「もええ。ワコちゃん。出てきて。」
すると、すっとワコがベッドの陰から出てきた。
「ワコちゃんはな。『手かけ』でええ、って言うてる。金やない。愛情や。仙太郎、興信所所員やったな。書類あったらええんやろ?」
「書類?」
ワコが出した書類には、『側室契約書』と書いてあった。
鉢合わせ
○月〇日。
俺は、自分の結婚と倉持の結婚の報告に、澄子と倉持を連れて姉の病室を訪ねた。
「ふうん。ふうん。ふうん。倉持君の件はエエ。他人さんやし。澄子さん、あんたから誘ったんやろ?水商売してるし。」
「何もここで聞かんでもエエやん。」
「仙太郎から手エ出したんか?」「いや、何となく・・・ってエエやん。」
「倉持君。席外してんか。」
「はい。」倉持は仕方無く出て行った。
「許嫁、放って所帯持ったんか。子供出来たんか?」「いや、まだ・・・。」
「まだ・・・まだてか。」
「高齢出産は難しいやろうけどな。門田さんも、澄子も。」
「もええ。ワコちゃん。出てきて。」
すると、すっとワコがベッドの陰から出てきた。
「ワコちゃんはな。『手かけ』でええ、って言うてる。金やない。愛情や。仙太郎、興信所所員やったな。書類あったらええんやろ?」
「書類?」
ワコが出した書類には、『側室契約書』と書いてあった。
「側室?」まるで時代劇だ。
ご丁寧に、拇印と捺印が押してある。
澄子が泣いている。「ウチはよう産まん。そやからワコちゃんに産んで貰うて、ウチが育てる。」
ワコが泣いている。「いつも、はぐらかして。子供の時約束したやんか。ウチが兄ちゃんのお嫁さんになるて。花嫁衣装着んでもええんや。ウチは兄ちゃんが欲しい。兄ちゃんの子供、産みたいんや。澄子さんも、正妻もエエて言うてるやんか。」
門田さんも泣いている。「私も高齢出産だから、諦めてる。愛情あれば、何でも乗り越えられるよ。」
総子が泣いている・・・なんで?
「ウチも、亭主が高齢やから可能性が低い。幸田。判子、押し!所長夫人命令や。」
何で?なんで、こうなる?
「幸田、幸田、大丈夫か。」
俺は所長に、たたき起こされた。
そうか。
姉の八重子は、急逝した。誤嚥性肺炎を起こし、悪化したのだ。
車椅子生活をしていた病院で、亡くなった。
間に合わなかった。俺は、仕事で遠出をしていた。
弱っている兆候が無かったと思っていたのに。
運悪く、和歌山県の案件でとんぼ返りの途中で、病院の看護師から連絡が来た。
よりによって、相談者の間男は和歌山の人間だった。
せめて、案件が大阪だったら、と悔やんでみてもどうしようもない。
俺達は、与えられた仕事を全うする。
姉の容態が悪いようなら、誰かに交替して貰ったが、突然のことだった。
先祖の墓参り行ってないままだった。
その墓に、姉を葬ることになろうとは。
「幸田、幸田、大丈夫か。」
俺は所長に、たたき起こされた。
そうか。
事務所か。
「所長。墓参りって、夕方でもいいんでしたっけ?」
横から花ヤンが言った。
「幸田さん、気は心やで。倉持君はもう帰ったから、何やったら付き合うで。」
俺は、澄子を拾って、花ヤンと3人で墓参りをした。
ごめんやで、姉ちゃん。
まだ、『手かけ』、よう作らん。
墓碑に向かって、俺は心で呟いた。
ー完―
ワコが泣いている。「いつも、はぐらかして。子供の時約束したやんか。ウチが兄ちゃんのお嫁さんになるて。花嫁衣装着んでもええんや。ウチは兄ちゃんが欲しい。兄ちゃんの子供、産みたいんや。澄子さんも、正妻もエエて言うてるやんか。」
門田さんも泣いている。「私も高齢出産だから、諦めてる。愛情あれば、何でも乗り越えられるよ。」