新・中年探偵幸田の日記   作:クライングフリーマン

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中年探偵は行く31~40

31.【暴れん坊小町】

 ○月〇日。

 俺は、気になることがあって、花ヤンと横ヤンに調査を依頼した。

 本当は、身内に依頼はしてはいけないことにはなっている。

 これは、この業界ではよく知られた『暗黙のルール』だ。

 だが、そんなことは『建前』に過ぎない。

 俺が気になったのは、EITO大阪支部からEITO東京本部へ搬送した、京都府警の刑事だ。通常、合同捜査本部になっても、捜査員の刑事は、飛行機か新幹線だ。京都なら、新幹線が妥当だろう。

 澄子の店に、花ヤンと横ヤンが入って来た。

「幸田はん。分かったで。同期の刑事に聞いたら、簡単に教えてくれた。京都の東山警察署の神代チエ警視は、東山警察署の娘で、本名は戸部チエや。神代は通り名やな。まあ、それはともかく、『暴れん坊小町』で知られてる。」

 花ヤンに続いて横ヤンが言った。

「『キラーワード』は、『親の七光り』または『親』。」

「それって、かなり短気やっていうことですか?」と、澄子は言った。

「短気のsでいかどうかは知らんが、かなり『走り』、あ、今は『徒競走』か。徒競走は早い。そやから、小中学校は陸上部やった。高校は柔道部と剣道部。」

「花ヤン、それって、足くじいてオリンピック諦めたクチ?」と、俺は尋ねた。

「ちゃうちゃう。もう警察官になる気でおったらしい。」

「巡査拝命した途端、スリ・かっぱらいのグループ13人をお縄にしたらしい。」と、横ヤンは面白そうに言った。

「何せ、オリンピック級の速さや、あっという間に逮捕したらしい。今回のことはナア、神代宗佑警視正、詰まり、神代署長が小柳警視正に頼んだらしい。」と、入って来た佐々ヤンこと佐々刑事が言った。

「神代署長には、小柳警視正は昔世話になったらしい。」

「3人とも『蛇の道は蛇』でっか。」と、俺が感心していると、「まだ続きがあるねん。聞くつもりはなかったけど、聞いてもうた。暴れん坊小町がEITOに出向になるって。」と、佐々ヤンは暴露した。

「総ちゃんと、どっち強いやろ?」と、澄子が言い、俺達4人は腕を組んで考え込んだ。

 

32.【鳩と婆ちゃん】

○月〇日。

「只今―。早朝から疲れたわ。」

「お疲れさま。」と、澄子は、俺にドリンク剤を差し出した。

後が恐いが、まあ、有り難い。今朝の一件を澄子に話してやった。途中、わらび餅を出して来た。

「やっぱり。『亀の甲より年の功』やね。流石、南部さんやわ。結局、お婆ちゃんは、猫が可哀想とか、鳩が可哀想で餌あげてた訳やないのね。」

「うん、所長が、何匹に餌あげてた?って尋ねると、最初の頃のことしか覚えてなかった。つまり、淋しいストレスが解消されれば良かったんや。」

そこへ、倉持がやって来た。

「倉持君、これ、お食べ。」と、澄子は倉持の分のわらび餅を差し出した。

「ありがとうございます。」「で、どうやった?」

「喧嘩の原因は、亡くなったご主人ですね。ご主人の遺産を相続する時、生前贈与しろと、娘や娘の連れ合いが言い出したらしいです。で、一人暮らし。先輩、本当に吉本知事が、あの富樫お婆ちゃんに、猫をプレゼントするんですか?」

「んな訳はない。そんなんしたら、後でぎゃあぎゃあ言われるがな。所長のポケットマネーや。お婆ちゃんは、大した罪にならんやろう、って佐々ヤンが言ってた。何せ大量の鳩は、あの半グレと、半グレと組んでるNPO法人や。だんだん増やして、騒ぎ立てる計画やったらしい。お婆ちゃんは、利用されてたんや。増やしといて、大量の鳩がー、可哀想な鳩がーって騒ぐ、所謂マッチポンプは見事に見破られた。まあ、最初におかしい、って言い出したのは、芦屋総帥やけどな。そやから、マジシャンみたいに、鳩をさらうことになったんや。鳩は、鳥でも際だって『鳥目』や。そやから、一瞬暗くなると身動き出来んようになる。マジシャンの登場自体がマジックや。胡椒弾をついばんだ鳩は、どうしたらいいか、固まった。そこへ。暗闇。『鳩は巣に戻せ』って言うから、アジトに運んだら、あいつらパニクって、殺してしまうた。文字通り『自業自得』。麻薬やら拳銃やら、オマケで出てくるに違いないで。あ、マジシャン言うのはナア、この間、東京の事件で捕まった、元マジシャン麻生海の娘や。総帥の『鶴の一声』で、二美さんがオスプレイで運んだんや。因みに、テグス張ると、寄って来なくなるのは、鳩には『見えないバリア』に思えるかららしい。」

「鳩の一声やなかったんや。」「うまいこと言うな。」

「名コンビですね。」と、倉持が言い、皆で爆笑した。

 

33.【マスク着用殺人事件】

「只今―。」「お帰り。」「悲しいわ。」「何が?」

 澄子の質問に、俺は事件のあらましを話してやった。

 ある高齢者の男Aが、別の高齢者の男Bを殴り殺してしまったのだ。

 高齢者Aは、所謂「マスク真理教」である。宗教団体ではない。宗教じみた「思い込みによる依存症」なのだ。

 コロニーはもうとっくに終っている。コロニーが5類に下がった時、厚労相は「自己判断で」と発言してしまった。

 そんなあやふやなことを言うから、旧テレビ局体制で「マスクは必須。高齢者は特に着用しないとコロニーにかかる」という、根も葉もないガセが拡散してしまった。

 現状に対する弊害を重く見た市橋総理が、「医師の指示の無い人は、出来るだけ外しましょう」と電波オークションの後、発言したのだが、一部マスコミは「まだ終っていないから必要だ」と喧伝した。それを鵜呑みにした高齢者が「信念」のように、「マスクを未着用の者はウイルスをばら撒こうとしている」などという妄想を持っている。

 医師や看護師が、患者に治療する前にバッタバッタと倒れる「バイオハザード」状態なのか?呆れるばかりだ。

 その男Aは、他の診療所でマスク着用を強要されたらしい。

 だから、Bを許せなかった。

「藤島先生も、東京の池上先生も、マスク外そうデモに参加したよ。でも、まだ、そんなアホがおったんやな。」

「マスクはひとに移さない為のもの、って言葉を知らないのね。マスクしててもしていなくてもバリアになる訳ではないから、うつされる可能性はある、って話。」

「やりすぎました、ってさ。よく言うよ。」と言いながら。佐々ヤンが入って来た。

「全日本医師連合が悪い。未だに『幽霊病床』で儲けている。次の疫病が流行りだした時、また嘘出任せが蔓延するやろうな。」

「アホに付ける薬はないちゅう事やな。」

「あのー。」

 奥のテーブルにいた、男がやって来た。

「私、こういうもんですが、今の話、詳しく聞かせてもらえませんか?」

 男の手首に、一美の手錠がかかった。一美は、従業員に化けていた。

「煽り屋半兵衛こと、碇半兵衛やな。逮捕したの、別嬪さん出よかったな。」

 男は、皆が笑っていることで状況を察したようだ。

「あ。連行の前に精算していってね。」

 澄子は、しっかり女房や。

 

34.【スパイダーウーマン】

 ○月〇日。

「あれは、スパイダーウーマンやな。蜘蛛降りて来たかと思ったさかい。」

 今日の花ヤンは饒舌だ。福島の介護施設強盗事件の際、居合わせたからだ。

 居合わせた、というのは正確ではない。選挙妨害事件の、大声でヤジとばす連中を見飽きた花ヤンは、少し離れた所の人の落下事件を目撃した。気づいた人が110番したようなので、様子を見守ることにした。誰も110番しないようなら、自分が110番しようと思っていた。何しろ、今は南部興信所の調査員やが、元は阿倍野署の刑事や。長年巡査部長やったが、定年間近で、東京に転勤。EITOに協力した功績を認められて、定年間際に警部補に昇格。正に「たたきあげ」や。

 混雑が原因で、なかなか緊急車両が来ないから、やきもきした。

 何せ、ビルに人がぶら下がっている。既に1人落下しているのだ。早く何とかしてやってと神頼みしていたら、何と天使が舞い降りてきた。

 いや、EITOエンジェルズや。1人は、南部興信所所員でもあり、南部所長夫人の総子に違い無いが、もう1人は誰か?その内、ビルのあちこちを走るEITOエンジェルズが見えた。バトルか?ビルの中は不利ではないのか?

 あれよあれよ、と見ている内に、そのぶら下がりは救出された。

 後で、佐々ヤンこと佐々一郎に尋ねると、選挙妨害は囮だったようだ。

 EITOエンジェルズのメンバーで救出されて良かった。

 総子の相棒は、何と、少し前に俺に聞いた『暴れん坊小町』だったらしい。

 興奮して話す花ヤンの肩を叩く者がいた。「呼んだ?花ヤン。」

 総子だった。小町を紹介された。成程、斎王を演じただけあって、別嬪だ。あの祭りの『斎王』というのは、ミス何チャラの相当する美人だ。ブスは選ばれない。

 ところが、容姿とはちぐはぐなことに、『口が悪い』。腕力も暴力的に使う。

 いつしか『暴れん坊小町』と呼ばれ、恐れられるようになった。あまりに悪名高いので、小町の父親の、署長は、小柳警視正経由でEITOの出向を命じた。

 皆が、厄介者でお荷物の筈の小町を敬遠したが、総子はビンタ噛まして、一発で大人しくなった。総子が成長したのか、小町が図太いのかよう分からん。

「ええ部下持ったな、お嬢。」と、俺がからかうと、「うん。幸田より役に立で。」と総子は返した。

 そらそうや。いくらベテランの探偵(調査員)でも、アクロバットは無理や。

 俺はふと倉持を見た。倉持は、ずっと小町を見ている。

 いかん、暴れん坊小町どころやない、『メデューサ』や、倉持は石になっている。

 

35.【結婚祝い】

○月〇日。午前9時。南部興信所。会議室。

 会議室と言っても、実は、衝立で仕切ったテーブル。今日は全員が揃って、所長からの話があった。

「と言う訳で、50年かけて、ゴールイン、や。どうせ財産継ぐ者もおらんから、って引き出物も派手やったらしい。ウチはカタログが届いた。新婚旅行は、天童さんの怪我次第や。」

「所長。重症やないんですか?」と,俺は所長に質問した。

「左腕を貫通。運動神経がええから、咄嗟に左腕で庇った。敵は正面から顔を狙ったらしいから、普通なら即死やな。ヤクザの鉄砲玉が人違いで狙ったらしい。」

「人違いで殺されたら、たまらんなあ。」と、花ヤンが言った。

「人違いで殺されたら、たまらんなあ。」と、横ヤンが言った。

「それ、今、ワシ言うたがな。」「あ。同感ですぅ。」と、横ヤンが訂正した。

「幸い、貫通したのと、所謂『神経』は切れてないらしい。けど、リハビリせんことにはなあ。お仲間の、EITO大阪支部で師範やってる松本さんは、今朝新幹線で向かったよ。新婚旅行は大阪の予定やが、いつになるかもしれんからな。ああ、それから、中津さんが婚約したらしい。中津興信所の所長やってる、中津君やなく、兄貴の中津警部や。お相手は、本庄弁護士らしい。」

「ウチも初めて聞いたけどな。2人は学校の同級生らしい。まあ、50年越しには勝てんけどな。」

「所長夫人と違って、奥ゆかしいわな。」と、俺は、お嬢を弄ったが、「何てええ。」と、お嬢は冗談で返した。余裕やな。

 倉持がケラケラ笑った。俺は、思わず先日の、倉持と小町の出逢いを思い起こして妄想した。イカンイカン。

「ほな、分担な。花ヤンと横ヤンは淀川の殺人事件の目撃者捜し。倉町と幸田は、この依頼者の浮気調査や。」

 所長は、データ書類を俺に手渡した。女房はブス、旦那は醜男。似合いの夫婦やないか。金も絡んでいるのかな?

 午後7時。

「ただいまー。」今日も、何となく一日が終った。今日は、店の方でなく、俺のアパートの方に帰った。

「あんた。まだやったわ。」どうせ、「妊娠してるかも?」と言って、藤島病院に行ったのだろう。

「鶏やあるまいし、ポンと出てくるかいな。」と言うと、ドリンク剤を渡された。

 滋養・強壮にいいか知らんが、子作りに即効性がある訳やない。

 黙って、飲み干す。こいつと一緒になると覚悟したんや。こいつの夢は叶えてやりたい。何年も兆候なかったら、里親になるしかないかな。そや。結婚祝い、どうしよう。あの蒲鉾屋の『上等の蒲鉾』にするかな?

 午後9時。

 寝床を敷きながら、澄子は、「警部も年貢の納め時か。」と言った。

 うんと頷き返して、ん?となった。何で、朝礼の話を知ってる?

 あ。お嬢か。『しゃべり』やさかいなあ、あいつ。

 

36.『管理責任』

○月〇日。

「日本やったら、『泣き寝入り』やろなあ。」と、新聞を広げて・・じゃなかった、スマホのニュース画面を見ながら、俺はぼやいた。

「どうしたん?」と、澄子が覗く。

「へえ。そんな規則、きついなあ。」

 スマホのニュースは、アメリカで子供に潮干狩りをさせていた親が、規則以上にハマグリを採ったことで罰金刑を食らったというもの。日本には、そんな規則はない。〇〇狩りというのは、時間制限が優先。色んな制約あっても、管理しているとこが『管理責任』を問われる。管理責任は、基本的に親にある筈。立ち入り禁止区域でも入って行く方がおかしい。

 最近は、我が儘言ウタもん勝ちやったもん勝ちや。マナーの悪い外国人が話題になるが、日本人でもマナーやエチケット守らない奴の方が多い。

 澄子にそのことを話すと、「基本的に性悪説」の世の中やな。あんた。この間聞いた話やけどナア、独居やったお婆さんを家族が施設に入れて、飼っていた犬や猫をほったらかしにしてたそうや。息子が。昔、お婆さんが淋しいやろと言って、プレゼントしてた犬や猫らしいけど、ろくに世話もできへんのにプレゼントされて困ってたらしい。そこへ持ってきて、家を出ることになった。で、ペットは置き去り。そんなん、エゴやん。息子は、後のこと何も考えへんかった。近所の人が見るに見かねて、『ナンチャラ動物基金』とかいうとこに相談して、預かる場所やないけど、個人的に代表が飼うことになったらしい。」

「そうか。息子も飼う余裕がないかも知れんが、里親捜したったらよかったのにナア。」

「そやなあ。」と、横から横ヤンこと横山が言った。花ヤンこと花菱も一緒だ。

「びっくりした。いつから聞いてたんですか。」「潮干狩り、から。」「呆れた。」

「人間の『置き去り』についての調査が来たわ、幸田さん。わしらのカンでは、犯罪に巻き込まれたんやなくて、認知症で施設から逃亡してしまった口やな。」

「ほな、人海戦術やな。澄子、行ってくるわ。」と、俺は、澄子に言った。

「行ってらっしゃい。」送り出す澄子の声に「俺は、置き去りにせんといてくれよ。」と、俺は心の中で呟いた。

 

37.【臨機応変】

○月〇日。

 俺は、EITO大阪支部隊員の用賀隊員と芦屋二美隊員の結婚式に出た。

 俺と澄子と倉持、花ヤン、横ヤンは、2次会替わりに、澄子の店に寄った。

「ホンマによう似てるナア。メイクしてても、芦屋三姉妹は、そっくりや。」

「まるで、三つ子みたいやな・・・って、三つ子やないかーーーーい!!」

 花ヤンと横ヤンは、まるで漫才のような掛け合いを見せた。

「綺麗でしたねえ。」と倉持は、思い出して言った。

「倉持。俺に内緒で付き合っている女、いやへんやろな?」

「とんでもない!彼女出来たら、真っ先に報告しますよ。」

 そう言った、倉持に「馬場みたいな例もあるからなあ。」と、俺は言った。

 馬場とは、EITO東京本部の隊員のことで、暫くの間、EITO大阪支部にオスプレイ操縦士とホバーバイクのドライバーを兼ねて、出張に来ていた。

 馬場は、別れた金盛隊員とよりを戻したが、遠距離恋愛になり、落ち着かなかった。

 理事官と大文字伝子さんの計らいで、本郷弥生隊員とトレードになった。

 馬場は、ある歌謡曲が好きで、カラオケに連れて行くと、その曲ばかりを歌っていた。

 それほど、未練が強かったのだ。

 倉持は、この上ない、いい後輩だ。澄子が家出あいた時、必死になって探してくれた。

 いつか、パートナーが出来たら、喜んで祝ってあげたい。例え、相手がワコでも。

 あ。あれは、夢やったな。

「EITOも南部興信所も、職場恋愛は、御法度やない。尤も、所長と所長夫人は職場結婚やけどな。」と、言って俺は笑った。

「幸田さんは、前から知ってたの?」と、後から入った横ヤンが尋ねた。

「知ってるも何も、総子が所長の部屋に夜這いしにいくとこ目撃しましたがな。」

「えーーーー。凄いな。」と、横ヤンが改めて驚いた。

「ほな。私と同じやな。前から狙ってたんや。ただの常連で終らせたない。そう思って『冒した』んや。」

「澄子。人前で自慢することか?まあ、身内同然やけど、皆。」と、俺は鷹揚に笑った。内心は『堪忍してや』だったが。

「新婚旅行は、行かないんですか?あの二人。」と、倉持ふぁ助け船を出した。

「今の所はな。『子作り』する時間が欲しいから、休暇くれって、大前さんに行ったらしい。それで、この前の事件は不参加。呆れてたわ。普通は、『有給休暇下さい』って言うだけやのに。ウチは変わりモンばっかりや、って。」

「そういう、コマンダーかて、ノリちゃんに手エ出したんやろ?」と、花ヤンが言うので、「ちゃうちゃう。澄子や総子と同じ。総子と二美が唆して、夜這い。」

 俺の言葉に皆「へーーーーーー!!」と感心した。

「何か、表が騒がしいな。」と、横ヤンが言った。

 表に出た俺は、ピンと来た。隣の那珂国料理店だ。ある貼り紙を見た那珂国人が差別だと騒ぎ出したのだ。

「澄子。あれ、持ってきて。」澄子は、俺が以前書いた貼り紙を持って来た。

「仲村さん、コレ貼りや。」

 俺が書いた貼り紙には、こう書いてあった。

【那珂国人のお客様へ

 ウチには、那珂国語を普通にしゃべる店員がいません。料理のオーダーも間違うかも知れません。通訳の方同伴でご来店下さい。また、料理によっては、『持ち帰り』もかのうです。尚、店内で他のお客様のご迷惑になる行為を発見した場合、国籍民族を問わず、警察に通報、逮捕連行して頂きます。料理の代金は『公平に』頂戴致します。

 】

 そして、便乗した、悪辣系New tuberに向かって、「ヘンなことしたら、テロを見ました、って証言するよ。」と言った。

 カメラを持った、ご一行と、問題を起こしている那珂国人は去って行った。

 隣の仲村さんは、何度も何度もお辞儀をした。

 澄子の目が輝いている。しまった。今夜は地獄や。

 

38.【逆恨み】

○月〇日。

 俺は、澄子の店にやってくるなり、大きな溜息をついた。

「澄子。1本つけてくれ。」澄子は、何かあったのだと判断して、こういう時の為の二級酒をコップに入れてだした。

「なんでや?なんでやねん?」倉持も澄子も辛抱強く俺の言葉を待った。

「保護司の先生が殺された。」「知ってる人?」「うん。刺した被疑者は飯室孝史35歳。深度先生は、親身になって世話してた。先生が世話した工場の社長は、エエ人や。先生もええ人や。でも、工場でイジメに遭った。直接やない。陰で言うてるのを聞いてしもたんや。『前科もん』と言うのを。工場は2ヶ月で辞めた。面接の日。飯室は先生を刺した。心臓に刺さった。例のナイフガンやない。出刃包丁や。本庄先生は、最初嫌がった。でも、『情状酌量』で争うらしい。心ない言葉にパニックになって、追い詰められた。それで、逆恨みで深度先生を刺した。工場の従業員達は、誰もそんな事言うてない、って言ってる。でも、似たケースは、世間ではザラや。他の、深度先生に世話になった人らに聞き合わせた。先生はエエ人、他の答はない。この人にやったらついていけるのかなって思わせる人や。誰かが殺されたとき、他人に恨まれる人や無い、ってよく言う。でも、『逆恨み』に正当な理由、正義はない。」

「その通りや。」と澄子が言い、店の入り口に立っていた本庄尚子弁護士が入って来た。

「あ。先生。結婚おめでとうございます。」澄子は、慌てて奥に行き、結婚祝いの『粗品』を差し出した。

「ありがとう。幸田さん、花ヤンと横ヤンのお陰で、『前科もん』発言のご当人を見付けたわ。南部興信所のお陰ね。裁判の行方は分からないけど、一歩前進よ。」

 澄子は、コップを倉持と本庄先生に配った。

 

39.【救われない魂】

○月〇日。

午前中の調査を終った俺は、倉持と澄子の店でランチメニューを食べることにした。

ランチメニューと言っても、簡単な定食で、1種類のみ。売り切れ御免。

でも、近くの工事で来ている労働者には好評だった。

隣の那珂国料理の店も、あれ以来トラブルはない。流石に毎回通訳随行では、利用しにくいのだろう。世間も、あの連中より店の主人に好意的だった。

外で大きな音がしたので、慌てて俺達3人は外に出た。追突事故だ。ガレージの前なのに。そして、運転席を覗くと、どちらの自動車もドライバーがグタッとしている。

倉持が、俺の指示を待たずに110番した。救急車も必要だ、と言って。

那珂国料理の店の主人も出てきた。

「こんなん初めて見た。前の車、山中さんの車みたいやな。車庫に入れようとしたのかな?」

澄子の店の前は、貸しガレージで、右側に5台、左側に5台。計10台の自動車が入る。やがて、サイレンの音が聞こえてきた。

俺と倉持は、手分けして緊急自動車を誘導した。消防車が入って来て、パトカーは路地の後方に駐車した。

引火している様子がないので、点検後、消防車は出ていった。

代わりに救急車がやって来た。救急隊員は、「絶命している感じやけど、規則やから、救急病院に搬送します。」と警察官に言い、救急車は出ていった。

パトカーからやってきたのは、以前心斎橋署で見た警察官だった。転勤か。確か、六角さんとか言ったな。

「幸田さん。久しぶりですねえ。この車両の運転手は、さっき免許証で確認しましたが、山中忠さんですね。」

「ええ。そこのガレージの左側の列の一番奥です。入れようとしたのか出ようとしたのか、後ろのクルマにオカマされてますね。」隣の主人は言った。

「通報してくれたのは、幸田さんですか?」と、六角さんは尋ねた。

「ええ。」本当は倉持だが、細かいことだから問題はない。

「後でまた、状況確認させて貰いたいんですけど。」

「あ。それやったら、ここに来て下さい。」俺は、新しい名刺を六角さんに渡した。

午後7時。

六角さんは、横ヤンと一緒にやって来た。

「ロクさんは、同期やねん。興信所にも連絡来たさかい、一緒に来たんですわ。」と、横ヤンは言った。

「2人とも死んでましたわ。追突原因も不明。死因も追突やなくて、追突する前に薬物で殺されたらしい。追突した方のドライバーはクリーニング店の主人、柳瀬達夫。お蔵入りしそうや。もう、いかれこれやわ。」

いかれこれ。久しぶりに聞くなあ。ロクさんは、泉州出身か。

晩飯を食べながら、澄子は言った。

「確か、山中さんはサラリーマンで、家族がないから、『俺の入る墓ないんや』って、よう言うてたわ。遺族は親類になるやろうけど、山中さんの代わりに墓守られへんかったら、墓仕舞いになるって言ってた。」

「俺も、お前と一緒にならんかったら、山中さんと同じ運命やったよ。」

「ああ。レッカーでクルマ運んだ後、ガレージの貸主の八島電気のオヤジが来てな。家賃減るなあ、やて。嫌なオヤジやで。」

「この世は人情、紙風船、か。」

俺は、視線を感じた。視線の先には恋女房がいた。目が輝いていた。

あの世でも、ギラギラ目が輝くんやろうか?

 

40.【夜店】

○月〇日

 近所の神社で、一足早く、夜店が出ると言う。

 梅雨入りしたとは言え、夜でも暑く皆参っている。

 そこで、宮司は、適当な理屈をつけて。夜店を出してお参りさせることを企画した。

 勿論。雨天中止。

 幸い、今夜も明日も降らない予報だった。

 俺と澄子が、風船ヨーヨー釣りを探していると、見たことがある男が走って来て、その前方をバッグ抱えた『ギャル』が走っていた。

 俺はトオセンボをしようとしたが、俺の前に澄子が仁王立ちし、何と『張り手』でギャルを倒した。

 どすこい!

 ギャルは一撃で倒された。「倉持。ひったくりか?」「はい・・・奥さん、強いなあ。」

 間もなく、ひったくりに遭った老婦人がやって来て、警察官も駆けつけた。

 顔見知りの板尾巡査だった。「助かります、幸田さん。こいつ初犯と違いますねん。」

 やがて、もう1人の警察官もやって来た。ギャルは暴れたが、俺の顔を見て大人しくなった。

「あんまり、暴れたら、盲腸の傷口開くで。」と、俺は言ってやった。

 昔、藤島病院で俺が外科手術したとき、たかが虫垂炎でごねた、ヤンキーだった。

 板尾達は、クスクス笑いながら、逮捕連行して行った。

 野次馬達からも失笑されていた。

 倉持と別れた後、夜店を回って、風船ヨーヨーは上手く釣れなかったので、買って帰った。

 澄子は、子供のようにスヤスヤと眠った。

 ふとスマホを見ると、南部所長からのメールが届いていた。

 明日朝イチの新幹線か。やれやれ。

 あのヤンキーの行く末を考えている内に、俺も深い眠りに入った。

 ―完―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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