気付いたら一日で書いてたぞ。
BGMを『TOUGH BOY』と『WHEELER-DEALER』のローテーションにしたせいか。
そんな訳でお暇なら見てください。
ローブル聖王国の城塞都市カリンシャから国境沿いに築かれた要塞線へ続く街道。
そこから少し逸れた場所にある自然の洞窟は亜人達の手で彼等の仮のアジトへ作り替えられていた。
「ケラルト、しっかりして。お願いだから死なないで」
その中にある牢獄の中、囚われになった聖王女であるカルカ・ベサーレスは自分を庇って重傷を受けた親友へ声をかける。
カルカが牢の中に放り込まれたのは数日前。
その日は彼女にとって厄日だった。
切っ掛けは数日前にアべリオン丘陵から亜人の大侵攻だ。
聖王国は近隣に潜む人食いの亜人から長年侵攻を掛けられ続けていた。
奴等を防ぐために歴代の聖王は国土である半島とアベリオン丘陵を塞ぐ形で万里に及ぶ長大な要塞線を築き、そこへ徴兵制度などで募った兵を配置して侵攻に備えていた。
そんな中で勃発した防衛戦は聖王国の歴史を紐解いても指折りのものだ。
要塞線には九色と呼ばれる功績や能力によって聖王に選ばれた9人の勇者、その内で戦闘に秀でた者数名が交代で常駐している。
その要塞線から王都へ救援要請があり、聖王国最強の騎士であるレメディオス・カストディオ率いる聖騎士団を援軍として投入せざるを得なかったのだ。
その戦火の苛烈さは推して知るべし、である。
カルカが周りの反対を押し切って聖騎士団を投入した事もあり、要塞線はなんとか陥落は免れる事が出来た。
しかし戦死者や軍事物資に要塞の損傷など、勝利した聖王国側も被害は甚大であった。
けっして大国とはいえない聖王国にとって、その補填は簡単な物ではない。
しかし大侵攻を行った亜人たちが第二波を企んでいないと考えるのは早計である。
故にせめて生き残った兵や聖騎士達の慰問と負傷者の対処に当たる治癒士を応援すべく、カルカは腹心にして竹馬の友である神官長ケラルト・カストディオが指揮する護衛部隊と共に要塞線へと向かったのだ。
しかし彼女達はその決断を後悔する事になる。
何故なら、その道中で聖王国内に潜んでいた亜人達の襲撃を受けたからだ。
戦火が絶えない国で産まれた事もあり、カルカもケラルトも並の冒険者など比較にならない戦闘能力を持つ。
カルカは信仰系第四位階魔法を行使できるし、ケラルトに至ってはそのカルカを超えた『英雄の領域』と言われる第五位階魔法を扱う事が可能だ。
それに神官団や護衛の騎士達も王を護る職務に選ばれただけあって、軍や神殿でも生え抜きを選んでいた。
しかし亜人達もまた少数精鋭を用意していた。
オーガの族長である鬼王ゴラム、
特にゴラムの使うガビケンという毒が塗られたスローイングダガーは凶悪で、一度に複数を放つ事に加えて目にもとまらぬ速度や隠密性から多くの騎士や神官が餌食になった。
こうして前衛を失えば、マジックキャスターであるカルカやケラルトに勝ち目はない。
亜人兵の攻撃でケラルトが重傷を負ったこともあり、カルカ達は虜囚の身となってしまった。
彼女達が囚われた牢獄には魔法封じの仕掛けが施されているらしく、カルカは負傷に喘ぐケラルトを癒す事も出来なかった。
ゴラムの話では自分とケラルトの処刑は翌日。
亜人たちに散々辱められた後で首を刎ねられるという。
そんな絶望の未来を知らされたカルカが行った事、それは神に祈る事だった。
「四大神様、どうか我々を……いえ、ケラルトだけでもお救いください」
もちろんカルカとて死にたくはない。
齢24を迎えた彼女は未だ男性とお付き合いもしたことがない清い身体。
恋する事も愛される喜びも母となる幸せも、何一つとして味わっていないのだ。
そんな身空で命を散らすのはあまりにも酷というものだろう。
それでも彼女が祈ったのは親友の安全だった。
これも民を心から慈しむ事が出来る心優しい性格故であるが、偶然か必然かそれが奇跡を呼んだ。
彼女の前に降臨したのは漆黒のマントと同色の甲殻に身を包み、目の前にいるだけで息が詰まるほどの覇気を帯びた蟲皇。
そしてローブル聖王国を始め周辺国家では信仰が失われ、スレイン法国に伝わる六大神信仰でのみ崇められている闇の神スルシャーナとしか思えない死の支配者だった。
彼等は最初は戸惑っていたようだが、自分達に気が付くとすぐに神としての力を振るった。
蟲皇は頑丈な鉄格子を飴細工のように捻じ曲げ、騒ぎを聞きつけた亜人達の精鋭を腕の一振りで塵芥のごとく消し飛ばした。
死の支配者も魔封じがされている牢屋の中にも関わらず、ケラルトの傷を容易く癒してみせたのだ。
「どうか私達をお救いください! 私はカルカ・ベサーレス! ローブル聖王国で当代聖王の任につく者です!!」
ならば、カルカが二柱の前に跪くのは当然であった。
◆
「えっと……つまり、あなた方の中身は人間という事でよろしいのでしょうか?」
「うん、そういうこと」
「俺は一発屋の役者だし、こっちは社畜リーマンだから神様扱いとか畏まられると対応に困るんだ」
唖然としているカルカ女王に俺達は何とか自分の状況を説明した。
というか、こんな美人に神様扱いされたら妙な気になっちまう。
『しかし、異世界に転移ねぇ。それもユグドラシルのアバターでとか、奇跡体験なんてレベルじゃないよなぁ』
『信じてくれたか、親友』
『お前があそこまで真剣に語ったらな。改めて確認したら俺も骨の身体特有の感覚っていうか、そう言うのを感じたし』
カルカ女王の誤解を解くのに並行して、メッセージで悟には俺の仮説を伝えておいた。
それは俺達が『アバターの身体で異世界へ転移したのではないか』というものだ。
親父のコレクションだった旧世紀のコミックで度々見られた設定だが、まさか自分の身に起きるとは思わなかった。
最初は俺も信じちゃいなかったが、この『ゼクトール』の感覚を調べたらそれしか可能性が思いつかなかったのだ。
たしかにDMMOゲームでも違法なプログラムを使えば、ゲーム内で五感を再現する事は可能だろう。
しかし、それをアバターの容姿や能力に合わせて削除や付与、さらには増幅なんてできる筈がない。
「それで…えーと、陛下はこれからどうするつもりなんですか?」
「カルカでいいです。私はお二人に助けられた身ですし、そんな人に畏まられると困ると思う気持ちは分かるでしょう?」
「あー、それもそうか」
「じゃあ、カルカさんって呼んでいいですか?」
「はい、それでお願いします」
「そんじゃあよろしく、カルカさん」
そうして俺と悟が握手の為に手を出すと、カルカさんは戸惑う事無く握り返してくれた。
亜人と戦っているとか言ってた割に、まんまバケモンな俺達には偏見がないのな。
「私達は国に戻って無事を皆に伝えなければなりません。ですが今の私には戦う力は無く、ケラルトにも無理はさせられないので」
未だ目を覚まさない親友を心配そうに見るカルカさん。
『どうする、悟?』
『さすがに見捨てられないだろ。それにここが本当に異世界なら俺達は完全に根無し草だ。元の世界に帰る方法を探すにも、この世界に骨を埋めるにしてもコネと拠点は必要だよ』
そういう下心を置いておいても、カルカさん達を放置してサヨウナラなんて真似は無理だ。
「ここで出会ったのも何かの縁だからさ、王都まで送って行くのはいいんだ」
「ありがとうございます!」
「ただ、亜人と戦ってるのを考えると賢…ゼクトールと一緒にいるのはヤバいですよね。あと聖王国って事はアンデッドもダメっぽい…かな?」
「あ……はい。申し訳ありません」
俺の言葉に喜色を浮かべたのはいいが、続く悟の確認の声にカルカさんはガックリと肩を落とす。
向こうもなかなかに面倒な境遇だが、だからと言って咎めるのは男らしくない。
ここは俺達が一肌脱ぐところだろう。
『悟、こっちが彼女の都合に合わせよう』
『合わせるってどうするんだ?』
『俺は人間形態がとれるし、お前も人化の指輪を付けたら何とかなるだろ』
『あ、その手があったか。けど、大丈夫かな? この世界のことが分かっていないのに、能力に縛りを加えるのはヤバいだろう』
たしかに、人化の指輪はアンデッドとしての種族レベルと特殊スキルを無効化してしまう。
悟がそうなると下がるレベルは40。
ユグドラシル基準ではこれは相当なハンディキャップだ。
そして俺も人間形態では80レベル程度の力しか出せない。
悟よりもマシとはいえ、強敵とやり合う可能性を考えれば危険といえる。
とはいえ、これは解除困難なデバフってわけじゃない。
『いざとなったら指輪を外せばいいんだよ。その為の隙くらいは稼いでやるさ』
『要は不意打ちや初見殺しを警戒すればいいって事か。だったら、その後でお前が獣化するまでの時間を俺が作ってやる』
その『要』が難しいのだが、そこは歴戦のPKギルド長。
悟の警戒心の高さと即応能力があれば十分に可能だ。
「カルカさん、ちょっと席外すな」
「俺達も送っていくのにふさわしい恰好をしてくるから、ちょっと待っててね」
という訳で俺達は牢屋の横にある岩壁のくぼみへと入って行った。
そこで人化の指輪を付けると、ガイコツ魔王があっと言う間に見慣れた鈴木悟の姿に早変わりした。
「なんつーか、悟の姿だとその恰好似合わないな」
「ほっとけ」
こんな軽口を叩きながらこちらも獣化を解く。
「うわっ!? ラオウ!」
身体が縮む感覚の後で聞いたのは驚きの表情を浮かべた悟のこんな声だった。
「やっぱキャラデザの通りになったか。ここでリアルの俺が出てきたらギャグだったんだけどな」
「俺だけ現実のまんまとか納得いかねー。つーか、早く服を着ろ」
蟲人間は基本的にアクセサリー系の装備しかできないからな。
人の姿に戻ったらマント一丁の変態の出来上がりだったりする。
「どんな格好にしようかな……」
「というか、お前普通の装備もってるのか?」
「大丈夫だ。イベントとかで色々と手に入れて……おっ!」
ユグドラシル同様に呼び出すことができたアイテムボックスをゴソゴソと漁っていると、少し面白いものが見つかった。
スルリと取り出したのは、黒を基調にしたビジネススーツ。
「うわっ、懐かし! ヘロヘロさんが発狂したオフィスパロイベントのヤツ!!」
悟という通り、これはユグドラシル内で行われた『全員ビジネスマンの格好をしよう!!』というイベントで配布された装備だ。
一見すればただの背広だけど、実はフルプレートの鎧と同等の防御力を持つという謎の逸品である。
「悟、お前もそのローブ着替えたらどうだ? 俺一人だけこの格好だと浮くし」
「あ~、いざとなったら課金アイテムで入れ替えたらいいか」
そんな訳でスーツに着替えた俺達が戻ると、ケラルトさんも意識を取り戻していた。
というか、こっちをガン見してどうしたんですか二人共?
◆
席を外すと神とも呼べる恩人達が移動してしばし、カルカは自分の膝の上に頭を乗せたケラルトがうめき声と共に薄目を開いた事に気が付いた。
「ケラルト!」
「カルカ…さま……? ここはいったい……私達は……?」
「亜人に敗北した私達は彼等のアジトで囚われになってしまいました。ですが旅の方が助けてくれたのです」
本当なら神のような方々なのだが、当人は人間を自称して崇められるのを嫌がっていたのでカルカはそう説明した。
「そうなのですか。それで助けてくれた方々は?」
「今は周辺を警戒してくれているようです」
「私が眠っていたからカルカ様は同行できなかったのですね、申し訳ありません。その恩人達にも礼を言わないと」
何時ものように1を説明すれば10を知ってくれる優秀な腹心に笑顔を返すカルカ。
亜人やアンデッドの見た目に関してはどう誤魔化したものかと思うが、彼等にも策はあるようなのでそこは任せることにした。
その後、自分の傷が治っている事や洞窟がトンネルに化けていた状況に驚くケラルトを宥めていると、件の二人が戻ってきた。
「まぁっ!」
「わぁ……」
彼等の姿を見た時、カルカもケラルトも驚きで目を見開いてしまった。
少し前までアンデッドと蟲人だったのが、自分達と同年代の青年になっていれば驚くのも当然だ。
ただ二人の視点は違った。
(なんて精悍な殿方……! 鍛え上げられた体なのに野蛮には見えないし、清潔感もあって南方の衣装であるスーツが良く似合っているわ。この方はゼクトール様かサトル様なのか、どちらなのかしら?)
(顔は平凡だけど、優しくて包容力のありそうな人ね。仕事で疲れた時にこういう旦那さんが家で『おかえり』って迎えてくれたら…てっ! 何考えてるのよ!? 今はカルカ様を護る事が最優先でしょうが!!)
カルカについては少し前に語ったが、『行き遅れ』というレッテルに怯えるのは同い年のケラルトも同じである。
聖王女即位の前後から内政や謀略面で彼女を支えていたケラルトは、忙しさに加えて神官長という地位などで伴侶を迎える余裕はなかった。
さらには適齢期を過ぎても結婚しないカルカの所為で、『側近である姉と自分はカルカの愛人』などという根も葉もない噂まで流れた為に出会いのチャンスがさらに遠のくという女性としてシャレにならない事態を迎えていた。
脳筋騎士道一直線で女性であることを場外ホームランしている姉と違って、ケラルトは恋人も欲しいし結婚願望もある。
子供だって3人くらいほしいのだ。
そしてカルカについては言わずもがな、である。
そんな男日照りな二人は、窮地の自分を助けてくれたという吊り橋効果もあって目の前の二人の男に見惚れていた。
「えっと、王都にお二人をお連れするのにおかしくない格好をしたつもりなんですが、似合ってませんかね?」
「い…いいえ!」
「それって南方で使われているスーツですよね! 全然変じゃないですよ!」
苦笑いで問いかけるモモンガに、ブンブンと首を横に振って否定するカルカ達。
「ああ、そちらの方は気が付かれたんですね。大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です! 私はケラルト・カストディオといいます!!」
いいなと思っていた方の男性に声を掛けられて少し焦るケラルト。
普段の彼女なら自分の気持ちを完全に抑えて隙など見せないのだろうが、今は死の淵から帰ってきて窮地を脱したばかりである。
色々と緩んでいても仕方がない。
「俺はモモンガといいます。こっちは友人のゼクトール。王都までご一緒しますんで、よろしくお願いします」
実は女性の扱いなど殆ど慣れていないモモンガだが、そこは社畜時代に培った営業スマイルを張り付けて乗り切った。
これから行動を共にするのだ、ここで挙動不審になって疑われては目も当てられない。
「あの、先ほどまでゼクトール様にサトルと呼ばれていたと思ったのですが……」
「あれは綽名といいますか、親しい人間だけが呼ぶ名なんですよ。だからモモンガでお願いします」
さすがに本名とハンドルネームの違いは理解できないだろうと考え、モモンガはカルカへそう伝えた。
正直、美人に本名を呼ばれると女性経験希薄というボロが出かねない。
ケラルトも普通に動けるという事で洞窟を出た一行だが、このまま問題なく王都へ帰れるというのは甘い考えだった。
「まさか、マジックキャスターがあの檻から逃げ出せるとはな」
「いやいや、他にも食いでの有りそうなオスがおる。色仕掛けか何かは知らぬが、奴等に脱出を手引きさせたのだろうて」
彼等の前に立ち塞がったのは、鬼王ゴラムとナスレネが率いるカルカ達を襲った亜人部隊だった。
「鬼王ゴラム! 『氷炎雷』ナスレネ!! まさか別行動をしていたなんて!?」
「カルカ様! お下がりください!!」
臨戦状態を取りながらもカルカとケラルトの脳裏には虜囚となった苦い記憶が蘇る。
「聖王などと粋がっている割には学習能力がないようだな」
「誑しこんだオス共も恰好を見るからにマジックキャスターであろう。いくら藻掻いても先の二の舞よ!!」
そう笑いながら左右の拳を前方に突き出し、片足を挙げる奇妙な構えを取るゴラム。
ナスレネも杖を持つ手以外の3本の掌を構えてそこに赤・青・緑の魔法陣を浮かべる。
「
「へぇ~三本の腕から同時に魔法が出せるのか、便利だな」
そんな彼女達の前に出たのはモモンガとゼクトールだ。
殺気をむき出しにした強大な亜人を前に二人に気負いは全くない。
『どうだ、賢二』
『気察知で確認した。レベルはだいたい30程度だな。種族差を加味しても40は行かないと思う』
『レベル差があるから大丈夫……って考えるべきじゃないな。油断は無しでいこう』
『了解』
メッセージで打ち合わせを終えると、ゼクトール達は己の相手に意識を戻す。
「便利、か。随分と妾を舐めてくれるな」
緊迫した空気に満ちた沈黙を破ったのはナスレネだった。
「ああ。俺の知っている限りだと魔法が使えるのは基本一度に一つだからな。お前のように三つを待機状態に出来るのが便利に見えるのは当然だろ?」
静かながらも怒りが籠った亜人の女王が放つ言葉にモモンガは気にも留めずに自分の感想を返す。
ナスレネが怒るのも当然だ。
彼女にとって、この三重詠唱は二つ名になる程に誇りにしているものだ。
だが目の前の男は彼女の秘儀を怯えるどころか、道具屋で珍品を見るような感じで便利の一言で片づけた。
それは己の魔力を誇るナスレネにとってこの上ない侮辱だったのだ。
「減らず口を! ならば我が魔力の恐ろしさ、身を以て知るがよい!!」
「それは遠慮しとく。
しかし勝負にシビアなところがあるモモンガがそんな物を大人しく食らう訳がない。
それが相手の情報が全くない遭遇戦なら猶更だ。
「あ……ぎゃああああああっ!?」
何でもないかのような呟きをキーに放たれた雷竜は発動したナスレネの魔法を全てのみ込むと、彼女の身体へ牙を立てる。
モモンガの魔力で威力を強化した第五位階魔法、人より高い耐久力を誇る亜人とはいえ耐えられる筈がない。
雷竜の姿が消え失せた先にあったのは、炭化して崩れ落ちたナスレネの成れの果てだった。
「こっちも色々と制限を掛けてるんだ、不用意に相手の攻撃は食らうわけにはいかないよ」
炭の山と化したナスレネへ最後の言葉をかけると、モモンガは意識を親友へ向ける。
「まさか『氷炎雷』を容易く屠るとは……!? だが、ガビケンの事を知っているのなら、その恐ろしさも理解できよう!!」
己と同じ亜人の屈指の実力者を失った事で動揺するも、ゴラムはそれを飲み込んで凄んでみせる。
「峨嵋拳など俺にとっては児戯にすぎぬ」
しかしオーガの咆哮に似た叫びはゼクトールを小動もさせなかった
そんな男の背中に庇われているカルカは息を呑む。
先ほどまでの気さくな親切さが嘘のように、今のゼクトールからは強者の圧と存在感があったからだ。
「俺を侮るか! おい! お前達は後ろの女達を殺せ!!」
「ゴラム様、いいんですか?」
「明日処刑なんて悠長な事は止めだ! 聖王の首を引きちぎって、今から王都へ投げ込んでくれる!! 行けっ!!」
ゴラムの一喝で背後に控えていた
そうしてゼクトールの左右を駆け抜けたのだが、何故か二体の亜人はカルカ達を目前にして足を止めてしまう。
「何をしている! 聖王とメスを殺せぇ!!」
ゴラムは己の指事を無視して木偶のように立つ部下へ檄を飛ばすと、それを聞いた亜人達は呆然とした表情で振り返る。
すると彼等の頭がまるで内側から膨れるかのように変形し始めたのだ。
「ご、ゴラム…ごご……ごもらばっ!?」
「む…むり……むりりりり…りばっ!?」
そして奇妙な断末魔を残して頭部が破裂した亜人達の身体は地面へ崩落する。
「あ…あぁ……」
「なに…いまの……」
自分を狙った刺客たちの無残な最期にケラルトと共に怯えるカルカ。
「我が北斗神拳に隙は無い。後ろの二人の首が欲しくば、俺を倒してみよ」
ズンッ! と一歩前に踏み出すゼクトール。
ゴラムはその言葉を聞いて顔をこわばらせる。
「ホクトだと!? 師…師に聞いた事があるぞ! 『ホクト現れる所、乱有り』と! 貴様、この世界を乱すつもりか!?」
「さて、な。俺はまだこの世界に降り立って間が無い。故に世の事を知らぬ。それでは乱など起こしようもあるまい」
ゴラムの問いかけにゼクトールは表情一つ変えずに払い除ける。
「戯言を! 食らうがいい、ガビ・キトツケン!!」
そんなゼクトールの言葉を戯言と断じたゴラムは両手を一度後ろに溜めて勢いよく突き出した。
「駄目! それは毒を塗った飛び道具を……」
ケラルトが悲鳴のように叫ぶが、彼女の言うような飛び道具は影も形もない。
「え……?」
前の戦いでは何人もの神官や騎士が倒された技なのに、今回は何も起きない。
その事実にカルカが戸惑いの声を上げる中、ゼクトールは静かに口を開く。
「───我が拳に小細工は通じぬ」
そしていつの間にか突き出していた右拳を開くと、そこからグシャグシャに潰れたスローイングダガーや手裏剣などが音を立てて地面に落ちる。
もちろん、ゼクトールの手には傷一つ付いていない。
ゴラムが技を放った次の瞬間、ゼクトールは眼にも止まらぬ速さで襲い来る暗器全てを掴み取ったのだ。
「お…俺の暗器を見切ったというのか!? 数多の聖騎士を屠ってきた暗器を!!」
「小手先の技をいくら重ねようとこの身には傷一つ付けられぬ。後ろにいる者達にもな」
「ぐっ!?」
「奥義を尽くせ、鬼王ゴラムよ! 峨嵋拳と王の名が飾りでないのならば!!」
ゼクトールの激によって怯えを見せていたゴラムの眼に戦意の炎が灯る。
そしてオーガの王はその巨体には似合わない身軽さで距離を取ると、四つん這いになって唸り声を上げる。
「『能力向上!』『能力超向上!!』『武技・流水加速!!』」
次々と武技によって力を増していくのに呼応して、ゴラムの両手の爪と角が太く鋭く伸び始めたではないか。
「ならば見るがいい!」
そう吼えるとゴラムが周りに生えた木々を蹴って天高く舞い上がった。
「ガビケン奥義・ユウメイロウガケン!!」
そして虎爪の型に構えた両掌をを突き出してゼクトールと突撃する!
顔の前で大きく開いた五指とそこから生えた鋭い爪は、奥義の名の通り狼口の如き鋭さを備えている。
あの奥義を食らえば、その者の肉体は大きく抉り取られるであろう。
カルカにはゼクトールに襲いかかるゴラムが流星のように見えた。
ケラルトは何とか眼で追えるが、自分では絶対に躱せないと戦慄する。
モモンガが得た感想は結構早い、だった。
これだけ距離があるのなら魔法で迎撃は可能と。
「……これが幽冥狼牙拳だと?」
そしてゼクトールの脳裏に過ったのは、かつてユグドラシルで戦った一人の拳士の記憶だった。
その男はギルド・ネコさま大王国のメンバーであり、あのイベントでは峨嵋拳を用いてゼクトールと覇を競った。
奴が放った幽冥狼牙拳は眼前の男など比較にならない程に疾く、鋭く、恐ろしかった。
「笑止! 修行が足りぬわ、鬼王ゴラム!!」
そしてゼクトールは固く握りしめた拳をゴラムへと突き上げる。
「その未熟な奥義諸共───天に滅せいっっ!!」
その一撃は闘氣を纏って空を裂いた。
「げもばぁっ!?」
拳先から放たれた紅い衝波は幽冥狼牙拳ごとゴラムの身体を粉砕すると、そのまま天へと昇り轟音と共に高高度でそのエネルギーを炸裂させた。
「す…凄い……」
「ねえ、カルカ! あの人たちは誰なの!? こんな力を持つ者がただの旅人なわけがない!!」
人知を超えた現象にへたり込むカルカへ必死で問いかけるケラルト。
「我が肉体は無類無敵!」
そんな二人を他所にゼクトールは天へと掲げた拳へ宣言する。
「俺に敗北はありえぬッッ!!」
ゼクトールの容姿
獣化兵形態・ネオゼクトール
人間形態・ラオウ