81.隠し事
○月〇日。
ふう。俺は、店の2階を整理整頓して、掃除をした。
やれば出来るヤン。やれば出来る子。自分で自分を褒めておこう。
俺は、仕事でのメモや、報告書の下書きを毎日書くが、会社事務所に限らず、自宅や、澄子の店の2階でも書く。
澄子は、文句を言わない。仕事の延長だから。
よく、依頼者のトラブルの原因に、「仕事を家に持ち帰る」というのがあるが、それは家人のエゴだ。
勤めに出て収入を得る以上、残業も持ち帰りも当然のことや。
『5時まで男』の、区役所の職員ではない。
ことに、この興信所の仕事は、タイムレコーダーなんかない。自己申告で、適当に所長が給料出すだけ。
深夜の張り込み当たり前。その辺は、警察官と同じや。
そやから、花ヤンや横ヤンのような元警察官は重宝がられる。恩給はないが、定年もない。
作業を始めたキッカケの、報告書下書きはすぐに見つかっていた。
俺は、ファイルケースに下書きを入れ、鞄にしまってから、引き出しを閉めようとしたら、閉まらない。
さては・・・よくあるケースだ。俺は引き出しを引っ張り出して、中を覗きこんだ。
出てきたのは、写真や。
澄子の、若かり写真や。どこのグラドル?合成か?
俺は、そっと澄子の箪笥の引き出しの奥の方に、その写真を納した(しまった)。
夕飯の後、俺達は風呂に入った。
久しぶりや。この店舗付き住宅は、何故か二階に風呂もトイレもある。
流しっこしながら、澄子は「甘えて」来た。
「掃除してくれたから、サービスするわ。タダやで。」
「タダって、夫婦やないかい。」
「そういう意味ちゃう。」
澄子の目はギラギラしていた。
俺は、漸く、写真が入っていた理由が分かった。
いつか、放り込んだ。俺の、引き出しに。「きたるべき時期」の為に。
俺は、また嵌められた。
澄子は、「しとね」の為に「イメージ」を植え付けたんや。
ビタミン剤、まだあったかな?
ふと、横を見ると・・・。
82.見れ!知れ!噛め!
○月〇日。
「幸田。今、長居公園の近くやな。」
電話の向こうの所長が、いきなり現在位置を決めつけてきた。
「何で分かるンですか?」「お前もEITOのDDバッジ持ってるやろ。」
「ああ、配布して貰ったから・・・あ、東京本部で位置確認出来るんでしたっけ?」
「今、大前さんと替わる。声だけやけど。」
「幸田さん、大前です。1時間半くらい前やけど、堺市の精神科クリニックで傷害事件がありましてね。患者の男が、いきなりナイフを振り回して、院長を傷つけて逃走中です。目撃者と院長の証言から、ナイフガンのような模様が柄に描かれていたようなんです。オスプレイも飛ばしますが、幸田さんも協力お願いします。犯人は今、26号線を北上中です。」
「了解しました。倉持、方向転換や。」
半時間後。
俺達のクルマは、川を越え、住之江区に入ったところで奴のクルマに遭遇。無理矢理停車させた。
間もなく、パトカーが到着。次いで、EITO大阪支部のオスプレイが到着。上空から降りて来たのは、EITOエンジェルズ姿の総子だった。
警察官が、被疑者を逮捕した。
巡査部長らしき警察官が総子と俺に敬礼した。大したもんや。
「EITOエンジェルズのチーフ、南部興信所の幸田所員。ご苦労様です。確認を願います。」
巡査部長は所持品のナイフを俺達に見せた。
俺と総子は頷いた。間違いなく、ナイフガンに使うナイフや。
「了解しました。上司に報告をして、取り調べをします。」
巡査部長は、また敬礼して、パトカーで去って行った。
「東京本部で、たまたまの事故でナイフガンが仰山、押収された。兄ちゃんも小柳さんも気イ立ってるねん。ありがとうナ、幸田。」
「お嬢。ボーナス増やしてくれてありがとう。商品券やったけどな。」
総子は、頷くと、ロープでオスプレイに吸い込まれて行った。
「お陰で、路上喫煙違反者摘発の助っ人に行かんで済んだな、倉持。」
「そうですね、もう4時半ですし。」
「うどん屋寄って、帰ろうか。」
南部興信所所長夫人にのし上がった総子は、EITOという、日本で唯一の『反テロ組織』の隊長もし、二足のわらじを履いている。
たまに、公私混同もするが、エエ奴やで、俺の後輩は。
所長に夜這いしたのは、まあ、犯罪やが、『責任取って』結婚してるしなあ。
俺の周りには、『積極的でない』『つつましい』オンナは1人もおらんな。
83.搾取
○月〇日。
「先輩、何読んでるんですか?」
興信所で、暇つぶしに電子書籍を読んでいたら、倉持が声をかけてきた。
「『モノカキ惨状日吉の日常』。」
「ああ、空堀商店街事件の。」
「熱烈なファンが集まって、電子書籍化されたんや。鎌田さん、サイトに大分恨み持ってたらしい。」
「冷遇されていたんですか?」
「うん。サイトから定期的に自分のアカウントの情報やサイトの情報を送って来ていたが、ある時気がついた。やたら、〇〇さんが□□さんを賛美しました、みたいな『お知らせ』が来る。そのサイトでは、文章を読むごとにスポンサーの広告が入る。読んだ形跡に応じて広告料がサイトに入る。自分のポイントがなかなか増えない原因は、これが大きいんじゃないか、と思った。フォロワー、つまり応援者が少なくないのに、読んだ後のポイントが少ない。何でみんな、フォロワーになったのに、読んでくれないのか?と思っていたが、自分の作品をどう扱っていたのか?と考えて、自分が逐一読むことで広告料が増えて、上位のユーザーだけが配当を受けているんじゃないか、と。自分を賛美した情報は来るものの、他のユーザーに「賛美のお知らせ」しているのか?と。カモやな。」
「読むだけで、広告が出るんですか?」
「うん。そして、里パージとかいうポイントに加算されるのは上位のユーザーが優先になっていく。換金制度は、上位のユーザーの為だけにある。全体の広告ポイント稼ぎで出来た金の分配ポイントやから。分配ポイントがないから、鎌田さんは、一生換金できん。何ポイント以上とかいう条件をクリアできんからな。特別お金に困っていなくても、依怙贔屓であって、公平やない。」
「そんなこんなで、あの事件ですか。可哀想に。」
「この作品は、作者自身の日記みたいなもんや。信憑性がある。不平を言っても取り合ってくれへんから、作品の登場人物に告発させた。フィクションやから、誰も突っ込まれへん。でも、コアなファン、つまり、数少ない『賛美する人』は分かってて、同情していたらしい。親会社が老舗でも、倒産する『根っこ』はあった。電波オークションする前の、あのテレビ局みたいにな。鎌田さんは、政権やマスコミに不満があった。そやから、小説でもエッセイでも批判していた。『憂き目を見る』わなあ、反体制は。」
「それで、何でそれを?」
「ああ。今度の依頼。会社での『えこひいき』が原因らしい。本庄先生が傍証、集めてくれって。被疑者に同情集める情報やな。」「情状酌量ですね。」
俺達がしゃべっていると、花ヤンと横ヤンが帰って来た。
「ほな、担当、決めようか。」
俺たちは、明日からの聞き込みの為の分担会議をした。
84.妻殺し
○月〇日。
東大阪で発生した、心中事件。
夫婦が刺し合って、妻の方は意識がない、と尋ねて来た親類が消防に通報した。
救急車が駆けつけた時、妻の方は事切れていた。
警察は、重傷の夫が無理心中を図った、とみて捜査をしている。
それだけなら、俺達の出番はない。
だが、俺は知っていた。門田(もんた)さんや。
門田さんの両親は2人とも入院していた。
2人とも介護施設に入っていて、虐待された上で入院した。
また、2人とも所謂「寝たきり」だった。
揃って具合が悪くなった訳ではない。
門田さんの父は、コロニーで入院して、門田さんの母は、その翌年、がんが発覚した。
門田さんは、虐待した施設を訴えた。
世間的には、勝訴する筈だった。
だが、敗訴した。施設の社長は雇われ社長で、オーナーは阿寒国人だった。
裁判長は、阿寒国人からの帰化人だった。
国の制度だから、と言えばそれまでだが、最近は、那珂国人の帰化人や阿寒国人の帰化人が多い。彼らは、「日本国民」として生きる「契約」をしていながら、母国の感情で判断する、『オブラート外国人』だ。忠誠心は母国の為にある。
だから、被告が母国の場合、被告に有利な判決を出す。
検事が『オブラート外国人』なら、不起訴にする場合も多い。
被告が、両国でない場合も同様だ。外国人が相手なら、「こうなん(後難)」を恐れて不起訴にする。さ〇たま県で「スラム」を形成し、「独立」を狙っているク〇クル人がいい例だ。
総理が交替しても、『甲良からの指示』がお役所に出回る。それが、『お上からのお触れ』なのである。ナンミンでない民族を強制送還しないで半世紀以上、「伝統」を守ってきたのだ。
最早、司法・立法・行政は歪んでいる。
最悪なことに、門田さんの両親が、入院した救急病院からの転院先は、どちらもオーナーが『外国人』だった。
『可哀想で無い筈の日本人』は、理屈をこじつけて、ワンランク上の料金を取る。詰まり、割増だ。ぼったくりだ。
年賀状でぼやいていたから、大丈夫かな?とは思っていた。
俺は、門田さんの弁護を本庄先生に依頼する一方、辻先輩のツテで情報を集めた。
そして、真実を突き止めた。
門田さんは、法外な医療費の督促を病院から受けていた。
病院は、「第三者」を使った。
札付きの「半グレ」だった。
半グレの会社は、佐々ヤンの同期の2課の刑事達が、ガサ入れした。
俺は、現場に行った。「野次馬」として。
「何や、こら、お前ら刑事ちゃうやろ?」と、連行する時、睨み付けながら喚く奴がいたから、こう言ってやった。
「通りすがりの『野次馬』ですけど、何か問題でも?」
帰宅すると、澄子が「カン」をしてくれた。一級酒や。
俺はアルコールが強い方やない。でも、今日は酔いたい。
「明日、門田さんの告別式や。行って来るわ。」「うん。今夜は早ヨ寝てや。」
重傷の門田さんは、妻の元に行ったのだ。天国へ。
85.電気泥棒
○月〇日。
何度か依頼で世話になったことがある、坂之上忍さんが出勤前の俺の自宅にやって来た。
依頼を聞いた俺は、所長に相談し、興信所の正式依頼にして、事務所に連れて行き、再度説明した。
依頼の内容は、こうだ。今回、電気代の請求が来た書類には、信じられない数字が並んでいた。電気会社は正当な料金だ、と主張していた。
真冬であり、エアコンもよくつけている。電気代が上がることも聞いていたが、どうも腑に落ちない。
坂之上さんは、所謂独居老人だ。
長年のカンで、俺も花ヤンも横ヤンも「電気泥棒」と思った。
坂之上さんの両隣と向かいの家は「空き家」だ。
両隣は引っ越してしまい、向かいの家はご主人がコロニーで亡くなり、それ以来空き家だ。
条件は揃っている。塀は、周囲にあるが高くはない。
外壁の電源は丸見えだ。
事件性はあっても、
他の案件もあるので、俺の提案で、取り敢えず防犯カメラとセンサーチャイムを外壁電源の近くにセット、更に街灯の死角にセットした。泥棒に用心されないように、センサーチャイムは音をオフにしておく。
花ヤンと横ヤンは、聞き込みで、近くのコンビニで、まるで月極駐車場のように駐車している「電気自動車」、つまりEV車の目撃情報を得た。
花ヤンは、前日の分だけ店の店内防犯カメラの映像をダビングして貰った。
不審車両は、ナンバープレートを車の中に仕舞い込んでいて、スモークで外から確認出来ない。不審車両の割り出しという名目で取り出して貰った。
「張り込み」も一つの方法だが、今日明日の夜は、他の案件があって動けない。
俺はEITO大阪支部の大前さんから電話を受けた。
総子が、EITO東京本部に連絡をとって、夏目リサーチに依頼することにしたのだ。
夏目リサーチは、東京本部の夏目警視正がオーナーの会社で、特別な「人物特定システム」を使って、警視庁や警察に協力させている、ことは所長から聞いていた。
花ヤンが持って来たデータは、EITO大阪支部へ、更にEITO東京本部へ送られ、そして、夏目リサーチに送られて来た。
翌朝、事件が解決したのを知ったのはテレビのニュースだった。
澄子と朝食を採っていると、ニュースで流れた。
やはり、那珂国人だった。しかも、帰化人だ。最終的に運転免許証データ、お名前カードデータ、たばこカードデータ、コンビニカードデータでばれてしまった。
被疑者は、坂之上さんの環境を知り、EV車で電気を盗み、最悪なことにバッテリーを転売していた。
容疑に関して、『電気代が上がって生活が苦しいから』などと、ほざいているらしい。
俺は、坂之上さんに報告し、買うように指導していた防草防犯砂利を側庭に敷いてやった。
倉持も澄子も手伝った。
花ヤン横ヤンも応援に来て、あっと言う間に綺麗な側庭になった。
底へ、トラックに乗った、EITO大阪支部の大前さんと用賀君がやって来て、前庭も防草防犯砂利を敷いた。
澄子が一旦帰って、「おでん」、いや、「かんとうだき」を持って来た。
派手な「打ち上げ」が始まった。
86.強盗殺人の理由
○月〇日。
俺は、何となく「山勘」が働いた。
新聞で、東大阪市在住の国交省の職員、増岡弘樹氏が殺された事件が「借金で金銭目的」の強盗殺人起訴されたのだが、本庄先生の「何か隠している」と言ったことで、裏事情があるのではないか?と思った。
被疑者の大本源太には、確かに借金があった。
だが、調べて行くと、介護施設で寝たきりの母親がいて、借金が嵩んだ、と分かった。
ひょっとしたら、と調べたら、介護施設は、所謂『サ高住』の施設だった。
『サ高住』とは、『サービス付き高齢者向け住宅』の略である。
極めて形態が似ている『有料老人ホーム』や『グループホーム』とは大きく違う点がある。
世間では、あまり知られていないが、サ高住の管轄は『厚労省』ではなく、『国交省』である。
協同アパートを賃貸し、そこに介護会社が派遣される、という名目だが、実際は、多くは運営会社と派遣会社が同じだ。違法である。
コロニーの時は、『厚労省直轄』でない為、サ高住には、所謂『安倍ちゃんマスク』すら配布されなかった。一時、廃棄したとか在庫を抱えているとか言っていたが、『配っていなかった』のだ。
介護保険は厚労省で、施設は国交省なのだ。極めてアンバランスで、コロニーの頃の政策は無視され、所謂『囲い込み』も横行し、訴訟も起こった。
でも、マスコミは政府に忖度して問題化しなかった。『報道しない自由』とか言う、憲法にも無い理屈で。
コロニーというビールスの予防接種やOBQ検査の『儲け』に群がった媒体の一つだったからだ。
いつまでもいつまでも儲ける為に、予防接種で体調を崩した母親は、施設によって、無理矢理コロニー病棟に送られてしまった。
大本は、施設と病院に2重に支払いを続けなければいけなかった。
その前から、施設の訪問医師以外は、面会がなかなか許可されなかったが、病院は更に厳しかった。
やっと、大本が母親に会えたのは、遺体の状態の母だった。
3回忌を終えた大本は、ある日、たまたま仕事仲間と寄った居酒屋で、増岡と出会った。
正確に言うと、隣のテーブルにいたのが、増岡と仲間だった。
たまたま帰省していた増岡は、酔いも手伝って饒舌だった。
国交省では、前述の『囲い込み』に対して厚労省に横槍を入れ、まともに対処させなかった。「ウチの縄張り」と言った、と言う。それが増岡だった。
『囲い込み』とは、施設利用者が通っていたデイサービス、通院先などを全て、施設の関連会社に切り替えさせることである。勿論、バックマージンが入り、違う名目で利用者から徴収する。介護用手袋等、利用者に用意させずに施設がバックマージン込みの手袋を使うのだ。
施設で虐待されていたことも分かっていた。
借金は、友人知人からのもので、返済は可能だった。
大本は、自分で増岡の住所を調べることが困難なので、興信所を利用した。
それが、南部興信所だった。
何ということだ。
俺は、本庄先生の報告書の末文にこう書いた。
大本は、施設を憎み、国交省を憎んでいたから犯行に及んだのだ、と。
施設は、脱税がばれて、もう解散していた。
増岡を血祭りに上げることが、母親への供養だったのだ、大本にとっては。
夜。このことを話したら、澄子は「法廷に行ってあげて。」とだけ、言った。
87.カレーライス殺人未遂事件
○月〇日。
俺は、呆れた。しょうが無いとは思ったが。
今時、ITから遠い人間も珍しい。超高齢者ではなく、俺と同じ40代だ。
依頼者の餅屋は、しきりに俺に同意を求めてくる。
餅屋と言っても職業では無い。名字だ。所謂、珍名さんだ。
餅屋は、或る日、女房と喧嘩した。喧嘩自体は珍しくない。
『夫婦喧嘩は犬も食わない』である。
女房は、離婚するとまで言い出したから、ただ事では無い。
興信所は、裁判所でも相談所でも警察の生活安全課でもない。
まあ、他に行くところが無いから、来るのだろう。
俺と餅屋は小学校の同窓生だ。詰まり、同級生ではなく同学年性だ。だから、顔なじみではあった。陸上部のスプリンターと言われた男だが、体型は面影が無い。
同窓会に参加したら、皆が探しまくるクチだ。
ところで、大げんかの原因だが、『カレーライスのマナー』だ。
ご飯から食べるか、カレーから食べるかという単純なものではない。
餅屋が、カレーライスを口に運ぶ前にカレーライスを、『かき混ぜる習慣』が『マナー違反』だと言う。
どうやら、テレビで『マナー講座』を見て、餅屋に怒りだしたらしい。
俺は、試しにアンケートしてみた。同級生に電話しまくったのだ。
すると、大半は、『そのまま食べる』派と『家族とはカレーと食べない派』と『餅屋の女房派』に別れた。
『家族とはカレーと食べない派』は、カレーで揉めたことがあるが、別の理由だった。
揉めるのが嫌だから、1人で外食する時にカレーを食べると言う。
日本人のカレー好きは多いが、発祥の国の人ほどは食べない。
最後の、『餅屋の女房派』の同級生は泣きついてきた。
「解決策があったら、是非教えてくれ。探偵の同級生がいたなんて、心強い。」
泣かせること言うから、「結果はお前にも咆哮する」と約束した。
俺は『離婚の仲裁』という名目で所長と本庄先生に相談した。
幸い、本庄先生の顧客に、洋食屋を営む人と、ホテルのシェフがいた。
洋食屋曰く、「それは、マナー違反。コップの水にスプーンを入れるのもね。」
ホテルは、興信所の近くなので、時間を割いて会って貰った。
「こういうスタイル、見たことないですか?最近は、このスタイルのお店が多い筈ですが。」
シェフは、パンフレットを見せ、実際に運ばせてきた。
成程。インドカレー店やカレー専門店なんかは、これだな。
そにあったのは、『アラジンの魔法のランプ』を連想するようなポットにカレーが注ぎ込めれて、
「これは、イギリス発祥の、『ソースポット』というものでグレイピーポットとも言います。この形式だと、お米がカレーの水分を吸収してべたつかないんですよ、幸田さん。ライスとカレーの分量を自分で味わいながら楽しめますしね。コーヒー店のコーヒーポットは保温の為で風味を逃がさない為ですが、これも風味を逃がさない方法の一つですね。」
「ありがとうございます。」
興信所に帰ると、俺は所長や所員に、受け売りでパンフレット片手に説明した。
倉持が、ネット検索すると、2500円位の値段で売っている。
2500円で離婚回避なら、こんな安上がりの効果はない。要は、女房はカレーをご飯に盛り付けて出すのではなく、ソースポットと皿に分けて出せばいい。
亭主は、『本格的だね』と褒めて、自分が口に運ぶ前にカレーをライスの上にかけて、スプーンで掬えばいい。
それでも、『かき混ぜたい』欲望が抑えられないなら、どうしようもない。
『マナー違反』を認める『体裁』にはなるが、『環境』を変えると、夫婦喧嘩も離婚もないだろう。
俺は、餅屋と、もう1人の同窓生に電話した。
「結果は分からないが、やってみる。普通の食べ方と違うのなら、我慢も出来る。」と、異口同音の答だった。
帰宅してから、澄子の反応をみた。
「ウチは、カレーうどんしか出してない。昔、カレーライス出したけど、客同士で、その問題で揉めたから。」
88.死んでもエエんか?
○月〇日。
俺は、呆れた。しょうが無いとは思ったが。
俺は、浮気調査の仕事で打ち合わせに行った帰り、倉持とまともに?殺人事件に遭遇した。
被疑者は、信号機が青信号(緑信号)になってから、ゆっくり発進。
被害者は、スマホを見ながら、交差点に進入。ゆっくり歩いていたらまだ良かったのだが、早足で歩いていた。
スマホの画面に目が戻る前は、点滅青信号か黄信号だったのだろう。それにしても・・・。
「危ない!!」後続車を運転していた倉持は、思わず叫び、ブレーキを踏んだ。
被害者の女性は、若かったが、まともに体の側面から車に弾き跳ばされた。
倉持が110番をするのを確認してから、クラクションを鳴らしながら前に出ようとする車に仁王立ち、車のドライバーに向かって叫んだ。
「今、人身事故が起きた。あんたが殺したことにしてもエエぞ。」
クラクションは鳴り止み、ドライバーは車の中で身を強ばらせていた。
誰しも、我が身に降りかかるまでは『他人事』なのだ。
間もなく、パトカーが、継いで救急車が来た。
俺と倉持は、交通整理をした。
俺は、やって来た警察官に事情を説明、名刺を差し出した。
「南部興信所って言うたら、横山先輩の・・・。」
途端に、警察官は柔和になった。警備会社や興信所は警察官出身が多い。
ウチの花ヤンも横ヤンも例外ではない。
「つまり、被害者の前方不注意ですね。加害者側のドライバーの話とも一致します。あ。ドラレコ積んではりますね。向こうのドラレコも回収しますが、こちらの・・・。」
「勿論、映像は提出しますよ。」
俺は、その場でドラレコのSDを予備と交換し、その警察官に渡した。
「ご協力感謝します。私は、草野と申します。」
草野刑事は、名刺をくれた。
興信所に帰ると、所長に報告。
草野刑事から、救急病院の郷原病院に被害者が収容されたが、間もなく亡くなった、と報告してくれた。
「思い込みは恐いな。」帰ってきた横ヤンが言った。
名刺を横ヤンに見せると、「ああ。四條畷署にいた頃の後輩や。お。巡査部長か。出世したなあ。」と、横ヤンは顔をほころばせた。
家に帰って、澄子に交通事故の話をすると、「仏さんには悪いけど、自業自得やん。お客さんにもな。癖の悪いのがおって、ここで飲んでないのに帰り道の自販機で買って飲んで酒気帯び。『飲むなら乗るな、乗るなら飲むな』ってナンボ言っても気かへん。正確やな。」と返した。
目の錯覚だろうか?一升瓶の中が精力剤に見えた。
89.殺してもエエんか?
○月〇日。
俺は、呆れた。豊中市の危険運転致傷事件について、聞き込みに行ったのだ。
被害者は、本庄先生のクライアント、つまり、顧客で本庄先生はカンカンだ。
被疑者側のバイクの青年は、一瞬信号機が見えなかった、と嘘をついた。
バレバレだった。現場に行ってみると、信号機は最新のタイプ。詰まり、LEDを使ったもので、逆光で見にくい状況は発生しにくい。また、信号機は、あらぬ方向を向いている訳ではない。
ラッキーなことに、すぐに、目撃者が現れた。
信号機から100メートル離れた所にある畑の、持ち主のばあさんだ。
ばあさんは、収穫物を取りに一輪車を押していた。
被疑者のバイクは、ノンストップで信号に突入。赤信号だった。
青信号側を走っていた、高齢者の自転車は、吹き飛ばされた。
救急車で運ばれたが、重傷で今も入院している。
自転車は、誰か力持ちが捻じ曲げたかのように曲がっている。
目撃して、119番したサラリーマンは、バイク男の親から『口止め料』を貰った。
だが、義憤を感じたサラリーマンは、警察に届けた。
本庄先生は、念の為、「他の目撃者」を探して欲しい、と依頼してきた。
『平行線』にさせない為、サラリーマンの供述の『補助材料』を探したのだ。
バイクは、猛スピードで通り過ぎた後、畑の農道から戻った、ばあさんに気づかなかった。
1ヶ月後。高齢者は死んだ。事件は危険運転致死事件に変わった。
それが、半年前のことだ。
判決が出た。
検察の求刑通りだった。懲役20年。普通は多少求刑より減刑するが、目撃者への「脅迫」がまずかった。
『ツインシュー』を土産に、本庄先生は興信所に連絡に来た。
検察官は、先生の元カレ・・・いや、同期生だった。
「馬鹿息子は、政治家だけはなって欲しくないな。」
珍しく、横ヤンは辛口で言った。
バイクの青年は、「政治家になる予定」だったそうだ。
残念やナア、馬鹿息子とクソオヤジ!!
90.偽造運転免許証
○月〇日。
北区。四つ橋筋を走行中、軽四が俺達のクルマの側を通り抜け、赤信号を幾つも無視して、トラックの横っ腹にぶつかって止まった。
アレは重症やろうなあ、と、倉持に話しかけたが、倉持はパーキングランプを点けて停車、路上から、あるモノを拾った。
俺らは、事故現場に向かい、少し手前に駐めた。
俺はすぐに所長に報告していた。
事故現場では、110番で駆けつけた警察官が捜査を開始、黄色いテープを貼ったり、赤いコーンを置いたりしていた。
「下がって下さい。」と、警察官に偉そうに言われたが、「事故車両から落ちたものです。運転免許証ですわ。」と、その警察官に手渡して、帰ろうとすると、職質、つまり、職務質問を始めた。
「自分、どこの署や。曾根崎署やったら、後輩かな?」と声を掛けたのは、横ヤンこと横山刑事、いや、元刑事やった。横ヤンは定年退職後、南部興信所の所員になった。
その警察官は、俺の名刺と横ヤンの名刺を見比べて、「署に来て貰えますか?」と言った。
遺体を検視していた刑事が、到着した鑑識に引き継ぎした後、こちらにやってきた。
「こちらさんは?」と言って来たので、「誤解があるようやったら、佐々ヤンに来て貰ってもエエで。」と、横ヤンが言った。
「佐々ヤンとは、佐々刑事のことでしょうか?」「うん。まあ、新米のことは後回しにして、その新米が持ってる運転免許証を調べた方がエエで。一目見ただけでも、普通より分厚いのは分かる。」
「100メートル先の路肩に止めています。」と、倉持が言って帰った。
「確かに。あ。府警の道上(どうじょう)です。」と、道上が横ヤンに名刺を出したので、横ヤンも「OBの横山です。今は興信所所員ですわ。」と名刺を差し出した。
行きがかり上、道上と横ヤンと俺は、手袋をしてから、その場で運転免許証を改めて観察した。
運転免許証のフィルムをずらすと、中から、本物の運転免許証が出てきた。そして、偽の運転免許証の裏にナイフガンナイフの模様が見えた。
「ナイフガンナイフやな。」と、俺は思わず口走った。
「ナイフガンナイフ?何です、それ。」道上が尋ねたので、俺は過去の事件やEITOとの関わりをかいつまんで話した。
「すると、ダークレインボウとかいう、那珂国のテロ組織と関わりがある、とういうことですか、ガイシャは。」
「そうなりますね。」
俺と横ヤンと倉持は、パトカーの先導で、大阪府警に行った。
道上刑事を含めた5人で、大阪府警テロ対策室を、初めて訪ねた。
小柳警視正が、丁重に出迎えた。
「成程。この前の兵庫県のデモの時の事件とも関連があるのかな?とにかく、子細に調べます。いつもご協力ありがとうございます。」
小柳警視正は、最敬礼して見送ってくれた。
何か、偉くなった気がした。
夕方、帰宅すると、澄子は赤飯炊いて待っていた。
「大袈裟やな。見付けたのは倉持やで。」
「エエやん。お手柄やったんやろ?所長さんがナア、餅米くれたんや。今日みたいな日の為にな。今夜もがんばろな。」
一言多いねん。お前、この頃、濃厚やからナア。
久しぶりに、一級酒、舐めとこか。
―完―