こういう時は北斗の拳でも見て、血をたぎらせる事で健康を維持しましょう
あれから一日掛けて俺達は城塞都市カリンシャへ辿り着いた。
途中、怪我人かつ虜囚生活で体力が落ちていたカルカさん達がバテてしまうというアクシデントがあったが、そこは俺達がおぶって歩く事で解決した。
その際『湯浴みもしていないのにダメ!』とか『お嫁にいけない』とか二人が随分騒いでいたが、今は非常時。
いつ亜人の襲撃があるかも分からない以上、聞く耳持たずである。
それと緊急事態故の措置なので、セクハラで訴えるのだけは勘弁していただきたい。
「カルカ! ケラルト!」
「カルカ様!」
「お兄様! レメディオス!」
亜人の企みを逆手に取る為の様々な手続きを行おうと都市の庁舎へ行くと、そこで待っていたのは30代くらいの金髪イケメンとどこかケラルトさんに似た面影を持つ女性騎士だった。
その二人の姿を見たカルカさん達は嬉しそうに駆けだしていく。
「君達が消息不明になったと聞いて、本当に心配したんだぞ」
「すみません、カスポンドお兄様。部隊を亜人達に強襲され、一時囚われていたのです」
「ケラルト、よくカルカ様を護ってくれた。服に血が付いているが傷を負ったのか?」
「もう治癒は終わっています。大丈夫ですよ、姉様……というか苦しい。ゴリラ、ステイ、ステイ」
金髪の男性、カスポンド氏……というか、カルカさんが王様だから彼は王兄になるのか。
という事は殿下だな。
カスポンド殿下に優しく抱きしめられるカルカさん、一方のケラルトさんはレメディオスと呼ばれた女性騎士にベアハッグのような体勢で締め上げられて悶絶している。
『なあ、悟。ケラルトさん、さりげなく姉の事をゴリラって言ってるんだけど……』
『姉妹間のスキンシップだろ。ぺロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんだって、あんな感じで言い合ってたし』
まあ、そう考えればそうかもしれんな。
俺も悟も一人っ子だからその辺はよく分からん。
「亜人に囚われていたと言っていたが、よく逃げ出せたものだね」
「危ない所をあの方々に助けていただいたのです」
カスポンド殿下の問いかけに、話をこちらへ振ってくるカルカさん。
「お目に掛かれて光栄です、カスポンド王兄殿下。私は旅の者でゼクトールと申します。こちらは友人のモモンガ。こちらの作法には疎いので礼を失するかもしれませんが、お目こぼしいただけると恐悦です」
「はじめまして、モモンガと申します」
そう言いながら頭を下げる俺と悟。
地位の高い人間への敬語なんてサッパリなので、今までやってきた役のセリフを適当に繋げた。
さらに俺も悟もジャパニーズ・サラリーマンの十八番であるお辞儀である。
これ、無礼討ちされたりしないだろうな?
「ゼクトール殿、モモンガ殿、妹を助けてくれてありがとう。カルカはもちろん、ケラルトも幼い時からの付き合いでね。私にとっては妹同然なんだ。そんな二人を助けてくれた君達に礼節を咎めるような真似はできないさ」
「私からも礼を言わせてくれ。カルカ様と妹を救ってくれて感謝する。私はレメディオス・カストディオ、この国の聖騎士団を率いている者だ」
俺達の拙い挨拶にカスポンド殿下は笑顔で応じ、レメディオス女史はあちらも深々と頭を下げてくれた。
「そういえば、お兄様はどうしてカリンシャへ?」
「姉様も聖騎士団と共に要塞線で亜人の警戒を行っていたのでは?」
「お前達の捜索の指揮を執っていたんだ。聖王陛下と神官長が行方不明になったと聞いては、要塞で亜人共の巣を眺めていられん」
「私も同様の理由だよ。王都よりも現場に近いカリンシャの方が捜索の報告が早く届くからね」
身内からの抱擁から脱したカルカさん達の問いに、カスポンド殿下達は当然の事を言うかのように答える。
「予想していなかったけど、二人が揃っているのなら好都合ですね。カルカ様、例の計画を詰めましょう」
「そうですね。あ、ゼクトール様、モモンガ様! あなた達も会議に参加してくれませんか?」
「えっと……いいんですか?」
「はい。亜人の企みを知ることができたのは、お二人のお陰ですから」
戸惑う悟にカルカさんは笑顔で答えた。
◆
「まさか、亜人達がここまでの計画を練っていたとはね……」
「マーマンが我々を裏切るなんて……! カルカ様! 討伐を命じてください!! 私が奴等を聖王国から叩き出してやります!!」
「駄目ですよ、レメディオス。全てのマーマン族が裏切った訳じゃないんです。問題なのはタカ派の一部なんですから」
「?? どういう事なんだ、ケラルト?」
「私達で例えるなら、南部の貴族達が暴走して馬鹿やったってことです。なのに聖王国全体を滅ぼすのはおかしいでしょ?」
「もちろんだ! それなら潰すのは南部の馬鹿共だけでいい!」
「そういう事です。付け加えるなら、反乱分子の粛清は私達が関わらない方がいい。どんな形であれ、こちらがマーマンを手に掛ければ遺恨が残るので。ラン・ツー・アン・リン殿を通して今回の件をマーマンの族長へ伝え、彼等の手で処理してもらいましょう」
聖王国上層部が意見を交わす中、俺と悟は見事なまでに置物となっていた。
まあ、小卒の俺達が国の運営についてなんて分かるわけないので仕方がない。
「マーマン族への対応は私が受け持とう。それよりも問題は亜人の主力をどう迎え撃つか、だ」
「それなんですが、先の大侵攻からの要塞線の復旧はどうなっていますか?」
カスポンド殿下の言葉を受けて、カルカさんはレメディオス女史へ問いを投げる。
「カルカ様達の消息不明を受けて、事態を重く見たカスポンド殿下が聖王代理として国家総動員令を出しています。その為、人員に関しては徴兵で集めた近隣の住民で補充が出来つつあります」
「兵役を課した事で国民すべてが戦えるようになったのが功を奏したという訳ですね」
「はい。ですが、物資の補充と破損した要塞の修理は完了していません。現状では要塞線の稼働率は7割といったところでしょう」
徴兵という言葉で苦い表情を浮かべるカルカさんと、施設面の報告で顔をしかめるレメディオス女史。
思う所があるようだが俺達にはそれを推し量ることはできない。
「現地に派遣していた九色の方々は大丈夫なのですか?」
「はい。パベル・バラハ兵士長は無事ですが、オルランドは腹に敵の槍によって重傷を受けました。今はこのカリンシャで療養させているところです」
「……そうですか」
「オルランド班長は行動に多少の問題はあれど優れた戦士だった。彼が抜けた状態で亜人達の本命部隊を迎え撃つのは少し厳しいか」
「大丈夫です! 奴の抜けた穴は私と騎士団でカバーします!」
カスポンド殿下の言葉にレメディオス女史が自分へ任せろとばかりに胸を叩く。
「姉様と騎士団は最初から戦力に織り込み済みです。そのうえでオルランド班長の穴を埋める必要があるの」
そんな姉の言葉に呆れたようにため息を漏らすケラルトさん。
一時重ぐるしい雰囲気が会議室に流れる中、それを打ち破るようにカルカさんがパンッと手を叩く。
「そこで私達はそこにいるモモンガ様とゼクトール様に力を貸してもらおうと考えているのです」
その言葉に場の全員の視線が俺達へ向いた。
『うおっ!?』
『ロイヤル視線が痛ぇっ!』
なんという圧、メッセージでアホな事でも言わんとやってられん。
「君達を助け出したとは聞いているが、彼等はオルランド班長の穴を埋められる程強いのかい、カルカ?」
「はい! モモンガ様は第五位階魔法を使える魔力系マジックキャスターですし、ゼクトール様も1対1で鬼王ゴラムを倒すほどの力を持つモンクです!」
何故か勢いよく言葉を紡ぐカルカさんにカスポンド殿下達は感嘆の声を上げる。
「おお、あの『騎士殺し』のゴラムを!」
ケラルトさんの言葉に感嘆の声を上げるカスポンド殿下。
ゴラムは思った以上に名の売れた亜人だったようだ。
「マジックキャスターの方はいいとして、モンクの方は少し待っていただきたい」
悟の方はすぐに採用となったようだが、俺に関しては物言いがついてしまった。
異を唱えたのはレメディオス女史。
彼女は値踏みをするように俺の方へ視線を向けてくる。
「どうしたの、レメディオス?」
「魔法ならパベル兵士長へ預ければ後方支援として有用に活用できるでしょう。しかし前衛職はオルランド不在の影響をまともに受ける事になる。我々聖騎士団とも背中を預ける以上、生半可な実力では邪魔になるだけです」
「ゴラムを討ち取ったそうだが、それでは不服かい?」
「私は話ではなく、この目で実力を確かめたいのです。安心して轡を並べられるように」
カスポンド殿下の話にも全く退く気配を見せずに主張を続けるレメディオス女史。
たしかに言わんとする事は分かる。
彼女からしてみれば恩人であっても俺達は所詮流れ者、共に戦うとなれば信用するに足りないのだろう。
「なら、軽く手合わせをしましょうか。レメディオス団長がそれを見て、俺が使えるようなら迎撃戦に採用。駄目ならこの話は無しという事で」
「いいだろう。模擬戦の相手は私が勤める。他人が戦うのを見るより、自分の手で確かめた方が確実だからな」
「ちょっと姉様!?」
「心配するな。手加減はするし、お前がいるなら多少の怪我も大丈夫だろう」
「そうじゃなくて! ゼクトールさんと戦ったら姉様の頭が爆発しちゃうわよ!?」
「何を言ってるんだ? 相手はマジックキャスターじゃなくてモンクだ。殴られてそんな状態になるわけないだろう」
ケラルトさんが必死に止めようとするが、まったく意に介せずに応接室を出ていくレメディオス女史。
馬鹿だなぁ、と頭をポンポンと叩かれてケラルトさんのコメカミに青筋が浮かんだのは見なかった事にしよう。
「ゼクトールさん! 姉様の頭をパーンとかしないわよね!?」
「大丈夫、しないしない」
必死の形相で縋り付いてくるケラルトさんに俺は苦笑いで答えた。
模擬戦でガチに秘孔を突くなんて外道、ジャギでもやらんからね。
◆
ゼクトールとレメディオスの模擬戦、その舞台は庁舎内にある警備兵の鍛錬場だった。
『大丈夫なのか、賢二』
『氣探知で調べたら団長は30半ばから後半レベルだ。人の姿でもやられることはないさ』
『俺が心配してるのは間違って殺さないか、なんだが』
『いや、そんなヘマしないって』
ゼクトールはメッセージで心配を顔に張り付けたモモンガを宥める。
『氣探知』はともかく『レべル』や『人間の姿』という単語は余人に聞かれると面倒になる事を二人共心得ているからだ。
「団長の準備が整いました。ゼクトール殿はどうですか?」
「ご丁寧にどうも。こっちも大丈夫です」
それが一段落済んだ頃、聖騎士団の副団長を務めているグスターボ・モンタニェスが現れた。
「では、修練場までお願いします。くれぐれもケガをしないようお気を付けを」
「ありがとうございます」
突然の事で調整に色々と奔走したのだろう、表情に疲労の色が見えるグスターボに会釈をしてゼクトールは控室を出る。
事前に説明された通りの道筋を通り、庁舎の建物に囲まれた砂地のみの飾りっ気のない広場へ出る。
そこには純白の甲冑に同色のサーコートを身に着け、戦闘準備を終えたレメディオスが訓練用であろう鉄の剣を手に仁王立ちしていた。
「臆せずによくぞ来た! まずはそれを褒めておこう」
部隊へ檄を飛ばす事で慣れているのだろう、堂に入った大きな声音と共にレメディオスは剣の切っ先をゼクトールへと向ける。
「模擬戦とはいえ、死地へ共に立てるかを測る為の戦いだ。手加減無しで行くから覚悟しろ!!」
宣言を終えると剣を正眼に構えるレメディオス。
その刺すような視線と女傑から滲み出る闘志を受けたゼクトールは、己の脳内でカチリッと何かのスイッチが入ったのを自覚した。
そして羽織っていたスーツの上着から袖を抜くと、それをまるでマントのように空高く投げ捨てる。
「──よかろう。どこからでも掛かってくるがよい!!」
次の瞬間、レメディオスは息を呑んだ。
何故なら眼前にいる男の雰囲気が激変したからだ。
先ほどまでは体格はいいモノの癖のない、悪く言えば凡庸な雰囲気を持つ男だった。
だが、今は向かい逢っているだけで潰されそうな圧を醸し出している。
そして存在感は山の如き大きさを持つ巨人のようだ。
「くっ! こんな物はコケ脅しだ!!」
気を抜けば萎えそうになる心を鼓舞してレメディオスは駆ける。
そして加速を活かして飛び上がると、手にした鉄の剣を大上段に振り上げる。
「うおおおおおおおっ!! ───なっ!?」
しかし、レメディオスは頭上に掲げた剣を打ち下ろすことができなかった。
何故なら、彼女の視界をゼクトールから放たれた拳打の嵐が埋め尽くしたのだ。
「うわああああああっ!?」
生存本能のままに攻撃を止めてガードを固めるレメディオス。
無理に体勢を変えた為に勢いを失った身体は、ゼクトールに届く事は無く背中から鍛錬場の砂地へ墜落する。
「くっ!?」
それでもレメディオスの戦意は衰えていなかった。
立ち上がるとすぐに後ろに飛んで間合いを取り、再び剣を正眼に構える。
対するゼクトールは丸太のような両腕を組み微動だにしない。
(危なかった……。今の嵐のような拳撃、迂闊に飛び込めばボロ雑巾のようになっていたに違いない)
頬を伝う冷や汗をそのままに、付け入る隙を探してジリジリとゼクトールの周りを回るレメディオス。
しかし彫像のように腕組みしたままの男からは毛の先程の綻びも見つけ出すことができない。
(クソッ! どう攻めれば……いや、何を恐れるレメディオス! お前は聖王国最強の騎士だろう!!)
レメディオスは元より考える事を得意とはしていない。
故に己が掲げた信念と妹が『野生の勘』と称する直感に決断を頼ってきた。
しかしゼクトールから発せられる重圧は、彼女の思考はもちろん直感すらも捕らえ狭めていく。
息詰まるような苦しさと焦りからレメディオスは再び攻勢をかけた。
身を低くし、地面を擦るスレスレから切っ先を上へ跳ね上げる地擦りの剣。
「うあっ!?」
しかし剣の間合いへ飛び込もうとした彼女をまたしても阻んだのは、ゼクトールから放たれた拳の弾幕だった。
一撃でも受ければ身体が砕け散ってしまうだろう剛撃の壁。
それが与える恐怖は主の意に反して彼女の足を竦ませてしまった。
「ぐぅっ!?」
その結果、バランスを崩した彼女は前のめりに転倒してしまう。
「し…しまったっ!?」
戦場において自らが犯した失態は死に直結する。
「姉さんはどうしたのでしょうか。ゼクトールさんは何もしていないのに……」
「分からないわ」
慌てて体を起こそうとするレメディオスだったが、観戦に来ているのだろうカルカと妹の言葉に己が耳を疑った。
「な…なんだと……?」
地面に手を突き上体を起こした体勢で、レメディオスは呆然とその動きを止める。
自分は確かに見た。
あの偉丈夫から発せられた嵐のような連撃を。
なのに、奴は何もやっていないだと?
魔法か、それとも幻影を見せられたのか?
私はいったい何をされた?
グルグルと頭の中を回る疑問符、その答えを示したのは事象の仕手であった。
「真に奥義を窮め、その神髄を会得した者は我が身にオーラを纏うことができる」
「なに……」
重厚なバリトンの声にレメディオスが顔を上げると、そこには絶対王者の風格を持つゼクトールが見下ろしていた。
「貴様が見た物は闘いの気迫、闘氣! それを突破できぬ者は俺に近寄る事すらできぬ」
提示された種明かしにレメディオスは息を呑む。
物心が付いた時から武に打ち込んできた彼女だが、そんな術理など聞いた事もなかった。
「そんなバカ…な……」
反射的に否定の言葉が口を突きかけたが、それを途中で押しとどめたのは脳内に蘇ったゼクトールの言葉だった。
真に奥義を窮め、その神髄を会得した者。
それは達人、剣に例えるなら剣聖と称えられる者ではないか。
それほどの使い手がゴロゴロといるわけがない。
ならば、眼前の男の言は嘘偽りではないのだ。
答えに至ったレメディオスは体を起こすと、その場にドカリと座り込んだ。
「───私の負けだ。貴殿のような達人の相手をするには、この身はまだまだ至らない」
そして剣を手放すと穏やかな笑みを浮かべたのだ。
「よき勝負であった」
「ゼクトール殿。要塞線での戦い、貴方の力に期待する」
自分の前に差し出された手を掴んで引き起こされたレメディオスは、勝者たる男の参戦を快く認めたのだった。
「ご苦労さん」
「おう」
模擬戦を終えて戻ってきたゼクトールを出迎えたのはモモンガの労いの言葉だった。
「まさか一発も手を出さずに勝つなんてな。あれって覇王のオーラか?」
「そう、レベル1な」
ゼクトールが模擬戦で使用したのは、北斗神拳の剛拳スタイルで取得できるスキルの一つ『覇王のオーラ』だ。
このスキルは北斗の拳の原作でラオウが纏った闘氣の再現で、レベル1なら拳の幻影を見せる事で相手をけん制することができる。
レベル2からは実際に小ダメージの打撃攻撃となり、極めればこれを使って秘孔も突けるという優れモノだ。
「万が一手加減間違えたらと思ったら、どうしても殴れなくてな。あれで退いてくれてよかったよ」
「意地になって奥義を使って飛び込もうもんなら、ラオウムーブ的には秘孔・新血愁だもんな」
「そんなんしたら聖王国から逃げなきゃならんわ」
新血愁とは人体に存在する経絡秘孔のひとつだ。
これは突かれた者に3日間断続的な激痛を与えつつ徐々に肉体を破壊し、最終的には全身から血を噴き流して死を与えるという効果を持つ。
しかも死期が迫るにつれて痛みは増大していくという慈悲の心など欠片もない非情の秘孔である。
国の要人にそんな秘孔を施せば、国家の敵になること間違いなしだ。
「これで一安心だな。俺一人だけで戦う事になったら、開幕≪
「亜人が絶滅危惧種になるから、やめなさい」
モモンガのとんでも発言にゼクトールがツッコむと、二人は楽しそうに笑いあう。
「そんじゃあ前衛は頼んだぜ、相棒」
「支援と広域攻撃は任せるぞ、親友」
そして互いの拳を合わせるのだった。
◆
模擬戦から4日、俺と悟は要塞線へと配置されていた。
「どうです、バラハ兵士長?」
「まだ動きはないな」
陽が西へ傾く中、夜の警戒を任された俺は要塞線一の弓の使い手であり、聖王国九色の黒を授かったパベル・バラハ兵士長と共にアべリオン丘陵を監視している。
ちなみにこのバラハ兵士長、最初は部外者の俺達に対して警戒していた。
しかし2日前に偶然酒場で出会った際、酔った彼の娘さん自慢に付き合った事が切っ掛けで打ち解けるようになったのだ。
件の娘さん自慢は6時間にも及んだが、かつてパパに成りたてのたっちさんがブチかました怒涛の12時間トークに比べれば全然楽だった。
後で聞いた話だが、バラハ兵士長の娘自慢トークは部下や同僚から割とウザがられていたらしい。
なので、付き合ってくれる俺達に心を開いてくれたんだろう。
そして多くの警備兵に慕われるバラハ兵士長と良好な関係になれば、要塞線の人達に溶け込むのは簡単だった。
悟は第五位階魔法が使える事を示したお陰で後衛のメンバーに重宝され、俺も腕相撲やら力比べで連戦連勝したので一目置かれる事となった。
現在、要塞線の配備は中央に俺とバラハ兵士長、右翼にオルランド班長の穴埋めにレメディオス女史と聖騎士団、そして左翼には悟が置かれている。
前衛という観点で見れば左翼が心もとないが、その辺は悟の魔法による殲滅力を期待しての事だろう。
カリンシャを出る前に、この世界の魔法の常識をケラルトさんから叩き込まれたから、悟も基本的に第6位階以上は使わない事になっている。
それ以上が使えると示せば、他の国からの干渉は避けられないからだそうな。
一方、俺に関してはこれといった制限はない。
まぁ、峨嵋拳使いのプレイヤーが現れたら他国の目がなんて言ってられないんだけどな。
「おい、ゼクトール。来たぞ!」
そんな事をツラツラ考えていると、アべリオン丘陵側にある森の中から異形の一団が現れた。
「──あれは…
「これは当たりですかね?」
「ああ。奴等の隠し玉、本命部隊って奴だ」
ゴキゴキと指を鳴らす俺の言葉にバラハ兵士長も同意する。
俺達がカリンシャを起ってすぐ、カルカさん達は行政に影響がない様に関係各所へ作戦を伝えたうえで『聖王の死』という虚偽情報を国へ流した。
その情報を受けた北部の各方面は国民の生活に影響が出ない程度に混乱を装ったのだ。
一連の行動の目的は亜人の本命襲撃を誘発させ、現状における万全の状態で迎え撃つ為。
同時にマーマン族の族長とラン・ツー・アン・リン氏に話を通し、この情報を亜人へ流すであろうギー・ソムを始めとする極右タカ派の捕縛と排除も狙っての事だ。
そして今、こちらの目論見通り亜人達を引っ張り出すことができた。
「なんだ……あれは投石器か? あんなもの、今まで使った事は無かったのに」
遠目が利くバラハ兵士長が上げた困惑の声。
どうやら万事こちらの掌の上という訳にはいかないらしい。
「よし! やるぞぉ!!」
「奴等、なんのつもりだ? この距離では投石機など届かんぞ」
訝しむバラハ兵士長。
「第一陣、発射!!」
そんな彼を他所に、号令によって投石機は勢いよく何かを撃ち出した。
「あれは……!?」
天高く放物線を描いて夕空を駆けるモノ、それは石などではなかった。
「ヒャッハー―――――!!」
「届く! 届く!! 届くぜェェェ!!」
そう、それは鉄鼠人や翼亜人など、多種多様な亜人だったのだ!
「奴等、自分の仲間を撃ち出したのか!? いかん!!」
驚愕するバラハ兵士長をはじめ、予想外の襲撃方法に浮足立つ要塞線中央部。
「これこそが偉大なる賢人が我らに伝えた必殺の戦術……!」
その様子を天空から見下ろしながら、先陣を切る王冠を付けた洞下人が叫ぶ。
「南斗人間砲弾ッッ!!」
北斗の拳と言ったらこの流派でしょう。
亡きガレッキー様に捧ぐ