機動戦艦ナデシコ The Blank of 3years Another story 作:ルーチェ
夜、海上を低空飛行するナデシコB艦。
クルーたちは交代で休んでいて、私も自分の部屋で休んでいたが慣れない環境というか…戦闘を控えての緊張のせいかなかなか眠れない。
気分転換に艦内を散歩でもしようと部屋の外へ出ると、特にこれといって目的もなく歩きだした。
そしてしばらく歩いていると娯楽室の前を通りかかり、中から出てきたルリちゃんと出会った。
「艦長、こんな時間にどうしたんですか?」
「なかなか寝付けないので、ちょっとビデオ鑑賞でもしようかな、と。…イサミさんこそどうしたんです?」
「私も同じです。眠れないので少し散歩でもしようかと思って。ビデオって何を見るんですか?」
私が尋ねるとルリちゃんは少し恥ずかしそうにビデオディスクのジャケットを見せてくれた。
それはロボットのアニメ絵が目を引く「ゲキ・ガンガー3」のビデオだ。
「それってゲキ・ガンガーのビデオですよね? それを艦長が見るんですか?」
「…はい」
彼女は一瞬ためらうが、コクリと小さく頷いた。
「実は私、ゲキ・ガンガーのアニメってずっと見たかったんですよ。よかったら一緒にそれを見せてもらえませんか? 木連では聖典とまで言われていたものですから、それを見れば私の記憶が少しでも戻るかもしれません」
「それはいいかもしれませんね。でしたらわたしの部屋に来て一緒に見ませんか?」
「はい。ありがとうごさいます、艦長」
私はルリちゃんと一緒に艦長室の隣にあるルリちゃんの私室へと向かった。
そして薄暗い部屋でプロジェクターに映し出されているゲキ・ガンガーのビデオを二人で見る。
それを食い入るように見つめている私の横でルリちゃんはアニメを楽しんでいるといった感はなく、膝を抱えてただ映像をじっと見ているいるだけのようだ。
大方見終わったところで彼女が私に訊いた。
「何か思い出しましたか?」
「…いいえ、何も。でも何となく懐かしいような気がするんです。やっぱりずっと昔に見たことがあるのかもしれません。ところで艦長はなぜこのビデオを…? 正直言ってあまり楽しんでいるようには見えなかったですけど」
「わたしは別にゲキ・ガンガーが好きなわけじゃありません。ただ…ナデシコという艦にとってこのアニメは忘れえぬものですから」
「忘れえぬもの…?」
「はい、いろいろな人の思いが詰まっています…。だからわたしやオモイカネにとっても大切な思い出…」
ルリちゃんはそう言って静かに目を閉じた。
「思い出ですか…。過去を思い出せない私にとってはナデシコでの出来事や出会った人が唯一の“思い出”。艦長の言うことは私にもよくわかります。でも記憶がないというのは不安です。そして記憶を取り戻そうと思えば思うほど手が届かない場所に逃げてしまうような気さえしてきます」
「だったら記憶がないから今を大切にする。それでいいんじゃないですか。今がなければ思い出は作れませんから。…わたしにも幼い時の記憶がありませんでした。漠然とした両親のシルエットと水のせせらぎ…それだけがわたしの幼い時の記憶…」
「……」
「でも現実は違った…。知らなければいい真実だってあります。だからわたしはわたし自身の本当の思い出を勝ち得た。このナデシコはわたしにとって自分が自分である証…」
「その考え方、素敵ですね。私もこの新しいナデシコに自分の証を残せたらいいな、って思います」
「きっとできますよ。あなたはこのナデシコを自分の居場所だと認識するようになったんですから。いい思い出がいっぱい作れるといいですね」
珍しくルリちゃんの笑顔を見た気がしたのだった。
オマエザキドックを発って3日目の朝、ナデシコB艦はチューリップのある海域に到着した。
私たちパイロットは海底調査のため、各自エステバリスにスタンバイしている。
「イサミ機、スタンバイ完了です」
「こっちもOKよ-ん」
「お仕事ちょうだ-い」
ヒカルさんとイズミさんも準備完了のようだ。
「了解。エステバリス隊、発進して下さい」
メグミさんのオペレートでナデシコB艦より発進していく3機のエステバリス。
イズミさんが上空で警戒、私とヒカルさんがチューリップ破壊を担当する。
着水するとヒカル機の先導で海底を進んで行った。
「海の中って結構動きづらいですから、これで戦闘になったら大変でしょうね。ヒカルさん、大丈夫そうですか?」
「水の抵抗があって機動力がだいぶ落ちちゃうから、できれば水中戦闘は避けたいわよね。ウリピーの
ヒカルさんの言う「使えない」が秘密兵器なのかウリバタケさんのことなのかはわからないが、厳しい評価であることは間違いない。
というのもその秘密兵器とは「海戦フレーム」で、ウリバタケさんの話では海戦フレームとは彼が開発したものだが試作だけで実用化されなかった機体だという。
そもそもエステバリスが水中戦を行うという状況は滅多にないため不要だということで後回しにされてきたのだ。
しかし海中のチューリップを破壊するミッションであるからとプロトタイプ機は積んできている。
その調整が終わっていればヒカルさんが使用できたのだから厳しいことを言われても仕方がないのかもしれない。
「まあ、いろいろ忙しい人ですから…」
「イサミさんの0G戦タイプならわたしの陸戦用よりはマシっぽいけど、やっぱウリピー自慢の海戦フレームを使いたかったな~。あなたもそう思うでしょ?」
「たしかにそうですね。艦長も私たちを送り出す時に申し訳なさそうな顔をしていましたから。慣れない海戦を強いることになるかもしれないって。でも敵が現れないのが一番です。それを祈りましょう」
私とヒカルさんの通信中にブリッジで警報が鳴り響いた。
「艦長、海底チューリップよりボソン反応。…ボソン粒子増大! 敵襲よ!」
ミナトさんが敵を発見し、それをメグミさんがエステバリス隊にも伝えた。
「敵、海底チューリップより出現。エステバリス各機気をつけて下さい!」
日頃の行いのせいかわからないが、どうやら私たちは神様から見放されているようである。
襲来する木星蜥蜴の無人メカ群。
想定以上の数に圧倒されて私たちは苦戦を強いられた。
敵は先日のオマエザキで見たものと同じである。
海上ではナデシコB艦がジョロやバッタの攻撃を受け、ディストーションフィールドで防いではいるが劣勢である。
イズミ機が必死に応戦するが数の差は明らかだ。
海中となると敵もこちら同様に機動力は格段に落ちるのだがその数はあまりにも多すぎる。
雲霞の如く押し寄せる無人メカが私たちを徐々に追い詰めていき、とうとうヒカル機が機能停止してしまう。
そうなると多勢に無勢、海中での戦闘も圧倒的に劣勢となってしまったのだった。
するとそこに心強い援軍が現れた。
「待たせたな!」
「リョーコさん!」
メグミさんが嬉しそうに叫んだ。
月面基地でパイロット養成所教官を勤めていたリョーコさんが空戦エステバリスで現れたのだ。
まさに天からの助けだ。
「艦長…じゃなかった前艦長から連絡があってさ、ナデシコと聞いちゃあ来ないわけにはいかねぇだろ!」
リョーコさんはそう言ってナデシコB艦の周りの無人メカを次々と破壊していった。
これで海上は大丈夫だと安心していた私にウリバタケさんからの通信が入る。
「イサミちゃん、聞こえるか? 海戦フレームに換装するから、ナデシコまで戻って来てくれ!」
「海戦フレーム? それって使えるんですか?」
「もちろんだ!」
「了解。すぐに戻ります」
機能停止したヒカル機を抱えて空中の無人メカの攻撃をかわしながら、私の乗ったエステバリスはナデシコB艦に帰還した。
格納庫で待ち受けていたウリバタケさんたち整備班員によってイサミカスタムは瞬く間に海戦フレームに換装され、私は再び出撃する。
まだ調整は完全ではないのだが背に腹は変えられないということらしい。
不安はあるもののやむを得ない状況なのだ。
海中に戻った私のエステバリスに無人メカが襲い掛かる。
しかし海戦フレームをつけた私のエステバリスは見事な機動力でそれを難なくかわした。
さらに2基の大型スクリューで強力な水流を発生させるトルネードスクリューと魚雷ランチャーという海戦用の武装は海中でこそその真価を発揮するもので、私は勢いに乗って海中の敵を次々に撃破していく。
「すごい…」
「ワハハハ…驚いたか! こんなこともあろうかとプロトタイプのスペックをオレ様がさらにブローアップしているからな! おかげで調整に時間がかかっちまったんだけどな。がんばってくれよ、イサミちゃん!」
海中の敵を一掃してしまうと残りは空中の無人メカだけとなった。
「リョーコ機とイズミ機に主砲射程圏外への離脱を指示して下さい」
ルリちゃんの指示にメグミさんが従う。
「了解」
「グラビティブラスト発射スタンバイ」
「リョーコ機、イズミ機の攻撃圏外への退避を確認!」
「グラビティブラスト発射スタンバイOK!」
ミナトさんがグラビティブラスト発射準備の完了を告げる。
それを聞いたルリちゃんはひと呼吸おいて叫んだ。
「グラビティブラスト、発射!」
重力波が木星蜥蜴の無人メカ群を飲み込み、無人メカの残骸は海上にバラバラと散っていった。
無人メカを排除したことでひとまず作戦完了となり、ブリッジにクルーが集まって緊急ミーティングが開かれた。
その結果、海底のチューリップを利用してボソンジャンプを決行することに決まった。
無人メカの発生ポイントを強襲して直接これを叩こうというネルガルの判断である。
チューリップを破壊するのだけも良さそうなものなのだが、再びチューリップを送り込まれたらまたそこから無人メカが湧いて出てくることになってしまう。
要はゴキブリ退治と同じく発生源を徹底的に潰してしまおうということなのだ。
「これよりナデシコB艦、海底チューリップに突入します。目標到達まであと10分。進入角度OK、ディストーションフィールド安定しています」
「了解、このまま進行して下さい」
「艦首、海底チューリップ内に入ります」
ミナトさんはチューリップ内部に向けてナデシコB艦を進めた。
宇宙に浮かぶナデシコB艦。
その前方には木星があり、私は一人で展望室からその景色を眺めていた。
木星の姿を見れば何か記憶を呼び覚ますのではないかと考えたからだ。
しかし遠くから見ているだけではこれといって思い出すものはない。
すると突然頭の中でフラッシュが焚かれたように一瞬真っ白になり、続いてコマ送りのようにいくつものシーンが過ぎった。
(今のは何? あれは木連のコロニー…? どうしてそんなものが? …これは私の記憶の断片なの?)
その直後、激しい頭痛に苛まれて私は意識を失ってしまった。
意識を取り戻した私が目を開けるとそこはメディカルルームであった。
見慣れた天井がそこにある。
ベッドの横にはホウメイさんが座っている。
「気がついたかい?」
「ホウメイさん…」
身体を起こそうとするが、ホウメイさんがそれを止める。
「無理をしない方がいいよ。…驚いたよ、あんたが展望室で倒れてるって聞いてさ」
「またみなさんにご迷惑をおかけしてしまったようですね…」
「いいのさ、そんなこと。それよりお腹すいてないかい?」
「ええ、少し…」
「そう思ってね、おかゆを作ってきたよ。さあ、お食べ」
彼女はそう言うとベッド脇にあるテーブルからどんぶりを持ち上げて私に寄こした。
ふたを取るとふわっと湯気が立ち、食欲を刺激するいい匂いがする。
身体だけでなく疲れた心にも効き目のありそうな玉子がゆだ。
「いただきます。…美味しい。ホウメイさんの料理を食べていると生きているって実感します」
彼女の料理を食べながら、私はにっこりと微笑む。
「大袈裟だねえ。でもそれだけ食欲があるなら、もう大丈夫だね」
「はい。…ごちそうさまでした」
「じゃあ、もう少し眠るといい。あんたは頑張りすぎなんだから」
「はい」
私は彼女の作ってくれたおかゆを全部平らげると再び眠りについた。
数時間後、体調の回復した私はブリッジに戻ってクルーのミーティングに加わった。
次の作戦というのはエステバリスによる先発隊を調査に向かわせ、その結果によってどう対処するかを決めるというものだった。
私は先発隊に志願した。
「私に行かせて下さい!」
「えっ?」
驚くルリちゃん。
「私がエステバリスで調査に向かいます」
するとリョーコさんが口を出す。
「何言ってんだよ。そんな身体で行くなんてよぉ、できっこねえぜ。あんたは副官なんだし、おとなしくナデシコに残ってろよ。先発隊ならオレとヒカルで行くぜ」
「そうだよ。無理しない方がいいよ。調査はあたしたちにおまかせっ!」
ヒカルさんも当然だという顔で言う。
しかしここで退くわけにはいかない。
「いいえ、ぜひ私に行かせて下さい。どうしても行かなくてはならない…という気がするんです」
「ダメです」
ルリちゃんがハッキリとした口調で却下する。
私の体調が万全でないということでクルーたちが気遣ってくれているのはよくわかる。
しかし木星コロニーに記憶の手掛かりとなるものがあるかもしれないと思うと私は諦めることはできないのだ。
「お願いです、艦長!」
私の熱意に打たれたのか、しばらく考えた末にルリちゃんは言った。
「…わかりました。それではリョーコさんとイサミさんに先発隊をお願いします」
「ありがとうございます!」
「艦長命令なら仕方ないな。まあ、オレがついていることだし、イサミのことは任せときな」
リョーコさんは胸をぽんと叩く。
「では、エステバリスの準備をお願いします」
「「了解」」
ルリちゃんの命令に私とリョーコさんは敬礼する。
するとルリちゃんが私の目を真っ直ぐに見ながら言った。
「絶対に無理はしないでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
嬉しくて自然と感謝の言葉が私の口をついて出たのだった。
2機のエステバリスが発進した。
その行き先は木連の本拠地であった木星コロニーの工業プラント。
かつては人が大勢いた活気ある場所だったというのにそれが今は無人となっている。
いや単に人がいないというだけでなく、空気すらも凍りつき時間が止まってしまった死の世界そのものだ。
地球軍と木連の休戦後、ほとんどの人が木星から火星や月に移住してしまったためにこのコロニーは完全に無人となっており、工業プラントも長い間使われていないはずなのだが、私たちはそこで驚くべき光景を目にしてしまった。
木連の軍事施設であった工業プラントでは今でも続々とジョロやバッタなどの無人メカが自動的に作り出されていたのだ。
ただ黙ってその様子を見つめていた私はいつの間にか複雑な工場の中を迷わずまっすぐに奥へと進んで行く。
そして目に入る光景にはなぜか懐かしさを感じ、以前にここに来たことがあるのではないかと感じていた。
しばらく歩くとこのプラントの集中制御室の前にたどり着いた。
「…ここだわ。入りましょう、リョーコさん」
そう言ってドアノブに手をかけると、リョーコさんが私を引き留める。
「おい、待てよ」
「はい、何ですか?」
「何ですか、ってなぁ…。イサミ、何でここの中のこと知ってんだ?」
「いいえ、知りません。でも何となくわかるんです。…いえ、何がどこにあるかわかるというよりも、自分の行きたい場所に自然と足が向くというか…」
「はぁ?」
「私も上手く説明できないんです。それより時間がありません。早く調査を終わらせましょう」
リョーコさんが不審に思うのは当然だ。
私自身も不思議に思っているくらいなのだから。
これまでも私は何度か同じような経験をしていた。
エステバリスのコックピットの中で操縦桿を握っていると、それが初めて見たものであっても自然に身体が動く。
今だって記憶はないが身体がこちらへと行きたがっていたから来た。
身体に過去の経験が残っていて、それが無意識に私を動かしているといった感じなのだ。
制御室のドアを開け中へ入った。
正面にあるコントロールパネルが点滅し、作動しているのがわかる。
「こいつかぁ…」
リョーコさんがコントロールパネルの台をつま先で軽く蹴る。
「誰かがスイッチを入れたんですよ。そのせいで無人メカが製造されて、完成したものがチューリップを通って地球に…ということでしょう。ほら、ここを見てください。私たちの足跡の他にも足跡が残っています。コントロールパネルにも手をついた跡があります。この埃の厚さから考えると…2週間から10日くらい前に誰かがここに来たのは間違いありません。その人物がスイッチを入れた犯人でしょう」
「それじゃ早いとこ、ぶっ壊しちまおうぜ」
そう言ってリョーコさんは銃をホルスターから取り出す。
「待って下さい。これは明らかに人為的なもので、機械の誤作動ではありません。そうなると自爆装置がセットされている可能性もあります。証拠隠滅や私たちのように破壊しに来た人間を消すためにはこのプラントを爆破してしまえばいいんですから。やたらにショックを加えて自爆装置が作動したら私たちは無事では済みません。規模によってはナデシコにも影響が及ぶ可能性もあります。私たちは調査のために来たのですから、ここはいったんナデシコに戻って報告をして艦長の判断に委ねましょう。」
「わかったよ」
物足りないといった様子のリョーコさんだが、私の言っていることが正論であることも理解しているので納得してくれた。
そうなるとさっさと帰ろうということになり、足早にエステバリスまで戻るとさっさと乗り込んでナデシコへ帰還する。
私は後ろ髪引かれる思いで胸が少し苦しくなったが、リョーコさんの乗るエステバリスの後ろを飛びながら執心を振り切った。
私たちはナデシコB艦に戻り、ルリちゃんに調査結果を報告した。
そしてネルガル本部との会議の結果、後顧の憂いを断つために完全に破壊することに決まった。
「では、これからグラビティブラストにより工業プラントを破壊します。発射準備お願いします」
ルリちゃんの指示でクルーはグラビティブラスト発射準備に取り掛かる。
私が副官席に座っているとリョーコさんが近づいて来て小さな声で私に話しかけた。
「いいのか、このままで?」
「えっ、何がですか?」
「あそこにはお前の記憶の手掛かりがあったんじゃないのか? だとしたら…」
リョーコさんの心遣いはありがたかった。
たぶん彼女の言うようにあの場所には私が記憶を取り戻すための手掛かりがあったかもしれない。
でも時間がないのだ。
このまま放置し続ければ無人メカがどんどん地球へと送られていくのだから。
「かまいません。今もプラントは稼働していて無人メカが製造されて次々と送り出されるんです。あのプラントは地球人の脅威となる危険なものなんですから一刻も早く完全に消滅させなければなりません。私にとって過去よりナデシコのみなさんと一緒の今と未来の方が大切です」
私たちの会話をルリちゃんはじっと聞いていたようで、少し悲しそうな顔になったことに私は気づいてしまった。
「グラビティブラスト発射スタンバイOK!」
ミナトさんの報告にルリちゃんは一瞬ためらうが、声を張り上げ発射の号令をかけた。
「グラビティブラスト、発射!」
グラビティブラストの直撃を受けた工業プラントはあっという間に跡形もなく消えてしまった。
私は黙ってメインモニターを見つめていた。
無性に悲しくなってきたが、心の中を他のクルーに知られたくはない。
私はぐっと気持ちを堪え、副官としての責務を果たすことにした。
「艦長、次のご指示をお願いします」
「これよりナデシコB艦は地球へ帰還します」
ルリちゃんの凛とした声がブリッジに響いた。