機動戦艦ナデシコ The Blank of 3years Another story   作:ルーチェ

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第14話

 

 

極冠遺跡に到着するなりイネスさんの指示でさまざまな研究機材が遺跡内部に次々と運び込まれていった。

それぞれに意味のある機材だということはわかるが何に使うものかさっぱりわからない私たちは彼女の言いなりになるしかない。

彼女は到着したその日から不眠不休で調査を始めていて、私たちも長旅の疲れを癒す間もなく彼女の手伝いで疲労困憊している。

男性陣は主に機材の運搬や設置、女性陣は食事の準備等のサポートという役割分担で、それが翌日、翌々日と続いているものだからアカツキさん、プロスペクターさん、ウリバタケさんはバテた顔でテントの前に座り込んでいた。

 

「腰痛てぇ…」

 

「イネス先生もタフですなあ」

 

「あー、もうこんなだったら警備の方に回っときゃよかった」

 

「もう3日も寝てないんだぜ。あの人はバケモンだよ、バケモン」

 

イネスさんが聞いたら激昂しそうな愚痴をこぼすアカツキさんたちに私は飲み物を持って陣中見舞いに訪れた。

 

「みなさん、お疲れさまです。ボソンジャンプの研究をしているだけにイネスさんと私たちは次元が違うんですよ、きっと」

 

「よう、イサミ君。ちょうどいいところに来てくれた。イネス女史にこき使われてヘトヘトになってたところだ」

 

そう言うアカツキさんの顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。

もちろんウリバタケさんやプロスペクターさんも同様だ。

 

「みたいですね。はい、どうぞ」

 

私は彼ら一人一人に飲み物を配った。

 

「どうです? 調査は順調に進んでるようですか?」

 

「どうでしょうかね…。遺跡のことについては我々にはまったくチンプンカンプンですから」

 

プロスペクターさんがお手上げだといったジェスチャーをする。

 

「プレートに記録されている内容の再生方法がわかったとしてもそれを解読しなきゃなりませんよね? 調査期間が10日やそこらじゃどうにもならないような気がしますが、そこはどうなっているんでしょうか?」

 

「イネスさんが言うには、たぶんメッセージはテレパシーみたいなもんだから心配はいらないんだとさ」

 

ウリバタケさんが自分の肩を揉みながら言った。

するとプロスペクターさんが彼に訊く。

 

「テレパシー…? それってパイロットのみなさんが使用しているIFSみたいなものですか?」

 

「IFSは体内に注入したナノマシンを仲介して、脳とコンピュータをダイレクトにつなぐインターフェイスだから似てないわけじゃないけど、どうも古代火星人はもっと洗練された手法を使っているらしい」

 

イネスさんほどではないにしてもウリバタケさんは私よりは知識があるようなので少し訊いてみようと思う。

 

「洗練された…とはどういう意味ですか?」

 

「何の物理的接触もなしに直接イメージをやりとりできるらしい。どういう仕組みかわからんのでテレパシーみたいな、としか言えねえんだ。もっともそれをきちんとやりとりできるのはイサミちゃんみたいな木連の優人部隊の連中か、イネスさんやアキトのような火星生まれの人間だけらしいがね」

 

「有人ボソンジャンプの件ですな」

 

プロスペクターさんの聞き慣れない言葉に私は疑問を持った。

 

「有人ボソンジャンプ?」

 

「もともと木連がバッタやジョロといった無人メカばかりを送りつけてきたのは、有人ボソンジャンプが不可能だったからなんだ。その理由はボソンジャンプの制御方法にあったんだな、これが」

 

「それがテレパシーというわけなんですね?」

 

「そう。ジャンプの当事者の思考が優先的に反映される仕組みになっているらしいんだが、我々地球人の思考と古代火星人の思考は全然違うものらしくてね。遺跡は人間の思考をうまく翻訳できなくて、有人ボソンジャンプをしようとしたとたん…」

 

「どっか-ん、てなわけ」

 

アカツキさんは両手を大きく開くジェスチャーつきで言った。

 

「そこで、なんとか人間の思考パターンを遺跡に理解できるようにしようというんで、遺伝子改造をして後天的に脳に新たな機能を与えたのが木連優人部隊のみなさん、というわけですな」

 

プロスペクターさんの視線が私に向けられ、同時にアカツキさんとウリバタケさんも私を見る。

 

「私もその一人なんですね…。生まれつきのものであって特別に何かしたわけではないのでピンときませんけど」

 

「そしてそれとは別に火星に散布された惑星改造用ナノマシンを遺跡が改造し、それが妊婦の体内に入り込んで胎児の脳に遺跡とのインターフェイス機能を与えたことでイネスさんのような火星生まれの人間は先天的にその機能を持ち合わせているのさ。だからあのプレートのメモリーにアクセスできれば特に何かをするってこともなく内容はイネスさんにはわかる形で伝わるはずってことなんだ」

 

ウリバタケさんの説明で大体のことはわかった。

 

「いったい、遺跡の謎がどこまで明らかになるんでしょうね? すごく興味あります」

 

「僕はそんなことより、さっさとボソンジャンプのずれの原因をハッキリさせてほしいね」

 

「あれって、やっぱオレたちが遺跡の演算ユニットを放り出しちゃったからなんじゃないの」

 

ウリバタケさんの言っていることは旧ナデシコクルー全員も同じように心の中に抱いている。

 

「そーゆーことは思っていても口に出さない! それに遺跡のコア内部は時間と空間が反転していて遺跡と離しても問題はないはずだとイネス女史は言ってたぞ」

 

「でも変な時間のずれって、あれ以来大きくなってんだろ。だったらどう考えても…」

 

「言うな。そんなのまで僕らの責任ってことになってみろ、それこそ旧ナデシコクルーは太陽系内に居場所がなくなっちゃうよ」

 

アカツキさんが会長を務めるネルガル重工はアジア最大の企業グループ「ネルガルグループ」の中心となる存在で、火星開発にも大きく関与していたこともあり、連合宇宙軍に対しても絶大な発言力を持っていた。

その力を利用して古代火星文明の技術独占を狙っていてナデシコを建造したのはいいが、クルーの人選に問題があって集められたクルーたちが曲者ぞろいで彼は己の野望を果たすどころか散々な目に遭うこととなった。

ネルガルは社会的評価を思い切り下げることになったものの、木連との戦争の早期終結のきっかけとなったのは旧ナデシコクルーの()()()()によるもので、そのことを考慮すれば彼らのやったことは「正解」であると私は思っている。

ネルガル、地球連合軍、木連の思惑などそっちのけで、自分たちの大切なものを守ろうとしたからこそ今があるのだ。

だから私はアカツキさんの悩みなんてものは”必要経費“として仕方がないことだと思っていた。

ところがボソンジャンプにずれが生じていてその原因もナデシコにあるかもしれないとなれば、せめてボソンジャンプのずれの原因だけでも突き止めてネルガルに責任がないと証明したいと必死なのだろう。

こうなると自業自得なのだが彼のことが可哀想に思えてきた。

 

「イネスさんの調査で原因は他にあるってわかるといいですね。または時間のずれを元に戻す方法とか…」

 

私がそう言った次の瞬間、遺跡の壁のいたるところが輝き始める。

 

「キャ-っ!」

 

遺跡の奥の方でイネスさんの悲鳴がこだまし、私とアカツキさんたちは慌てて声のした方へと駆けだした。

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

遺跡の奥でも壁面は輝いていた。

部屋の中央部分はかつて遺跡のコアである演算ユニットが置かれていた場所で、現在はイネスさんが調査に使う様々な機械類が整然と並べられている。

その機械類はいろいろな太さのケーブルで互いに接続されていて、その中にイネスさんたちが立っていた。

イネスさんは全身が光に包まれていて、彼女の目は何も見えていないかのように焦点が合っていない。

そんな彼女を高杉大尉、ミナトさん、ユキナちゃんが取り囲んでおり、何もできないものだから心配そうに見ている。

そこへ私たち4人が駆け込んだ。

 

「どうしたんですか?」

 

私が訊くとミナトさんが答えた。

 

「イネスさんがプレートの差込口を見つけた、とか言って…差し込んだ途端、こんな状態になったのよ」

 

イネスさんのそばには床から高さが1メートルくらいの柱のようなものが突き出ていて、エリナさんはプレートを引き抜こうとしていた。

この異常な状況の原因を取り除こうということなのだろう。

 

「待って!」

 

イネスさんに制止され、エリナさんは手を止めた。

するとイネスさんを取り巻く光が消えていき、逆立っていた髪の毛も元通りになっていく。

 

「驚かせてごめんなさい。突然メッセージの再生が始まってしまったのよ」

 

申し訳なさそうなイネスさんの顔。

しかし何かとんでもないことが起きていて、それが彼女の意思ではなく何らかの外部要因によるものではないことはわかる。

 

「なんか、キョーレツな機械みたいですな?」

 

プロスペクターさんが柱のようなものをまじまじと見つめながら言う。

 

「臨場感抜群。バーチャルルームが大昔のTVゲームに見えちゃうくらいだわ」

 

「ローコストで大量生産できりゃ、ボロ儲けできそう…」

 

企業のトップらしいアカツキさんの感想。

でもそんな冗談を言えるくらい心に余裕があるともいえる。

そのうちに遺跡内の発光も収まり、イネスさんのそばの柱からプレートがせり出してきてエリナさんの手の中に滑り込んだ。

 

「ところで、今何時?」

 

いきなり私に時間を訊くイネスさん。

私はコミュニケを見て答えた。

 

「太陽系標準時だと…時刻2054です」

 

「しまった。もうすぐ始まっちゃうわね。もう少し早くわかれば良かったんだけど」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「あのプレートのメッセージはこれから起こることをわたしたちに伝えようとしてくれていたのよ」

 

「これから何が起こるというんですか?」

 

「とても素晴らしいことよ」

 

イネスさんは静かに微笑みながら答えた。

そして彼女が言い終わると同時に再び遺跡の壁面が輝きだし、少しずつ床が振動し始めた。

床はゆっくりと上昇していき、さらに激しくなる振動にその場にいた人たちはバランスを崩す。

立っていることができないのかユキナちゃんやエリナさんは床に座り込んでしまった。

 

「どうしたっ! 何が起こっているんだ !?」

 

プロスペクターさんのコミュニケのウィンドウが開き、遺跡の上部で警備の任に着いていたゴートさんが慌てた様子で訊く。

 

「いや、私たちにもまだわからないのですが、どうやら床ごと上昇しているようでして…」

 

「最下層部の床が上昇しているだと !?」

 

「そっちは何か変わったことはないの !?」

 

プロスペクターさんのコミュニケのウィンドウを覗き込みながらアカツキさんが叫ぶ。

するとゴートさんは冷静に状況を報告した。

 

「遺跡上層部を幾重にも防護しているディストーションフィールドが次々に解除されていっている。とりあえず我々警備班は遺跡の外に避難中だ」

 

「懸命な措置ね。もうすぐこの最下層部が地上に出ます。それまで遺跡の外で待っていて下さい」

 

「何だって !?」

 

イネスさんがゴートさんに指示を出すとコミュニケの通信はぷつりと切れた。

 

 

遺跡は円錐を逆さにした形で地下深くまで掘り込まれていて、その最下層部の「部屋」に演算ユニットが置かれていた。

その演算ユニットを守るために何層ものディストーションフィールドが張られていたのだが、それが遺跡の意思によって解除されて上昇しているのだ。

長い間ずっと地下にあった遺跡の中枢部がもうすぐ地上に現れる。

それだけでも胸が熱くなる展開だが、古代火星人やボソンジャンプの謎を解明するのだと思うと胸のドキドキが止まらない。

私でさえこれだけ興奮しているのだから、イネスさんはこの何倍もワクワクしているに違いない。

 

 

警備班の人たちを腕や肩に乗せたエステバリスやジンが遺跡の外にキャンプを張っているキャラバンに向かって避難している。

キャンプ地の駐車場に停車している1台のトレーラーの脇まで避難したゴートさんとジュンは遺跡を振り返りながら呟いた。

 

「これはいったい…何が起きているんだ?」

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

数分後、すべてのディストーションフィールドが解除されて最下層部が地表に姿を表した。

巨大なドーム状の屋根を持つスタジアムに似た外観のものだった。

底辺部分ではせり上がってくる際の地響きに合わせて土煙が舞い上がっていて、その土煙は避難している調査隊スタッフのいる場所にまで届いている。

ドームの上昇が終わったところで今度は屋根が四方に割れ始めた。

まさに全天候型のスタジアムのようであり、天井が開いていくのを私たちはただ見上げるしかない。

そして屋根が開ききってしまうと眩い日差しが差し込んできた。

 

「お外だ…」

 

ユキナちゃんが暢気に呟く。

そのそばでウリバタケさんが驚きの声を上げた。

 

「あの深さを…一気に上がってきちまったのかよ !?」

 

天井が開ききると遺跡壁面の発光が収まった。

 

「イネスさん、まさかこれでおしまいってわけじゃないよね?」

 

「ええ、メインディッシュはこれからよ」

 

アカツキさんの質問にイネスさんが興奮気味の表情で答えた。

これから何が起こるのかと思うと、少し恐ろしい気がする。

しかしそれ以上に期待による高揚感が私の全身を支配していった。

 

 

しかしその「メインディッシュ」の前に片づけなければならないことが起きてしまった。

遺跡の外から銃撃戦の音が聞こえ、一同は一斉に外を見る。

 

「こんな時にまたかよ」

 

「今度はどっちだー? 地球側か? 木連側か? 性懲りもないヤツラだな~」

 

高杉大尉とウリバタケさんが呆れたように言う。

 

遺跡周辺ではキャラバンを包囲し、砲撃を繰り返す月面エステバリス十数機の姿が見える。

そのうちの1機から聞き覚えのある声が聞こえた。

例の地球過激派の男の声だ。

 

「遺跡の謎の解明は順調のようですな、フレサンジュ博士。無駄な抵抗は止めてすべてを我々に渡していただこう。我々は地球のため、ひいては正義のために行動している。そこのところを理解してもらいたい」

 

まだイネスさんのことを諦めていないらしく、このどさくさに紛れて遺跡調査の結果を手に入れようと企てたようだ。

しかし彼らにだけ注意を払っていればよいというわけではない。

こうなるともう一方の敵である木連側の忍者部隊が再登場する可能性は高いのだ。

 

 

避けきれず被弾して倒れていく警備班のエステバリスやジンを後目に、アキトさんの月面エステバリスとリョーコさんたちの陸戦エステバリス3機は左右に散開して敵の包囲網に切り込んでいく。

 

「なに勝手なことぼざいてやがる!」

 

「遺跡の力を手に入れたら、また木連と戦争を始めようって腹だろう。そんな連中にイネスさんを渡せるか!」

 

「そ-だ、そ-だ!」

 

「カジをとる…操舵」

 

リョーコさん、アキトさん、ヒカルさんがそれぞれ怒りをぶつけるが、イズミさんは相変わらずマイペースでいる。

しかし暢気なことを言っている余裕はなさそうな気配だ。

それを地上から見ているだけしかできなくて歯がゆい思いをしているとアカツキさんが言った。

 

「ちょっと戦力差があるみたいだな。僕たちもテンカワくんたちを助けに行きますか」

 

「そうですね」

 

高杉大尉も同意する。

それを聞いていたエリナさんが割って入る。

 

「って、機体はどうすんのよ?」

 

「心配ご無用! こんなこともあろうかと、機体はちゃーんと用意してあるのよ! ちょいとな」

 

ウリバタケさんはそう言いながらコミュニケの操作をすると、キャラバン内にあるトレーラーのうちの3台が勝手に走り出した。

…と思ったのもつかの間、今度はまるで立体キューブパズルを展開するがのごとく、あっという間に空戦エステバリスに変形してしまう。

さらにジャンプすると遺跡の中に飛び込み、私たちのそばに着地した。

どこをどうすればトレーラーがエステバリスになるのか皆目見当がつかないが、見た目はいちおう人型の機動兵器にはなっている。

 

「見たか! 完全変形トレーラーバリスだ!」

 

ノリノリのウリバタケさんにミナトさんがツッコミを入れた。

 

「ウリピー、いくらなんでもこりゃやりすぎなんじゃない? アニメじゃないんだから」

 

「見た目はエステだけど…乗っても大丈夫なの、アレ?」

 

心配そうなエリナさんだが、ウリバタケさんは自信満々だ。

 

「オレ様の作ったものに何の問題があろうや。ただしIFS対応じゃないんで手動で操縦しないといけないんだけどな」

 

私はトレーラーバリスを見た瞬間に不吉な予感がし、他のメンバーに悟られないようにそっと後ずさりした。

そしてある程度離れたところで向きを変えて音を立てずに歩き出す。

 

「なんで3機あるの?」

 

ユキナちゃんの素朴な疑問が引き金となり、私の嫌な予感は的中してしまった。

 

「そりゃ、当然パイロットの人数分…」

 

「…だよな」

 

アカツキさんと高杉大尉はそう言って、示し合わせたかのように私の方を見る。

それに釣られてその場にいた全員の視線が私の背中に集中した。

 

「イサミちゃん、どこへ行くのかな?」

 

「べ、別に…」

 

ウリバタケさんの声に私は足を止めてゆっくりと振り返る。

 

「乗ってくれるよな、イサミちゃん。オレの作ったエステに。…まさかイヤだなんて言うはずないよな」

 

「わ、私は遠慮します!」

 

ウリバタケさんがつかつかと急ぎ足で近づいて来ると、私に顔を覗き込むようにして言う。

 

「どうしてそんなことを言うのかな? 乗りたくない理由がある…なんてことはないと思うが」

 

「私は過去に2度死ぬ思いをしてるんです。だから普通のエステならともかくこうした変形とか合体とかする特殊なタイプの機動兵器には ──」

 

私は「乗りたくはない」と最後まで言おうとしたが()()笑顔で言うウリバタケさんに遮られてしまった。

 

「オレがイサミちゃんに危険なことさせるはずないだろ? 乗ってくれるよ、なっ!」

 

「は、はい…乗ります」

 

ウリバタケさんの勢いに押されて私は仕方なく承知した。

二度あることは三度ある ── 私はこのような運命から逃れられない星の下に生まれたに違いない。

 

 

私たちはそれぞれの変形エステバリス ── トレーラーバリスに乗り込んだ。

もともとトレーラーだからコックピットは車の運転席をベースに変形した痕跡が見受けられる。

しかもちゃんとエステバリスの構造にそって腹部付近にまで移動している。

ステアリングホイールが左右に割れて変形してできた操縦桿は不安の塊でしかなく、その操縦桿を握ってガチャガチャ動かしながら私はぽつりと呟いた。

 

「こんな操縦桿でホントに動かせるの?」

 

するとコミュニケのウィンドウが開いた。

私のぼやきをを聞き逃さなかったウリバタケさんが渋い顔で説明してくれる。

 

「細かい動きは機械が勝手にやってくれる。イサミちゃんはおおまかな方向と速度のコントロールだけしてくれりゃいいんだ。武器もすべて音声入力方式になってる。イサミちゃんはただ叫ぶだけ、簡単だろ? で、必殺技は ──」

 

「い、行ってきま-す」

 

「ま、待て! オレの話を最後まで聞けー!」

 

ウリバタケさんの言葉を最後まで聞かずに私は半ば自棄で出撃した。

必殺技を叫ばなくてもイミディエットナイフとワイヤードフィストは装備しているのでこれで十分だ。

 

(やっぱり、ね。イヤな予感がしたのよ…。これ、ホントに大丈夫かしら? ダイマジンⅤの時みたいに被弾してあっけなく戦闘不能とかになったら絶対に嫌ですからね。そんなことになった一生恨むんだから。覚悟してよね、ウリバタケさん)

 

 

 

トレーラーバリスはアカツキ機、高杉機の順に離陸し、最後に私の乗った機体が飛び立って戦闘に参加する。

 

「おまちどう!」

 

「おいしいとこ、残しといてくれた?」

 

「遅くなりました!」

 

現着した私たちにリョーコさんが安心したかのような声で呼びかけてきた。

 

「空戦部隊か。助かるぜ!」

 

私たちは地球側のエステバリス部隊を相手に戦闘開始した。

 

 

味方が増えて一気に押し返していくナデシコ組であったが、そこへ今度はジン・タイプの大部隊が現れた。

言わずもがな木連忍者たちである。

 

「待て待て待てーい! 人類の至宝とも言うべき“都市”の遺産を、貴様らのような矮小な輩に渡すわけには断じていかーん! あれは我々選ばれた優秀な人間が管理するのが人類全体のためなのだー!」

 

木連忍者男が芝居がかったセリフで乱入してくる。

 

「今度は木連の忍者か…」

 

「実にベタな悪役って感じのセリフですね」

 

アカツキさんと私が呆れて感想を言うと、高杉大尉がすまなそうに詫びる。

 

「あ、いや…申し訳ない。まったくもって同胞としてお恥ずかしい」

 

「しかしさらにあの連中まで相手にするのは、さすがに面倒ですね」

 

そんな中でもアキトさんはいたって冷静だ。

私たちナデシコ組のエステバリス隊はほとんど無傷だが、このままの戦力で新手のジン部隊を相手にするのは物量的に難しい。

 

(1対2じゃない三つ巴戦だから多少はマシだけど、この危機的状況を一気にひっくり返すようなことが起きないとどの陣営も疲弊するばかりでくだらない消耗戦になる。イネスさんの話だとこれから重大な事件が起きるってことじゃない、早くこのバカ騒ぎを終わらせなきゃ。でもどうすれば…)

 

 

 

「お待たせしました~!」

 

突然、ユリカさんの声が遺跡周辺にこだました。

その直後、天地を切り裂くかのように上空からグラビティブラストが降り注ぐ。

威嚇の意味でジン部隊の手前の地面を狙って撃ったため、雪原は一瞬にして消滅した。

するとジン部隊の動きが止まる。

上空を見上げると、雲の間からナデシコA艦の雄姿が現れた。

太陽に阻まれて逆光気味でシルエットしかわからないが、私たちの大切な居場所であるナデシコの姿を見間違えるはずがない。

ブリッジには艦長ミスマル・ユリカ、操舵士ホシノ・ルリ、通信士メグミ・レイナードの3人の姿がある。

必要最低人員だが錚々たるメンバーだ。

しかしどうして地球にいるはずの艦が火星に…という私の疑問は後回しだ。

 

 

「じゃんじゃじゃーん! みなさーん、すぐにケンカを止めないと、きつーいお仕置きしますよー!」

 

「艦長、はしゃぎすぎです」

 

「だって、出番がなかなかこないからずっと待ってるだけで退屈だったんだもん。やっと出番がまわってきたんだから、張り切ってがんばんなきゃ」

 

「わたしは出番がない方が楽でいいんですけど」

 

相変わらずユリカさんは能天気(ボケ)で、それを冷静なルリちゃんが受け止める(ツッコミ)という名コンビぶりは健在のようだ。

 

「艦長、お話中のところすみませんが、敵のみなさんから通信が入ってきてますけど…」

 

「ほいほい。まわしてまわしてー」

 

メグミさんが回線を繋いでウィンドウが開くと、そこには木連忍者男が映った。

 

「どーゆーつもりだ! 火星大気圏内では地球・木連両陣営とも宇宙戦艦の使用は禁じられておるんだぞ !!」

 

そしてもうひとつウィンドウが開いて、こちらには地球過激派男が映る。

 

「卑劣な! 貴様らはそうしてまで遺跡の秘密を独占したいのかっ !!」

 

「みなさん、自分のことは棚に上げて論旨がめちゃくちゃですね」

 

ルリちゃんの正論にメグミさんが同意する。

 

「言えてる。自分たちは機動兵器で好き勝手してるのに。戦艦使わなきゃ何してもいいって思ってるのかしら?」

 

「まあまあ、メグちゃん。それよりこっちの回線も開けて」

 

「はい、どうぞ」

 

ユリカさんの指示でメグミさんが回線を開くと、ユリカさんはマイペースのままで木連忍者男と地球過激派男に言った。

 

「お二人の言い分はわかんなくもないんですけどー、うちって民間の船なんでぇ…地球軍と木連軍の休戦条約とは無関係なんですぅ。そんなわけだからバンバン攻撃しちゃうつもりなんで、さっさと降伏して下さいねー」

 

一般的には滅茶苦茶な理屈だが「旧ナデシコクルーである彼女の言い分」としてはこれこそが正論。

自分たちの大切なものを守るために必要であれば、どこかの誰かが決めたルールなんぞクソくらえ…なのである。

 

 

こうしてナデシコA艦の()()をきっかけに事態は一変した。

 

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