ぴっちりスーツなボイロ(筋肉娘)でスペオペ風ロボ物 作:その辺の残骸
豪華貨客船"白姫号"に迫るMFは第三世代、新鋭機にあたる機種であった。
鋼河重工公司製"虎兵"。宇宙海賊が運用するには不自然な高級機だ。カラーリングは趣味の悪い黒と黄色の迷彩模様。
茜は妙な事態に首を突っ込んだのを悟っていた。
「とにかく、考えるのは後や!」
猛々しく叫んで迷いを振り払う。戦闘機形態のまま、ピンク髪の少女は突っ込む。
姉妹の駆る零桜が海賊の新手か、同業他社のならず者と思われないように葵は素早く、パネルを操作して、客船に通信して身分を証明する。
『突然の通信お許しください。私達は琴葉家の末席に名を連ねる者です。助太刀させてください』
白姫号の通信モニターに琴葉家の家紋と共に、水色髪の少女を映した通信窓が表示されている。
武家や華族など八洲の上流階級専用の通信プロトコルである。量子認証まで施されていて、偽装はまず不可能。
銀河有数の確実な信用証明であり、銀河を渡り歩く武者修行の旅でも大いに役立っている。
相手が同郷の者であれば、効果覿面だ。
『感謝いたします! 当船はどのように動けば?』
『このまま回避運動をお願いします。それと後に来る二機も味方ですので、心配しないでください』
「こっちを狙ってきた! 望むところや!」
剣呑なトーンの電子音に続き、姉の声。視界が傾いた。船に最接近していた敵MFがアサルトライフルで銃撃してくる。宇宙空間の闇に瞬く電磁加速砲弾。
零桜は翼を右に傾け、急旋回している。後部シートで水色髪の少女が喰らいつくように身を乗り出す。
「まずは一機!」
ロールによる機動と敵の動きに合わせ、葵はスマートキャノンのトリガーを引く。
銃自体に高精度センサーが装備された高出力のビームウェポンだ。これ一丁でも第一世代のMFと同等の製造コストがかかっている。
荷電粒子ビームが虎兵の右肩を射抜き、誘爆が起こった。
機能停止に陥って宙を流れていく敵機から、残る二機の虎兵に注意を向ける。
宇宙海賊の小隊は丸ごと地球製の最新軍用機だ。
地球の五大企業からなるヒュドラ・グループ――植民惑星独立以後の実質的な地球圏の支配者が外宇宙での暗躍を始めたというウワサは本当なのかもしれない。
「機体はいいけど、動きはアマチュアやな!」
「これなら、わたし達だけでも倒せる!」
ミサイルとレールガンによる集中砲火が、白灰色の宇宙戦闘機に迫る。二隻の艦艇と護衛機からなる海賊の本隊は、ゆかりとマキが対処している。
琴葉姉妹は孤立無援というわけだ。だが、どうってことない。
ECMとスピードで攻撃を振り切る。第三世代機同士の戦闘は、スペックでも技量でも茜たちに軍配が上がっている。
「そこ、いただき!」
高速形態では下部に固定しているスマートキャノンの射線は限られるが、茜は上手く敵機を狙える位置に機体を動かしてくれる。
再び、トリガー。アサルトライフルのマガジンを交換していた虎兵は、吸い込まれるようにビームに貫かれた。
「二機目!」
ど真ん中。機体が跡形もなく爆散する。味方の命が奪われたことに激怒した最後の一機が、猛烈な銃撃を浴びせてくる。
「うおっ危な!? 流れ弾が船に当たったらどうする気や!」
敵機との距離を詰めつつある。零桜は旋回して白姫号に弾が当たらない位置に動き、そこを狙って敵機も銃撃してきた。
素早く片付けないと守るべき客船が危ない。ピンク髪の姉はそう結論付けた。
「いくで葵っ! 可変回避マニューバ!」
「OKッ!」
合図に力強く葵が応える。
茜がレバーを引くと零桜の各部が瞬間的に可動した。戦闘機形態から人型形態へと変形し、マニューバフレームとしての真の姿を明らかにしていく。
虎兵は怒りに任せて突進しつつ、変形と共に減速した零桜の予測進路に銃撃を送り込んできた。電磁加速式突撃銃の弾丸は回避運動を取ったとしても命中するように散布されている。
怒り任せの攻撃にしては不自然な冷静さのカラクリは機体にある。虎兵のAIアシスト機構は優秀で、パイロットの混乱や過度の興奮による戦闘力の低下を補うことができた。
しかし、一発も掠らない。銃撃は全く見当違いの方向を撃っており、スマートキャノンの固定を解除して、両手で抱えた零桜に致命的な隙を晒している。
白灰色のマニューバフレームが敵機の頭上で攻撃態勢を取った。
『~~~~ッ!!』
茜は薄赤色。葵は水色。淡い色合いのナノ被膜に覆われた可愛らしい双丘がGで激しく揺さぶられる。
琴葉姉妹は揃って歯を食いしばって痛みを堪え、零桜の真骨頂と言える急激な機動でかかる負荷に耐え抜いた。
零桜の補助慣性制御ドライブは高速形態とMF形態での最適位置に配置されるよう、四肢に組み込まれている。
これがAIでも予測できなかった零桜のマニューバの正体だ。
変形による慣性の偏向をあえて打ち消さず、トリッキーな戦闘運動に利用する高度な操縦テクニックで、銃撃の射線から大きく外れてみせたのである。
瞬時の判断力、反射神経、そして慣性荷重に耐えられる強靱な肉体を必要とする技を、茜は十代後半で会得していた。
「よーし、やったれ葵っ!」
「うん、お姉ちゃん!」
強引な乱数回避で射撃から逃れようとする虎兵。各部のブースターから勢いよくプラズマが噴射されて左右に飛び回っている。
機体の管制AIは搭乗者のサポートを超えて主体として動いており、人間が耐えられないレベルの機動になっていた。
「この距離なら外さない!」
葵はセンサー情報を基にぴったりと敵に狙いを定めていた。
零桜のスマートキャノンから荷電粒子ビームが発射される。閃光が虎縞模様の第三世代MFを撃ち抜き、次の瞬間に爆光が弾けた。
「よっしゃ!」
初々しい白いプロテクターのナノスキンスーツで、瑞々しい裸体を覆った茜と葵は勝利の笑みを交わし合う。
「ガーベラ号が追い付くまでは、ウチらで白姫号を護衛するで」
無人になっている高速駆逐艦ガーベラ号は零桜からのコントロールで、こちらに急行している。
人型形態のまま、白灰色の零桜は白姫号の前方を飛行。スマートキャノンを水平に構えた可変マニューバフレームは、勇猛な守護神のようだ。
客船・白姫号の乗員はその勇姿を惜しみなく讃えていた。
敵の本隊も壊滅している。
五つの比較的小規模な爆発の後、艦船クラスの動力炉が爆ぜた際の大規模な爆光が広がった。
最後に残ったのは、自力航行不可能なほどに滅多打ちにされた巡洋艦のみ。
それは、カスタマイズされた炎陽の二機編隊が成し遂げた戦果であった。
『二人ともお見事でした。こちらも片付きました。これから艦に乗り込んで制圧します』
クールで無表情な紫髪ショートの結月ゆかりが言いながら、コクピットに持ち込んだ刀を取り出す。
『白姫号のほうは悪いけど、諸々二人でお願いね♪』
陽気な金髪ロングヘアの弦巻マキが明るい笑顔で頼む。こちらもお気に入りの重機関銃を手に取っている。
紫髪と金髪の長身な狂暴蛮族は琴葉姉妹がMF三機を撃破する時間で、防空フリゲートと巡洋艦を一隻ずつ。さらにその護衛の虎兵を五機片付けている。
第二世代機が到底叩き出せる戦果ではない。
さらに二人きりで、極薄のスキンスーツだけ付けた裸同然の恰好で、狂暴な海賊たちを制圧するというのだ。
暴れ回るパワーローダーから自分達を助けてくれた際に超人的な身体能力を見ていなければ、琴葉姉妹も引き留めていた。
しかし、ゆかり達の凄まじい強さを知っているので、『お気をつけて!』と仲良し姉妹は声を揃えて送り出す。