ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
『結月ゆかり、出撃します!』
『弦巻マキ、いっくよぉ!』
ガーベラ号より発艦した二機の炎陽。そのパイロットは紫髪と金髪の女蛮族である。
長身、腹筋バキバキ。それでいて女性的な曲線も完璧な肉体美の肢体にぴっちりしたナノスキンを貼り付け、完全武装済みだ。
右舷にマキの機体の姿がある。鮮烈な赤に塗装された炎陽はゆかりにぴったりと並走している。
向こうからは青と灰色の迷彩の僚機が左舷に見えているわけだ。
(当時憧れの最新鋭機だった炎陽が旧式のMFとは。十年の月日を感じますね)
過ぎ去った月日に感傷的になってみる結月ゆかりである。
優れた拡張性から先を見据えた機種とされた炎陽のコンセプトは成功を収めており、第三世代が主力となった現在でも特化仕様に改修された炎陽は八洲国防軍において、存在感を保っている。
ゆかりとマキが駆っている機体も琴葉姉妹の祖国に倣い、特化仕様だ。
それぞれの好みにカスタムし、フルチューンしてある。予備機といえど手を抜かず、金に糸目をつけていない。
ゆかりの機体は背中と両腕にシールド・ブースターを装着し、加速力を高めている。
右手に握ったメインウェポンはビームライフル。装弾数は極めて少ないが、一撃必殺の荷電粒子ビーム弾を発射する高価な兵装だ。シールドの裏には予備のエネルギーパックを積める限り装備してある。
マキの炎陽は重武装のフルアーマータイプ。
追加装甲を纏い、マスドライバーキャノンの別名で知られる大口径砲を左肩に担いでいる。右肩には高精度のレーダー、センサー複合ポッド。
手持ち武器はガトリングガンと標準的なレールガンだ。スラスターを追加してあるので、重武装に反して加速力もある。
金髪ロングヘアに笑顔溢れるマキの視界では、訓練エリアに指定した小惑星帯を宙域が近づいていく。
琴葉姉妹は先に発進しており、既に指定の宙域でゆかり達を待っている。エリアに侵入次第、戦闘開始という取り決めだ。
師匠役なんてはじめてなモノだから、マキは戦闘開始が近づくと緊張してきた。
『なんかドキドキしてきちゃったな♪ ゆかりんはどう? ドキドキしてこない?』
『ゆかりさんはスーパークールな美少女戦士なので、そういうのはないですね。心拍数が上がっている程度です』
キリッとした決め顔で言ってのけるゆかりであった。
「そっかー」と紫髪の相棒へのツッコミはせず軽く流すマキ。
指定した宙域に入った。二人は操縦桿を強く握る。
砲撃警告がコクピットに鳴り響くより前にマキは頭を上げて、
「やっぱり上から仕掛けてくるか!」
急加速のGを感じながら、金髪の蛮族娘は楽しげに咆えた。
背後には上空から放たれた高出力の青いビームが柱のように伸びている。加速しなければ直撃だった。
実弾ではない。本物同然だが、拡張現実として視界に投射されたCGである。
「っ! 射撃が巧い!」
ただ正確なだけではない、敵の動きを潰すことまで意図した葵の射撃の技前にゆかりは舌を巻いた。
回転運動による急回避を取らざるを得なかった。
ナノスキンスーツが張り付く無駄のない肢体に強烈な荷重がかかる。
体にかかる負担はどうってことないが、編隊を崩されるのは痛い。
三発目は旋回しながら反転するマキの炎陽に掠った。
『うわっ!?』『マキさん!』
思わず声が出てしまう。
『ごめん、しくった! あの娘達強いよ! けど簡単にはやられない!』
両手の武器を高速で降下してくる琴葉姉妹の機体に向ける。
ガトリングとレールガンの弾幕をバレルロールで掻い潜るのは下部に長砲身ビーム砲をマウントした戦闘機、否、第三世代の可変型MF"零桜"。
ゆかりの炎陽も背部シールド・ブースターに内蔵したマイクロミサイルを発射。弾幕で余力を奪ってからビームライフルでの狙撃を狙う。
しかし、強力なECMで妨害され、照準が狂う。二機の眼前を通過する質実剛健な灰白色の機影。
「うひゃー! ゆかりさんもマキさんもやっぱとんでもない腕してるで!」
零桜の前部シートでドライバーを担当する茜は師事した二人のお姉さんの実力に感服していた。
先手必勝一撃必殺のつもりで仕掛けたのだが、凌がれてしまった。葵の射撃が掠るに留まるとは。
戦闘機形態のまま、追撃してくる二機の攻撃を回避するため、機体を上下左右にぶん回す。
「あれだけスラスターを付けたらオートじゃバランス取れない。ゆかりさんとマキさんはマニュアルであの操縦をやってるんだ」
後部シートで火器管制と電子戦を担当する葵が言う。
メカニックとして、祖国の傑作機にゆかマキが施した魔改造ぶりを理解してもいる。
世代間で大きな差がある慣性制御性能を埋めるため、操縦性をかなぐり捨てて推力を特盛りしているのだ。
茜の懸命なマニューバの甲斐あって、徐々に炎陽との距離が開いていく。
速度差からマキに先行しているゆかりの銃口が光った。いける、と気が緩んだ隙を突くかの如くビームが迫ってくる。
「うおっと!」
「きゃっ!」
茜は慌てて機首を上げ、そのまま宙返り。さらに跳ねる。第三世代機ならではの高度な慣性制御機動でビームの連射をかろうじて躱す。
押し潰されるようなきつい荷重を覚悟する琴葉姉妹。
しかし、初々しい白装甲の極薄スーツはGを受け止め、少女たちを苦痛から守り抜いた。
「これだけ激しく動いても慣性荷重を打ち消してくれるんだ。凄い!」
下着を付けられないほど極薄なナノスキンスーツが発揮した耐G性能に琴葉姉妹は揃って驚いた。
「このスーツなら今までよりずっと無理できる! よーし、派手にぶん回すで葵!」
「うん! 思いっきりやっちゃって!」
大きく脚を広げて踏ん張り、過酷な高機動がもたらす痛みと圧力に耐える茜と葵。暗黒の宇宙を背景に銃火に装甲を煌めかせ、身を躍らせる灰白色の鉄鳥。
「このまま小惑星帯に突っ込む! そこで運動戦に持ち込で!」
運動性なら次世代機たる零桜が勝っている。だから障害物にだらけの戦場に勝機を見出した。
「ダミー、ECMスタンバイOKだよ! ECMは変形のタイミングで最大にする!」
苦しさを振り払い、葵が報告する。ひたむきな愛妹は言葉にせずとも茜がやりたいことを察してくる。
執拗な銃撃を振り切り、茜は減速なしで小惑星帯に飛び込んだ。
『わあっ! 茜ちゃん達変形せずに突っ込んだよ!』
『お見事、そして望むところです。私達も行きましょう』
ゆかマキにしても、お世辞にも良いとはいえない炎陽の運動性に馴染んでおきたいので、ちょうどいい。
一歩間違えれば大怪我どころか死もあり得る危険な模擬戦に少女達はアドレナリンを噴出させる。
しかし、そんな熱狂に冷水を浴びせる事態が起こった。
零桜は小惑星の陰に身を潜め、ゆかりとマキを待ち構えていたのだが、十五万km先に空間振動と光の渦、ワープ・アウトの前兆を捉えたのだ。
「こんなエリアでワープ?」
「なんか妙な――――いや、きな臭い感じや」
茜はすぐに通信回線を開き、ゆかりとマキに報告した。
『こちらでも捕捉しています。盛り上がってきた所で残念ですが、いったん訓練は中止にしましょう。すぐに私達も合流します』
貨客船がワープ・アウト。全長600mのクルーザー。いわゆる豪華客船の類だ。
『第二種救難信号を出してる。交戦状態にあるってことだね。後続のワープ反応は追手かな?』
民間船がこの救難信号を出す状況は主に宇宙海賊に襲撃された時だ。
二十秒後にワープ・アウトしてくる二隻の反応があり、クルーザーは光の渦から逃げるように加速している。
『船籍照合。八洲国籍、
ホロコンソールを素早く叩き、ゆかりは言った。念の為、ピンクと水色の髪の姉妹から送られている光学情報、識別信号をもとに星間ネットワークから集めた情報を確かめていた。
茜は機首を白姫号に向けた。小惑星やデブリを避けての最短コースを導き出す葵。速度に優れた戦闘機形態で、少しでも早く小惑星帯を抜けるつもりだ。
通信ウインドウ越しに紫髪と金髪の師匠と視線を交わす。既に四人は身も心も実戦態勢。クルーザーを助けることで考えは一致している。
『ウチらは先行して船を守ります! 無茶はしませんので!』
勇ましい声で告げる茜。琴葉家は民を守る武士の一門だ。
救援に向かうことに迷いはなかった。
『了解、私もそちらに向かいます』
『頼りにさせてもらいます!』
これがサムライ魂なのですね。守るための戦に臨み、凛々しさを増した茜と葵の顔を愛おしげに見つめながら、ゆかりは独り静かに感服していた。
『なら、わたしは出てくる二隻を叩くね! それとガーベラはこっちで借りるよ!』
一気に加速する三機。危険な小惑星帯をそんなことは知らぬとばかりに抜けていく。