ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
予定通り――どころかそれよりも早く、結月ゆかりと弦巻マキは補給物資が手配されたステーションに到着していた。
侵入から二十分後。
紫髪と金髪の女蛮族は下層デッキの倉庫にしなやかに身を潜め、近寄ってくる
地球製レールガン・カービンを手にした二人組の巡回は、下卑た冗談を交わし合っていた。その声が倉庫に反響している。
ナノスキンスーツを纏った背中をピッタリとコンテナにくっつけてしゃがみながら、ちらりと巡回の様子をうかがうマキ。室内は与圧されているが、ヘルメットで頭部を覆っている。
同じくヘルメットを展開したゆかりが隣にしゃがみ、バイザーに投影された仮想コンソールを、虚空をなぞることで操作中。
「準備できました」と無表情でサムズアップして報告する紫髪の美少女。マキは頷いて応じると、華麗な動作で半円を描くように立ち上がる。
コンテナの陰から飛び出し、低い姿勢で疾走するゆかりとマキ。警備の二人組に真正面から突進する。敵が驚く間もないほどの電撃的スピード。一瞬先に跳んだのはマキのほうだった。
「とおっ!」
「はっ!」
黒と赤の色が付いた疾風となったマキは一気に跳躍すると、空中で背を反らせた。
大股を広げて敵の顔面に股間から突っ込んでいく長身の金髪女蛮族。
並走していたゆかりは、マキの大胆なキリングムーブにちょっぴり困惑するも阿吽の呼吸で動きを合わせる。
着弾は同時。Cストリング状の装甲が張り付く股間を敵の顔面に叩きつけ、側頭部を太股でがっちりロック。かろうじて呻く敵に、マキは凶悪な笑みを浮かべる。
黒と紫に包まれたゆかりの裸身。
黒と赤に包まれたマキの裸身。
二つの美しい肉体が、息ぴったりに敵の処刑を開始した。
艶かしい腹筋に力を込め、重作業パワーローダーに匹敵する怪力で挟んだ敵を投げ飛ばす。顔面から床に叩きつけられる敵兵。
これがリングの上で執行されたのならば、大喝采間違いなしの華麗なフィニッシュであった。
「サービスし過ぎだったかもしれないですね」
ゆかりは俊敏かつ優美が動作で起き上がり、片手を腰に当てながら倒れた敵兵を見下ろしていた。紫髪女蛮族の股ぐらには、押し付けた感触がまだ残っている。
「サービス? 何のこと?」
マキが派手な投げ技を選んだのは何となくだ。戦術的合理性は欠片もない。
そして、敵の顔に股間を押し付けることを何とも思っていない金髪ロングヘアの蛮族娘である。
「……こっちの話です、忘れてください。さて、ハッキングは成功しましたので、ここからは自由に動けますよ」
ここでゆかりは言葉を切り、自分のバイザーにのみ表示したステーション見取り図をマキの視界に共有。
「ステーションの職員は一箇所に集められているようです。これなら救出は難しくないでしょう」
「さっすがゆかりん仕事が早いね」
ゆかりは敵に接近すると同時に、ナノスキンスーツがオートで通信機器をハックするようセットしていた。
巡回のバイタルと現在地を共有する中央管理システムをインターセプト、何事も起こっていないかのようにダミー情報を流し込みつつ、指揮統制システムにアクセス。
(セキュリティ意識が低すぎますね。こちらとしては好都合なのですが)
敵は指揮統制システムをステーションに繋げており、その強度はかなり低い。はっきり言って、ゆかりほどのハッカーにとっては玩具だ。
茜がサン・リノル政府に用意させた補給物資があるステーションは、低価値な惑星間の引力で形成された軌道を周回する、重要度の低い中継拠点であった。
このステーションにやってくる船は数、時期ともに限られており、内密の補給作業にうってつけのはずだったが、地球が差し向けた手勢に占拠されていた。取引した行政府内から情報が漏れたのだろう。
今しがたゆかりとマキが始末したのは、ヒュドラの私設企業軍でも地球正規軍でもない。地球が抱き込んだ武装勢力だか宇宙海賊の類だった。
「警戒しておいて正解でしたね」
「でしょでしょ。もっと褒めて〜♪」
ゆかりは死体からもぎ取ったレールガン・カービンの認証をクラックして発砲可能にすると、マキに投げ渡す。
マキはカービンを華麗にキャッチして周辺を警戒。二人の連携に抜かりはない。
小型艇でステーションに先行するというのがマキの発案。「なんか嫌な予感がする」という以上の根拠はなかったが、マキの勘を信じて決行することに。
大型戦闘艦であるガーベラ号に比べると推力に乏しい小型艇では、ステーション付近の宙域に到着するのに二日を要した。
余裕を持って数日分の物資を積み込んで出撃。通信傍受されないよう無線封鎖し、
ステーションに可能な限り接近すると小型艇を乗り捨て、ゆかりとマキはナノスキンスーツだけで宇宙空間に飛び出した。
宇宙空間をスラスターで移動。
自らの呼吸音がヘルメットに反響する以外に音がない。周囲は真空であり、酸素が尽きれば即座に死が訪れる。数十時間にわたる移動の間の栄養補給はヘルメットに内蔵されたチューブ食のみ。
過酷な隠密行動は紫金の蛮族にとっては慣れっこだった。
ガーベラ号を発ってからお風呂はおろかシャワーも浴びずに過ごしていたが、ゆかりとマキの汗やその他の老廃物はすべてナノスキンスーツに処理され、快適なコンディションを維持していた。
ハッチを溶断して下層デッキからステーションに侵入すると、すぐに先ほどの状況に至ったのである。
「巻き込んでしまったここの皆さんには申し訳ありませんが、ちょうどいい機会になりましたね」
倉庫のゲートを開き、通路に出ながらゆかりは呟いた。
ちょうどいい機会――アティアとイヴが上手く自分たちと連携できるか、そのテストになるという意味だ。
人狼たちには艦に残された
◆ ◆ ◆
高速駆逐艦ガーベラ号。カタナ級の名が示す通り、刀の切っ先のような艦首を持つ戦闘艦だ。
その
空間投影ウィンドウを展開することで、機能を集約した操舵席に着くピンク髪の琴葉茜。マニューバフレームに搭乗する際のように大きく、勇ましく脚を開いて操縦桿を握っている。
オペレーター席には水色髪の葵が座り、作戦前に水分補給中。
胸の高鳴りは、どうやっても抑えられない。茜と葵はそれはもう緊張していた。
厳しい戦には慣れたつもりだったが、今回の緊張の理由は別物であった。
「攻撃のタイミングは任せます。六十時間後であればいつでも良いので」
「二人のこと、信じてるからね」
そう言い残して、ゆかりとマキは出撃したのである。
驚くほどの気軽さで命を預けられたので、姉妹揃って絶句してしまった。これは師匠からの試練なのだと琴葉姉妹は揃って考えている。
「よーし、やるで葵!」
口調は明るく軽く、しかし決断は重く。臨時リーダーになった茜の宣言で作戦が開始される。
「了解だよ、お姉ちゃん」
葵は通信回線を開き、随伴する二機の人型兵器に通達する。艦に予備機として残された第二世代MF炎陽のカスタム機だ。
「作戦開始します。アティアちゃんとイヴちゃんはミサイル攻撃の後、突撃お願いします」
『まかせて! アカネとアオイのためにも頑張るからね!』
『戦果を期待していてください』
好戦的な二つの声が返答する。金髪赤メッシュのアティア、銀髪赤メッシュのイヴ。
通信ウィンドウにバストアップで映った人狼の少女たち。
二人が身に纏うナノスキンスーツは、パーソナライズを完了していた。
白色から危険性を周囲に知らしめるような黄色の被膜と黒の装甲の組み合わせ。お揃いのカラーリングになったのが、密かに嬉しい赤メッシュの少女ふたり。
へー良いセンスしてるじゃん。
それが身長に合わせてシートを調整したコクピットに座ったアティアの感想だった。きっとイヴも同じ感想を抱いているだろう。
一時的に旅を共にするとはいえ、ヴォルテクスとは宿敵に変わりはない。が、機体のカスタマイズの方向性は好みだった。
アティアは情熱的な赤色、マキのフルアーマー炎陽に搭乗している。追加装甲と背負ったマスドライバーキャノンの重量増加をブースター増設で無理やり補ったカスタマイズだ。
ガーベラ号を挟んで隣にいる僚機、イヴが乗り込んだ人型兵器は青と灰色の迷彩塗装。シールドブースター三基で推力を大幅に高め、一撃必殺のビームライフルのエネルギーパックを多数携行した高速機。
機体は第四世代に比べたら、大幅にダウングレードしたが、隣にイヴがいるのは変わらない。雑魚相手に負けるつもりは微塵もなかった。
ガーベラ号には修復しきれない損傷が残っているため、戦闘には参加しない。
ステーションに隠れているであろうMFを燻り出すためにミサイル攻撃を行い、後方支援に徹する。
(変な気分……けど、悪くないな)
トルヴァクスであったのなら、安全地帯にいることを煽っていたが、今は不思議と悪意が湧いてこない。むしろ、自分が頑張らなければならないという使命感が高まってくる。
ピンク髪と水色髪の姉妹を思い描くと、その気持ちはさらに大きくなっていく。
『ミサイル、発射します』
『それじゃ、頼んだで二人とも』
ガーベラ号のミサイルセルが一気に開いた。発射された数百発のミサイルがまっしぐらにステーションに向かっていく。
『行きますよアティア』
銀髪赤メッシュの無表情少女がフットペダルを踏み込み、青灰迷彩の炎陽が加速。両腕と背中のシールドブースターが轟然とプラズマを噴射した。
その隣にぴったり続くようにアティアも機体を発進させる。
強烈な加速Gを耐えるため、両脚を大きく開いて踏ん張る。股間を覆う黒色のCストリング装甲が強調されるポーズになったアティアとイヴ。その姿は勇ましく、凶暴でもあった。
「少し物足りないですね」とイヴは性能への不満を口にする。そんな余裕さえある。
弾頭の群れに紛れて、二機のマニューバフレームはステーションに肉薄する。
『機数は十機。第三世代も含まれています』
『
ステーションの乏しい自衛兵器が発射されるだけでなく、占拠していた武装勢力のMFが慌てて発進してくる。見事にいぶり出されたカタチである。
手持ちのアサルトレールガンやレーザーライフル、ミサイルなどを向かってくる誘導弾に発射していた。
「そらそら! せいぜい一生懸命迎撃してな! キャハハッ!」
ステーションに被害が出ないようミサイルの誘導はアティアが行っている。忙しくコンソールを叩いて多数のミサイルを管制する。
迎撃する敵MFが閃光に撃ち抜かれ、爆散。イヴはビームライフルで次々に敵機を狙撃していく。
宇宙空間と同じく、ステーション内部での戦闘も一方的だった。
マキに陽動を任せ、ゆかりは単独で人質が収容された区画に突入。抜群に長い脚から繰り出されるカカト落としで敵兵の頭をかち割りながら、ステーションの職員を全員救出した。
救出した人々に自衛できるよう武器を手渡し、念のため区画をロックすると、ゆかりは残敵掃討を開始する。
別行動中のマキはステーションの展望フロアに入った。外では大小様々な爆発が起こり、レールガンの帯電した弾頭や荷電粒子ビームの火線が暗黒の宇宙を奔っている。
「いいタイミング♪ わたし達、思ったより上手くやれそうだね」
窓ガラス(実際は透過処理と光学処理を施した積層装甲だ)に手をつき、
戦闘を見守っていると隙ありとばかりに敵兵がなだれ込んできたが、顔を向けることもなく、マキはカービンを片手撃ちして全滅させた。
『ドックから母艦が出ますよ。沈められますか?』
『当然! 言われなくともやるっての!』
ステーションのシステムを通して、外の様子を電子的に把握しているゆかりの警告に、金髪赤メッシュの人狼は反骨心剥き出しで応答。
大型航宙船用ドッグが開き、黒緑色の巡洋艦が発進していた。
アティアは敵艦を真上で待ち構えており、赤色の炎陽の左肩の主砲――マスドライバーキャノンを向けている。
「おらぁっ! おっ死ねぇ!」
雄叫びを上げながら、敵艦に砲撃。連射された砲弾は巡洋艦の防御を撃ち抜き、貫通。正直、誘爆させないかと、イヴ以外はヒヤりとしていた。
だが、アティアは意外な冷静さを発揮。誘爆しないように巡洋艦を航行不能に陥れていた。
こうして、ステーションを無傷で開放することに成功した。
補給物資は約束通り手配されており、葵が中心になっての整備でガーベラ号の修理は完了。イクリプス、フューネラル、クルィーク、クラスナヤ。四機の第四世代マニューバフレームも稼働可能なレベルまで修復することができた。
――――女蛮族たちの冒険の旅は続いていく。