ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
ヒュドラ・グループ。
十年前の敗戦から衰退の一途を辿る太陽系にありながら、外宇宙に影響力を持つ五大企業からなる連合だ。
その目的は地球による植民惑星の再統一、ひいては五大企業による人類全体の支配だ。
各星系に秘密工作部隊を派遣し、反政府組織やテロリストに資金援助、マニューバフレームを含む兵器の提供を行っている。
戦艦トルヴァクスはヒュドラ・グループが建造した最新最強の戦闘艦だ。
現在はサン・リノル本星付近に位置しており、高度なアクティブステルス機能を使い、姿を隠していた。
「何たることだ!」
そのCICで、アレクセイ大佐は戦術コンソールに拳を叩きつけた。
ホログラムで表示された戦況は惨憺たるもの。部下の前で保つべき冷静さをかなぐり捨てて憤りをぶつけるのも無理はなかった。
派遣した特殊部隊は全滅といっていい損害を被っている。
しかも、三分の一近くが生かされたまま無力化されていた。たった四人に手加減されていたということだ。
サン・リノル軍が現場に向かってきており、じきに救助されるだろう。
無論、ヴォルテクスは慈悲や情けで手加減したのではなかろう。むしろヒュドラ・グループに害を与えるためだ。
秘密工作員が僅かな痕跡を残すだけで、組織にとって致命的だ。それどころか生き残った特殊部隊の兵士は秘密工作活動の証拠になってしまった。
サン・リノル星系の政府はヒュドラ・グループからの圧力で国内での暗殺作戦を容認した。
だが、条件として投入する戦力を著しく制限させたことから分かる通り、あくまで消極的賛成であった。
ヴォルテクスは入念に襲撃に備えていた。強力な銃火器や爆薬まで持ちこんでいるとは予想外だった。
サン・リノル星系政府が黙認しなければ、こんなことはできないはずだ。
さらに悪い報せが飛び込み、オペレーターは顔を顰めた。しかし、報告しないわけにはいかないので、声を張り上げる。
「敵、カタナ級がドックより発艦しました! ヴォルテクスを乗せた小型機とランデブーするものと思われます!」
アレクセイはそちらに顔を向け、憤怒の形相になった。
「狸どもめ!」
再び怒りを露わにするアレクセイ。
夜闇が幽かに白みつつある洋上を悠然と飛ぶカタナ級、ガーベラ号を阻む物はなかった。
完全武装の戦闘艦が飛行しているというのに、サン・リノル星系軍はスクランブル発進などの対応をしていない。
政府公認の特例航行であり、民間機は邪魔をしないようにとの通知が出ていた。
ヴォルテクスと行動を共にしている姉妹。その出身である八洲とも関係が深いサン・ノリルは、双方に加担していたのだ。
今回の作戦の失敗でサン・リノル星系はグループとの関係に見切りをつけ、独立惑星との関係強化に舵を切ることになるだろう。
(このようなことは認められん!)
"宇宙人"に弱味を握られ、貴重な外宇宙進出の足掛かりも失う。
それも自らの失態によって。
ヒュドラ・グループに忠誠を誓う兵士として誇りを持つアレクセイにとっては、耐えがたい状況だった。
(かくなるうえは!)
トルヴァクスの威力を示し、ガーベラ号を破壊することで、サン・リノル星系に思い知らせる他にない。
表立った行動は間違いなくリスクになるが、ヒュドラ・グループの権威が損なわれるよりはマシだ。
地球にとっての悪夢である結月ゆかりと弦巻マキ――ヴォルテクスを討ち取ることができれば、ヒュドラ・グループの上層部もアレクセイの功績を無視できない。
今の地位が損なわれることはなく、それどころかより高い地位に昇れるかもしれない。
「全機動兵器部隊を発進させろ。
決心したアレクセイの号令は力強く、淀みない。
「第二ラウンドを始めるぞ。各員の奮闘に期待する」
アレクセイを尊敬する部下たちは、何の異論も唱えることなく、命令に従った。
紫髪と金髪の蛮族な二人は、高度を下げてホバリングする高速艇に素早く乗り込んだ。
「お見事でした葵さん」
「本当、凄い射撃だったよ。格好良かった」
「えへへ、ありがとうございます」
乗り込む際、ゆかりとマキは葵の狙撃の腕前を賞賛した。
葵ははにかみながら、師匠二人の心からの称賛を受け取った。
スナイパーレールガンの一射で、降下艇のコクピットを撃ち抜き撃墜したのである。
互いに戦闘機動する小型艇の動きを読んだ、神業的な射撃だった。
「銃は私が預かります。重たかったでしょう?」
ゆかりは葵からレールガンを預かった。
丁寧な手つきで受け取ると、安全装置をかけて壁のウェポンラックに固定する。
葵がナノスキンスーツにアシストされていても重く感じた巨大な銃だ。
なのに、ゆかりは細い腕で軽々と持っている。
パワーローダーのアームを素手で引き千切り、ボディを蹴りで凹ませる。二人がそんな超人的身体能力の持ち主であることを改めて意識させられる葵だった。
(私達を助けるために、こんなに重たいモノを抱えるなんて……)
ゆかりは葵の献身ぶりに感激していた。
紫髪の無表情な女蛮族にとっては棒切れ程度の重さでも、水色髪の武家少女にとっては大きな負担を要する代物だ。
自らの並外れた筋力を基準にしてやれ根性が足りないとか、まだまだ未熟だとか、弟子の努力を軽んじる無駄なスパルタ精神は持ち合わせていない。
むしろ葵の努力と根性に感心するばかりである。
当人は自覚していないが、姉の茜も紫金の女蛮族も一番ガッツがあるのは、葵だと思っていた。
「ハーネスはわたしが外すよ」
「助かります」
狙撃姿勢を安定させるために葵がナノスキンスーツの四肢に食い込ませていたハーネスは、マキが外してくれた。
しゃがんでハーネスを取り外しているマキの顔を窺う。
疲労している感じはなく、少し汗を掻いているくらいだった。
ハーネスから解放された葵が後ろに下がると、マキはハッチを閉じて密閉した。これで、宇宙空間に出たとしても空気漏れの心配はない。
「そこのシートで休もうか」
陽気で能天気でしかもガサツなのが弦巻マキだが、意外と気が回るところがあった。
葵が疲労しているのを察して、それとなく手を貸して座席に導いた。
「はいこれ。元気が出るやつ」
マキは事前に確認しておいた収納スペースから栄養タブレットを葵に渡した。
八洲製の安全な栄養剤であり緊急時の服用を想定している。ナノスキンスーツの飲料水に添加された栄養より遥かに栄養価が高い。
葵は白いプロテクターに覆われた掌の上で、タブレットを見つめた。
飲み込むには水が必要だ。
飲料水は水色のナノスキンスーツには十分な量が蓄えられている。
ただし、それは葵が排出した汗や排泄物の水分を再利用した非常用水だった。
ちらりと横目で隣を見る。
マキは両手を組んで前に伸ばすストレッチをしていた。
今は気付いていないが、栄養剤を飲まずにいれば心配されてしまうだろう。
葵は少し前に固めた決意を思い出す。栄養タブレットを飲み込むと、非常用タンクの水をチューブで啜った。
無味無臭の綺麗な水だ。
目を瞑って、葵は一心不乱に水を啜った。
ゆかりは腰に片手を当てて立ち、水を飲む葵の様子を見つめていた。野蛮で暴力的だが明晰な頭脳で、葵の逡巡の理由を察している。
はたしてマキさんは知ってか知らずか――――考えを巡らせていると。
「ゆかりん、茜ちゃんにも渡してきて」
マキがタブレットのケースを投げ渡してきた。
「分かりました。この結月ゆかりが責任を持って届けましょう」
ゆかりは長身の肉体美を魅せるように背筋を伸ばす。
豊満なお尻を揺らすモデルのような歩き方でコクピットに向かう。気取っているわけでなく、ゆかりの自然な歩き方だった。
髪留めで束ねた長い横髪が颯爽と靡いている。
エゲつないほど脚が長いので、歩幅も大きい。ゆかりはすぐにコクピットに着いた。
「色々と助かりました。これ、栄養剤です」
「いただきます。けど、ウチはそんな大したことしてませんよ」
空いている副操縦席に座る。
黒いナノスキン被膜のお尻を降ろし、ゆかりは茜を労った。私はそうは思いませんよ、と謙遜する少女に心の中で告げている。
電子音が鳴り、茜はディスプレイの一つに目を向ける。
ドックに預けていた自分たちの母艦がオートパイロットで飛び立ったことを確認したとき、茜は安堵の息を漏らした。
「ガーベラ号は無事に上がりました。ちゃんと約束を守ってくれたみたいです」
「それは重畳。手間が一つ省けましたね」
政府の担当者との交渉は茜が行い、ゆかりはその場に立ち会った。
ヒュドラ・グループの兵隊に襲撃され惑星から脱出する際には、ガーベラ号が飛び立てるよう取り計らう約束を取り付けていたが、どこまで信用できるかは読めなかった。
最悪、高速艇でドックに乗り込み、強引にガーベラ号を発進させるプランも考えていた。
どうやらこの国は想像よりも遥かに自分たちの実力を認めているようだった。
「第二ラウンドも気合い入れていきます。ウチにとっての本番ですから」
栄養タブレットはすぐに効果を発揮した。
腹の底から力が溢れ、頭がすっきりする。
体力を取り戻すとピンク髪のお姉ちゃんは、勇ましく宣言するのだった。