二回目でも十分におもしれぇ。
これから少しの間見れないのは寂しいですが、円盤が出るまで我慢我慢
南斗人間砲弾。
それは核戦争後の荒廃した世界に咲いた武芸の仇花である。
この拳法は戦争を生き残った大砲に武装した使い手を装填し、空高く撃ち出す事で人間の死角となる頭上からの攻撃を可能とする絶技だ。
───といえば真っ当な武芸に聞こえるが、実際は『北斗の拳』の初代アニメ化で制作側が差し込んだオリジナル流派である。
北斗の拳に限らず当時のアニメは原作が連載中という事もあって、追いつかないように尺稼ぎにアニメ独自の話を盛り込む事が多々あった。
南斗人間砲弾もその中に登場した物の一つなのだが、さすがにサーカス同然の技を南斗に組み込んだのは悪ふざけが過ぎたのか、原作者から怒りを買ってしまった。
もっとも、その前からダイナマイトを投げるだけの『南斗爆殺拳』や砲台を積んだ列車を持ち出す『南斗列車砲』など、トンデモ拳法もどきが出ていた事も彼の堪忍袋の緒にダメージを入れていたのだろう。
そんな南斗人間砲弾だが、意外なことに拠点攻略には有効なのだ。
彼の技の真骨頂は高高度からの強襲にあり。
その過程で敵の侵入を阻止するバリケードや城壁を飛び越え、敵の本陣を直接叩くことが出来るのだ。
故に、ローブル聖王国の最初にして最後の守りである要塞線へ使用するには打ってつけの戦法と言える。
大砲の代わりに投石器を用いた異世界版南斗人間砲弾によって、空を駆けるのはアルべリオン丘陵の部族の中でも選りすぐりの亜人達。
本来なら彼等は悠々と城壁の上へと侵入し、驚きから覚めやらぬ聖王国の防人達は大打撃を受ける事となっただろう。
「チィッ!
しかし亜人達にとって不運な事は、聖王国側にイレギュラーというべき戦力が存在したことだ。
左翼へと襲いかかろうとしていた亜人を歓迎したのは、通常の魔法ではありえない程の広範囲に及ぶ業火と爆炎だった。
本人は否定するだろうが、モモンガは数々の戦場を切り抜けてきた
彼は異形種PKギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の長として、時にゲームが生み出したエネミー、時に同じプレイヤーを相手に鎬を削ってきた。
アインズ・ウール・ゴウンの成り立ちが人間種プレイヤーによる異形種狩りに対抗する為という事もあり、一騎打ちに団体戦・奇襲に騙し討ちなど経験してきた戦況は多岐にわたる。
故に奇策で先手を取られる危険性も十分に理解していた。
(ここで死んだらどうなるか分からないんだ! 奇襲を許したうえに後手に回ってたまるかッ!!)
そう考えたモモンガはケラルトに申し訳ないと思いながらも、彼女との約束を反故にした。
彼が使った『核爆発』は第九位階魔法。
威力は同位階の魔法の中では弱い方だが、効果範囲は全魔法の中でも最上位である。
それを使って要塞へのフレンドリーファイア無しに亜人だけを薙ぎ払った精妙さからは、経験に裏打ちされた判断力と魔法使用における知識と計算の高さが光る。
そして戦闘開始の号砲とばかりに要塞線全体に響き渡った爆音、それは亜人達の奇手に度肝を抜かれていた戦士達の気付けになった。
右翼の中で最初に現実へ立ち戻ったのは、意外にもネイア・バラハという聖騎士団の従者だった。
「このままじゃ拙い! 反撃しないと……!!」
我を取り戻した彼女が手にしたのは聖騎士を象徴たる剣ではなく背中に背負った弓。
それは増援として聖騎士団が要塞線に到着した際、彼女を見つけた父パベル・バラハから用心の為と強引に押し付けられたモノだ。
ネイアは腰に下げた矢筒から一本の矢を抜き取ると、流れるような動作で弓に番えて弦を引き絞る。
聖騎士であった母に憧れて同じ道を志したネイアだが、彼女には剣の才は無い。
その身に宿しているのは父から受け継いだ弓の才と視力、そして野伏に適した他者よりも鋭敏な感覚だ。
それを分かっていたからこそ母は『聖騎士になりたければ自分に勝て』と無茶を言うほど娘の夢を反対したし、父も忙しい合間を縫っては遊びと称して自分の技術を教えていた。
相手がまだ遠距離にいるのもそうだが、ネイアの弓を取る手を後押ししたのはより高い生存確率を求める本能だった。
「父さんが言ってた……最初に狙うのは一番強そうな奴!!」
己を鼓舞する叫びと共に放たれた矢は、右翼の奇襲部隊の中で最も屈強なオーガの眼から侵入し、その頭蓋を貫通した。
「ふぅ……って、一息ついてる場合じゃない!」
己の狙い違わずに相手を射抜いたことに抜けそうになる気を必死に自分を律して持ち直すと、ネイアは従者仲間の注目を集める中で射角を確保する為に石畳を駆け抜ながら次の目標へと弓を引き絞る。
「今の射は誰のものだ!?」
「従者のネイア・バラハでしょう。聖騎士には弓を持つ者はいませんが、パベル兵士長が彼女に強引に持たせていたのを見た事があります」
副官のグスターボの答えにレメディオスは瞬時に思考を回す。
いや、戦士の勘を働かせたという方が正解か。
「その者はたしか兵士長の娘だったな。よし、従者バラハには飛んでくる亜人の迎撃を続けるように伝えろ! 聖騎士の何人かも前衛として付けてやれ!」
「よろしいのですか?」
「兵士長の娘だ。弓の腕も確かなようだし、新兵のようにパニックになるような鍛え方も──していないだろう!!」
グスターボに答えを返しながらレメディオスは天から急襲してきた馬人の斧を躱すと、カウンターで胴を両断する。
「分かりました! 落ちてくる前にバラハが数を減らしてくれたら楽ですから──ね!!」
対するグスターボも落下の勢いを乗せて頭を勝ち割らんと振り下ろしてきた人蜘蛛の爪を剣で受け流し、その切り返しで相手の首を堕とす。
要塞線の中央部でも迎撃に動く者がいた。
「まさか、あのような曲芸紛いを実戦に投入する者がいようとはな」
そう口角を釣りあげると、ゼクトールは城壁の石畳を砕かん程の勢いで飛びあがる。
「おおりゃあああッ!!」
軽功術で飛来する亜人達と同じ高さまで到達すると、ゼクトールは丸太のような足を横一文字に振りぬいた。
放ったのは北斗神拳の数ある技の一つ、
空を裂く旋風脚から深紅のオーラが放たれ、それは城壁へ取り付こうとしていた亜人達を飲み込んだ。
「あろっ!?」
「ぬわばらっ!?」
「のまどっ!?」
「てんぺらっ!?」
至近距離から闘氣を浴びた者はその威によって五体を撃ち砕かれ、そうでない者も余波で秘孔を突かれて内側から破裂する。
その異常すぎる亜人の死に様に兵達がドン引きする中、パベルだけは違った
「あの矢はネイアの……! 俺も負けてはいられん!!」
射手として長年鍛え続けた動体視力の全てを右翼から放たれる矢に集中させたパベルは、二体・三体と亜人を撃ち落とすそれが娘の奮戦によるものと看破した。
「ネイア…立派になって……。ここは父として偉大さを見せねば!!」
気合一閃、娘を倍する速度で弓をつがえると一呼吸も置かずに矢を放つパベル。
元より娘の事を語れば数時間は口が止まらない親バカな男だ。
そんな物を見れば闘志が天元突破するのは自明の理と言えた。
「へべっ!?」
「ごはぁ!?」
「んなアホなっ!?」
武技とスキルがたっぷりと籠った矢は徹甲弾のごとく、宙を舞う亜人達を三枚抜きにする。
「何を呆けている、お前達! 撃て! 亜人共を撃ち殺すんだ!!」
そんなどこぞの自己犠牲系弓兵のようなトンデモ射撃を連発しつつ、パベルは部下達へ指示を飛ばす。
「うおっ!? とんでもねえ!!」
「やばいぞ! 兵士長が親バカを発動させている!!」
「こいつは闘いの後に7時間コース確定じゃねえか!」
「クソッ! 生き残っても地獄かよ!!」
上司がブチかましたまさかの絶技に人体破裂のショックから抜け出したパベル配下の弓兵達は、明後日の方向で絶望しながら口々に文句を垂れる。
「お前等、戦いが終わったらクソ兵隊さんマラソン要塞線の端から端まで十往復な」
そしてパベルから制裁を食らう訳だが、こんな会話をしながらも矢の雨を降らせる辺りは歴戦の勇士といったところか。
とはいえ、亜人達もやられたままでいるわけではない。
「クソ人間どもが! バリスタ隊、出ろっ!!」
モモンガの魔法でなぎ倒された左翼はともかく、右翼中・中央に至ってはまだ投石器も健在で兵の被害も大きくはないのだ。
「人間砲弾隊が城塞へ取り付く時間を稼げ! 発射ッッ!!」
洞下人の指揮官が合図をすると巨大なクロスボウを持ったオーガが隊列を組んで、槍ほどもある矢を城壁へ向けて放つ。
「うおおっ!?」
「矢を絶やすな! 奴等が来るぞ!!」
人の身長ほどの矢が城壁へ突き立つと、その振動で迎撃を担っている兵士達はバランスを崩す。
「死ねぇっ!」
「ぐがぁっ!?」
「距離さえ詰めれば人間なんざ怖くねえ!!」
「ぎゃあっ!?」
そこへ人間砲弾で飛んできた亜人達が強襲し、次々に兵士達をなぎ倒していく。
「迎撃! 迎撃だ!! 前衛の兵士たちは前に出ろ!! 弓兵を護れ!!」
乱戦となる中、中央指令所の将軍が拡声魔法が籠った魔石へ声の限りに怒鳴る。
亜人達が空襲作戦を行う以上、要塞線の城壁は意味をなさない。
亜人は人間よりも身体能力的に優れている以上、聖騎士や熟練の戦士以外は白兵戦は不利。
そして現在、要塞線へ詰めている兵士たちは先の大侵攻で失った人員の補充として徴兵された民兵が大半だ。
迎撃の矢玉が切れれば、乗り込んできた亜人達によって磨り潰される未来が待っている。
「中央と右翼がヤバいのか? 賢二の奴は何やってんだよ!
将軍の放送を耳にしたモモンガは、左翼は投石器が壊滅しているのをいいことに≪
そして中央部のゼクトールが何度目かの円環斬襲脚で人間砲弾隊を撃ち砕いた時だ。
「むっ!」
技の切れめを狙って、一つの影が彼へ襲いかかってきたのだ。
今までの砲弾隊とは違い、放物線ではなく空を駆けるが如く一直線に襲い来る影。
「中央最大の障害よ! その首もらった!!」
それはゼクトールの直前で三重にブレ、胸元で十字に重ねていた手刀を左右へと振りぬく。
「ぬぅんっっ!!」
襲撃者に対してゼクトールは下へと振り下ろした脚の空気抵抗を足場として左の剛拳を放つ。
二つの影が交差した時間は刹那。
「今の動き──
互いに背中合わせになるように城塞へ降りると、ゼクトールはゆっくりと振り返る。
「門外不出と言われた我が流派を知る者がいるとはな。それに今の剛拳……並の兵では歯が立たんわけだ」
その言葉を受けてゼクトールと視線を合わせたのは翼亜人だった。
しかしその個体は細身である他の者と違い、全身を鋼の如き筋肉で鎧っている。
「亜人連合軍十傑が一人、翼王ガルガ! 貴様の───ぬぐっ!?」
不敵な笑みと共に名乗りを上げようとしていたガルガだったが、突然右肩の付け根にある筋肉が蠕動を始めると苦痛に顔を歪ませて片膝を付く。
「ぐおわぁぁぁっ!?」
そしてガルガの悲鳴と共に蠕動していた部位の肉がはじけ飛び、辺りに血と肉片をまき散らした。
「ふん、浅かったわ。本来であれば貴様の五体が四散していたのだがな」
「ぐ…ぐぅ……!? なん…だと……!」
交差した一瞬、ガルガは腕に着いた被膜で風を受ける事によって空中での軌道を変え、ゼクトールの拳は回避した。
しかし、拳から放たれるオーラまでは躱せなかった。
そして北斗神拳は奥義を極めれば闘氣でも秘孔を突くことが出来る。
ガルガの放った拳に微かでも甘さがあれば、ゼクトールの言ったとおりに彼の身は肉片と化していただろう。
「南斗聖拳の極意は鋭利を極めた手刀による斬撃にあり。その肩では翔天拳もまともに振るえまい」
ゼクトールの指摘にガルガは歯を食いしばって睨みつける。
一部の流派を除いて、ゼクトールの言う通り腕は南斗聖拳の生命線だ。
それはガルガの体得した翔天拳も変わりない。
さらに言えば肩をやられた事で翼亜人最大の利点である翼も潰された。
眼前の強者を相手にするには致命的と言える
「ガルガとやら、貴様を討てば亜人軍の攻勢も弱まろう。その首、取らせてもらうぞ」
ゆっくりとした足取りでガルガへと迫るゼクトール。
「腕一本取った程度で勝った気になるなよ! 俺にはまだ翔天拳自慢の足がある!!」
それでもガルガの闘志は衰えを見せない。
骨まで砕けた右肩の激痛に萎えそうになる足を叱咤して立ち上がると、無事な方の手で構えを取る。
「その意気や良し」
その心意気を受け、ゼクトールが拳を振りかぶろうとした時だった。
「──!?」
背後から感じた猛烈な殺気を浴びてゼクトールの背筋に冷たいモノが奔った。
同時に意識に先んじてゼクトールの身体は動いている。
余波だけで城壁の石畳を削る程の背面蹴り、それは今まで誰にも姿を掴ませなかった三つの影を炙りだす。
「北斗神拳・
「危うく上半身を吹き飛ばされるところじゃったわ」
「北斗の使い手にはあれがあったのを忘れておった。やれやれ、年は取りたくないわい」
その影は年老いた猫型の亜人、オーガ、鳥人間だった。
他の2種はもちろん、オーガも明らかにアベリオン丘陵の亜人とは様相が違う。
猫型の亜人はケット・シー、鳥人間はアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーであるぺロロンチーノと同じバードマン。
そしてオーガは日本の赤鬼に近い容姿をしている。
いずれもユグドラシル産のアバターで異形種と呼ばれた者達だ。
「な…なんだ、あの亜人共は? 今までの連中とはケタが違うぞ」
今まで戦ってきた亜人達よりも体の線は細く、体毛にも白髪が目立って肌が見える者は顔に深い皺が刻まれている。
一見すれば老化から力を失っているように見えるだろうが、パベルの長年培ってきた戦士の勘が告げていた。
見た目で判断するな、アレは化け物だと。
現に彼等の存在感は立っているだけで聖王国の兵士達はもちろん、周囲の亜人達の動きまで縫い付けているのだ。
そんな真似が並の者に出来るわけがない。
そんな張り詰めた空気の中、ゼクトールが三人の翁へ口を開く。
「久しいな。峨嵋拳のたまニャン、
「それはこちらのセリフじゃ、拳王ゼクトール」
「よもや、お主と再び見える事になるとは思わんかったぞ」
「お前さんがいるとなれば、左翼で馬鹿げた魔法をぶっ放したのはガイコツ魔王のモモンガか。この分ではゴラムやナスレネも生きてはいまい。まったく運の無い奴よ」
仮面のように好々爺の笑みを張り付けた3人の亜人。
ゲームが現実となり相手も随分と老いを感じるが、ゼクトールが見間違える事は無い。
彼等はユグドラシルの『北斗の拳』コラボで鎬を削り合った拳士達だ。
「し…師匠、なんでアンタ等が? 隠居してたんじゃないのかよ」
思わぬ人物の登場に追い詰められていた事も忘れてガルガは呆然となった。
当然だ。
彼等3人は人間と争う事に否を突きつけ、今まで聖王国攻撃には一切参加していなかったのだ。
それでもなお亜人達から尊敬と畏怖を集め、アベリオン丘陵に君臨していたのはあまりにも強すぎたから。
彼等3人は如何なる族長を相手にしても無敗を貫き、それどころか傷一つ負う事は無かった。
故に彼等は亜人達から武神と崇められ、その弟子となる事は何よりの誉とされてきたのだ。
そんな彼等が3人揃って戦場に顔を出した事は、弟子のガルガにとっても晴天の霹靂だった。
「なに、過去の因縁に呼ばれたと言ったところかの。それよりガルガよ、今すぐ全軍を撤退させよ」
ショックから抜けきれないガルガの問いかけに答えると、年老いたバードマンことくるっくーは真剣な顔で指事を出す。
「な…何言ってんだ!? 今が聖王国を潰すチャンスだろ!」
「むこうの兵をよく見んか。自らの王を討たれたにしてはあまりにも殺気がないじゃろう」
「もしお前達の仕掛け通りになっておれば、聖騎士団なぞ怒り狂って要塞から飛び出しておるわ」
「つまり聖王は生きておる。そのうえでお前達の策は逆手に取られたという事じゃ」
師の台詞にガルガは絶句する。
あれだけ入念に準備をして暗殺部隊には亜人十傑を2人、それも自分と同じく武神の弟子となった鬼王ゴラムまで配置した作戦が空振りに終わるとは彼は夢にも思わなかった。
「ほれ、さっさとせんか! 左翼におるのは化け物級の
「だ……だったら! ソイツを師匠たちが倒せばいいだろ!」
たまニャンの言葉にまだ納得がいかないガルガは噛みつく。
それに苦笑いを浮かべたのはオニ太鼓だった。
「無茶を言うでない。一人二人で眼前の化け物を足止めなぞ出来るものかよ」
「そうじゃそうじゃ。なにせワシ等は彼奴に負けておるからの。そんなのが非公式魔王と合流でもしてみぃ、それこそ手が付けられんわい」
オニ太鼓の言葉にガルガの師であるくるっくーも続く。
「師匠たちが……嘘だろ?」
「わかったらさっさと行け。今回ばかりはお前の世話は焼けん」
「───わかった。帰ったら色々聞かせてもらうからな」
「おう、帰ったらの」
そう告げるとガルガはその場を離れていく。
本来なら聖王国の兵たちは彼を討つべきなのだが、誰一人地面に足を縫い付けられたかのように動くことが出来ない。
彼等は本能的に分かっているのだ。
あの亜人に手を出せば、三体の化け物が自分に牙を剥く。
そうなれば、為す術もなく殺されるという事が。
「どうしてもやるのか?」
ゼクトールの口を突いたのはプレイヤーとして、宇津美賢二という地球人としての言葉だった。
敵側に存在を予見していても異世界で出会った同胞、矛を交えるのは彼の本意ではない。
そんなゼクトールの内心を察したのか、たまニャンは苦笑いを浮かべる。
「仕方あるまいよ。互いの事情はどうあれ、今のワシ等は敵同士。これも運命のめぐりあわせという奴じゃな」
「それにの、100年以上も武術家をやっておると考え方も変わるものよ。畳の上で大往生も悪くないが、男なら闘いの中で死にたいとな」
「それが雪辱の機会とくれば乗らぬ手はあるまいて。勝てぬ筈の相手に勝ちの目が見えておるのなら猶更な」
そう不敵に笑う3人を見て、ゼクトールは説得を諦めた。
本来なら是が非でも考えを改めてもらうべきなのだろうが、何故か彼等の言い分がストンと胸に落ちたのだ。
「よかろう! ならばこちらも容赦はせぬ!!」
構えと共にゼクトールの気迫が赤い炎のように立ち上る。
「な…なんだ!?」
「地震か!?」
そのオーラは大地を鳴動させ、亜人・聖王国兵問わず要塞中央部にいる者全てを竦ませる程だ。
「ふ…ふふ……心地よいわ」
「応よ! 血が滾るとはこの事よ」
「在りし日の若さが戻ってくるようじゃ」
しかし3人の老拳士に怯えの色は無い。
むしろ飢えた獣のごとく好戦的に牙を覗かせる程だ。
「その老いた拳で俺の首が取れると思うならば、三人纏めてかかってくるがよい!!」
「「「ゆくぞ! 拳王!!」」」
天を衝く程の裂帛の怒号を合図に、三人の男はゼクトールへと襲いかかるのだった。
北斗拳法図鑑①
南斗翔天拳
初代TVアニメ版北斗の拳に登場したオリジナルキャラ・ジョーカーが使う南斗聖拳の一派。
空中で作り出した2体の分身と共に相手を攻め立てる事を特徴としている。
翔天拳は既存の残像攻撃と違い、自身が生み出した残像と共に攻撃するを極意としている。
その為、受ける側は単なる目くらましでなく、実際に使い手が増えているのと同じ状態を強いられる。
そこに南斗聖拳特有の斬撃が加われば、相手は為す術もなく切り刻まれる事となる。
作中ではジョーカーはケンシロウと互角に渡り合えるほどの強さを見せたが、最後は自慢の移動速度を上回られて敗北した。