「危険やないですか!」と、思わず叫んだ。
不安
○月〇日。
「シーアイエー?」
俺達は、思わず声をあげた。
先日、俺達が、いや、正確には倉持が拾った、変な運転免許証の持ち主は、CIAの調査員だったことが分かった。
CIA東京支局があることは、知る人ぞ知る「公然の秘密」だったが、何故大阪で事故って死んだのか?何故二重の運転免許証を持っていたのか、まだ分からないことが多い。
分かっているのは、何者かが、乗っていた軽四のブレーキオイルに仕掛けて、ブレーキが効かないように細工していたことと、危険を感じたCIAさんが窓から運転免許証を投げたことだけだ。
「警視庁の村越警視正も、府警の小柳警視正も、状況から考えて、お前達に拾わせる為に投げた訳じゃないだろう、という見解や。でも、もし危険を感じたら、保護する、と言ってくれている。倉持、大丈夫か?」
所長の言葉に、倉持が「危険が恐いなら、この仕事を選びません。幸田先輩だって、命狙われたことがあるって聞きました。先輩を守れるのは僕しかいませんから。大丈夫です。大体、浮気調査で頭に血が上る依頼者のおばちゃんの方がよっぽど恐い。」と、健気に応えた。
「こいつぅ、生意気やぞ。」俺は思わず涙を流しながら倉持を小突いた。
所長は、「ウチは優秀な社員ばっかりやな。そこで、気調査で頭に血が上る依頼者のおばちゃんのとこに行って来てくれ。場所は瓢箪山。提灯屋のカミさんや。ウチの事務所の神棚も古くなった。ついでに買うてきてくれ。」と、俺に言った。
そして、1回目の聞き取りに俺達は、瓢箪山に出掛けた。
東大阪市の、瓢箪山は瓢箪山古墳と呼ばれる双円墳で、ヒョウタンを埋めたような形に似ていることからこの名がついた。
俺達は、依頼者宅から、近くにある瓢箪山稲荷神社にお参りしてから、帰途に着いた。
途中、堺筋本町まで来た頃、「煽り運転」に遭った。
俺達の車の前まで出て、にいちゃんは凄んだ。
「今、擦ったやろ?」
「そんな器用なこと出来るかい!ドラレコ付いてるのが分からんか?」
間もなく、パトカーのサイレンが鳴り響き、こちらに向かって来た。
「ちゃうねん、ちゃうねん!!」
その男は、浮気現場で言い訳する亭主みたいなことを言った。
俺は、倉持に黙って、110番通報する時にDDバッジを押していた。
DDバッジとは、EITO関係者が所有する「位置情報」バッジで、GPSを通じてEITOが所有者の位置をリアルタイムで把握出来るもので、押すと「SOS」信号が加わる。
警察も110番通報を受けた時点で、位置情報を把握するが、「万一誘拐された場合」にこの信号が役に立つ。
幸い、「普通の煽り運転」だった。奴らに軽く見られたのだろう。軽四だけに。
軽四・・・嫌な符号だった。
俺達は、警察官に名刺を見せ、事情を話した後、興信所に戻った。
そして・・・。
○月〇日。
俺達は、所長からEITO大阪支部に関わった事件の説明を受けていた。
「危険やないですか!」と、思わず叫んだ。
EITO大阪支部では、建設現場作業員連続転落事件と、建設現場作業員服毒死事件の両方に『不思議な液体』が関わっていることと、その液の正体が新種のビールスであることを知った。
「反社の早雲疾風組倉庫には、ほぼ未使用で残っていた。荷揚げされてからまだ大量に運び出されていない。『建設現場作業員連続転落事件』の江成が拾った缶は、組事務所移転の最中に、積み忘れたものだった。『建設現場作業員服毒死事件』の方は、組員の数人が仕組んだものだった。組長は、反社のルートと闇バイトのルートで『転売』する気やったらしい。」
所長の言葉に、「ミルク缶事件の3人の立てこもり犯は、闇ルートで入手したが、偽物やった、らしいですわ。」と、花ヤンが言った。
「出回ると、抑止力になるな。服毒死させた液体やと言ったら、飛びつくわな。無慈悲な裁判にカッとなっていたし。」と、今度は横ヤンが言った。
花ヤンも横ヤンも、元刑事だ。呑み込みが早い。
「あの『メッセージ』は、彼らは出していない。闇バイトが『タダ』で『液』を提供し、『お上』を追い詰める手段を教えたらしい。ロープとかナイフは自前や。」
「組事務所の分を回収しても、敵組織は、また作れる訳ですね。」と、倉持が発言したが、「その通り。解毒剤は今、東京で作っているけど、もう開発された、って発表するように吉本さんに言っておいたよ。」と、横から総子が言った。
「流石、所長夫人。二便以降は上陸させへん積もりやな。」
俺は感心して、帰宅後、澄子に話した。
「所長夫人とEITO幹部。二足の草鞋、大変やな。私も二足の草鞋やけどな。探偵夫人と女将。」
そう言って、俺に精力剤を渡してから、眼にも止まらぬ勢いで、「産まれたまま」になった。
確かに・・・俺は絶句した。
―完―