ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
この宇宙ステーションの機能及びそれを支えるための人口は中規模コロニーに匹敵する。
植民のためでなく流通の要所として造られた人工天体であるため、ステーションのカテゴリが適用されているに過ぎない。
つまり人々の営みがある。そこには例に漏れず上流から下流までの階層が存在していた。
紫髪と金髪の野蛮な美少女。結月ゆかりと弦巻マキが向かったのは下流側である。
「水撃銃の短い射程を把握できていないとは。チンピラのアマチュアですね」
ゆかりは倒したばかりのステーション在住のチンピラ数名を見下ろし、彼らが持っていた銃を検めるように一瞥した。密造が容易かつ弾丸も水があればOKという極めて安価な武器である。
今手にしている水撃銃の質は悪いほうで、発射された高水圧の弾丸はすぐに威力を失ってしまう設計であった。
「銃はやっぱ火薬式でないとね」
仁王立ちしながら個人的信念からくるコメントを述べるマキ。銃火器に関してはクラシカルかつパワー重視だ。
このチンピラどもは露出度の高い服装で出歩く女二人ならば容易いと、ジャケットの下から銃をちらつけながら声をかけてきた。
片方は胸が男みたいに薄いが、もう片方は巨乳でしかも金髪。
背が高く、尻がデカい。澄ました顔は観たことないくらいに綺麗。銃で脅して好き放題するのを妄想しているチンピラたちであった。
胸しか覆わないトップスで丸出しになっている腹筋をはじめ、身体を鍛え抜いているのが色っぽい。格闘技をやっているのが間違いない体幹をしてもいる。
自分を強いと思っている女たちを銃で屈服させればどんなに快感だろう――――
夢想するチンピラに向かってゆかりとマキは大股で歩んだ。間合いを詰め、蹴りを叩き込み、易々と制圧していく。
最後の一人は女の長い脚に仲間が蹴り倒される光景にビビった。
慌てて構えた水撃銃の引き金を引いたが、逃げながらの射撃では距離が遠すぎる。
高圧の水撃はマキに命中する前に勢いが衰え、放物線を描いて路面を濡らした。
「お漏らししちゃったみたいだね♪」
水たまりを踏み散らし、サディステックな笑顔でマキはチンピラの顎を蹴り、ノックアウト。
「どうする? せっかくだしこれ持ってく?」
水撃銃を指し示すマキにゆかりは首を振った。
給水口を開けて弾薬である水を捨ててから、片手で持っていた銃を放り捨てる。
「やめておきましょう。質が悪すぎて暴発が怖いです。何より市街地に持ち込むのはご法度な代物ですし」
淀んだ空気のストリートも嫌いではない。
だが、今は用事を済ませたら中層辺りで過ごしたい気分なのだ。
銃火器の持ち込みは護身用含めて制限のあるステーションなので見つかって警察のご厄介にはなりたくない。
何よりも。
「私達にはこのパーフェクトなカラダがあります。この程度の玩具など不要です」
脚を高らかと上げながら、真顔で宣言する自称理知的な結月ゆかり。
「それもそっか!」
マキが明るい声を弾ませる。
魅力的な肉体と良すぎる顔を武器に乗り切るという意味ではない。彼女たちの身体能力はそれ自体が兵器並みなのだ。
一悶着があったが、下層区画での目的は果たした。
エレベーターで中層に上がり、賑わいを見せる商業ブロックの通りを歩いている。
「手早く換金が済んで良かったです。流石はマキさんです」
「まあね! あれくらいの交渉余裕だよ♪」
大規模なステーションであるため商業ブロックは広く、様々なニーズに対応していた。
海賊やテロリストなど反社会勢力に事欠かない宇宙なので護身用の建前で武器、兵器の取引も盛んでMFや戦闘艦も置いてある。
軍用でなくとも街中で乗り回しての破壊活動に使えそうな代物、たとえば重作業用パワーローダーを扱う販売店がある。
「夕食はこのお店にしたいんだけど、どうかな?」
「良いですねステーキ。ですが、ゆかりさん的にはお寿司と洒落込みたいところで――――」
携帯端末の画面を見せるマキ。ゆかりの返事が途切れたのは、目の前で起こった異常事態のせいだった。
「何!? 強盗!? テロリスト!?」
車道を挟んで反対側にある、派手な看板のパワーローダー販売店の正面出入口がぶち破られ、パワーローダーが飛び出してきた。
「どちらかと言うと後者みたいですね。だいぶキマってますよ、あれは」
パワーローダーは腕を大きく振り回している。値札がついたままでたった今盗まれたばかりの様子。
売り物には安全装置がかかっており、物理的な始動キーも店側が保管している。
目の前のローダーに乗っている輩は、それらを破る手腕を持っているわけだ。
パワーローダーの長いアームの先端は貨物コンテナを保持するために爪状になっている。
振り乱されるアームに合わせてピンク色と水色の髪が翻り、悲鳴を上げていた。
「嘘でしょ!? 茜ちゃんと葵ちゃんが捕まってる!」
マキは思わず叫んでいた。
琴葉姉妹が貨物コンテナを保持するためのアームの爪に掴まれていた。ちょうど目の前にいて、目を付けられたのだ。
「こなくそ! ウチが今助けてやるからな葵! 少しの辛抱や!」
ピンク髪の少女、琴葉茜は必死にもがき、自分を拘束した爪に向かって握った拳で叩きつけている。だが、どうにもならない。
「人質のつもりでしょうか? とにかく、あのままでは危険ですね」
パワーローダーに籠っている不埒ものの考えなど知らぬが、捨て置く気はない。以心伝心。疾風迅雷。紫髪と金髪の蛮族はまさにそのように動いた。
「はぁっ!」
「とぉっ!」
逃げ惑う人々が波となった通りは避け、重力など知らぬとばかりに建物の壁面を駆け抜ける!
逃げる人々のうち、ゆかりとマキの超人アクションに気付いたものは、非現実的な光景に目を剥いたり自分の正気を疑ったりしていた。
『正統なる秩序のためにぃぃ!』
パワーローダーの操縦者がスピーカーから大音量で吠えているのは回帰主義者のスローガンであった。
それは自由主義の元で起こっている政治の腐敗や民衆の退廃を一掃し、地球政府主体の厳格な統制の復活を掲げるテロリストである。
当初はただ社会に個人的な不満や恨みを抱いているだけの連中であったが、三年ほど前に重武装と組織化を果たし立派なテロ屋に仕上がっていた。
ドラッグをやってるのか、素の興奮状態なのか分からないが、人質を活用する頭はなさそう。
ゆかりは目を細め、的確な一撃のために集中する。
「おおもう喧しいなぁっ!」
ビル外壁を蹴り、マキはゆかりと交差して着地。金髪を靡かせ後ろからアームの前腕をひっつかむ。
「ぬぉぉぉぉおお!!」
両脚で踏ん張り、雄叫びを上げる。全身の筋肉から発揮された力は頑丈なアームを引き千切った。
ゴリゴリに強化された戦闘用サイボーグか生化学的強化人間でなければこんな芸当はできない。
「うわぁぁぁぁ! 今度は何や!?」
マキが真っ直ぐ持ち上げたアームの爪に掴まれているピンク髪の少女は困惑し、怯えた声を出していた。
「せいやっ!」
一方、ゆかりは落下の勢いを乗せた手刀で手首に当たる部分を切断。素早く降下して落ちてくる水色の髪の少女を抱えた。
「もう大丈夫ですよ」
「あっありがとうございます」
年上のお姉さんとしての威厳を発揮して、涼しい声音で優しく呼び掛ける。
右腕は爪を損失し、左腕は肘から先を喪った。
そんなダメージを与えたのは、生身の人間。しかもあり得ないほど美しい貌と肉体美を備えた美少女二人組。
『くっ来るなぁっ!』
それを認識したパワーローダーは怯えて後退る。
マキはゆかりと肩を並べ、真一文字に迫っていく。振り乱される右アームが起こす風圧が少女達の髪を揺らす。
「いやーボトムをホットパンツにして正解だったね。スカートにしてたらパンツ丸見えだったよわたし達」
「マキさんの用心深さに感謝です。ですが、私としてはオーダーメイドの服はスカートでいきたいのでインナーを工夫したいと思います」
オーダーメイドの服を頼むのは決定事項であった。目の前の敵を空気のように扱いながら会話を弾ませる。
「ボディスーツってあるじゃないですか」
「レオタードみたいな下着ね。あれ着るの?」
「ええ。パンツじゃないので恥ずかしくありませんし、キックしてもパンチラではなくレオチラなので健全ですから」
「なるほど~わたしもちょっと考えようっと♪」
雑談で隙を見せたと思い、リーチが残ってる右アームを振り下ろすローダー。二人の姿が掻き消えた。一瞬で距離を詰めたゆかりは足払い。
パワーローダーが仰向けに転んだところでマキは胴体のコクピット部分に飛び乗った。
引き締まった太股の筋肉が破壊力抜群な美脚を振り上げ、叩きつける。
胴体部は厳重に装甲されているので一発では破壊できない。操縦者のテロリストの悲鳴を聞きながらマキは装甲を徹底的に破壊してコクピット・シェルを引っぺがした。
「さあ、観念しなよ!――――ってありゃりゃ」
腰に両手を当てながらマキは高らかに宣言しようとした。
「気絶してますね」
横から覗き込んだゆかりが一言。貧相なメガネの男は泡を吹いて気絶していた。
警察が駆けつけるとゆかり達と琴葉姉妹は事情聴取を受けることに。パワーローダーのアームに掴まれ、締め上げられていた琴葉姉妹だったが、幸い怪我もなく済んでいた。
「やー終わった終わった。面倒なことになっちゃったねえ」
「いい運動になったと考えておきますか」
聴取から解放されて警察署を出ようとすると呼び止められた。
「結月さん! 弦巻さん!」
呼び止めたのは琴葉姉妹である。仲良しな姉妹らしく声が綺麗にハモっている。
「危ないところを助けていただき本当にありがとうございました!」
揃って頭を下げてお礼を言う。ゆかりとマキとしては、美少女姉妹に礼を言われて良い気分だ。
だが、姉妹が続けて放った言葉はゆかり達を動揺させた。
「お二人は名うての傭兵とお見受けします!」
「なっなぜ分かったのですか?」
ピンク髪のお姉ちゃんに素性を言い当てられ、ゆかりさんびっくりである。
「琴葉家の者として、命を救われた恩を返さないわけにはいきません」
葵の言葉はまるでサムライのようだとマキは思った。
穏やかな眼差しが凛々しい色を帯びている。
「私達にお仕事の手伝いをさせてください! 必ず役に立ってみせます!」
予想外のお願いであった。
茜と葵の眼差しは真剣そのもので、強い覚悟が感じられる。
「どうする?」
「どうしましょう?」
ゆかりはマキと顔を見合わせる。お互い、本気の困り顔だった。