ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
光沢のある黒のスキン、紫色のプロテクター。ナノスキンスーツが張り付いた、平坦な胸の裸身が宙を舞う。
まっしぐらに向かう先には勇壮な姿形のマニューバフレーム。纏うカラーは白と青。
イクリプスに乗り込んだゆかりの視界に、格納庫の光景が映る。
陸海空宙あらゆる戦場において、頂点に立つ主力人型兵器。
ゆかりと先に出撃した金髪の親友は、その最新鋭第四世代を操ることができる類稀な存在らしいが、イマイチ実感がない。
ウェポンラックからアサルトレールガンを手に取り、イクリプスはカタパルトデッキに運ばれる。
ゆかりの視界の隅には二つの通信窓。操船担当の茜、管制担当の葵の緊張した表情が並ぶ。
ピンク髪と水色髪の姉妹は、ナノスキンスーツを身に纏っている。顎から頬を保護するプロテクターが、可憐な顔立ちに勇ましさを添える。
「発進後、イクリプスはガーベラ号に伴い、大気圏に突入します」
『了解しました』
『火器管制システムのロックは外してあります、敵が射程に入り次第撃ちます』
「よろしい」
クールな無表情でゆかりは最終確認。二人の師匠という立場、しかも実戦の最中なので、紫髪の長身蛮族は普段よりも厳格な態度。
カタパルトのインジケーターが、ゴーサインを出す。
『イクリプス、発進どうぞ!』
葵の合図で、白と青色のマニューバフレームが発艦する。
加速の圧力が黒い被膜と紫のプロテクターのナノスキンスーツを貼り付けた、ゆかりの肉体に襲いかかる。だが、優美な細身ながら筋肉が鍛え抜かれた肢体は、加速圧を容易く受け止める。
宇宙に飛び出すと、ゆかりは素早く左にロールを打ち、ガーベラ号の真正面に移動する。
惑星ナトス・タブ。大半が砂漠に覆われた星だ。
強烈な太陽光を妨げるモノはなく、昼は灼熱の世界。一転、夜になれば極寒の世界に変わる。
熱を留めることができない砂の放射冷却と、乾燥した大気が生み出す過酷な二面性は砂漠の常。しかし、過酷な自然環境を除けば、居住可能性は高い惑星である。質量は地球とほぼ同等。重力は1G。
しかし、入植は一切試みられていない。凶暴な原生生物に阻まれていた。
砂漠には似つかわしくない生き物に人間が襲われている。甲虫である。しかし、サイズは人間よりも二回りは大きい。
襲われているのは、学術調査のためにナトスの地を踏んだ科学者のグループだ。
新進気鋭の若い女性科学者によるグループで、年長者でも三十代前半。護衛のPMCの兵士も無用トラブルを避けるため女性のみ。
護衛も護衛対象も、耐環境性とリサイクル機能に優れたスキンタイトスーツを着ている。ぴっちりしたスーツは、彼女たちの瑞々しいボディラインを浮き彫りにしていた。
一行はキャンプを調査対象である生物に襲われ、全滅の危機に瀕していた。
惑星の支配種である甲虫類の生息数が、極めて少ない安全なエリアでの調査のはずだった。しかし、何らかの理由で原生生物の生息圏に変動があり、キャンプ一帯に危険生物が押し寄せてきた。
最悪なことに、研究者グルーブには宇宙空間に退避する術がなかった。迎えの船は二週間後に到着予定。
地上に降ろしてあるのは、惑星内での移動手段である探査車のみ。
「駄目だ! スポンサーと連絡は着いたが、救助はどうやっても半日かかるって!」
「ストレージとサンプルは積める限り、ローバーに載せました、いつでも出発できます!」
「けど逃げるってどこに!?」
「希望を捨ててはいけません! とにかく、生き延びることを考えて!」
「虫がバリケードを突破する!? 急いでローバーに乗って!」
飛び交う悲鳴。
PMCの兵士が、エネルギーが切れかけたプラズマライフルを圧力による異音が響くバリケードへ向ける。
破裂するようにバリケードが砕けた。キチン質の外殻に覆われた甲虫が乗り込んでくる。
すぐさま、銃撃するが既に弾薬は尽きかけ。先頭の同類の死骸を踏み潰し、黒い甲殻の捕食者が迫ってくる。
「ひっ」
「やだやだ虫に食べられて死にたくない!」
女たちの多くが、甲虫の姿に怯え、一斉に放出してしまう。経験豊富で、理知的な女性科学者。冷静沈着なサブリーダー、初のフィールドワークに胸踊らせた新人、そして彼女達を守る立場のはずの女兵士達までも。
容姿に優れた若い女性たちの肉体が恐怖に屈した瞬間。スキンスーツの排泄物パックは、放出された液体を吸い取った。しかし、股間に感じる確かな湿り気が、集団の気力を奪い取っていた。
舞い降りる巨体に気付いた何人かが、空を見上げた。それは、甲虫ではない。鋼だ。鋼の人型。
「セーフ! 間に合った!」
深紅のレーザーが無数に降り注ぎ、迫ってきた蟲を文字通り全滅させる。
舞い降りてきたのは漆黒のマニューバフレーム。
それは重厚な装甲の機体で、背中に大型ブースターと主翼からなるフライトユニットを背負っている。各部にあるレーザー照射口が開いており、先程の攻撃はそこから放たれていた。
威厳ある外套を纏った恐るべき魔王。ツインアイの深紅の輝きと黒く雄々しい姿が見る者にそう連想させる。
フューネラル、それが機甲の魔王の名。不可視の障壁――
コクピットには金髪ロングヘアの美少女。鍛え抜かれた長身にぴっちり極薄スーツを纏った弦巻マキである。
『SOSを受信した者です! 迎えの船もあります、降下艇が降りたらすぐに乗って!』
唖然とする調査隊に呼び掛け、随伴させた降下艇に乗るよう促す。
その間にも、マキはフライトユニット内のミサイルで新手を消し飛ばしていた。
「飛行タイプが来たか。しかも大きい」
遠方からはより大型――MFサイズの種が飛来している。
そちらに両手で抱えたビームキャノンを構え、即座に発射。
操縦桿からの入力ではない、マキとリンクしたフューネラルが意志を読み取って動いていた。
閃光が辺りを照らし、威力を誇示する。空で数多の爆発が起こった。
ローバーに分乗した救助対象が、降下艇に逃げ込むのを確認。
『それじゃあ脱出します!』
人助けは嫌いではないマキである。フットペダルを踏み込み、フューネラルを離陸させる。
惑星外からの侵入者、二機と一隻に向かってくるのは、遠目には砂嵐に見える。
実態は機動兵器級の原生甲虫の大群だ。
「うお、大群や。ドンパチの音聞きつけて集まってきたんかな」
「覚悟してたけど、やっぱりぞわぞわする……」
茜は操船席、葵は管制席のディスプレイで、青空を覆い尽くす蟲嵐を目にしていた。顎を打ち鳴らしながら高速で接近する甲虫の大群はグロテスクでしかない。
姉妹は揃って背筋がぞわぞわするのを感じた。特に水色髪の妹、葵の顔色は悪い。
けれども、琴葉姉妹は武家の娘であるため、やるべきことはやる。
カタナ級高速駆逐艦ガーベラ号、全長800メートルの航宙艦は大気圏に突入すると、火力を一気に解放。
ミサイルを乱射して比較的小型の種を蹴散らし、艦首空間魚雷の強力な爆圧がまとめて蟲を吹き飛ばし、嵐に穴を開ける。
「左90度回頭後にビーム砲撃開始や!」
ピンク髪のお姉ちゃんが、指示を出し、ガーベラ号を旋回させる。
操船席は機動兵器のコクピットのようなレイアウトだ。操作感覚、座り方も同様。
脚を閉じて女の子らしく座る葵に対して、茜は脚を広げている。ナノスキンの股間アーマーがよく見える格好になっていたが、猛々しい生まれ故か、気品があり凛々しく見えた。
「ビームプロジェクション、行くよ!」
「おお、凄い凄い! 流石八洲の戦船や!」
主砲、荷電粒子ビームを照射する。通常の砲撃よりも負担がかかり、砲身の冷却と再チャージに時間を要する。
その分、威力がある。ピンク色の荷電粒子は横薙に振るわれた刃のように蟲群を切り裂き、プラズマ化した大気が広範囲を焼き尽くす。
ガーベラ号の側を舞い、さりげなくレールガンで長距離射撃をやってのけていたゆかりが、船に顔を向けた。
『私抜きでも問題ありませんね。イクリプス、前進します――茜さん、葵さん、二人とも上手ですよ』
「「あっありがとうございます、ゆかりさん! 気を抜かずに頑張ります、お気をつけて!」」
紫髪の長身な蛮族が、お姉さんの声音で告げる。褒められて嬉しい琴葉姉妹の声が綺麗にハモった。
白と青のGen4MFが急加速。
ディストーションブースト、空間歪曲を応用した加速で、大気の抵抗を完全無視して突撃。マッハ20を軽く超えていた。
背部ランチャーのミサイルを使い切り、身軽になってから蟲の群に突っ込む。有効射程に入り、視界一杯に殺到してくる甲虫のターゲットコンテナが緑から赤に。
「フルバースト、ファイア」
レールガンには大容量マガジンを装填してある。電光を帯びた弾丸が瞬く間に何千と吐き出され、射線上の蟲を皆殺し。
回転しながら、四方八方に銃弾をばら撒き、イクリプスはパワーダイブ。
白と青。空の色を纏いし勇壮なる装甲騎士は流星となった。
前腕にシールドが装着された左手には、レーザーブレードを握り、急降下の勢いに任せて、斬、斬、斬。
宇宙戦艦の装甲を切り裂く鋏を頭部に備えた甲虫の頭に、強烈なシールドバッシュを叩き込む。体液を散らしながら破砕される異星の原生生物のアタマ。
「ふんっ!」
クワガタの化け物の骸を振り払い、イクリプスはV字に急上昇。
上空では、マキのフューネラルが降下艇をガーベラ号に送り届け、戦闘に突入していた。
『ゆかりーん、早く早く! エレメント組もうよ!』
『すぐに行きます』
数万という途方もない数の甲虫は、既に三桁にまで減じている。砂漠には甲虫の残骸が散らばり、体液が砂を奇妙な色に染めていた。
巨乳を弾ませながら呼びかけるマキに急かされ、ゆかりは、ディストーションブースト。空間歪曲作用による加速がイクリプスを天空まで一気に押し上げる。
宙返りを打ち、さらにスピンしてフューネラルと背中合わせに。
「はぁ――!」
「ふっ――!」
瞬間。ゆかりはマキの、マキはゆかりの息遣いを感じた。
互いを頼もしく思い合い、紫と金の野蛮な美少女は一気に敵を殲滅する。
「すごい……たった二人で戦ってる」
思わず手を止め漏らした葵の言葉。それは、ゆかりとマキの戦いを見守る皆の想いを代弁していた。