ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
神聖アルヴィス公国軍、重巡洋艦"ガンナート"。艦橋下の
低身長のでっぷりと肥えた小男で、見た目通りの醜い内面の持ち主だ。
「テロリストどもめが、星系外から援助を取り付けるなぞと小癪な」
アゴラが言ったテロリストとは圧政に反対し、政権打倒を掲げるレジスタンス組織のことだ。ガンナートは解放同盟を称する組織に送られた物資を接収するよう命じられた。
急な命令で、趣味の人間狩りに出向けなくなったのは腹立たしい。しかし、私腹を肥やすには良い任務だ。
横領や横流しは公国を支配する貴族にとって、息をするのと同じことなのだ。
進行方向を映したモニターに目をやる。実りある積み荷を期待しながら、駆逐艦に向かっていく人型機動兵器の航跡を眺めた。
パイロットシートの下にある収納スペースからナノスキンスーツを取り出し、身に纏う。
首から下に密着する超極薄の装備だが、今は被膜が伸びて緩んだ状態。足先から通して引っ張るだけで良かった。
首元プロテクターのスイッチを押す。
肌とスーツの隙間の空気が押し出され、スーツそのものが縮み、着用者にぴったりとフィットする。
「んっ? くっ!……うぅ――――」
「あっ……やぁっ――――はぁ。これ結構きついね」
締め付けが強烈でゆかりとマキは思わず声を漏らしてしまった。
イクリプスとフューネラルはデータリンクし、通信をオンラインにしてあるので互いの悩ましい吐息が相手に丸聞こえである。
ナノスキンスーツは二人の磨き上げられた筋肉質なボディを浮き彫りにした。
メタリックな光沢を放つ白い被膜とプロテクターはナノマシンで構築されており、高度な生命維持機能と筋力強化機能を併せ持つ上にヘルメットを形成して宇宙服にもなる。
「この色は好みではありませんね」
スーツの着用感や自分の魅力的な肉体を強調するデザインは気に入ったが、色に不満があるゆかり。その意を汲み取ったかの如く、ナノマシンが分子配列を置き換え、変色する。
『うわ、急に色が変わり始めた!』
通信画面でマキが騒いだ。彼女のスーツも変色し始めたのだ。
大部分を占めるサランラップのような質感の被膜は黒。ゆかりの装甲部分は紫、マキは赤に様変わりした。
「気が利くスーツですね」
「すっごい! カッコいい!」
少なからず感動を覚え、好みの色合いになったナノスキンを触る二人だった。おヘソの形はおろか、胸の先端まで"つん"と浮き出ている。
装甲は顎、四肢、股間のみ。
おまけに股間部分の装甲は扇情的なⅤ字型。お尻に向かって伸びた細いパーツが尻間に食い込み、埋もれている。
排泄物処理パックを保護する厳重なプロテクターだ。
コクピットが揺れた。前方にガイドラインが灯る。二機のMFは格納庫から両舷のカタパルトに運ばれた。
反応炉は戦闘出力に上がっており、火器管制システムは正常に作動中。
各部のスラスターノズルと補助翼などの可動部分が動作チェックを独りでにこなした。
戦意を滾らせながら操縦桿を強く握れば、思考制御システムがパイロットの脳波とリンク。
戦術コンピュータがパイロットの脳に直接情報を送る。ゆかりとマキは僅か二秒で情報を咀嚼して我が物とした。
「どうしましょうマキさん。柄にもなく気分が高揚してきました」
「あはは。こういう時は素直になればいいんだよ。一緒にぶっとぼう」
二機のMFはとんでもない機体だと判った。力を解き放つことにワクワクして、胸が高鳴る。
発艦姿勢を取る。
「結月ゆかり、イクリプス。出撃します!」
「弦巻マキ、フューネラルで出るよ!」
二人はフットペダルを同時に踏み込んだ。
後部スラスターから一気にプラズマが噴射する。急加速に歯を食いしばり、肉体に押し付けられる慣性荷重を心地よく感じる。
打ち出されたイクリプスとフューネラルは左に旋回しながら合流。
「迎撃機だと。ふむ、あれは確かアンゼリスの新型だな。MFを十二機も送り込んだのだ、できるだけ傷つけずに確保しろ。中身は……見た目が良ければ生かしておけ」
アゴラの決断は早かった。
地球からの独立を果たし自由民主主義を謳う惑星アンゼリスはアルヴィス公国の対極であり、不快な存在だった。
発進した二機は従来機とは別次元のスペックを備えた第四世代マニューバ・フレーム――――Gen4MFなどと喧伝されている機体である。
単機で巨大戦艦に相当するコストがかかるとされるマシンの現物が転がり込んでくるとは、テロリストもたまには役に立つ。母艦の中が宝の山であることを夢想し、アゴラは豚のように鼻息を荒くした。
出撃させたMF"ドラッケン"――――曲面装甲を配した、モノアイタイプ。どこか怪物的なシルエットの機動兵器を駆るパイロットは命令に忠実に従った。
アゴラは全くの無能であったが、艦に配属されたMF部隊は士気技量ともに高く優秀だった。
レーダー上では三機。しかし、ガンナートの戦術スクリーンは本来の数である十二機の機影を捉えている。
『撃ってきた!』
電磁加速弾の火線が通り過ぎ、マキは叫んだ。獰猛な笑みを浮かべていた。
『四肢を正確に狙ってきました。まともな訓練を受けたパイロットが操縦していますね』
ゆかり達は武器を向けず、攻撃レーダーの照射も行わないで直進。様子見していた。
そこに回避運動を取らねば命中する銃撃が来た。交渉する気が微塵もないとは恐れ入る。
『私は艦を殺るね!』
『了解。良い狩りを』
互いの獲物を決める短い通信の後にイクリプスとフューネラルは散開。
宇宙の闇の中にあって際立つ黒の機体が敵艦の弾幕に飛び込んでいく。ゆかりが知るどんなMFよりもフューネラルは速かった。
――――では、この機体を試すとしましょう。
絶え間なく増大する加速感に浸りながら、ゆかりはイクリプスを旋回させた。ミサイルの雨を振り切る。狙い済ましたレールガンの一撃が側面からゆかりを狙う。
しかし、砲弾は機体に達する直前、空間そのものに弾き返された。
「ディストーション・アーマー。半信半疑でしたが、ちゃんと機能するようですね」
これこそGen4MFに隔絶した戦闘力を与える空間歪曲装甲、
その効果を試すために、わざと甘えた動きをしたのだ。
狙撃は一見すると何もない空間から発生したように見える。実際には光学迷彩と推進炎を隠蔽する添加剤を用いたステルス機が潜んでいるのだ。
三機のドラッケンで注意を引きつつ、姿を隠したステルス型ドラッケンが敵を追い込む戦術であった。
「見えていますからね」
センサーに頼らず、感覚だけでほぼ完璧なステルスを捉え、ゆかりはアサルトレールガンを向けた。
銃口から青白い光が迸る。オレンジ色の爆発が起こり、爆散した味方機にドラッケンのパイロット達の注意が向く。
ウェポン・セレクト、ハイマニューバーミサイル。ライト、レフト、同時発射モード。
鋭い目つきで通常仕様のドラッケンを睨み、レーダー照射。三つのターゲットコンテナが緑から赤に変わる。
高機動ブースターと一体化したミサイルポッドのハッチが開く。 左右合わせて十六発の高機動誘導弾が射出された。
MFと同じく慣性制御ドライブを装備したハイマニューバーミサイルを躱すために獲物に選ばれたMFは推力を振り絞り、全力で逃げねばならない。
「とっ」
追い撃ちをかけようとしたが、ステルス迷彩機が割って入り、ゆかりはシールドでレーザーブレードを受け止めた。
DAはレーザー及びビーム兵器、大質量物との激突に対しては効果が薄くなると出撃前に欠点を把握している。
敵は知ってか知らずか効果的な攻撃を仕掛けてきた。背後からはミサイル接近警告。味方が近接戦闘の最中だというのに。
ゆかりは接近戦を仕掛けてきたMFを軽くいなし、レールガンの接射で粉砕。前部スラスターを噴射して後退する。
十時方向で爆発が二つ。ハイマニューバーミサイルが二機を仕留めていた。
イクリプスは上昇をかけ、ビームと実弾の包囲網をするりと抜けていく。
前方から飛来した三発のミサイルをシールドで受け止めたイクリプスはツインアイを煌かせながら、爆炎から飛び出す。
ちょうどフューネラルを視界に収めた。ミサイル着弾による爆発を突き破り、DAを活かしながら敵艦に接近。
フューネラルの背部大型ブースターからの噴射が強まり、信じられないほどの勢いで加速し始めた。見えない力で後押しされているかのようだ。
「なるほどあれが
空間歪曲を推進力に応用する機構だ。DAとDBを併せ持つことでGen4MFは異次元の単機性能を発揮できる。
「ふぬぅぅぅぅぅぅっ!! この加速には慣れていかないといけないな!」
マキが無茶苦茶に加速させているせいもあるが、コクピットの耐G性能がDBの速度に追いつかず、重圧に踏み潰されそうになっていた。
全身の筋肉で苦痛に耐え、フューネラルに指令する。思考制御は四肢の自由が利かない状況で役立つ。
魔王のような凶相に深紅の瞳が輝く。
センサーをフル可動させながらビームキャノンを重巡洋艦に突き付ける。
フューネラルは厚い装甲の下に多数の火器を内蔵しているがとりあえず、今回は主砲のキャノンを試すと決めていた。
「こういう時は下から攻撃!」
対艦攻撃の基本中の基本だ。
サイドブースターからプラズマが炸裂してフューネラルを弾き飛ばす。
サランラップに形そのまま包まれたかのような豊満な乳房が好き勝手に弾む。邪魔くさいと感じる暇もないほど、マキは戦闘に集中していた。
重巡洋艦の両弦から近距離ミサイルが下方に向かって放たれ、無数の爆発が空間を埋め尽くす。アゴラの副官は下方から敵が仕掛けてくると読み、先手を打ったのだ。
「――――とっ見せかけて上から仕掛ける! どう、驚いたでしょ!?」
だが、そこにマキはいなかった。ガンナートのCICで悲鳴が上がった。「敵機は当艦直上! 攻撃態勢に入っています!」
誰が見ても自殺行為なのだがマキはフューネラルを敵艦の上方に移動させ、対空砲火を巧みに避けていた。
ミニマルなスラスター噴射で弾幕の間隙を縫い、瞬くビームの閃光で漆黒の装甲を照らす。
「それじゃバイバイ!」
快活な笑顔でウインクして、トリガーを引く。両手持ちのビームキャノンから照射されたビームが艦体を縦一文字に切り裂く。
「なんとかしろ! できねば貴様らまとめて強制労働キャンプお――――」
CICにて。絶叫する小男は部下諸共荷電粒子の光と熱で分解。ガンナートの百名ほどの乗員は誰一人として生き残ることはなかった。
「いい運動になった~♪」
爆散する艦艇をバックにフューネラルは離脱していく。
『お見事でしたマキさん。こちらもそろそろ終わらせます』
『お手並み拝見』
残る数機のステルス・ドラッケンに対してゆかりは腰の近接武装を抜刀。見得を切るように実体とレーザーのブレードを構えて、凄まじいプレッシャーで敵機を圧する。
「駆けなさい、イクリプス」
直後、DBで猛加速。高速モードに突入したイクリプスは閃光と化し、ジグザグの戦闘軌跡を描く。
五度の斬撃の後、一直線に飛び、やがて急停止。そして決めポーズ。
結月ゆかりは無表情でクールな女ではあるが、格好付けたがりでもあった。
五つの爆発が起こる最中、フューネラルと合流するコースを飛ぶ。
不意にゆかりは敵機の残骸に向かって肩越しに振り返った。MFはパイロットの網膜にセンサーで捉えた外界を投影する方式を取っている。
首を振ればその方向の映像が映るのだ。
「少し遊びすぎましたね」
イクリプスの性能を試したくて手加減していたが、やり過ぎて時間がかかってしまった。
『とりあえず、これで安全ですね』
『だねぇ。改めてご飯にしよう』
『賛成です。空腹の身には少し堪えました』
ガイドビーコンに従い、イクリプスとフューネラルは着艦する。
『マキさんは先にシャワーで体を洗っていてください。使えるようにしてありますから』
メインジェネレータをシャットダウンしながらゆかりは言った。
ナノスキンスーツは汗や老廃物を分解して再利用できるらしいのだが、個人設定が完了していないせいなのか、汗の処理速度が遅かった。
密着したスーツの下は汗塗れになっている。すぐにでも汗を流したい有様なのだ。
『えっそんなの悪いよ!? ゆかりんも一緒に入ろうよ!』
『レプリケーターをセットしなければなりませんから』
『スーツが入ってた収納に非常食と飲み水が二週間分も入ってたし、とりあえず今日のご飯はそれでいいよ。ゆかりんとお風呂したいんだ……ダメかな?』
瞳を潤ませながらお願いするマキ。
『マキさんが良いのならばそれで構いません』
こうまで強く頼まれては断れない。元々、食事に拘りがないタイプでもある。非常食パックを一袋取り出し、ゆかりはコクピットから飛び出した。
その手をマキが掴んだ。待ちきれない様子だ。
「えへへ~久しぶりのお風呂だ~」
二人きりの廊下でお尻を並べて歩いている間も嬉しそうなマキ。十年ぶりに親友と一緒に浴びるシャワーは心まで暖かくしてくれた。