1.出逢い
〇月〇日。
変な奴が来た。名前は江角総子。高校出たてらしい。女性用リクルートスーツを着ていた。身長は150センチくらい。スリーサイズは・・・胸は70位か。ペチャパイだ。幼く見えるが、俺の好みでは無い。
所長が面接したが、すんなり合格。所長と俺とお茶くみのおばちゃんしかいない、零細企業や。即採用。合格基準なんかない。早速、教育係として紹介される。
早見のおばちゃんのアパートに総子を連れて行く。張り込みの練習や。張り込みは、探偵、いや、興信所調査員の基本中の基本や。張り込みの場所になる電柱に総子を連れて行く。早速タブーの『死角』に入ってくれた。
おばちゃんに交渉して、2階の物干し場に連れて行く。説明した後、電柱に戻る。
俺が隠れていた場所と、総子が隠れていた場所の違いを目視で確認をさせた。
電話をする。「どや。ちゃうやろ?」「はい。」
今日は研修、終わりや。南部興信所は、主に『浮気調査』やから、張り込みは基本中の基本や。
2.出張
〇月〇日。
所長は、総子に出張を命じた。俺が行きますよ、と言ったら、お前はウチのメインの探偵やからアカン、総子は修行、いや、研修の最中や、そう言われた。
何か納得せん話しやな。
〇月〇日。
東京から帰る前に、中津興信所の中津健二所長から電話があった。
呑み込みが早いから助かる、と言っていた。あちらは浮気調査だけでなく、警察や弁護士の下請けもしている。総子は、背も低くペチャパイで、平凡な顔かたちやから、目立ちにくい。変装次第で、どこの景色にも溶け込める。興信所所員というのは、案外天職やな。だが、もう1泊してから帰るって、遊び半分か?
いや、この時の俺は、その後の展開を気にする余裕は無かった。
とんでもない後輩が入ったと気づくべきだった。
「慢心」は「後悔」の発端なのだった。
3.同棲
〇月〇日。
どうもおかしい。納得のいかない俺は、所長のアパートに張り込みをかけた。
そして、納得した。総子は、自分の家に帰宅するのでは無く、所長のアパートに帰っている。翌朝は、所長のアパートから出勤している。
〇月〇日。
仕事が暇な時、ただ張り込みをするのも意味がない、と判断した俺は、深夜扉の外に佇んで、とうとう総子の喘ぎ声を聞いた。血の気が引いた。
これが、未成年のやることか?半世紀も年齢の離れた・・・待てよ。
〇月○日。
大阪府警の旧知の刑事に内緒で頼んで、総子の住民票を確認した。24歳?童顔の為に、すっかり欺された。「公称17歳」では無かったのだ。所長は法を犯してはいなかった。
単なる「自由恋愛」で、「事実婚」だった。
夜中に目が覚めた時、誰もいない部屋で、ケラケラと俺は笑った。
所長は、何て「間抜け」なんだろう、と。
だが、この笑いも「後悔」の元になった。
4.馬子にも衣装
〇月〇日。
総子は、いつの間にか、中津興信所への応援ではなく、EITOへの応援に上京するようになった。総子の従姉大文字伝子のコネだ。
〇月〇日。
総子が所長と同棲していることがバレた。そして、総子が年齢をサバ読みしていることも大文字伝子によってバレた。所長は、法律違反を犯していると思い込んでヒヤヒヤしていたようだ。
興信所所長なのに、ろくに調べなかったのが笑える。俺に相談すれば良かったのに。
〇月〇日。
総子は、俺を「幸田さん」ではなく、「幸田」と呼ぶようになった。所長夫人だから?なんでやねん!!
〇月〇日。
総子は、ハルカスの近くのホテルで式を挙げた。嫌々ながら、参加した。オッサン、精子、いや、精力もつのか?「惚れた欲目」とは、摩訶不思議だ。
5.EITO大阪支部
〇月〇日。
総子夫婦と従姉の大文字伝子夫婦の披露宴の晩、ボヤが起きた。いや、結果的にボヤになったのだが、その時活躍したのが、伝子と伝子のEITOでの部下、金森だ。ブーメランの連打でスプリンクラーを動かしやがった。大した奴らだ。
ボヤの犯人は、伝子達EITOの敵が雇った、組織の末端らしい。恐ろしい世の中になったものだ。そう言えば、総子は、初めて所長との馴れ初めを披露宴で話した。
以前、総子が暴漢にレイプされかかったのを所長が助けたらしい。所長は若い頃剣道をやっていた。剣道は竹刀や剣が無くても闘えることを初めて知った。所長は、相手の『小手』を手刀で叩き、麻痺させたのだ。
総子にとって、『星の王子様』、いや、『白馬に乗った王子様』だったらしい。王子様というよりジジ様なのだが。総子は親にも黙って、所長に『護身術』を習いに通った。
その内、レイプされなかった礼として、所長に『初めて』を捧げた。所員にしてくれと言われて、所長は断れなかった。「後ろめたさ」で。
そして、所長夫人になった。何か総子に会社を乗っ取られたような気がする。
〇月〇日。
東京に出張に行く度に、EITOに『いっちょかみ』していた総子は、実力を認められ、EITO大阪支部に勤務することになった。2足のわらじ?無理やろう。
〇月〇日。
とうとう、EITO大阪支部が発足した。司令官は警察の人間だが、総子の部下は『元レディース』だ。こりゃあ長くもたんぞ。彼女達は、総子によって、レディースの闘争を平定されたので、最初、大総長と呼ばれていた。司令官である、大前管理官は喜んで受け入れたのは、単に人手が欲しかっただけでないことは、こっそり本人に教えて貰った。
詰まり、EITO大阪支部は、更生施設でもあるのだ。彼女達は「おおっぴらに」暴れることが出来るのだ。
ヤンキーだっただけあって、運動神経もいい、と大前は言っていた。
6.芦屋姉妹
〇月〇日。
仮の施設でEITO大阪支部はスタートをした。俺は全然知らなかったが、スポンサーである、芦屋財閥の、三つ子の芦屋三姉妹は、大前管理官とも、何と総子とも知り合いだったようだ。大前は大阪府警勤務時代に知り合い、総子は中学校の時に、一時的に引っ越して来た芦屋姉妹と仲良くなったらしい。芦屋財閥は、東京本部にもスポンサーになっているらしい。道理で資金繰りが簡単にできる訳だ。警察官のOBや自衛官のOBから出資して貰っていると斉藤理事官は言っていたが。恐らく一部だろう。
芦屋三姉妹の両親は航空機事故で一度に亡くなっている。三女の三美が全ての事業を引き継ぎ、一美は警察官になり。二美は自衛官になった。三人は、陰になり日向になり総子を助けている。きっと、何か裏があるに違いない。いつか、調査してやろう。
〇月〇日。
総子と所長夫妻は、アパートを引き払い、三美が経営するオフィスビルの『内側』にある、分譲マンションに引っ越した。
2人は、分譲マンションなのに、『無料の』賃貸マンションとして住んでいる。しかも、お手伝いさんまで、無料だ。お手伝いさんは、芦屋の社員らしいが、オフィスビルの『内側』にある、『社員寮』に済んでいる。『裏山』があり、そこからオスプレイが出撃する。
昔、芦屋姉妹は、アニメで見たものを現実化してしまった。表向きはオフィスビルだが、実は『要塞』だ。
オスプレイは一応、EITO大阪支部所有だが、実際は芦屋の所有物の無料貸与だ。
何でそこまで?と何度も反芻するが答は出ない。三人は、総子を『年の離れた妹』として溺愛している。そして、総子のEITOでの活躍を楽しみにしている。今の俺に分かるのは、そこまでだ。総子はやがて、2足のわらじではなく。EITOの『偉いさん』になって行くのだろう。興信所は、我々でなんとかやって行くさ。頼もしすぎる、後輩よ。
7.事故
〇月〇日。
俺は、追突事故に遭い、三角巾を釣るようになった。仕事柄、危ない橋を渡っていたりするが、「南部興信所は手を引け」だと?何者だ。
まあ、いい。総子がEITOと2足の草鞋っていう体勢は無理があるのだ。
〇月〇日。
また後輩が出来た。こいつも過去に何か抱えていそうだが、仕事の出来る奴だから、問題ない。当面、花ヤンと3人体制だ。所長は、見舞金だけでなく、ベースアップしてくれた。今日もそつなく浮気調査だ。
8.みちのくひとり旅
〇月〇日。
依頼人から、規定の料金以外に、「謝礼」が出た。税金の申告をしなくていい金だ。
所長が、珍しく、飲みに行こうと言ってくれた。興信所の新人の歓迎会を兼ねての飲み会だ。所長は、EITO大阪支部の司令官大前と、支部新人の馬場も誘った。
馬場は、カラオケバーに戸惑っていたが、得意の歌を歌い始めた。
無骨な顔に似合った、「ド演歌」だ。歌い終ったら、ママや所長に言って、もう1度歌わせてくれと言う。呆れたが、皆、辛抱して聞いた。
「もう1度」と言い出したので、大前は馬場を連れて店を出た。
新人の倉持が心配そうな顔をしたので、「打ち合わせや。EITOの勤務はウチと違って不規則やから、明日の打ち合わせや。」と倉持に適当なことを言い出した。
花ヤンが、気を利かせて、刑事時代のエピソードを面白おかしく倉持に聞かせ始めたので、俺と所長は、適当に相槌を打った。
30分位で、大前と馬場は帰って来た。
「大前さん、そろそろ、お開きにしますか?明日、早いんでっしゃろ?」と所長が言い、「そうですな。」と大前は渋い顔で応え、お開きになった。
花ヤンも俺もほっとした。今後は、飲み会は興信所だけやな。
それにしても、何であんなに固執したのか?馬場みたいなタイプはマイクを持たせてはいかんな、と思った。
9.ヘレン誘拐事件
〇月○日。
EITO大阪支部の元メンバー、ヘレンが誘拐された。
俺は、自分から協力を申し出た。
知り合いから『ホットドッグ』移動販売のバンを借りて、受け渡しの時間よりも早く行って待ち受けていた。
犯人がジュラルミンケースの確認をしている隙に、俺と倉持は大前さんから預かった、追跡用ガラケーを犯人達の車にセットした。
この追跡用ガラケーのシステムは、『大文字システム』の一つだ。大文字システムとは、EITO東京本部のエマージェンシーガールズ隊長である、大文字伝子の叔父の大文字教授が開発したシステムをまとめて呼んでいるシステム群だ。警視庁は、極秘に使っていたシステム群だが、EITOが引き継ぎ、色んなシステムを作っているらしい。
後で、倉持に教えると、ただただ感心していた。
追跡システムのお陰で、難なくヘレンは救出された。所長からボーナス弾むから、と言われていい気になったが、実現された試しがない。
まあ、いい。『人助け』はEITOも興信所も変わりない。
10.福の種
〇月〇日。
久しぶりに、EITOの手伝い。「ケガレ犯」を未然に防ぐか捕まえるかの一斉捜査。
俺と花ヤンと倉持の担当は杭全神社。
いたいた。これもケガレ犯。男達が、タダの筈の『福の種』の偽物を売りつけようとしていた。
3人で、速やかに解決。『福の種』は、参拝客にタダで配ってくれるお守り。あくどいことしよる奴らは、何時の世の中にもいるものだ。
「金一封もんやな。」
『そんなアホな』と思いながら、花ヤンの言葉が嬉しかった。
―完―