迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか- 作:ゴリラズダンジョン
星火の遺体は、ある小国の辺境伯が住まう屋敷に保管されているらしい。
話を聞いた次の日には出発を決めた。
ただ、ツヴァイ一人では、どうしても不安が残る。
迷宮都市の外である以上、ダンジョンのイレギュラーに巻き込まれる事はない。
だが今回は
これは、ツヴァイの役割だ。本当であれば、一人で遂げたい。
だが感情に揺れ動かされて、『臆病心』を失ってはならない。それを失った瞬間、ツヴァイ・ティミドはただの最弱に成り下がる。
自分は英雄ではないのだ。
仲間が必要だ。
だが、大人数はいらない。
あくまで、今回の目的は遺体の回収となる。
ある程度の実力は前提として、ツヴァイの速さに付いて来れる冒険者が好ましい。
……いるではないか。
条件に一致して、多少ツヴァイとも面識のある【疾風】に相応しき速さの――、
「ベル・クラネルです、宜しくお願いします!!!」
「って、お前かーい」
フェルズに頼んだのは、リュー・リオンだ。
だが待ち合わせの場所に現れたのは、白髪のヒューマン――ベル・クラネルである。
「リューさんの怪我、まだ治ってないらしくて……」
「お前も、一か月前に死に掛けたばっかだろ。腕は大丈夫なのか?」
「見ての通り、問題なく動けます!」
肩をくるくると回して、ベルは可動域に問題がない事をアピールする。
「折角、美人のエルフと二人旅かと思ったのに……」
「あはは……なんか、ごめんなさい」
「謝らなくていい。そもそも、あのエルフが来てくれるとも思っていなかったからな」
リューとは顔見知りなだけで、別に親しい関係ではない。
断られる可能性の方が高かっただろう。というか断られたから、ベルがここに来たのかも知れない。
まぁ良い。実力は十分だし、脚もある。
「というか、俺が今からどこにいって、何をしようとしているのか分かってるのか?」
ただ、ベルが力を貸してくれる理由の方が、もっと分からなかった。
そもそも面識はない。それも、病み上がりの体だ。
「えーっと、実は聞いてないんです。ただ、ツヴァイ・ティミドさんが困ってるから、助けて欲しいって言われて思わず来ちゃいました」
「……?一応聞いておくが、初対面だよな?」
「あ、はい。こうして、話すのは初めてです」
「それなら、どうしてそう、俺に恩があるような言い方をする」
「あの時――黒いゴライアスが現れた時、手を貸してくれたってリューさんから聞きました。それだけじゃなくて一か月前も、ジャガーノートの気をひいてくれましたよね?」
「大して役に立ってないだろうに。どっちも俺が居なくても、お前がどうにかした」
「かも知れません。でもそれだけじゃなくて、リドさん――ゼノスに協力してくれてるって聞いてます」
「対価は貰ってるからな」
全部、ベル・クラネルのためにやった事ではない。
「だとしても、貴方はいい人だと思います。悪い人は、誰かのために行動できないですから。それに僕の知っている孤児院にも――」
「皆まで言うな。くそ、調子が狂う」
まぁ力を貸してくれるのであれば、それでいい。ただその前に、テストをしておかなければ。
「ベル・クラネル、お前、恋人はいるか?」
「こ、恋人ですか?今はいない、というか今までもいないんですけど――」
腰を低くしたツヴァイは、照れ臭そうに頬を掻くベルに向かって加速、そして錆び色のマントから義腕を繰り出した。
ここに来るまでも不自由を偽装しているため、そこまで機動的に動けるとは知らない筈だ。
ベル・クラネルがLv6、lv7の化け物ならまだしも、まだまだ発展途上である。
如何なる状況でも、これ位の不意打ちに対処できなければ、足手纏いだ。
「……合格だ」
懐に入る前に、ベルは腕を前に出して防御した。
ツヴァイのスキルである【
正面から戦うのに比べて、不意打ちはどうしても優位になった気になるため、臆病心が薄れて、スキルの効果が低下するのだ。
とはいえ、この反応速度は賞賛に値する。
「この右腕が動く事は、他言無用で頼むぞ」
ベルは苦笑いをしながら首を縦に振った。
「あと、俺も今は恋人がいない。いまは、な」
そこの部分に関しては、どうやらツヴァイの方が一枚上手らしい。
生涯に恋人がいたのは一回だけで、それも百年前なのだが。
それでも、ゼロと一では全く違う。あまり大人を舐めるなよ餓鬼、と余裕綽々な表情でベルを見下ろしてやった。
だがやはり、本人は困った様子で苦笑いしている。
「さて。お話はこれ位にして、出発するぞ。道中で『目的』の概要を説明する」
天使の遺体が保管されているのは、ある小国の辺境伯が住まう屋敷である。
陸路なら二週間は掛かるが、今回は【ガネーシャファミリア】がテイムしている飛竜を貸してもらった。
ただ小国の空は、飛竜の通行許可が下りないので国境沿いからは、足での移動になる。
目的は、かつて天使と謡われた、狐人の遺体を回収すること。
だがもし、本当に彼女が生きていて、且つ、その魂が既に『殺生石』に封じられてしまっていた場合、速やかに迷宮都市に戻るべし。
その『最悪』のケースは、もはやツヴァイ一人の問題ではなくなる。
これが、今回の冒険……ミッションの概要だ。
だがこれとは別に、ツヴァイ個人で心に決めていることがある。
――星火の遺体が回収できるのであれば、自らの生死は問わないと。