聞き上手
○月〇日。
「あんた。倉持君。親類は?」
「高校の時、両親は火事で亡くなった。しばらく大分の叔母さんのとこで厄介になったらしい。」
「そうか。寂しい披露宴やな。」
「そやな。でも、おれらも出席するし、EITOからも府警からも出席する。小柳さんは、えらい倉持に同情的でな。『犠牲者』って言ってるらしい。」
「犠牲者は大袈裟やろ。」
「小柳さんは、子供の頃いじめられっ子でな、大分庇って貰った恩が大きいから頭が上がらん。」
「そやけど、大前さんを更生させて警察官にしたんは小柳さんやろ?」
「うん。そやから、大前さんは小柳さんに頭が上がらん。俺は、愛妻澄子に頭が上がらん。」
「そんなオチ?」と澄子はゲラゲラ笑い出した。
「相変わらず、仲ええな。幸田さん、車検の会社紹介してくれへん?」
そう言って来たのは、近所の久礼だ。
「え?なんで?」「幸田さん、テレビ見イへんから知らんやろうけど、倒産したんや。不正ばれて。」
「そうか。澄子。ちょっと行ってくるわ。電話より、直接行こう。」
車中で久礼は愚痴りだした。「景気の悪い話ばっかりでなあ。」
「あ。久礼さん、ウチの倉持知ってました?」
「ああ。真面目ななあ。幸田さんと名コンビやな。」
「今度、結婚することになりましてん。11月やけど。久礼さんも出てくれます?身内少ないんですわ。」
「ええの?ほな、出るわ。顔なじみではあるし。で、どんな人?」
俺は、和ませる為に久礼に「あることないこと」しゃべった。
車検屋のおやじも長い付き合いや。
「そうですか。どうぞご贔屓に。ほな、都合のエエ時に連絡して下さい。」と、車検屋のオヤジは、久礼に名刺を渡した。
「まあ、今度の今度は、ないやろうけどな。愛車も俺同様、くたびれてんねん。」
「新車買うの?」「そんな余裕はない。」
帰り道、また、久礼の愚痴を聞くことになった。
「何十年も不景気でナア。『老後』なんてもうない。なんで、あんなに税金取りたがるんやろ。ヤクザと一緒やな。」
「ああ、忌む叡智系もな。自分らは左団扇で暮らせるのに。日本て、ノー税金でもやっていける位『クラ』に金あるらしい。」
「役人天国にスパイ天国。パンピーは地獄。ああ。外国人天国でもあるな。」
「一旦、国籍映してから、日本国籍取るか?」
「いやや。日本人のまま生きて、日本人のまま死ぬ。」
まあ、商売や。
興信所の所員は、『聞き上手』でないといかん。
その点、俺も倉持も天職や。
『聞き上手』は探偵の必須条件や。
―完―
「新車買うの?」「そんな余裕はない。」