協』だ。

 

 そもそも役割という言葉自体が妥協だった。誰に言われた訳でもない、ただのエゴだ。

 

 ツヴァイにあるのは、ただ仲間を見捨てて逃げた責任だ。

 役割があるとすれば、それはあの化け物と戦うことである。その結末がどうなろうとも――。

 

 道中、惨殺された冒険者の遺体には目もくれずに、気配の方向へと向かう。

 

 そして大きな広間(ルーム)に出て、その灰色の瞳は見た。

 

 装甲に覆われた化石のような外見、大きや尾の形が少し違うが、似ている。

 そして感じる恐怖も、あの時と同じだ。逃げ出そうとする小指が今にも取れてしまいそうだった。

 

 骨の破壊者と戦っているのは、ベル・クラネルとリュー・リオン、あとはボールス率いるリヴィラの街の冒険者たちだ。第一級冒険者に近い二人と、それ以外もlv2、lv3で決して弱い訳ではない。

 

 準備をすれば、深層に行って戻ってくることも不可能ではない筈だ。

 

 だが圧倒されてしまっていた。

 

 あの骨は、ツヴァイの【ファミリア】を殺した個体より、ずっと強い。

 針に糸を通す事を少しもたつけば、簡単に死ぬ。

 

 憎悪はない。

 

 復讐など、馬鹿らしい。

 

 だが、あれに立ち向かった死ねば、きっとツヴァイは許される。

 

 だから、行くのだ。そのために、ここに来たのに――それなのに。

 

「動けよ、脚……!」

 

 脚が動かない。まるで氷漬けになったみたいだ。

 

 あるいは、この前に見えない鉄壁が立ち塞がっているみたいに。

 

 これ以上、前に進むことを他ならないツヴァイ・ティミドは許してくれなかった。

 

―人間の本質は変わらない。

 

 ならば、あの時逃げてしまったツヴァイが、立ち向かうことなど出来る筈も無かったのだ。

 

 ツヴァイのステイタスは、俊敏性を除き、もう百年近くも変わってはいない。

 少し足が速くなっただけで、それ以外は何も成長していないのだ。

 

 その間に。

 

 骨の破壊者の爪に穿たれて、ベル・クラネルが片腕をもがれ、水辺に落ちた。

 

 何とか保っていた均衡が失われ、ツヴァイにとっても顔馴染みの冒険者たちが次々と殺されていく。

 

「逃げなさい!!!!!」

 

 リューが一人で破壊者に立ち向かい、唯一自分以外で生き残っているボールスを逃がした。運の良い奴だ。

 

 だがこのままでは、時期に彼女は死ぬ。

 

 ただ彼女も又、残された者であるのなら、その結果は本望かも知れない。

 ここで生かされる方が、エルフにとっては屈辱的な筈だ。

 

 それでも、彼女が死ぬのは寝覚めが悪い。

 頑張っている奴が理不尽に殺されるのは、我慢ならないのだ。

 

 一歩だけ。本当に一歩だけ、ツヴァイは前に踏み出す。

 小人族の一歩は、人間のそれと比べて半分程度の距離だ。

 

 だが、今までこういう時に、尻尾を巻いて逃げ出す事しかできなかったツヴァイにとっては、大きな一歩だった。

 そして、その場に転がっていた小石を義腕で拾い、破壊者に向かった投げてやったのだ。

 

 魔石による衝撃が上乗せされた小石は空を裂き、破壊者に激突する。

 あの装甲が魔法を跳ね返すところを、先ほど見ていた。

 

 だが、これはただの投擲だ。

 

 かといって、ベル・クラネルの猛撃でも、骨の体躯には一切傷が付いていない。

 

 しかし、その小石は確かに、直撃した脚の部分を削ったのだ。

 

 ツヴァイみたいなちっぽけな存在が、迷宮から産み落とされた正真正銘の怪物に傷を付けた。

 それは小さな勇気に相応しい、小さな成果。

 

 だが、ツヴァイにとっては紛れもない『成長』だった。

 

 それを賞賛するかのように、死亡したと思われていたベル・クラネルが五体満足で、水辺から飛び出して来る。

 

「はは、ははははは!!!やった、やってやった!!!」

 

「お、おお、ツヴァイか。お前、ここで何やってる」

 

「見ろ、ボールス。やってやった、俺は勝ったんだ……!」

 

「クソ。ダンジョンの異常事態(イレギュラー)は、Lv2で下層に潜るイカれた小人族すら、狂わせちまうのか」

 

 数百年ぶりに、恐怖以外に小指を震わせながら、ツヴァイは血の通っている左手を握ったのだった。

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