ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
ピンク髪の茜と水色髪の葵。琴葉姉妹は力を合わせて一生懸命に戦っていた。
たった二人、一組の狙撃チームで重火器を携えたパワードスーツの戦闘部隊を抑え込んでおり、スナイパーレールガンの射程に収まった敵は全員無力化している。狙撃手の戦果としては上々だった。
しかもバルコニーに陣取っての狙撃だけで二十名弱を倒しており、一切移動していない。
敵を寄せ付けていないのだ。ヒュドラ・グループ側の反撃はヴィラ付近に届くのみで、建物には今のところ傷一つない。
「後退しよったな。だけど退却するって感じやない」
「ダメ、もう当たらない」
「なら様子見といこか」
茜は双眼鏡で敵の動きを観察する。
黒色の戦闘装甲服を着た歩兵達が怒りを抑えながら狙撃圏外に逃れていく。
腹這いになってスコープを覗いている葵の静かな一言は、端的に事実を述べていた。
敵は安全な位置に居座って様子を伺っており、しばらく睨み合うことになった。
銃火は完全に凪いでいるが、茜と葵は油断なく五感を鋭く研ぎ澄まして警戒を続ける。
それによって、ナノスキンスーツの下で起こっている現象をはっきりと意識することにもなった。
姉妹の柔肌に滲んだ汗が四肢のプロテクターやナノ被膜に吸収されていく。
股間からお尻にかけて張り付いたプロテクター裏の排泄物パックの処理速度は極めて高速であり、不快かつ負傷を深刻にしかねない排泄物を決して逃さず衛生を維持する。
しかし、高性能なナノマシンとて演算能力には限度があり、汗の再生処理に割くリソースは通常モードでは控え目になっている。激しい運動や緊張で多量の汗を掻くと超極薄被膜の下が蒸れてしまい、一時的な不快感を催すことがある。
今がまさにその状況であった。
腋、臀部、ブーツの中。
特にこの三箇所は濃く発汗していて、蒸れで痒みを催している。
少しずつ処理されているが、痒さはまだ収まりそうにない。
(うぅ……むずむずするなぁ)
(お尻の周り、汗でべっとりしてる)
痒みと不快感に押し殺したような表情になっているピンク髪と水色髪の姉妹である。
茜は時々こっそり腋を擦り合わせたりしている。
葵も姉にバレないようお尻をもじもじさせている。
二人の身体の特に発汗量が多い部分だ。ナノマシンも苦労しながら汗をリサイクルしている。
我慢我慢と自分に言い聞かせ、精神修行で培った意志力で、無駄な感覚を意識の外に追いやろうとしていた。
そんな一幕が密かに繰り広げられたが、琴葉姉妹はすぐに戦う乙女の貌に戻った。
(よし――――)
スナイパーレールガンの弾薬には余裕があり、葵はこのまま一時間は集中力のピークを維持できる。
時間をかければ、残りの敵を倒すことができた。
だが、葵はスナイパーレールガンのスコープから目を離して起き上がった。
「そろそろ引き上げよう」
「OKや」
茜は水色髪の妹の判断に従った。食い止めるより脱出を始めることを優先する。
(荷物は軽くしておくか)
茜はそう考え、装備を吟味する。
ナノスキンスーツには筋力を強化する機能もあるので、大量の荷物を持ち運ぶことはできる。
とはいえ、ここからは身軽に動きたいので、茜はバルコニーの床に並べたり、ストラップで肩に掛けた銃火器のうち一部だけを厳選して持つことにした。
「出会い頭にかますならやっぱこれやな」
メインウェポンは弾速の速さから不意の遭遇戦に強いレーザーカービンにした。
高出力モードで照射すればパワードスーツにも有効打になる。
これから脱出用の高速艇が隠してある地下格納庫まで一気に走る。高速艇を発進させて、ゆかりとマキを拾って離脱するのだ。
これでやっと作戦の第一段階。
次はマニューバフレームでの戦闘が待っている――そして、
「それ、持ってくん? 重くない?」
重量があり、嵩張るスナイパーレールガンを抱えた葵に茜は訊いた。
水色髪の少女は予備マガジンも腰のポーチに突っ込んでいる。
「まだ使い所があるかもしれないから」
葵がそう言うならと、それ以上追求することなく納得するピンク髪のお姉ちゃん。
妹の判断を信頼しているので、無理だとか、できないとか決め付けるような事は決してしないのだ。
「さっ急ごうお姉ちゃん!」
「ちょ、急ぎすぎやで葵~!」
弾かれたように走り出した葵の背中を追いかけ、茜は階段を降っていく。
狙撃が止んだことで、ヒュドラ・グループの特殊部隊が一気に前進してきた。
『狙撃手は生かして返すな! 建物ごと吹っ飛ばせ!』
通信回線に怒号が飛び交った。
重火器で一気にヴィラを攻撃するパワードスーツ部隊。
既に一チームしか残っていない。
別の二方向から攻撃していた隊は全滅しつつあり、それが遊撃に出た女傭兵、結月ゆかりと弦巻マキによるものだと分かっている。
ヴィラから狙撃しているのは、ヴォルテクスに同行している八洲武家の姉妹だ。
ターゲットではない。抹殺したところで得られる戦果は、損害に到底釣り合わない。
せめて少しでも損害を与えてやろうという、怒りに任せた考えによる攻撃だった――捕虜にして、有力武家である琴葉家を脅迫する材料にするという発想には至らない。
ヴィラには強化コーティングが施されているとはいえ、風情ある木造建築の建物なので長くは持たない。
ミニガンや榴弾が撃ち込まれ、ヴィラが崩れていく。
琴葉姉妹がいたバルコニーは既に跡形もなくなっていた。
「邪魔されなくなった途端に勢い付きおってからに」
葵を追い越し、先導する茜が言った。
激しい銃声や揺れが伝わる最中、廊下を走っている。
格納庫に繋がる通路がある地下室に到達するまで建物が持つかは五分五分といったところ。
地下室まで後少しというところで、いよいよ天井が崩れてきた。転がるように階段を降る頃には、完全にヴィラは崩壊してしまった。
地下室に隠された非常用通路に駆け込むと、ナノスキンスーツのパワーアシストを頼りに全力疾走を続ける。
「はあ、はあ……」
バルコニーから一瞬も休むことなくノンストップ。厳しい鍛錬で鍛えた体でも辛く感じるペースで走っていた。
荒い息を吐きながら走り続けているため、茜と葵はついに苦しそうな表情を浮かべていた。
心臓の鼓動は早まり、高まった体温に身体は燃え上がるようだ。
淡い色のナノスキンにラッピングされた双丘を揺らしてひた走る琴葉姉妹は、滑稽にも見えるかもしれない。
ナノ被膜を纏った肢体は裸と変わらないどころか、光沢のある淡い色合いのナノスキンで凹凸が強調されている。
胸だけでなく、その先端やヘソまで浮き出ており、お尻でさえ形がそのままくっきり。
それどころか強力な着圧で持ち上げられて、少女達の臀部をよりセクシーに魅せている。
機能性を重視しているにしても戦闘スーツとしては、過剰なほど扇情的だ。
髪にしても綺麗なピンクと水色(地毛である)。八洲らしい上品な組み紐とリボンで髪を飾っている。
顔立ちも可憐であるだけでなく、生まれに相応しい品格で備わっていた。
そんな美しい少女たちが肉体美を強調するナノスキンスーツの着用した姿は、まるで何かのコスプレのよう。
もしも何も知らない者が、ナノスキンスーツを装着した茜と葵が出撃を前にして、微笑んでいるのを見たとしよう。
「そんなぴちぴちのスーツで戦おうするなんて、戦場を舐めている」だとか「現実とフィクションを混同している」だとか「スーパーヒロインごっこ」と非難してもおかしくない。
しかし、今この場で琴葉姉妹が命を懸けて戦う姿を見れば誰もが圧倒され、その健気さに心を打たれて応援するだろう。琴葉姉妹の眼差しにはそれほどの真剣さがあった。
プロテクターブーツの足音を通路に響かせながら走り抜け、終着点に辿り着いた。
格納庫には八洲製、大気圏内外兼用の小型艇が待機している。
カタナ級と同じメーカーの機体であり、刀剣を思わせるシャープなシルエットはデザイン面でも人気があった。
「はぁ…きつかったぁ……」
レーザーカービンを両手で持った茜は息を整えながら振り返り、葵の様子を確かめる。銃床を床につけ、縦に置いたレールガンに縋りつくような格好で片膝を突いていた。
必死で酸素を取り込んでいる真っ最中の葵の白い貌は紅潮していた。
(なんか変な気分やな――――)
顔の造形は瓜二つの姉妹だというのに、可憐で清純な葵の切なげな表情にドキドキしてしまう。
「あかんあかん! ウチはお姉ちゃんなのにこんなコト考えてちゃ!」
「えっお姉ちゃん、どうしたの!?」
インモラルな感情を振り払うとき、茜は叫んで首を横にブンブン振った。大袈裟な仕草だったので、葵が心配そうに見つめてきた。
戦場で、そして双子の妹に抱くべきではない想いを感じてしまった茜は、
「あはは、驚かせちゃってゴメンな葵。心配せんといて、ちょっと邪念が入ったのを追い払っただけやから」
そのように説明して優しい笑顔を見せる。気まずい気分だった。
「ウチは先にエンジンに火を入れてくる。葵は休んでから乗ればええからな」
「うん、分かった。そうするね」
話している間にも大股で歩き出す。高速艇に乗り込むピンク髪のお姉ちゃんを、葵はしゃがんだまま見守った。
「さーてと、気を取り直して集中せんとな」
ざわついた気持ちを落ち着かせるために、茜は離陸準備に没頭した。
コクピットに入り、新品のシートにお尻を降ろす。
この機体のマニュアルは事前に頭に叩き込んでおいた。
自然と人懐っこいピンク髪の美貌に得意げな笑みが浮かぶ。茜は滑らかな手つきでスイッチを押し、パネルをタッチしていく。
「休憩終わり」
筋力補助があっても重たいスナイパーレールガンを抱えてきた消耗から回復すると、葵は自分に言い聞かせた。
ナノスキンスーツの肩プロテクターには飲料水タンクが内蔵されている。飲料水をチューブで啜り、添加された栄養と一緒に水分補給した。
タンクはもう殆ど空だ。
戦闘が終わるまで補充する余裕はない。
喉が乾いたらスーツが吸収した水分をリサイクルした水を飲むことになる。
メカ好きな葵はナノスキンスーツのスペックを把握しており、素晴らしい性能に感激している。
再生水が100%安全で清潔ということも理解していた。
(元々は私の一部だったものだけど……)
理屈で理解していても、感情的には気は進まないのである。
プロテクターに内蔵されている非常用水タンクはすっかり重くなっている。
タンクの中には葵の汗と尿、それに大きいほうからナノマシンが吸い取った水分がリサイクルされて蓄えられている。
その時が来たら何も考えず無心で水分を摂ることにしようと決心する。
葵は膝に力を入れて立ち上がり、重たいレールガンのバレルを肩に担いだ。
夜空は幽かに白みつつあった。
「いざ、茜ちゃん達の元へ!」
「肝心なときに師匠が遅刻するなんて、恥の極みですからね」
ヴィラに迫っていた降下艇を撃ち落すと、マキはゆかりと合流。
再び、森の中を疾走していた。
猛スピードで走っているが、木の根や転がっているパワードスーツやその武器に足を取られるようなミスはしていない。
『お待たせしてすみません! 今からそっちに向かいます!』
ヘッドセットから茜の声が響く。
何でもない地面に偽装されていたハッチが開き、茜が操縦する高速艇が垂直離陸するのが見えた。
「気をつけてください。もう一機の降下艇が来ています。こちらから見た感じ、対空ミサイルポッド積んでますよ」
『こっちでも捉えてます。ウチには葵がいますから大丈夫です!』
明るい声を弾ませる茜。キャビンにいる葵にまで届く声だった。
「どうしよっか?」
「ここは二人に任せてみましょう」
こんなこともあろうかと、ゆかりはミサイルランチャー、マキは対物ライフルをパワードスーツから奪っている。
ビーチで会った際、アティアとイヴ――
フォローできる態勢を取りつつ、琴葉姉妹に降下艇の撃墜を任せることにした。
キャビンのハッチが開いており、ゆかりとマキの目は、レールガンを構える葵の勇ましい姿が見えた。
葵はキャビンのドアガンナーポジションにハーネスで体を固定していた。
ナノスキンが張り付く肌にハーネスをきつく食い込ませながら、最大出力に引き上げたスナイパーレールガンのスコープを覗く――対空ミサイルが発射される――今狙撃すれば迎撃できるが、狙いはあくまで降下艇だ。
回避運動。チャフ・フレアが散布され、夜闇が急に明るくなる。
茜の操縦で高速艇が激しく揺れ、視界が回転する。それでもレールガンの銃口はブレない。
(この位置なら一撃で墜とせる)
夜風に水色の髪を靡かせながら、少女は水面の如く静かな眼差しと心で引き金を絞った。