ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
トルヴァクスが零桜の砲撃で無力化されると、戦闘は急速に終結していった。
絶好な戦況で再編成を終えたサン・ノリル星系軍に囲まれたトルヴァクス残存部隊は、母艦を失ったことで戦意を喪失していた。
いかに士気旺盛な精鋭といえど、帰るべき場所がなければ戦い続けることはできない。
トルヴァクスの艦載機は次々に投降していく。
その中には、せめて一太刀と星系軍に特攻する無謀――武家の価値観で見れば忠義に厚く天晴れとも行動に出る兵もいたが、集中砲火の前に空しく爆光と化していた。
そうした光景を見つつ、寿葉姉妹は人型形態の零桜を通常推力で推進させていた。
「いったん降りる。損傷チェックはガーベラと併せてウチがやる。葵は警戒を頼める?
ヤケになったのがこっちに突っ込んできてもおかしくない」
「了解だよ、お姉ちゃん」
零桜は傷付いたガーベラ号の甲板に降り立つ。
薄紅色のグローブに覆われた指でホロディスプレイを素早く叩き、艦と機体のステータスに目を奔らせつつ、優しい表情で促す茜であった。
葵の操縦で零桜はスマートキャノンを両手で抱え、砲撃姿勢を取る。
決して油断していないという構えだ。
不意打ちを喰らわないためには、敵に隙があると思わせないのが重要なのだ。まだ戦闘は完全に終わったわけではない。
気を抜いていない。
むしろ、終わり際ほど危険だと、生粋の武家に生まれた二人は教え込まれている。
二人とも生身とMFでの激しい戦闘で疲労しているが、ナノスキンスーツのアシストもあって、まだ余力は残っている。
不意に頭上で戦闘の光が弾けた。
流れ弾が軌道に乗ってこっちに飛んでこないか、すぐさま茜は目を凝らす。
十年前にサン・リノル星系を襲った地球軍艦の残骸が惑星の引力に囚われて生まれたデブリ帯。
そこで戦いは続いている。四つの光が物凄い速さで飛び交う。
ゆかりとマキは
宙域に展開している星系軍の有人MFも動きを止め、戦いに見とれている。
第四世代MFの戦闘を直で見たことがある者は少ない。ましてや平和の星系の無人機頼りの軍隊となればなおさらだ。
「悔しいけど、私たちじゃ何もできないね」
その呟きは茜の気持ちを汲んで、葵が代弁したものだった。
「せやな。分かってるけど……あーもう武者震いが止まらんわ!」
できることなら今すぐにでも加勢したい。武士として、弟子の心からの気持ちだ。
しかし、ゆかりとマキの戦場は遥か遠い。
恐らく意識して
十年前の残骸から支援砲撃を行ったデブリ帯で四機のGen4MFは、熾烈な超高速戦闘を繰り広げていた。
速力に優れた零桜が最高速度で駆けつけようとしても、間に合わない。
仮に宇宙最強の機動兵器同士の戦いに飛び込むことができても、零桜がやれることは何一つないだろう。
ゆかりとマキが繰り広げているのは、人知を超えた力のぶつかり合いなのだ。
「自分にできることをやらないとね」
そう口にする葵であった。
幸いにして、やれることはある。
サン・リノル政府から受けるでろう今回の責任追及を回避することだ。師の住まいを守る。それも弟子の務めだろう。
戦闘を繰り広げるうちに
機体の戦闘力に大きく関わる空間歪曲装甲が減衰している状況であれば、その戦闘規模は小さくなっていければおかしい。しかし、戦闘する四機の機動性は殆ど損なわれていない。
リミッターを外すことで得た推進力と、研ぎ澄まされた操縦技術で機動性の低下を補っているからだ。
蛮族と人狼は暴れ狂うブースターの手綱を取りながら、大小様々な残骸が散らばるデブリを高速で飛び回るという狂気じみた戦い方をしていた。
「逃さない!」
「あんた達を喰らえば、アタシたちも変われるはずなんだ!」
深紅の二機は厚い装甲で細かいデブリを弾き、乱暴だが見るものを戦慄させる迫力がある動きで獲物に牙を立てようとする。
アティアもイヴも、トルヴァクスが沈んだことなど眼中にない。
むしろ、枷が外れて清々している。ヴォルテクスに勝ち、
「くぅぅぅぅっ!! はぁっ! この研ぎ澄まされるような感覚ぅっ!!」
「あはははははっ! 楽しいね!」
ひたむきですらある人狼たちに対して、結月ゆかりと弦巻マキは狂戦士のような笑いを響かせながら飛び回っていた。
戦闘を愉しみながらもクールさは保つ。
《人狼》を上回る巧みな操縦でデブリの激突を回避しながら応戦していた。
とはいえ、キツい。操縦桿とペダルではなく思考制御システムだけで機体を操っている。
手足は吹っ飛ばされないように固定しておくにしか使えない。
肉体に限界機動の代償は凄まじい重圧。
瞬時に方向転換するため、あらゆる方向から降りかかる慣性荷重は殺人的な領域をとっくに超えている。
ナノスキンスーツは優れた耐G性能を備えるが、その限界を軽くオーバーしているのだ。
ナノ被膜を貫通してきた慣性荷重に、頑強な肉体と精神力で耐えている。
黒紫色のスキンタイトスーツを着た人狼たちも、同じ条件であった。
常人ならばとっくに圧潰している。そんな重圧をしなやかな肉体で弾き返している。
「頭で考えるだけでいいというのは簡単過ぎると思いましたが、便利なものですね!――!! ぬぅぅぅぅぅぅぅッ!」
ゆかりは歯を食いしばる。鋭い機動で空間を駆け抜ける。デブリを遮蔽物として活かす。
クラスナヤが出力を引き上げたビームはデブリを撃ち抜きながら、イクリプスに迫っていた。
対してゆかりは各部のブースターで弾けるようにプラズマを吐き、瞬間的な急加速で四方八方に変移する。
「「これで終わらせるっ!」」
包囲の円を狭めて突進してくる人狼。
追い込まれるような形で、イクリプスは漆黒のフューネラルと背中合わせになっていた。
「獣になるのも結構。しかし、私達は獣を仕留めるのも得意なのですよ」
「そうそう。勢いに乗せてから反撃する。これも一種のジュージツかな?」
結月ゆかりと弦巻マキは暴力を武器に生きてきた
時には修行として生まれたままの姿で、危険な生物が生息する惑星に降り立つこともあった。
その修行では現地調達した原始的な武器で、戦車を容易く押し潰すような獰猛な獣と戦い、打ち倒した。
過酷なサバイバルを己に課したのは肉体の極限を試すだけでなく、直感と知恵も磨くためでもあった。
戦い、生き延びる経験の奥深さ。それが、人狼に対する蛮族の最大のアドバンテージだった。
圧し潰すような殺意を、同時にフットペダルを踏み込んでの加速で跳ね除ける。白と青、黒と赤、対極的な二機のMFが機動する――――
「「なっ!?」」
アティアは、イヴは困惑した。
それぞれ、相手を必殺の距離に捉えようとしていた。
そのはずなのに。何が起こったのか二人には理解らなかった。敵機の姿が掻き消えたのだ。
客観的には見い出していた人狼の死角に、最大戦速度で飛び込んだのである。
「じゃじゃーん、ここからはゆかりさんと戦っていただきますよ」
瞬時に対戦相手を入れ替えていた。
ゆかりは同じく白兵戦タイプであるイヴのクルィークをロックオン。
アンダーバレルのビームランチャーに残ったエネルギーを出し尽くして連射。
「くっ……!」
突進の最中であったクルィークの回避運動には限界がある。ビームが肩や脚を貫通して、大きく損傷させる。
さらに、白と蒼のMFは加速。肉薄すると実体ブレードのカタナを手に剣闘を挑んだ。
「撃ち合いなら負けないよ♪」
マキもここぞとばかりにビームキャノンを拡散モードで発射。
広範囲にビームを撒き散らす分、威力は減じるが、他のフューネラルの搭載火器も同時発射――フルバーストで不足を補っている。
金髪赤メッシュのアティアは挑発的な言葉を吐く暇もなく、回避に忙殺されていた。
「速過ぎるっ! どうなってんの!?」
「これが、ヴォルテクスの真の力だとでもいうのですか……!?」
勿論、人狼が駆る深紅のMFも反撃するが、攻撃は当たらない。
死角から介入してきたもう一機に邪魔され、対戦相手が入れ替わる。
ヴォルテクスの手のひらの上で弄ばれている。
「畜生がぁっ!」
アティアは怒りを爆発させる。
我武者羅に応戦しているが、勢いを削がれ立て直すことができない。先ほどの弾幕は狙い澄ましたかのようにクラスナヤの武装やブースタを損傷させていた。
それは決して偶然ではない。
息を吹き返したかのような
その攻撃がついに深紅のGen4MFに致命傷を与える――――
元々の対戦相手にそれぞれトドメを刺していた。
ゆかりのイクリプスは左腕のシールドで、クラスナヤを殴り飛ばし、搭乗者であるアティアの意識を刈り取る。
フューネラルを操るマキも、あえて接近戦でケリをつけた。
メインウェポンのビームキャノンを投げつける乱暴なやり方で、イヴごとクルィークをノックアウトした。