ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物   作:その辺の残骸

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エピローグⅠ

 サン・リノル星系近郊。

 通常の星間移動に使われる主要航路から離れた宙域を、単独で進む白い船体の戦闘艦があった。

 

 刀の切っ先のような鋭い船体。惑星"八洲"の軍用艦に特有のデザイン。その力強さと美麗さを兼ね備えた船体には、戦闘の痕跡が色濃く残っていた。

 

 ガーベラ号は損傷したまま、次なる目的地に向かっている。

 戦闘が終結すると、危機を救った英雄として褒め称えることもなく、蛮族と武家の娘達は星系軍の勧告に従って、サン・リノル星系を離れていた。

 この処遇に関しては琴葉姉妹だけでなく、紫髪と金髪も異論なく受け入れているので、粛々と命令に応じている。

 

 航行する艦に伴う第二世代MF炎陽が二機、損傷した船体を甲斐甲斐しく修理している。最低限の武器としてアサルトライフルを腰部ハードポイントにマウント。背中に工作用サブアーム・ユニットと修理資材のコンテナを背負っていた。

 

「右舷の武装は直せばイケますね。そっちはどうですか?」

 

『VLSがちょっと生きてるくらい。当分、左舷はできるだけ敵に向けないほうがいいと思う』

 

 青と灰の二色迷彩の機体にはゆかりが、鮮やかな赤い機体にはマキが搭乗している。

 ガーベラ号に戻り、すぐに予備機である炎陽に乗り換え、補修作業に取り掛かっていた。

 

 以前、ステーションで購入しておいて正解だった。

 戦闘用であってもMFのマニュピレーターは作業用マシンと遜色ない精密動作が可能であり、積載能力にはかなりの余裕がある。

 航宙船のような大型ヴィークルの修理にもってこいであった。

 

「これでどうにかステーションまでは持ちますね」

 

 紫髪の女蛮族、結月ゆかりは作業を完了して呟いた。

 クール系美女を自認して理知的な振る舞う、紫髪の美少女である。しかし、本性は何事も暴力で解決したがる野蛮な性格。

 そんな結月ゆかりだが、修理作業では頭脳役としてマキに的確な指示を出していた。

 暴力的なだけで聡明な蛮族娘の指揮で、ガーベラ号の修復は現状できる最良と呼べるものだった。

 

 燃えるような赤いカラーリングの炎陽――強力なマスドライバーキャノンなど重火器を取り外したマキのMFは、ガーベラ号を挟んで反対側で作業していた。

 

『こっちも終わりっと♪』

 

 重力、無重力を問わず、マキはこうした修復作業に慣れ親しんでいる。

 

 傭兵の仕事が見つからないこともある。そんな時は、身体を使った他の仕事で金を得るのが常だった。

 

 宇宙にはステーションやスペースコロニー。

 惑星内ならばメガストラクチャや軌道エレベーター。

 多数の人手を要する場所は、人類が版図を広げた銀河にごまんとある。そして、作業機械で高度な操縦できる者は、引く手数多であった。

 

 自画自賛でなく、客観的事実として。

 

 弦巻マキと結月ゆかりは絶世の美女だ。望めば、容姿と魅力だけで巨大な財を成せるほどに。

 しかしながら、二人が見い出した居場所は、戦場や宇宙開発に伴う過酷な肉体労働だった。

 危険な場所で肉体と精神を自ら望んで酷使して、美しさよりも強さを磨くことを好き好んでいる。

 

 男所帯の作業現場でも臆することなく、性別を意識せずに行動する気質がこの二人にはある。

 そのおかげで、女性が向かないような場所でも大抵馴染むことができた。

 

 時には環境システムの調整不足や気候で、暑さに苛まれながら働くこともある。

 そんなときは当たり前のようにツナギをはだけ、タンクトップも脱いだトップレスで裸の胸を外気に晒して涼を取る。

 

 瑞々しく大きな胸を弾ませ、肩に重い資材を担いで動き回るマキの姿はあまりにも自然体なもので、周囲の労働者たちはからかうことも、止めることもできなかった。

 ゆかりのほうは、男と勘違いされることが多いのが心外だった。

 マキには少し負けるが巨乳のゆかりさんが何故男と勘違いされるのか。

 

 まったく理解できない。まさか、このゆかりさんの胸が哀れなほど平らというわけでもあるまいし。

 

(そういえば――――)

 

 急に思い出した。女性としてはっきり扱われたことで、印象に残っている出来事かある。

 あれはそう、とある惑星で資源採掘施設の建設に参加したときだ。

 

 手つかずと思われた現地のジャングルには、ごく僅かながら先住民がいることが判明。

 異星人というわけでなく、れっきとした太陽系地球を祖に持つ人類であった。

 外宇宙への進出が始まった当初の生き残りで、当時の不安定なワープドライブの事故の犠牲者たちであった。

 

 遥か遠方の惑星に漂着して以来、原始的な生活を営み、独自の精霊信仰の元に荒々しくも平和に暮らしていた。

 

 故郷と似たような経緯で興った部族の人々にゆかりとマキはシンパシーを覚えたものだ。

 今時珍しいくらい資源会社は良心的で、現地民に許可を得て十分な配慮の上で採掘を行おうとした。

 しかし、肝心の交渉は難航。仕事にならなければ給料も貰えない大ピンチ。

 一世紀弱を原始の世界で過ごしたことで、すっかり文明の俗っ気が落ちた人々を説得するべく、ゆかりはマキと一緒にひと肌脱いだのである。

 

 現地民の信用を得るため、素っ裸にフンドシだけを締めたあられもない恰好になり、徒歩で部族の集落に向かおうとした。

 

 濃厚なジャングルの大気に裸体を晒すことを心地よく感じつつ、野生を奮い立たせるゆかりであったが、いざ出発という段階で交渉のために派遣されていた企業の幹部から現場監督など総出で止められたのだ。

 フンドシを締めた局部の形やお尻の丸みまではっきりさせていたので、このときはマキと一緒に女性扱いされたのである。

 

「いくら仕事のためでも、女性がそんな恰好する必要はない」

「裸でこのジャングルを渡るのは危険すぎる」

「フンドシ姿の若い女なんかが来たら、互いにとって不幸な暴発が起こるかもしれない」

 

 等々。ごもっともな指摘をされつつも、マキと並んで胸を張り、強い意志で反対する人たちを説得したのである。

 

「大丈夫です。私たちはただのフンドシ女ではなく、精霊の化身として赴くのですから。この惑星に住む人々に心を開いていただくには、この方法しかありません」

 

「リサーチは万全なので任せちゃってください♪ ご心配なく、こういうコト慣れてるんで♪」

 

 勿論、無策ではなく、いつものように暴力で解決する気もなかった。

 ゆかりとマキは、それまでの二週間に渡る交渉で判明した現地の宗教観から、精霊の化身に扮していた。

 

 まっさらなフンドシを締め、飾りをつけただけの抜き身の裸身。

 無防備な姿で文明の力を使わず、遠距離を徒歩かつ短時間で踏破してみせる。その間に人間のように土や泥で汚れることもない、傷の一つも追わない。

 精霊という人知を超えた存在でしか成し遂げられないような挑戦を、疑いの余地なくやってみせた。

 

 こうして見事、超人的な能力を証明することで、ゆかりとマキは人間ではなく、この地の人々が崇める精霊の化身として認められたのである。

 

 現地の有力者と面会し、雇い主の言葉を伝えると、同じ内容なのにすんなりと許可が下りて拍子抜けしたものだ。

 精霊として、約束を違えた場合には大自然の怒りを余所者に与えることを確約することになったが、それは問題ではなかった。

 

「考えてみれば、終わるまでこの恰好してなきゃダメだよね」

「ゆかりさんとしたことが、迂闊でした」

 

 その後、一労働者として重視する間も、精霊として振る舞いながら働くことになったのは予想外であった。

 

 重パワーローダーや作業着の労働者に紛れて、腰以外を全く覆わないフンドシというシュールで原始的な恰好で、しかも超然とした態度で肉体労働をするハメに。

 

 おまけに文明の利器の利用はどうしてもという時のみ。入浴は川でというあり様である。

 

 常にシャーマンたちが立ち合い、監視の目があり、誤魔化すのは難しかった。

 それに、原住民の不信を買えば、建設はご破算になりかねなかったが、持ち前の怪力で人間重機として働くことで信用を買ってみせた。

 

 さらに、人間と思われる弱弱しい振る舞いをしないよう、フンドシを深々食い込ませた尻の筋肉はいかなる時も引き締め、気を張り続けた。

 こうしたゆかりとマキの努力は報われ、シャーマンたちはすっかり自分たちを精霊様の化身と信じ込んだ。

 

 作業に従事したのは二か月と比較的短期間。その間、フンドシは何着かを使いまわしたものの、川で水浴びついでに洗濯するのみ。

 ジャングルという環境で汗水垂らして働き続けたせいで、真っ白なフンドシはすっかりボロボロに。

 美少女が大切な部分を覆って、お尻に凛々しく締め込んだものとはいえ、その匂いは化学兵器級の特濃な代物になり、コトが済むとすぐに焼却処分したものだ。

 

 過酷ながらも思い出に残る日々であった。

 十年の月日が経つが、あの部族の人たちはどうしているだろう、と急に気になってきた。

 

『これからは身体使うときはいつでもこのスーツ着たいな。身体のツボを押したり、電気で解してくれるからいつでも快適だし♪』

 

 搭乗者の筋力をアシストし、電圧と圧力で体調を整えてくれるナノスキンスーツは戦闘だけでなく、身体を動かす際にも役立つ。

 今後は日雇い肉体労働に励むときでもナノスキンスーツを使いたいマキであった。

 

「服装規定で許されればいいんですけどね。装備の持参がクライアントに好まれがちな傭兵の仕事とは勝手が違いますから。まあ、このスーツであればインナーということにすれば通せそうですけど」

 

『いいね、それ! んっ待てよ……それってわたし達普段は下着だけで動き回ってるってことになる!? それじゃ痴女みたいだよゆかりん!」

 

「今更ですよ」

 

 あえて深く突っ込まないゆかりであった。

 

 大勢の人が集まるビーチでスリングショット水着を身に着け、デカい胸と尻を好き放題に弾ませる弦巻マキ。

 控えめにいって痴女である。

 羞恥心皆無のゆかりだが、自分の好む格好が世間では恥ずべきものだという理解はある。

 だが、むしろ誇りを持って肌を曝け出すのがゆかりのスタンスだ。一応、TPOへの配慮は必要最低限だけはする。

 

 マキには、下着は見せると恥ずかしいものという認識があった。

 普段のインナーも無重力で頻発するパンモロを想定。見せてもいいデザインの上下をわざわざチョイスしているほどだ。

 年頃の女の子が持つべき羞恥心という点では、マキのほうがわずかながら軍配が上がる。

 

『それはそうだけど――なら、色の設定変えて透明にしようかな。そうすれば裸だし目立たない下着が重ねられるし』

「マキさんがそれで良いのなら、いいんじゃないでしょうか」

 

 とはいえ、この金髪娘も蛮族特有の裸=神聖であり、一片も恥じらうところがないという、文明人と相容れない価値観も持ち合わせている。

 

 こんなバカ話ができるほど体力に余裕ができたのもナノスキンスーツのおかげだ。

 

 戦闘からすぐに修理に入ったが、栄養と水分を軽く補給するだけで、人狼(ルーガルゥ)との交戦による消耗から回復していた。

 両手は左右の操縦桿を握り、両足はペダルに置いて固定。

 必然的に身体を大きく広げて脚を開いている。優美なカタチのプロテクターが水も漏らさぬほど吸い付いた股間がひどく目立つ。

 

 冷徹でストイックな性格が反映されたかのように、極限まで引き締められた筋肉美。

 それがゆかりの肢体の特徴だ。それと、胸がとても薄いのも特徴。自認、巨乳の虚乳。

 金髪碧眼。巨乳巨尻。その典型的なイメージ通りの底抜けに明るい美貌を持つマキの肢体。

 対照的な美少女の肉体は狭いコクピットで、大胆にさらけ出されている。

 

 最低限の防護部位を除き、肌に張り付く被膜でしないのがナノスキンスーツの外観。

 それでも防御力は充分以上にある。ネジ程度のスペースデブリが高速で衝突しても瞬間的に硬化して直用者を無傷で守り抜くほど。

 

 おまけにどんな宇宙服よりも軽量で薄いので、滑らかに動くことができる。

 

 動きやすさの代償が、裸同然の見てくれだった。

 うら若き乙女が操縦姿勢になった際の見た目は、かなり無防備で、途轍もなく扇情的になってしまう。

 

 すぐに機体を乗り換え、応急処置を始めたので、シャワーを浴びる暇もなかった。

 そのため、裸身を包むナノスキンスーツの内側には汗が溢れたまま。大量に発汗で内側に広がった汗は炎陽を動かしている間に吸収され、すべてリサイクルされた。

 

 今ではさっぱりしている。

 密着したスーツの中に汗が溜まったことによる不快感が、時間と共になくなるのはやはり不思議な感じだった。

 便利極まりない装備だとゆかりはナノスキンスーツに百点満点の評価を与え、マキや琴葉姉妹が気後れする機能までフル活用して効率的に生活している。

 

 それはもう、ナノスキンスーツと共生した別種の人類のような生活スタイルなのだが、流石にお風呂は人間らしくスーツを脱いで入っている。

 作業を終わらせ、安全が確保できたらすぐに熱いシャワーを浴びたい。ゆかりはそんな気持ちだった。

 

 艦内の環境系は保たれているので、熱いお湯をたっぷりと浴びられる。

 しかし、ガーベラ号の修理が終わったとはいえ、アンゼリスまでの旅を続けるには不安があるコンディションのままだ。

 そこで売り払って安い船を買うことも視野に入れていたのだが、その不安は茜が解消してくれていた。

 

『いやー茜ちゃん様様ですなー♪』

 

 ナノスキンスーツのヘルメットを被ったマキのバストアップ映像が、ゆかりの視界に表示されている。長い金髪は魔法のようにヘルメットに収納されていた。

 マキはカタナ級の快適さをすっかり気に入っていた。そんな金髪娘としては、この艦で旅を続けられることが嬉しい。

 

 マキの安堵の呟きに、ゆかりも頷くばかりである。

 

 茜はサン・リノル星系の政府に持ち掛け、地球(ヒュドラ・グループ)の勢力を撃退した報酬を請求し、支払いを約束させていた。

 

 トルヴァクスをおびき寄せて戦いに持ち込んだのはゆかり達だ。

 

 政府関係者の了解を得ていたとはいえ、予想外に派手なドンパチになってしまった。

 地球とサン・リノルとの関係から繰り出せるのはせいぜい少数の特殊部隊とタカをくくってたのが失敗だった。

 政府が地球との政治取り引きに使えるよう捕虜を献上して丸く収める当初の計画は、あっさり崩れてしまった。

 

 まさか外交的な利点を捨ててまで傭兵二人を始末にかかるとは。蛮族であるゆかマキでも驚くレベルの蛮勇ぶりであった。

 

 人的な被害はゼロとはいえ、経済的に大きな損失が出ている。

 その元凶であるゆかり達は、単に退去を命じられるだけならマシというくらいだった。

 

 しかし、茜が政府の親独立惑星派に働きかけてくれた。

 政治的な優位を与えるのと引き換えに、相応の報酬を支払うことを確約させていたのである。

 地球の戦闘艦が星系軍を相手に暴れ出したのは、地球の横暴さが敗戦を経ても失われていない証明となり、サン・リノルの政界における親独立惑星派の優勢を決定付けたのである。

 

 地球だけでなく八洲との関係も深いサン・リノルは、有力武家たる琴葉の家名を押し出した交渉に応じざるを得ないと踏み、事実その通りに事は運んだ。

 

 だが、混乱の原因が堂々と星系に留まるわけにはいかない。

 いったん退去して、近隣のステーションに向かい、そこで手配された整備と補給を受ける手筈になっている。

 

(茜さんとしても本意ではないでしょう。嫌なことをやらせてしまいました)

 

 ゆかりは茜の胸中を察して、申し訳なく思っていた。

 口にすれば茜は葵と一緒に否定するだろうけども、これでは師匠として示しがつかない。それがゆかりの正直な気持ちだ。

 

 正当とは言えないが、これも生きる為。

 誉れを護ることを至上とするのが、防人たる武家の生き方。だが、時には主君のために道理から外れることを憚らないのだ。

 それが武士の在り方なのだと聞き及んでいたが、実際にその恩恵を受ける立場になる日が来るとは思ってもみなかった。

 

『戻ったら医務室を見に行きましょう』

『うん、そうしよう♪ あの二人もそろそろ目を覚ます頃だろうしね』

 

 琴葉姉妹に、医務室で収容したアティアとイヴの世話をお願いしてある。

 

 炎陽の作業用アームを収納して、マキに呼びかけた。

 スラスターを小刻みに噴射して姿勢を変え、カタパルトに降りるコースを取る。

 第二世代の慣性制御性能では、物理的な推力と四肢を振ることで生じる反作用を連動させて機動を変えなければならなかった。

 

 第四世代MFをかっ飛ばした後では、それがひどく不便に感じるのは否めなかった。

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