まあええ。帰ったら、澄子に愚痴ろう。
○月〇日。
門田警視と倉持の結婚が決まったのはいいが、倉持はふわふわすることが多くなった。
俺は仕方無く、ハンドルを握ることが多くなった。
こういう時、片方しか運転出来ないようだと、融通が利かない。
だから、南部興信所の入社条件は運転免許証を持っていて無事故・無違反が一番の条件だ。
二番目は社交性。倉持の前に入社してきたヤツは、妙に暗かった。
ある日、連絡が途絶えたからアパートに行ったら、夜逃げだった。
所長は、同情して大家に「ツケ」を払った。
倉持は、あらゆる面で優等生やった。ついこないだまでは。
まあええ。帰ったら、澄子に愚痴ろう。
クルマの前に人が倒れた。
はねた訳ではない。俺は、救急車を呼ぼうとスマホを持ったが、倉持が119番して、俺に合図を送った。
何となく、腫れた顔をしているので額に触ったら、少し熱い。
倉持は我に返ったのか、119番の後、すぐに所長に電話をした。
救急隊員に事情を話していると、倉持が「所長が、幸田さんに任せて僕に帰ってこいって言ってました。」と報告してきた。
「じゃ、クルマ頼む。安全運転でな。」
俺は救急隊員に向き直って、「家族が到着するまで付き添いますわ。」と言い、救急車に乗った。
救急病院に着いて、俺が検査待ちしていると、娘さんらしき人が来た。
「今、検査待ちですわ。熱中症ちゃうか、って話です。」
俺が事情を話すと、「そやからエアコンつけなアカンて言うてるのに。」とボヤキだした。
「あのー。持病は?娘さん。」
「腰と膝に持病があって、整形外科に通院しています。」
点滴が始まった。倒れた大田原さんは唸っていて、娘の葉月さんは、オロオロしている。
点滴が終るまで時間がかかりそうなので、俺は鍼灸院を開院している、高校の先輩にロビーからスマホで電話した。
「腰と膝に持病があるんやな。幸田。本人が話せるようになったら、確認しい。『エアコンキツすぎるんか?』って。」
「エアコン、キツすぎ?」「そうや。高齢者はな。若いもんと使い方変える必要があんねん。テレビとかで。高齢者が亡くなって、エアコンつけへんからやって、死んだ人をアホにするけどな。同居してるか、時々来る親族の責任問題やねん。年齢サーチ出来るエアコンあるか?病気によってモード変えられるエアコンあるか?需要がないと思って付けてへんだけや。メーカーは。メーカーにクレーム入れるより、自衛手段考えた方がええ。通院している診療所聞き出して、診療所から説得して貰い。こういう時はな、素人の他人より、玄人の他人や。診療所の先生がうんと言わへんかったら、十津川先生に間に入って貰い。分かったな。」
「ありがとうございました。先輩、助かります。」
俺は、話せるようになった大田原さんに、「先生に冷房の使い方を教えて貰いましょう」と説諭した。
そして、「冷房がキツすぎると、途中で切ることがあるそうです。電気代の問題やない。今の冷房は『冷暖房の切り替え』と『温度調節』『風量調節』はあっても、工夫が必要なんです。」と弁護した。
翌日。事務所に大田原さんから。お礼の電話があった。
主治医のアドバイスで、リモコン付きの扇風機と、薄すぎない夏布団を購入、娘さんはガミガミ言わなくなった、と言う。
今は、何でも「テレビという神様」に柏手打って、お賽銭上げれば御利益が得られるという信仰が流行っている、と十津川先生は笑っていた。
―完―