ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物   作:その辺の残骸

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多頭蛇の影

 

 刀の切っ先のように鋭い船体の戦闘艦が暗礁宙域を超えて向かってくる。

 

 葵が呼び寄せたガーベラ号だ。

 高速駆逐艦は白姫号を先導するポジションに来るよう、合流軌道を取った。

 

 自律モードで警戒態勢に移行したガーベラ号に護衛を任せて、白姫号に着艦する。白灰色の零桜は小型艇の離発着に使う後部デッキに降りるよう指示された。

 

「ガイドライン表示。降りられるよ、お姉ちゃん」

「おーし、まずは緩く回ってっと」

 

 再び戦闘機形態に変形した零桜は滑るように旋回して、客船後方に位置する。

 

「コース適正。いつも以上に綺麗なカーブだね」

「まあな〜。お歴々方が見てる前で、格好悪い真似できんからな」

 

 白灰色の可変MFは視界に投影されたガイドラインにぴったり沿って動いており、茜の腕前と几帳面さを物語っている。

 

 よっしゃ!と心の中で気合を入れ、ピンク髪の少女はスロットルとタッチパネルを素早く操作。

 

 コ・パイロットとして水色髪の少女は計器に目を走らせ、万が一の事態に備える。

 すべて軍学校での訓練通りにこなしていた。

 

 推力カット。流れるように最接近。デッキに降り立つと慣性制御のみでブレーキを掛ける。

 

「よし、イイ感じや」

 

 コクピットで感じた振動はごく僅か。理想的なソフトランディングだ。ランディングギアが固定され、零桜はエレベーターで格納庫に運搬されていく。

 

 エレベーターが止まる前に、茜と葵はできる限り身嗜みを整えた。

 八洲の豪華客船となれば、当然名士の方々が乗客である。

 家の名に恥じないよう振る舞う必要があった。

 

 エレベーターが止まる。

 格納庫には出迎えの船員が待っており、二人が姿を見せるのを心待ちにしていた。

 

「うーむ」

 

 不意にピンク色のお姉ちゃんは視線を落とした。

 

 薄赤色の被膜と顎、首元、局部、手足のプロテクターに護られた姿。

 動きやすくて頑丈な戦闘スーツだが、瑞々しい身体のカタチが曝け出されている。

 

 スキンスーツで体の線を出すことに慣れていたつもりだったが、ナノスキンスーツの保護被膜は標準的なスキンタイト宇宙服より遥かに薄い。

 

「あかん、なんだか恥ずかしくなってきた。上着くらい持ってくれば良かったかも」

 

 裸同然の格好をして人前に立つと考えると、急に気が引けてくる。

 二つの膨らみの先端やおヘソの形まで被膜に縁取られたスーツだから、はしたないと受け取られるかもしれない。

 

 同じく水色の被膜が張り付いた自分の体を見つめて、葵はまだまだ鍛え足りない腹筋に未熟を実感していた。だから、せめて、

 

「ゆかりさん達みたいに堂々と行かないとね」

 

 肌を露わにする軽装でも、ナノスキンスーツで長身な肉体美を魅せているときも、ゆかりとマキは恥じず、むしろ誇らしげに歩んでいた。

 

 紫髪と金髪のお姉さんを理想として思い描き、茜は奮起した。

 

「せやな。葵の言う通りや」

 

 意を決して、ハッチを開く。

 戦闘機形態の零桜は、下方にハッチが位置する。コクピットブロック自体は回転して、機首方向を向くわけだ。

 

 重力下では宙空に固定されたパイロットシートから、備え付けられたワイヤーを伝って降りるのだが、白姫号の格納庫は無重力なので、身一つで颯爽と飛び出す。

 

 ピンクと水色の長い髪を靡かせて、琴葉姉妹は零桜から姿を見せた。

 

「お出迎えありがとうございます」

 

 女性の副船長が二人に応対してくれた。命の危機を救ってくれた少女達に感服しきっている様子。

 

 光沢を纏った裸同然(言い換えれば、サランラップを巻いたような)ナノスキンの胸を隠したい衝動を堪えながら、茜と葵は並び立つ。

 

 副船長の案内で廊下に出ると、待ち構えていた乗客の歓声と感謝の言葉の洪水が襲い掛かり、姉妹は圧倒されることになった。

 

 

 戦闘後の処理がひと段落して、炎陽のコクピットに戻った金髪ロングヘアの蛮族娘は今回のMF戦を回想した。

 

 フルスロットルで突っ込みながら、ガトリングとレールガンで同時射撃(ダブルトリガー)

 

 牽制射撃に散開した虎兵五機のうち一機をゆかりが狙撃。

 キルレシオで勝るはずの第二世代MFにあっさり味方が落されたことに動揺している間に畳み掛ける。

 

 マキはひたすら撃ちまくり、ゆかりはその弾幕をすり抜けるように飛び回って海賊の度肝を抜きつつMFを片付ける。

 

 慣性制御の性能差からくる機動性の差は、追加ブースターの猛噴射とフレンドリーファイアを恐れぬ命知らずな野蛮マニューバーで補った。

 

 ゆかり単騎で残る二機のMFを相手取り、速度を乗せた体当たりからの左手のシールド・ブースターに仕込んだ合金製の鉄杭――パイルバンカーで射抜いて纒めて撃破。

 

 マキの炎陽は対艦戦闘に専心して、防空フリゲートを沈めた。

 

 回避運動から攻撃に転じ、肩にマウントしたマスドライバーキャノンを連射。電磁加速された対艦砲弾の束がフリゲートを貫通し、爆発。

 

 巡洋艦は回り込んだゆかりと共同作業で航行能力と攻撃能力を奪い、決着となった。

 

 思い出しただけで、ドキドキしてくる。

 

 エキサイティングな戦闘だったし、ゆかりと一緒に高Gを感じながら飛び回る快感は他に変えられない。

 しかし、「今回は無駄弾が多かったなぁ〜」とマキは冷静に反省している。

 

 宇宙空間に輝くうねりの点が四つ生じた。ワープアウトの前兆。

 

「ご到着だね〜」

 

『ワープアウト。ボゾン級巡洋艦三隻に、パワーズ級軽空母。識別信号はアンゼリス外洋艦隊のモノで間違いなし。フットワークの軽さは変わらないようですね』

 

 クールな紫髪の長身美少女は素早くチェックを終えた。

 

 周辺宙域を航行していたアンゼリス軍の正規艦隊が当面の護衛を引き継いでくれるとのこと。

 元々白姫号を護衛していた民間軍事会社との協議の上での決定だ。

 

 軽空母を中心に整然と陣形を組んだ小艦隊が出現すると、マキはシートから立ち上がっていた。

 

 金髪娘は身を乗り出して、コンソールを支えにするような恰好になり、額に手をかざす。

 アンゼリス軍の艦に興味津々な金髪の蛮族は、元気な印象の豊満なヒップを後ろに突き出す、悩殺的なポーズだ。

 

 ゆかり達の臨時の仕事、あるいは人助けは九割完了だ。後は軍に海賊を引き渡せばおしまい。

 

 自分たちのお頭の無惨な姿と、船内の惨状に海賊は全面降伏している。

 ゆかり達は捕虜と負傷者を安全なブロックに集め、引き渡しの用意を整えてから巡洋艦の残骸を後にしたのである。

 

 艦隊は二手に分かれて、白姫号と海賊船の巡洋艦に向かう。

 

『来ましたね。MFと突入艇です』

 

「ライトニングってヤツか。イクリプスとフューネラルの元型って話だけど確かに似てるね」

 

 軽空母からアンゼリス正規軍のMFが発進してきた。ライトニング、第三世代MFの傑作と名高いフレドリカ・マスターアームズ製の機体。

 

 ガーベラ号に搭載され、紫髪と金髪が乗り込むことが想定されていたらしい第四世代MFのベース機でもある。

 

 ミリタリーな灰色迷彩のライトニングの頭部はツインアイ。シャープな造形で強そう。

 

「けど、わたしのフューネラルのほうがハンサムかな!」

 

 すっかりお気に入りになった黒い第四世代MFに軍配を上げるマキであった。

 

 ライトニング隊を率いる隊長機が敬礼してきたので、二人は答礼で応じた。良いコトをして、それが認められる。なんとも清々しい気分だ。

 

 上機嫌になって、金髪の巨乳娘は鼻歌を歌いながら、

 

「こっちで集めておいたデータ送りますね〜、使ってください♪」

 

 コンソールをタッチ。

 アンゼリスの艦隊にデータをアップロードした。

 

 両腕を失い、意気消沈した海賊の頭目から聞き出した話と、艦のサーバーをハッキングして吸い出した情報。それらを纏めて提供する。

 

 傭兵二人程度では手に負えない案件なので、お上に任されることにしたのだ。

 

「長居は無用。戻ろうか、ゆかりん!」

 

 赤い炎陽がサイドスラスターを吹かして反転。ゆかりもそれに続いて青と灰色の乗機を旋回させた。

 

 

 ガーベラ号に帰還しながら、ゆかりは通信チャンネルを開く。ウィンドウに琴葉姉妹の可愛らしい姿がある。

 座席に座った茜の隣に葵が身を寄せている。白姫号の船橋に入れてもらい、通信席を貸して貰っていた。

 

『やっぱ地球絡みでしたか』

 

 ゆかりが共有した情報に茜は予感が的中したという顔。

 

「ええ。ヒュドラ・グループに支援されているのはあの海賊だけじゃないようですね。

 独立戦争の敗残兵だとか地球政府による再統治を求める団体、それに思想信条様々なテロリスト。手当たり次第使えそう連中に声を掛けてるようです」

 

 アーガイルとかいう海賊の親玉は接触した地球からの連絡員に聞かされた話を、捨て台詞のサービス付きでゆかりに教えてくれた。

 

 植民惑星独立以後、地球の産業で外宇宙に太刀打ちできるのはヒュドラ・グループだけだった。

 ヒュドラは地球の主要な巨大企業による連合体であり、戦争時は表向き中立の立場を取り、戦後も太陽系外の生産拠点を維持していた。

 

 グループはやがて地球統合政府に取って代わり、何やら暗躍している。

 

『なら、今後はヒュドラ相手のお仕事が増えますか?』

 

 おっ鋭い。自分と相棒の気質を見抜いた水色髪の少女の発言に、ゆかりはそう思った。

 儲けられそうな荒事、揉め事、厄介事あらば首を突っ込む。それがこの二人の生き方だ。

 

『そうなるね。二人もやるなら気持ち良くやっつけられる相手がいいでしょ?』

 

 マキが獰猛に笑いかけ、戦に生きる修羅の貌を見せる。

 

『それはもう、望む所です――ところで一つ相談なんですが、乗客の皆さんにお二人のことをウチらの師匠と紹介したんです。

 そしたら、ぜひお目にかかりたいって話になりましてですね。こっちに降りてもらっても良いですか?

 無理そうならウチの方から断りますけども』

 

 紫髪と金髪の長身美少女はアイコンタクト。

 

――勿論、答えは決まってますよね

――そりゃもう当然!

 

『ノープロブレム!』

 

 明るい声でマキは快諾した。

 

 

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