新・中年探偵幸田の日記   作:クライングフリーマン

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俺と倉持は、依頼人を連れて、辻友紀乃先輩のところに来ていた。
依頼人である女性は、浮気現場に踏み込むや否や、浮気相手と取っ組み合いになり、女子プロレスラーみたいな体格に負けて、怪我を負った。



中年探偵は行く61~70

61.怪我の光明?

○月〇日。

俺と倉持は、依頼人を連れて、辻友紀乃先輩のところに来ていた。

依頼人である女性は、浮気現場に踏み込むや否や、浮気相手と取っ組み合いになり、女子プロレスラーみたいな体格に負けて、怪我を負った。

病院に連れて行こうとしたが、嫌だと言う。

明らかに脱臼しているので、辻先輩に泣きついた。

狭い待合室で、ボーッとして待っている内に、小一時間が経ち、彼女は出てきた。

不自由な手で料金を払うと、彼女は「ありがとうございました。」と、ぼそっと言った。

俺は倉持が呼んだタクシーまで、倉持に付き添うように命じた。

2人が去ると、辻先輩は言った。

「あの奥さんナア、幸田。妊娠してるで。」「え?判るんですか?」

「誰に聞いてるねん。ギリギリまで隠すやろな。まあ、ええけど。」

「え?」「旦那が浮気して1年帰らへんかったんやろ?いつ子作りすんねん。」

「成程。」「黙っておいてやれ。まあ、弁護士の先生には報告した方がいいかも知れんが。」

「先輩。優しいですね。」「ほな、セックスしよか。」

「なんで、そうなるんですか。」「優しい、って言うたやないか。合図やろ?」

「何の合図ですか。」

そうこう言っている内、倉持が帰って来た。

「運転手さんに、怪我してるから、料金は財布受け取って、頂戴して下さい、って言っておきました。」

「ご苦労さん。ほな、先輩。ありがとうございました。」

「うむ。ウチに来て正解やな。整形やったら、半年は通わないかん。念の為、湿布渡しておいた。」

「先輩、やさ・・・ご配慮痛み入ります。」

帰りの車中、倉持は意外なことを言い出した。

「先生に妊娠見抜かれた、って言っておられました。辻先生は、産婦人科の免許も持っておられるんですか?」「アホ。そんなもん無くてもプロや。CT取るより確かや。」

「そうですか。」「今日は家の方に寄ってくれ。」

「了解です。」

澄子は、まだ店は畳まない。店に泊まるか、俺達の家に泊まるかは澄子の気分次第や。

気分次第で、『子作り運動』もするが。

俺のスマホが鳴動した。

「興信所仲間が死んでな。お通夜と葬式両方出るから、俺は明日、休むから、後は頼むで、幸田。」

「所長ですか?」「お仲間がお亡くなりになったそうや。明日は所長不在や。よって、明日は現場集合や。」

「了解です。」

業界は、人の入れ替わりが激しいし、コロニー以降閉業に追い込まれた会社も少なくない。

「ステイホーム」とか、犬みたいに言われて家に閉じこもっていたら、浮気する「暇」がない。

花ヤン横ヤンはともかく、倉持は、よくもっている。あまりに地味で過酷な労働に、堪えられずに辞める者も多い。総子が入社して以来、ウチは誰も辞めてない。

あいつ、案外「福の神」かも。

 

62.公認不倫

○月〇日。

南部興信所で、前回のEITO東京本部の『枝』、つまり小幹部が全員逮捕されたことを知った俺は、今日『浮気調査』の依頼人がドタキャンしてきたので、早退して、藤島病院に来た。

午前診療が終った後で、タイミング良かった。

「旧型コロニーやな。詰まり、風邪や。幸田。ウチのベッド使ってええぞ。ワシは目をつぶる。」

言うことが世間離れしすぎや。辻先輩と言い、藤島院長と言い、藤島ワコとの不倫を勧める。

結婚を早まったか、という気持ちがないでもない。

だが、こう見えても俺は常識人や。なんで「公認不倫」しなくちゃならんのか?

当人がまた、その気になっているような素振りを見せる。

絶対、フェイクや。ワコはカレシを知られたくないから、俺を『ダシ』に使っている。

かといって尾行する気にはなれん。『ミイラ取りがミイラになる』になる。

こう見えても、俺は誘惑に弱い。自慢にはならんが。

風邪薬の処方箋を貰い、精算する時、ワコは胸元を大きく開け、ルージュを真っ赤に引いていた。そして、ウインクしながら言う。

「兄ちゃん、今度いつ来てくれるン?」

「け。怪我した時。」

ワコは口をとがらせながら「お大事に。」と言った。

隣の提携薬局で薬を貰い出てくると、花ヤンと横ヤンの乗った車が来た。

「幸田さん、乗ってく?」「花園町の案件は?」

「チンピラの抗争や。ヤクが関係してないみたいやから現役の駐在らに任せて、帰るとこ。」

興信所の調査員は、喧嘩の仲裁の応援に行くこともある。地域に根ざした職業やから。

俺は送って貰うついでに、人生の先輩方に相談した。

「澄子さん次第やろな。代理母は。アメリカじゃ普通やが、『赤の他人』が条件や。後で揉めるサカイな。」

「横ヤン。代理母って、日本ではまだ認められてへんがな。まあ、これからどう変わるか判らんが。」

アカン。2人とも勘違いしてる。藤島院長も辻先輩も不倫、詰まり浮気を推奨してるんや。

俺は、浮気せんといかんのか?公認で。そもそも、澄子が知ったら、血イ見るやないか。

出来るだけ努力せんとアカン。

まあ、風邪やったら、今日の『お勤め』は免除かな。

よう判らんが、風邪が治りにくくなるのは事実やから。澄子も心得ている。

「ただいまー。」

俺は、開けた玄関をまた閉めた。

風邪で早退するって電話したのに。

地獄や。

澄子は、薄いキャミソールで出迎えた。

あ。風邪薬の処方箋しか出てないのに、ビタミン剤の試供品がたんまり入っていた。

こういう悪戯するのは、ワコだけや。そんな相手と不倫しろてか。

俺は、深呼吸して、玄関を開けた。

澄子は素早く戸締まりをした。

次の日。俺は、辻先輩の治療院に『腰痛』の治療に行くことになった。

だ、誰か、助けてクレー!!

 

63.施設脱走

○月〇日。

「あ。危ない。」倉持の声に、スマホを弄っていた俺は、その方向を見た。

高齢者の男が「自動灯油販売機」の前で自転車ごと、こけている。

ここは、無人のスタンドやない。すぐに待機所から社員が駆けつけた。

救急車は倉持に任せて、俺は、社員と共に高齢者を助け起こした。

どうやら、ポリタンクに灯油を入れて、自転車の荷台に積んで家に帰ろうとして、押して帰ればいいものを乗って帰ろうとして、こけたのだ。

自転車ロープは丈夫なものでないらしく、切れていた。

全部ではないが、ポリタンクの栓が緩かったらしく、灯油がタンクから、こぼれている。

「救急車来たら、付き添って行くわ。出血はしてないけど、骨折してるかもなあ。あ、灯油・・・。」

「あ。こちらで拭き取って、タンクは保管しておきます。確か南部興信所の・・。」

「ああ。幸田です。」と。俺は名刺を社員に渡した。

救急車がやって来た。

俺は、倉持に所長に連絡しておくように指示した。

高齢者は、うんうん唸っているが、上手く話せない。

俺は、救急隊員に事情を話して、救急車に同乗した。

「脚が自転車に挟まれていました。骨折したかも知れません。」と、俺は救急隊員に話した。

病院に着いたが、持ち物に住所の宛もない。お名前カードも持っていなかった。

連絡先を尋ねたが、要領を得ない。しかし、幸か不幸か、この病院に来たことがあると言う。名前はちゃんと言えたので、看護師に伝えてカルテを調べて貰った。

4年前に通院した記録があった。

事務員は、そのカルテに書いてある電話番号にかけたが、「現在使われておりません」というメッセージだけだった。

さあ、困った。

それから、おじいちゃんの、いや、折田忠三さんの身内捜しが始まった。

入院費は、南部興信所が肩代わりし、所長が保証人になった。

俺と倉持は、同僚の横ヤン、花ヤンに協力を申し出、病院、介護施設にポスターを貼った。

ポスターと言っても貼り紙だ。病院の古いカルテデータからの。

お名前カード所持なら、話は簡単だが、まだ作らない人もいる。

念の為、佐々ヤンには運転免許証データや前科者データにないか確認して貰ったが、外れだった。

口コミと言えば、辻先輩だ。

「お前、熱心やなあ。」「行きがかりでね。どことなくオヤジに似ている感じがあって。」

「ええよ。貼り紙は待合に貼っとく。馴染みの治療客には声をかけとく。自慢の後輩の頼みやからな。」

「恩に着ます。」「おんなと寝ます?」

悪い冗談は聞き流して、クルマに戻ると、倉持が明るく言った。

「先輩。分かりましたよ。流石、先輩のカンはいつも鋭いなあ。足立区の『とおらやんせ』って介護施設に入所している高齢者が行方不明になって、騒いでいたそうです。」

「佐々ヤンの話では、捜索願は出してなかったみたいやが。」

「家族が出そうとしたみたいですが、施設が反対したそうです。介護士の1人が貼り紙見て、こっそり警察に届けたみたいです。やっぱり、体面考えるんですかねえ。保証人の大体の住所が判って、生活保護課が家族に連絡取って、判ったそうです。今年になってから、家族が施設を適当に探して入所させたらしいです。今、病院に向かっているそうです。」

俺は、スマホで辻先輩に状況をかいつまんで話して、倉持と病院に向かった。

病室に向かうと、怒鳴り声が聞こえた。

「あのまま死んだら良かった。マッチ持ってたんや。焼け死んだら良かったんや。」

折田さんは、泣き叫んだ。看護師は、おろおろしている。

所長が、やって来た。

俺が、家族と揉めてることを言うと、病室に入り、家族を連れて出てきた。

横ヤンが、院長に会議室を開けて貰った。

「亀の甲より年の功、任しとき。」

横ヤンは花ヤンと、所長達の会議室に消えた。

廊下で倉持と待っていると、所長と家族が出てきた。

家族は、所長に『立替金』を払った上で、事務所で入院手続きをした。

所長は、「経緯」を話してくれた。

「今年の初め、家族の1人が言い出して、強引に介護施設に入ったらしい。折田さんは、散歩の途中、介護士の隙を見て、脱走した。歩いて「自宅」に帰った、とよ。10キロの行程をな。戦争に行った年代やないが、学生時代「陸上」やってたから脚には自信があった。暫く備蓄で暮していたが、朝晩冷えてきたから、スタンドに灯油買いに行った。流石に疲れが出て、転倒した。そこに幸田が登場、や。」

「それで、これから、どうするんです、折田さん。」

「院長の温情でナア、一週間、検査入院。その間に家族は『訪問介護』の手続きをして、訪問介護士さんに面倒見て貰う。面倒くさいからって、放置した施設をしかるべき訴え起こすって、本庄弁護士が言ってる。ああ、介護の段取りは本庄先生の紹介のケアマネージャーさんがやった。灯油はな。『危ないから止めとき、エアコンにしとき』ではなく、ネット注文することになった。注文と配達とする業者を本庄さんが紹介してくれた。切れる前に、『御用聞き』の注文してくれるらしい。便利な世の中になったな。」

その後、折田さんの家族から手紙が来て、商品券が同封されていた。

《お世話になったままで、ご挨拶が遅れました。私たちは皆、働いていて、父の面倒をろくに見られないものですから、施設に頼りました。ケアマネージャーさんの話によると、施設は『当たり外れ』が大きいそうです。デイケアは断られましたが、訪問入浴は、体が弱ってきたら利用してもいい、と言ってくれました。自転車は壊れてしまったけど、散歩は訪問介護士さんが別料金ですが付き添ってくれます。備蓄が不足しそうな時は、ケアマネージャーさんが紹介してくれた『便利屋さん』が手伝ってくれます。ウチは恵まれている方だともケアマネージャーさんが言っていました。些少ではありますが、商品券は何かの際にお使い下さい。

 

64.辻先輩の恋愛

○月〇日。

「幸田・・・幸田。おい、起きろ!聞いてなかったんか。」

「すんません、うとうとして。先輩の施術は気分が良くなるんですわ。」

「何、ベンチャラ言うてんねん。消費税上がったら、治療費上げるサカイな。」

「上がるんですか?」「上がるんですかあ?お前、脳天気やな。てっぺんにも針打っておく。」

「何の話やったんですか?」

「そやから、私の『おとこ』の話や。来る度に口説きよる。私の豊満な体が気に入ったって。そんなこと言われるの飽きたわ。お前、身辺調査、得意やろ?」

「得意って、仕事ですけど。その男が、何か企んでいるかもしれんから、ということですか。ほな、後日書類持って来ますけど、調査済んでから。何か手掛かりは、先輩。」

辻先輩は、黙って名刺を差し出した。

クルマに戻ると、倉持の他に、花ヤン、横ヤンがいた。

「今、終って事務所に帰るとこやけど。」と、花ヤンが言った。

倉持が、「犬山さんが、また浮気したそうです。」と、言った。

「うーん、今、辻先輩に頼まれた案件、お二人にお願いしても構いませんか?」

「構いませんか?って、ほな、お願いします、って合図かな?」

「まあ、引き受けますよ、『先輩』。」

俺は、二人に事情を話した。

「結婚詐欺くさいな。了解、了解。」

二人は、さっさとクルマを出した。

自分達のクルマに乗ると、倉持が「先輩。辻先輩に惚れてますね。」と言った。

「何や、いきなり。」

「そんな男、鼻であしらうタイプですよ、辻さん。ワコちゃんけしかけているのは、実は・・・かも。」

「そうかな?」俺は、曖昧な返事をした。

実は、先輩から「押し倒された」のは、1度や2度やない。

まあええ。

犬山宅に駆けつけると、鬼の形相の奥さん、犬山さん、パパ活女らしい若い女の子がいた。

犬山は、泣きついてきた。

「どないしょ?」「どないしょ?って言われてもなあ。奥さん、本庄弁護士に入って貰いますか?」

「裁判ですか?」「いや、家裁で調停して貰いますんや。取り敢えず、落ち着きましょ。」

「取り敢えず、実家に帰りますわ。」

俺達は、奥さんの、埼玉の実家に出発した。

一方、花ヤンと横ヤンは、名刺のある住所に行って、たまげた。

一見、普通のビルだが、テナントには、反社が入っていた。

組長は、ギクッとなった。

「サツは辞めてるよ、組長。あんた、本気で口説いてたんか?」

「旦那やから言うけど、ある組織に頼まれてな。鍼灸院を開きたいって言う、本場那珂国の鍼灸師に『開業』させて欲しいんやって。」

「それで、結婚詐欺師みたいなことして、鍼灸院を乗っ取る計画やったんやな。」

「他の鍼灸院に通院するのは、簡単やわなあ。強制はせんよ。」

澄子の店で合流して、花ヤン横ヤンに事情を聞いた。

「佐々ヤンに報告した後、ガサ入れに行ったら「蛻の殻」やったらしいで。」

「逃げ足、早いな。小さな組やからなあ。まあ、辻さんに『悪い虫』付かんで良かったなあ。」と、おでんを頬張りながら花ヤンは言った。

深夜。澄子は、がばっと起きて、「私の『悪い虫』、退治して!!」と言い、俺に迫った。

俺は、殺虫剤持ってない。

 

65.尾行者

○月〇日。

「幸田・・・幸田。おい、起きろ!聞いてなかったんか。」

「すんません、うとうとして。」

「こないだは、すまんかったな、総子のせいで。皆殺し事件の方は、那珂国の『乗っ取り計画』があったらしい。盗聴してしまった歯科衛生士が実家に緊急避難していて、警視庁に録音録画データを提出したらしい。犯人が捕まるまでは、保護する予定やったが、噛んでたNPO法人で捕まえた、って小柳さんからEITO大阪支部にメールが来た。幸田、早引きしてええぞ。」

興信所を出ると、想わぬ再会があった。

いや、相手が興信所に入るかどうか迷っていた。

中学の同級生、武田貢。バブルが流行った時は、同級生の女の子に、よく呼び出された。

確かに、『みつぐくん』に違い無いのだが、実際は『ええかっこしい』に利用されただけで、武田には見向きもしなかった、とぼやかれたことがある。

俺は、喫茶店に誘い、静かな席で事情を聞いた。

武田は、区役所分所の職員。

「どないしたんや、武ちゃん。」「幸ちゃん、おれ、クビやて。温情で今年中は働けるけど。」

「何かやらかしたんか?」「こないだ、選挙あったやろ?」

「うん。」「投票所の管理係、持ち回りで俺の番が来たんや。」「うん。」

「上司がな。帰化人でな。投票者のチェック係のバイトを全部阿寒国人にする言うから、反対したんや。日本人の議員の投票ですからって。しかも、日本人のバイト雇った場合の2割増しの給料で。金のことはええ、ってあんたの金ちゃうやろ?って想った。流石に、それは口にセエヘンかったけど。」

「そうかあ。色んなとこに阿寒国人や那珂国人が入り込んで侵略されているって聞いてたけど。市橋総理が電波オークションした第一の理由は、実は『日本に主権を取り戻す』って意味もあるって聞いたことあるわ。あ。不正投票?」

「そう。投票用通知自体、別個。詰まり、区役所から住民票データを元に送った葉書やない。投票用紙自体、水増しされている。多分、投票率は100%越えるやろうと。」

「それって、以前アメリカであった話に似てるな。あっちは投票マシンやったけど。ネットで『別個の投票用紙』を取り上げてたけど、通知葉書自体偽物で、チェック要員が照合チェックに不正したら、しまいやな。投票、呪われてるのも同じやな。」

翌日。大和川に死体が上がった。

実際は、身元不明のホームレスの死体だったが、俺は小柳さんに頼み込んで、武田の死体ということにした。

武田は、今年、介護していたお袋さんが亡くなり、天涯孤独になった。

俺は、中津興信所の中津さんに段取り付けて貰って、『夜逃げ』させた。

俺は、武田との話の途中で、尾行監視に気づいて、こっそり、応援を呼んだ。

倉持と花ヤン横ヤンが尾行者を『尾行』して判明したのは、反社の会社に彼らが帰っていったことだった。

武田の命が危ない。所長は一にも二も無く賛成してくれた。

引っ越し先は、芦屋グループの総帥芦屋三美が見付けてくれた。

武田は、上司に猛烈に反対したお陰で、スパイと判断され、消される運命だった。

他の区役所では、彼らの思惑通りの『政治』が行われていた。

小柳警視正から吉本知事経由で、市長は独断で区役所の配置転換が決まった。

彼らは、簡単に『解雇』は出来ないが、『転勤』『転属』なら可能だったから。

「新しい職場」で、より活躍して貰うのだ。

武田は、独身だったお陰で、却ってよかったのだ。家族がいれば、奴らは必ず人質にとる。

『でっち上げ』の事件で追放する場合もあるのだ。

『偽の』葬儀で、俺は涙ながら弔辞を読んだ。

大した演技力やで。

 

66.ハイジャック

○月〇日。

俺は、妙な夢を見てうなされてた。自分で判る位に。

目が覚めると、澄子が心配して声をかけた。「あんた、どうしたん?」

「何か悪い夢見たらしい。トイレ行って来よう。明日、早い、頼むで。」

頼むで、とは営みなし、の言外の言葉。澄子は呑み込みが早い。

翌日。関西空港で、午前7時20分発の飛行機に、依頼人の渡嘉敷松矢と搭乗した。

仙台空港に着くと、実家の奥さんと家族が待ち構えていた。

実家で話し合う筈が、空港で話し、渡嘉敷を追い返す為に出張って来ていたのだ。

喫茶店にも入らず、ロビーで話をし、俺は『5回目の浮気』に同乗の相槌を打ち、本庄弁護士に間に入って貰い家裁に行くことで合意して貰った。本庄先生には、既に所長から話を通してある。

結局、家族は帰り、俺は『とんぼ返り』する為にチケットを買いに行った。

渡嘉敷は、暢気に土産を売店で買っている。

12時10分発の飛行機に乗り、朝早かったから、2人とも、うとうとと居眠りしていたが、13時55分に関空に到着出来ないことが起こった。

ハイジャックが起きたのだ。

「みんな、よく見ろ。これが何か判るな?」リーダーと3人の部下は拳銃を持っていた。

「大人しくしていたら、向こうで降ろしてやる。そうで無ければ、窓からバイバイだ。」

「笑えない冗談だな、幸田さん。」左隣の男がそっと声をかけて来た。

「初めまして。ケン・ソウゴだ。あんたの名前は知っていたが、初めて会った。さっき名刺の整理をしていたからな。大文字伝子に連絡は取れるか?」

「間接的なら。」「じゃ、そうしろ。その前に、騒ぎを起こせ。俺が何とかするから。」

俺は、自分で言うのも何だが、判断は早い。

「そやから、言うてますやん。もう5回目でっせ。離婚するしかないでしょ?」

俺は、渡嘉敷が愚図ってないのに、そういう演技をした。

「おい。そこの。自分らの立場が判って無いんか?」

その男が近寄って来たら、ケンは横に退いてから、男に組み付いて倒した。

他の部下2人が近寄ってきたが、上手く交わしたケンは驚いた。

リーダーがいない。リーダーは、操縦室に向かっていた。

俺は、急いで総子にメールした。便名を書き、『SOS』と。ケンが乗っていることも書いた。

ケンが追いついた時(ここからは後から聞いた話だが)、操縦席は開けられ、操縦士と副操縦士を拳銃で殺したが、跳弾で自分自身も動けなくなった。

飛行機は、数分だけ自動操縦で機体を維持したが、すぐに傾き、コントロールを失った。

俺は、機体が揺れる中、必死でメールした。指が震えてなかなか思うように動かなかったが。

ケンは、操縦士を退かせ、自らが操縦を始めた。

俺は、必死に嘘をついた。

「皆さん。落ち着いて下さい。インターポールの刑事が犯人を抑えました。」

CAが走って来て、言った。

「あなたも刑事さん?」「いや・・・探偵です。」

「お連れの刑事さんが、管制塔に連絡を取って、羽田に不時着するから乗客を安心させろと言っています。」

「そうか。」やはり、機体が体制を整えたのは、ケンが操縦しているんだ。

俺は、そのまま芝居を続けて、乗客を説得した。

日本人は、意外と映画のシーンを現実と混同する。インターポールは『警察』じゃない、お役所だ。探偵は、日本では正式な職業じゃない。興信所所員であって、拳銃も持ち合わせていない。

やがて、飛行機は羽田に着いた。羽田で皆が降りた後、空港警察が入って来て、ケンに言った。「パスワードを拝見。イーグル国の・・・成程。御案内します。あなた方も。」

俺達が案内された場所は、飛行機の裏で、オスプレイが止まっていた。

「お疲れ様、偽物さん。」とケンに言う男がいた。

驚いていると、その男がケンを指して「彼の名前はムラサメ・シン。俺がケン・ソウゴ。大文字から連絡があって、俺の部下で親友のムラサメがハイジャックの『処理』していることを知って、ここに誘導したんだ。

側にいた、EITO東京本部の副隊長の一佐が言った。

「大阪支部までオスプレイでお送りするわ、幸田さん。あ、あなたは『身内』じゃないわね。」

一佐は、渡嘉敷に当て身を食らわすと、軽々と肩に背負って歩き出した。

一緒に来たオスプレイのパイロットがクスクスと笑っている。

「取り敢えず、ありがとうございました。」俺は、本物のケンと偽物のケンに礼を言い。一佐に続いた。

16時には到着する、とオスプレイのパイロットは言った。

総子からメールが来た。また、総子に借りが出来てしまった。

EITO大阪支部に到着すると、一美が来ていて、ランボルギーニで渡嘉敷を府警に送った。

渡嘉敷の5回目の浮気相手は、半グレのおんなだった。

渡嘉敷は、会社を狙われていたのだ。

「もてる」と思っている男はハニートラップにかかったら、イチコロだ。

俺は、何故か給食センターのバンに二美に乗せられた。

「お疲れ様。」と言った二美に俺は「はい。」と、素直に応えた。

 

67.センサーチャイム

○月〇日。

俺が澄子の店の閉店を手伝い、暖簾を中に仕舞い込んでいる内、酔っ払いの歌が聞こえた。

ははあ。隣の那珂国風料理屋で、ビールでも引っかけたかと思っていたら、歌声が途絶えた。

どうしたのかと思って、ふと見ると、男は電柱にへたり込んでいた。

ついさっき犬の小便した所で、ズボンが濡れてしまっている。

男の目の行き先を見て、歌が止まった理由が分かった。

俺は、店に引き返して、澄子に110番するように言った。

俺のスマホでも110番出来るが、場所の説明は、固定電話の方が分かりやすい。

どの道、聴取されるのだ。

俺は、酔っ払いに可能な限り聞いておいた。

男は、「焼きそばどころ」から出て、電柱で小便しようとしたら、胸騒ぎがして、振り返ると、死体があった。

付近には、犬一匹おらん。ここは袋小路になっていて、「焼きそばどころ」の前は貸しガレージだ。ホシ(懐かしい響き)は、引き返して表通りに出たことになる。

遺留品があるとすれば、その途中だ。

「焼きそばどころ」って変な名前だが、前に那珂国人に絡まれ営業妨害されたことがあるので、改名したのだ。袋小路にある店だから、所謂『いちげんさん』は少ない。殆どがなじみ客だ。皆、諸手を挙げて改名に賛成した。

中身は、今まで通り、中国風料理店だ。

間もなく、駐在がやって来た。男がしどろもどろの状態なので、先ほど聞いた話を、身分を明かした上で駐在に『通訳』してやった。

「このフェンス、鉄条網ですね。」「前に、犯人が逃げたから、貸主が付け替えさせたんですわ。」

「じゃあ、やっぱり引き返して表通りに出たんでしょうね?」

間もなく、パトカーと救急車が来た。死体でも救急隊員が運ぶことになっている。。恐らく刺し傷で解剖ということになる、と見ていい。

俺は、瞬時に『ナイフガン』のナイフでないことを見て安心した。

『ナイフガン』とは、那珂国マフィアが開発した、ナイフが飛び出す銃だ。

特殊な形の銃だから、量産は出来ない。だが、ナイフは別だ。

最近は、ネット経由で買えるようになった。無論、正規のルートではない。

「アルフィーズ』と名乗る輩が、オツムがアレな若者をけしかけて罪を犯させる。

残酷と言えば残酷だ。学校で刑期のことなんか教えないからな。

待てよ。

ふと思いついた俺は、ホームセンターに走った。

翌日。明け方。

店の玄関先でストーブ焚いて仮眠してたら、寝入っていた。

その俺を起こしてくれたのは、澄子でも倉持でもない。

俺は、店の引き戸を開け、ガレージの近くのフェンスの向こうから、センサーチャイムの光が見えた。

フェンスの所にいたのは、昨日の酔っ払い。持っているのは、血で汚れた雨合羽の上着。

男の向こうに、センサーチャイムの子機を持った警察官や刑事が見えた。

刑事は言った。「調べの後、事務所に連絡します。ご苦労様でした。」

昨日、夕方、雨がぱらついた。隣のオヤジに尋ねると、男はそんなに長居していなかった。

座っていない席の方に、畳んだ雨合羽があった。

これだから、「第一発見者が怪しい」と言われるのだ。

俺は、センサーチャイムをホームセンターで購入し、俺と警察官のチームで子機を持ち、雨合羽に親機をくるませた。

奴が「回収」しに来るのを待っていたのだ。

店に戻ると、ネグリジェ姿の澄子がドリンク剤を差し出し、店の引き戸を閉め、施錠した。

待ち伏せしていたのは、俺達だけでは無かった。

俺は、澄子に「逮捕連行」された。

 

68.禁断の関係

○月〇日。

「近〇相〇?」澄子は、改めて、声を潜めて言った。「近〇相〇?」

「大きな声出しても、ひそひそ話でも一緒や。」

幸い、店の2階でも、ここ自宅でも、隣家と壁の近い家ではない。

「横ヤンも倉持も、びっくりしてたわ。まさか旦那が出戻りの娘と浮気してたなんて。まるでAVの世界や。いやまあ、表だってないだけで世間ではざらにあるケースかも知れんが。3人がかりで3人を引き剥がした。」

「修羅場?」「修羅場に決まってるやん。」

「本庄先生、どう言うてるの?」「まあ、裁判にはならんやろうが、娘次第やろうなあ、って。まあ、実家には帰れる訳もないよな。所長も同じこと言うてた。隣の家の人が、強盗かと思って110番したから、一旦、警察行って、俺と横ヤンで説明したんや。」

「出戻りして、淋しかったんか?娘は。」

「いや、結婚前からオヤジと出来てたらしい。で、婿にばれて、離婚したんや。離婚の調停に立ち会ったのが、本庄先生や。頭痛いって言うてたわ。想定外やったって。」

「まあ、殺人未遂にならへんかったら、不幸中の幸いやわなあ。」

澄子は余計なことを言った。

スマホが鳴ったから出ると、所長だった。

俺は、スピーカーをオンにした。

「幸田。室町さんとこな。親子心中図ったらしい。家に火を点けて。家は半焼やが、全員重傷や。警察が事情を聞きたいって言ってる。室町さん、奥さんの書いた遺書にウチの興信所のことが書いてあって、すぐに連絡くれたんや。今、倉持のクルマ廻したサカイ、至急行ってくれ。病院は、ふじ病院や。」

澄子は、すぐに着替えの服を出した。

厄介やナア。アメリカの探偵は、こんなケースないやろうなあ。

着替えて出ると、もう倉持が待機していた。

「ほな、行ってくるわ。」「気イつけて。」

澄子の、送り言葉が「火イつけて」に聞こえた。

俺も「ヤキ」が回ったかな?

 

69.トップ屋の末期

○月〇日。

兵庫県知事は再選した。

ある週刊誌が、すっぱ抜いた『不倫記事』が元で、未だに『こたつ記事』に頼る新聞が騒ぎ、野党が火を大きくした。

そして、『不倫記事』がデマだと判明すると、マスコミは凝りもせず『パワハラを受けた』という部下の言葉を鵜呑みにして、告発した。

佐藤知事は、恥辱に堪えて辞職。

出直し選挙をした。

丁度、組合の海外研修旅行に行っていた、辻先輩は激怒した。

その部下が言った日時、辻先輩の治療を受けていたからだ。

先輩は、応援演説の議員に割り込んで、選挙カー(街宣カー)の上から告発した。

「鍼灸院で治療中の患者は、テレポーテーション使えません。私が、しっかり押さえつけていましたから。」

観衆は、どっと沸いた。

佐藤知事は、対立候補に大きな差をつけて再選した。

メディアの、見苦しい言い訳合戦が始まった。

辻先輩は、頼まれて偽証したとか、ヤラセとか。

辻先輩も黙ってはいなかった。防犯カメラの当該議員の出入りが映っている映像をBase bookやRedにアップロードした。

実際は、俺が頼まれて(命令されて)、作業したのだが。

ネットでは、『マスメディアの敗北』と騒いだ。

ある日、俺が訪れると、あるジャーナリストがメリケン粉をかけられて逃げ出して来た。

「どういうことです、先輩。」

「あのな、幸田。マスコミは、ホンマ汚いな。『次の選挙に出るんですか?』って言いやがって。またデマ流す算段や。私は、佐藤知事には、あの時初めて会った。あのクソ議員が気に入らんかっただけのことや。人を貶める人間は、人間やない。『ガ〇畜生』や。そうやろ?幸田。」

「その通りです、先輩。ホンマに勇気ある先輩です。」

「で、お前はいつ不倫するんや?」

そうくるか?俺は目眩して倒れた。

気がつくと・・・。

 

69.トップ屋の末期

○月〇日。

兵庫県知事は再選した。

ある週刊誌が、すっぱ抜いた『不倫記事』が元で、未だに『こたつ記事』に頼る新聞が騒ぎ、野党が火を大きくした。

そして、『不倫記事』がデマだと判明すると、マスコミは凝りもせず『パワハラを受けた』という部下の言葉を鵜呑みにして、告発した。

佐藤知事は、恥辱に堪えて辞職。

出直し選挙をした。

丁度、組合の海外研修旅行に行っていた、辻先輩は激怒した。

その部下が言った日時、辻先輩の治療を受けていたからだ。

先輩は、応援演説の議員に割り込んで、選挙カー(街宣カー)の上から告発した。

「鍼灸院で治療中の患者は、テレポーテーション使えません。私が、しっかり押さえつけていましたから。」

観衆は、どっと沸いた。

佐藤知事は、対立候補に大きな差をつけて再選した。

メディアの、見苦しい言い訳合戦が始まった。

辻先輩は、頼まれて偽証したとか、ヤラセとか。

辻先輩も黙ってはいなかった。防犯カメラの当該議員の出入りが映っている映像をBase bookやRedにアップロードした。

実際は、俺が頼まれて(命令されて)、作業したのだが。

ネットでは、『マスメディアの敗北』と騒いだ。

ある日、俺が訪れると、あるジャーナリストがメリケン粉をかけられて逃げ出して来た。

「どういうことです、先輩。」

「あのな、幸田。マスコミは、ホンマ汚いな。『次の選挙に出るんですか?』って言いやがって。またデマ流す算段や。私は、佐藤知事には、あの時初めて会った。あのクソ議員が気に入らんかっただけのことや。人を貶める人間は、人間やない。『ガ〇畜生』や。そうやろ?幸田。」

「その通りです、先輩。ホンマに勇気ある先輩です。」

「で、お前はいつ不倫するんや?」

そうくるか?俺は目眩して倒れた。

気がつくと・・・。

 

70.孤高のヒーロー

○月〇日。

孤高のヒーローが死んだ。

そのヒーローは、学生時代見ていた特撮番組のヒーローだ。

その俳優のことだ。

75歳。まだ若いやんけ。

俺は、ファンクラブ主催の『献花』に行って来た。

クルマは、倉持が仕事で使っている為、タクシーで駆けつけた。

何と、タクシードライバーもファンだった。

俺達は、大いに盛り上がった。

翌日、そのタクシードライバーが新聞に載った。

横断歩道を渡る途中で、息絶えたのだ。

そのタクシードライバーは、運転免許証を返納に行く途中に献花会場に寄った。

俺が最後の客だった。

「事故で亡くなった訳やないから」と、落ち込んでいる俺に、所長も横ヤンも花ヤンも倉持も澄子も言ってくれた。

タクシードライバーは、心臓を患っていた。

俺は、倉持に乗せて貰って、通夜の会場に行った。

驚いた。人々が列をなしていた。

孤高のヒーローの献花に訪れた人々だった。

その1人が言った。

「彼は同志です。命がけで献花に来た。彼もまた、『孤高のヒーロー』です。」

記帳台には、記帳の他に、ファンクラブの名簿があった。

俺は、両方にサインした。

ヒーローは死んではいなかった。

俺達と共に『永遠のヒーロー』たらしめた。

帰って、そのことを話すと、「ヒーロー。見せて。」と俺の衣類を剥がし始めた。

『疲労』なら、見せてるんだが・・・。

 

―完―

 

 




ヒーローは死んではいなかった。
俺達と共に『永遠のヒーロー』たらしめた。
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