機動戦艦ナデシコ The Blank of 3years Another story   作:ルーチェ

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第8話

 

 

私は後ろ手に縛られ、目隠しまでされてどこかに監禁されている。

場所がどこなのかはわからないが、たぶん撮影所の倉庫であろう。

コンクリートの冷たい床の上に転がされていて、周囲の音や空気のにおい、声の反響からコンクリートの壁で囲まれた天井が高くて広い場所なので倉庫ではないかと推測したのだ。

ナナコさんの名を呼ぶが返事はないところをみると、彼女とは別の部屋に監禁されていると思われる。

私たちを拉致した連中とって私にはまだ生きていてもらわなければならないため今のところ命の危険はなさそうだが、私もレツさんのようにされてしまうかもしれない。

洗脳されてしまえば自分の意思に関わらず戦争の道具にされてしまう。

その前にこの状態から脱する手段はないかと考えていると部屋の中に誰かが入って来た。

足音から察すると一人だけのようで、目隠しを外されると目の前には国分寺博士がいた。

 

「あなたは…」

 

「荒っぽいやり方で申しわけない。しかし状況が少し微妙になってね。我々は君を必要としているのだ。勘弁してくれたまえ」

 

「私に何の用なんですか !?」

 

「何の用はないだろう。我々は君の帰りをずっと待っていたんだからな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「君は記憶を失ってしまったそうだが、先の大戦では我々木連の戦士だったのだよ。しかも我々の計画によって作り上げられた、もっとも優秀な戦士の一人だったのだ」

 

「私が…? その我々の計画って何なんですか?」

 

国分寺博士の言葉を信じるのであれば、私が木連の人間であることは間違いない。

しかし帰りを待っていたとか、作り上げられた戦士とか、わけがわからない。

そんな私に彼は説明を続けた。

 

「我々は優人部隊とは異なるコンセプトによって完璧な戦士を作り出す計画を進めていた。運動神経や知能、次元跳躍のみならず軍を率いて戦い、人民をまとめ上げることのできる統率力やカリスマ性を持った完璧な英雄だ。ヒトゲノムの解析は未完成だったが、優秀な遺伝子を組み合わせて生まれた子供たちを様々な環境に置き育てた。己の出自を知らず市井で生活を続けておる者もいれば、君やレツのように軍に所属していた者もいる」

 

「レツって…レツさんもその一人なの?」

 

「そうじゃ。まあ、言ってみれば君とレツは兄妹のようなものなのだ」

 

「でも、私は女で…なぜ女である私が木連の軍人になんて…」

 

「木連にも女性の兵士はおる。しかしそれは裏工作をするスパイ的な兵士のみで、表向きは女性の軍人はいないことになっているがな。…実は君には血の繋がった本当の兄がいたのだ。彼の名前は御法川ハヤトという」

 

ハヤト ── 私はナデシコに現れた時に持っていた写真のことを思い出した。

 

「やっぱりあの写真の人は私のお兄さんだったのね…」

 

「君とハヤト君は双子の兄妹として生まれた。たぶん受精卵の段階で想定外の外的要因が加えられたのだろうが、本来なら生まれるはずのない女性は計画の対象外であったのだが非常に珍しいケースだということで、二人を引き離して別々の環境で育てることにしたのだ。あくまでも研究対象としてだ。なにしろ木連では女性の出生率が非常に低いこともあり、それだけでも君の存在は非常に貴重なものであったからな」

 

「研究、対象…」

 

「イレギュラーである君は計画のリーダーである早乙女博士の娘として引き取られた。早乙女夫妻には子供がおらず、監視するにはちょうど良かったのだ。…しかし計画は意外な方向へと進み始めた。成長した君は誰が導いたわけでもなく自然と自ら軍人となる道を選んだ。早乙女博士が君を育てたのは研究対象としてだから君の決心に反対することはなく、むしろ君の意思を尊重する形で事を進めたようだ。君が士官学校に入学できたのは、博士や様々な人間の裏工作があってこそ。女性であるということを隠し、士官学校へと入学した君はそこで初めて自分の兄であるハヤト君と出会った。そして二人とも士官学校を優秀な成績で卒業し、ハヤト君は早々と優人部隊へと入り白鳥九十九少佐の部下になった。君は能力こそ十分だったがハヤト君の“予備”ということで優人部隊への配属は見送られて別の道を進むことになる。…しかし優人部隊に配属されたハヤト君は間もなく戦闘中に戦死した。彼は我々がもっとも期待をしていた優秀な戦士だった。何ごともなければそのまま木連の英雄になるはずだった彼を我々は失ってしまったのだ」

 

「……」

 

「そこで我々は君に白羽の矢を立てた。女性ではあるが幸運なことにハヤト君並に優秀な人間であったから、君を彼の代わりにすれば良いと軍の上層部は決定した。ハヤト君の“弟”の君を次期指導者とすべく計画をそのまま進めることにしたのだよ。君が女性だと知っていたのはごく一部の軍上層部の人間だけだったからな。そして君は月臣元一朗少佐の部下となるものの、火星での戦闘の際にマジンで出撃したのだが突然姿を消してしまった…。我々は大切な戦士を二人続けて失うことになってしまったのだ。しかし君は生きて帰って来た。さぁ、我々のもとに戻るのだ。木連再興のためには君の力が必要なのだよ!」

 

信じられないような事実を並べられ、私の頭の中は混乱していた。

しかし私の力を新たな戦争のために利用しようとしている人間がいることだけははっきりとわかった。

 

「嫌です! あなたたちに力を貸すわけにはいきません!」

 

「何をバカなことを。いいかね、戦闘中に消えてしまったはずの君が記憶を失いながらも再び我々のところに戻ってきたのはなぜだと思う? すべては運命なのだ。君は木連の英雄になるために生まれてきたのだ!」

 

私はそんなことを望んではいない。

私がここへ来たのは自分の記憶を取り戻すためであり、木連に戻って戦士となるためではないのだ。

 

「勝手なことを言わないで! 木連の英雄になるために生まれてきたなんて耳あたりの良いことを言ってるけど、私はそんなものになりたくて生きてきたんじゃないわよ!」

 

「しかしハヤト君を失い、レツは容姿こそ天空ケンにそっくりでビジュアル的には最適だが次代の指導者としては少々力不足。おまけにあのようになってしまっては表舞台に立つことはできん。したがって我々にはもう君しかいないのじゃ」

 

「やめて! 嫌、もうたくさんよ! もう…」

 

私の感情の高まりに反応したのか、ポケットの中のお守りが激しく輝き始めた。

そしてその光は私自身をも包み込んでいく。

 

「これは…ボソンジャンプ… !?」

 

私はそのまま白い光に包み込まれてしまい、またもや意識を失ったのだった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

気がつくとそこはそれまでいた倉庫とは違う別の部屋であった。

 

「大丈夫? しっかりして」

 

目の前には心配そうな顔で見下ろすナナコさんの姿がある。

 

「ナナコさん…? ここは…? いったい何が起こったの? …ナナコさんは無事だったんですね?」

 

「ええ、わたしは大丈夫よ」

 

「よかった。…そういえば私は別の部屋の中にいたはずなのに、どうしてここに?」

 

「生体ボソンジャンプよ。あなたはここまでボソンジャンプで飛んできたの。あのお守り、役に立ったのね」

 

「あのお守りって…たしかあの時、石が光って…あれっ、なくなってる」

 

お守り袋自体はポケットにあるものの、中身の青い石は消えていた。

 

「あれを地球の人間はチューリップクリスタル…つまりCCと呼んでいるわ」

 

「CC…?」

 

「チューリップを使わずにボソンジャンプをするために必要な物なのよ」

 

「ということは、私はまたジャンプをしたんですね…」

 

落ち着いてあたりを見回すと、撮影用の機材が無造作に置かれているのに気づいた。

 

「ところで…ここって、やっぱりあの撮影所の中ですか?」

 

「そうらしいわね」

 

「とにかくここから出なきゃ。…鍵、壊せるかしら?」

 

「大丈夫よ。鍵はかかってないから」

 

ナナコさんが事も無げに言う。

 

「えっ、どうして?」

 

「あの人たちは、わたしが逃げないことがわかっているのよ」

 

「逃げないって…どうして?」

 

「逃げても無駄だもの。あの人たちはあなたが想像している以上の力を持っているのよ。逃げてもすぐにまた捕まってしまうわ」

 

「そんなのやってみなければわからないじゃないですか! 私なら最後まで戦いますけど、ナナコさんはここで諦めてしまうんですか?」

 

「…そうね。ダメで元々だし、やってみましょう」

 

ナナコさんも一緒に逃げることに同意してくれて、私たちは大道具部屋のような場所から移動して別のガランとした何もない小部屋へと逃げ込んだ。

使っていない部屋なら撮影スタッフが入って来ることもないだろうと考えたからだ。

 

「とりあえずナナコさんはここに隠れていてください。私はやらなくてはいけないことがあるんです」

 

「レツのことね?」

 

「ええ。…私、レツさんに初めて会った時から他人のような気がしなかったんです。どういうわけかわからないけど彼の力になりたいって思っていました。でも事情を知ってわかったんです。彼と私は同じ境遇の人間だった。私たちは兄妹のようなものなんだって国分寺博士が言っていました。だから私はレツさんを助ける。そのためにもう一度国分寺博士のところに行かなければいけないんです」

 

「…わかった。だけどわたしも行くわ。あなたを手伝いたいの」

 

「ダメです! あなたをこれ以上危険な ──」

 

「どうせ見つかったところで殺されるわけじゃないし、さっきみたいに別の部屋に閉じ込められるだけよ。わたしにはまだ利用価値があるから。…もっとも今度は鍵をかけられてしまうかもしれないけど、そんなことを怖がっていたら何もできないわ。わたしもあなたのように最後まで戦うって決めたのよ」

 

ナナコさんの覚悟は本物だ。

それなら少し危険ではあるが手伝ってもらおう。

 

「わかりました。でしたら私が国分寺博士のいる例の部屋に侵入するまで援護してください。そしてそこから先は自力で逃げてください。あまり深入りすると命の危険に関わるような陰謀に関わってしまうかもしれませんので」

 

私はこれから国分寺博士と対決するわけだが、その中で私が木連の極右連中の陰謀に関わるキーパーソンであり、その事実をナナコさんが知ってしまったら彼女は消されるかもしれない。

国分寺ナナコに良く似ているといっても彼女が地球側のスパイであって秘密を知られたとなれば消されるのは明らかで、本来なら一刻も早く逃げてもらいたいくらいだ。

それに私に何かあってもレツさんを守ってくれる人がいれば安心して国分寺博士と対決できるのだ。

 

「わたしにとっては知らない方がいい何かがあるってことね?」

 

「はい」

 

「それなら仕方がないわね。わかったわ」

 

「ありがとうございます。では行きましょう」

 

 

 

私はナナコさんと一緒に国分寺博士のいる「指令室」に向かった。

通路の陰からドアの前の様子をうかがうと、黒服の男が一人で警護にあたっている。

私たちをホテルから追って来た男たちの仲間だろうが、ヤツラほど強そうには見えない。

たぶん他の男たちは私の行方を捜しているに違いない。

まさか逃げた人間が一番危険な場所に戻って来るとは想像もしていないだろう。

しばらく観察していたが他に障害となるような人間は現れなかったので、私は強行突破することに決めた。

 

その部屋に窓はなく出入り口は部屋の南側にひとつしかない。

出入り口のドアは東西に延びる廊下に面しており、男は東西からやって来る人間を一人で監視できるドアの前にいるため、近づこうとしてもすぐ発見されてしまうだろう。

しかしこちらは二人いるので手がないわけではない。

 

倉庫を出る時に何かに使えるかもしれないといくつかアイテムを持って来ている。

 

(使えるかも…?)

 

私は袋の中から野球のボールを取り出してナナコさんに渡した。

 

「あなたはここにいてこのボールを男の気を引くようにタイミングを見計らって転がしてください。距離にして7-8メートルですので軽く投げても男の足元まで転がってくれるでしょう。転がしたらそのまま確認しなくていいので逃げてください。私は反対側の西側の角に隠れていて、男がボールに気をとられたところで飛び出して背後から襲撃しますので」

 

「それならこの作戦が成功したのを確認してからわたしは逃げることにする。あなたは自信があるのかもしれないけど失敗する可能性もゼロじゃないわ。もし危ないと思ったらわたしも戦う。スパイとして潜入するにあたって格闘術はマスターしているから自分の身は自分で守れるから大丈夫よ。それにわたしたちは()()を持っているじゃない」

 

ナナコさんはそう言って大振りのカナヅチを私に見せる。

大道具を組み立てるために置いてあった工具箱の中にあったものだ。

私も同じく長さが1メートルくらいある大型のバールを持って来ている。

 

「わかりました。あなたの厚意に甘えます」

 

 

私とナナコさんは二手に分かれて「指令室」を挟むように東西に位置取りをする。

ここまでの私たちの動きに男はまったく気がついていないようだ。

 

ナナコさんは打ち合わせの通りにボールを転がした。

すると男の足元に転がって、そのボールに気をとられた男はそれを拾おうとして私の方に背を向けて屈み込む。

その隙をついて私は素早く男の背後に滑り込み、後頭部にバールで一撃加えると男はあっけなく倒れてしまった。

足元に転がる男のホルスターからすかさずブローバック式の拳銃を引き抜き、セーフティロックを解除しつつ私はドアを蹴破り中へ飛び込んだ。

 

 

「動くな!」

 

私は部屋に飛び込むと同時に、中にいた国分寺博士に銃を向けた。

想定外のことに慌てるといった様子も見せず、彼はゆっくりと両手を挙げる。

 

「そんなことをして、どうするつもりだ?」

 

「レツさんを元に戻しなさい!」

 

「なるほど、わしはそのための人質というわけじゃな」

 

「そうです。それとあなたにはこのバカげた計画を放棄してもらいます」

 

「それはどちらも無理じゃな。この計画はわし一人で動かしているわけではないし、レツに関しては完全に元に戻るということはない」

 

「何ですって !?」

 

「そんな愚かな考えは捨てて、我々のところに戻って来い。君がどう思っているかは知らんが我々の計画は木連を正しい姿に戻すために必要なのじゃ」

 

「何度言われてもお断りよ! 何をもって正しい姿だというの? それにあなたたちの計画のためにどれだけの人間が不幸になっているかわかってるの? 私は絶対にあなたたちに協力する気はないわ!」

 

「そう興奮するでない。…わかった、君が戻って来てくれるというのならレツをこの計画から外し、然るべき病院に入院させて治療に専念させる。それでどうだ?」

 

「さっきは完全に元に戻ることはないって言ったでしょ !?」

 

「完全には戻らなくても日常生活に支障はない程度には回復させられる」

 

「つまりハヤトのコピーである私がいればレツさんは用済みってわけね。結局のところ私たちはあなたたちの野望のための道具だってことが良くわかったわ」

 

 

 

ビー、ビー、ビー

 

またしても警報が鳴り響いた。

 

「敵襲か !?」

 

モニターを確認しようとして振り向く国分寺博士に私は警告する。

 

「動かないで! 動いたら…撃つわよ!」

 

私がそう言った時、オペレーターから通信が入ってきた。

 

「博士! 所属不明の機動兵器が5機、フィールドを越えて接近しつつあります」

 

「ジンを出せ! レツに任せる」

 

「はっ!」

 

 

国分寺博士の指示でレツさんがダイテツジンで出撃した。

それを私と国分寺博士はモニター越しに見守っている。

今の私にはそれしかできないのだ。

 

ダイテツジンに搭乗したレツさんは敵の中へ単身飛び込んで行った。

 

「この前より多いな…」

 

「この敵はいったい、何なんですか?」

 

「地球連合の犬だろう…くだらんことだ」

 

木連側に地球との和平を望まない者がいるように、地球側にも木連を敵視している者がいる。

だからジョロやバッタといった無人メカが地球に送り込まれた事件があり、こうして地球側の人間が木連の街を攻撃することもある。

どちらも過激な思想を持つ少数派だが、それが地球・木連それぞれの全体の意思だと思われては不本意だ。

現実には平和を望む人間が大多数であり、私を含めてそういった人間から見れば無意味な争いをしているように思えるが、当事者たちはマジだから非常にタチが悪い。

自分たちの思想こそが真の「正義」だと信じて疑わないのだから。

 

 

私たちはしばらく無言で戦況を見守っていたが、レツさんのダイテツジンが敵機に取り囲まれてしまう。

 

「む、まずいな。このままでは…」

 

ウィンドウのダイテツジンの表示が赤くなったかと思うと、再びオペレーターからの通信が入った。

 

「博士! ダイテツジン、中破しました! パイロットは無事です」

 

レツさんが無事だと聞いて私は安堵するが敵の攻撃は止まない。

 

「奴ら本気じゃな。このままではゲキガンシティ自体が危ない」

 

「機動兵器5機で本気ということはないでしょ? それにいくら何でも休戦中の現状で戦争をしようと思っても世論が認めないのだからどちらの勢力にとっても都合が悪い。単なる嫌がらせでは…?」

 

「ふん。わかったものではないな」

 

「……」

 

先の無人メカによるオマエザキドック襲撃事件も脅しというレベルではなかったのだから、その報復を兼ねて徹底的に街を破壊する気かもしれない。

あの事件でナデシコB艦とその場に居合わせた旧ナデシコクルーのおかげで市民への被害はゼロで済んだものの、場合によっては民間人と街へ大きな彼我が出ていたかもしれないのだから。

そんなことを考えていると国分寺博士は私の方に向き直って話しかけてきた。

 

「なぁ、君にひとつ頼みがあるのじゃが…この間のようにジンに乗って戦ってくれんか?」

 

「何をバカなことを…。お断りします!」

 

「しかし他にアレに乗れるパイロットはおらん。君が乗ってくれないとシティは壊滅じゃ!」

 

「そんなことを言われても私には関係ないことです。それに私はあなたの敵なんですよ。その敵にジンへ乗れって言うんですか?」

 

「わしもみすみす敵対している者にジンを渡したくない…。しかし事態は急を要している! シティに住む人々を守るため、とりあえず今だけでも協力してはくれまいか?」

 

「でもジン1機だけじゃ…」

 

「大丈夫じゃ。こんなこともあろうかと開発しておいた新型のジンがある。これなら奴らに勝てるかもしれん。まだテストを終えていないのでできれば使いたくはなかったが、こうなっては仕方ない。もう他に打つ手はないのじゃ」

 

「……」

 

国分寺博士に協力はしたくないが、このままでは無関係な木連の市民だけでなく地球からの観光客にも犠牲者が出てしまうかもしれない。

苦渋の選択となったが私は新型のジンに搭乗することとなった。

レツさんが人質になっているようなものだから、下手に拒否すれば彼の状況はますます悪化することは明らかなのだ。

 

新型のジンとは3機のマシンが合体して巨大ロボットになるものであった。

私がコックピットに乗り込むと何もしていないのに勝手にマシンが動き出して自動的に変形合体してしまう。

まさにゲキ・ガンガーの世界そのものだ。

 

 

「何っ、これっ !?」

 

「これこそ我々の新たなる希望の光、ダイマジンⅤじゃ!」

 

ゲキ・ガンガーが木連の聖典であるから木連の機動兵器がゲキ・ガンガー3やゲキ・ガンガーⅤそっくりなのは仕方がない。

仕方ないのだが…合体するところまで再現する必要はあるのだろうか?

これもやはり例の計画の一部で、ゲキ・ガンガーに登場するマシンとそっくりな機動兵器に英雄(ヒーロー)が乗り込み、地球という敵を退けるというストーリーをでっち上げるために用意したのかもしれない。

なにしろゲキ・ガンガーは天空ケン、海燕ジョー、大地アキラという3人のパイロットが時には反発することもあるが、様々な困難やトラブルを乗り越えて友情を深めて共に侵略者と闘うというストーリーが萌えるのだから、合体メカは必須アイテムといえる。

たぶんレツさんやハヤトのようなパイロットを3人集めて乗せるために用意したと考えるのが妥当だろう。

ただし今はパイロットが私しかいないのでリモートコントロールで合体させたのだ。

 

(私もこういうのは好きだけど、嫌な予感しかしないのよね…)

 

搭乗した私の気持ちなど解せず、国分寺博士はノリノリだ。

 

「ダイマジンⅤ、発進だ!」

 

「…了解」

 

 

不安を抱きながらも出撃した私はダイマジンⅤで敵を次々と排除していった。

 

「すごい…」

 

機動兵器の攻撃を厚い装甲によて苦もなくはじき返すダイマジンⅤ。

初めのうちは従来のジンとの性能の差に驚いていたが、関節部に被弾するとあっけなく動けなくなってしまった。

 

「しまった! 合体を重視した結果、結合部の強度に問題があったか!」

 

とんでもないことを暴露する国分寺博士の声が通信機から聞こえてきた。

今更そんなことを言われてもどうしようもない。

 

「あなた、これに乗る人のこと考えてなかったでしょ!」

 

「しかしそんなことではこのダイマジンⅤは挫けはせん! 必殺技のマルチグラビトンブラストバスターを使うんだ!」

 

「え? マル…グランド…ブラス…ター…?」

 

「ちっがーう! マルチグラビトンブラストバスター、じゃ! ちなみに発射方法は音声入力になっとる!」

 

「なんでわざわざそんなめんどくさい仕様にするのよ !?」

 

「ほれ、いいから早く発射するんだ!」

 

「仕方ない…必殺っ! マルチぃ…グラビトン…ブラストぉ…バスターっ!」

 

もうやけっぱちの状態で叫ぶと、ダイマジンⅤは胸のあたりから大口径のグラビティブラストを発射した。

その前方で津波に飲み込まれるように敵機動兵器部隊はまとめて吹き飛ばされてしまった。

敵部隊は全滅したものの、地上の撮影所は戦闘の巻き添えを食って壊滅状態になっている。

傷ついたダイマジンⅤはゆっくりと降下し、ナナコさんたちを助けに行くために私はコックピットから飛び出して地上に降りると駆けだした。

 

 

 

見る影もない撮影所の廊下で私はナナコさんとレツさんを見つけた。

気絶しているレツさんがいて、彼をナナコさんが肩に担いで支えている。

辺りは天井や壁の崩れる音が絶え間なく続き、今にも崩れそうな状態でこのままでは3人とも危険だ。

 

「ナナコさん、急いで!」

 

「ええ!」

 

レツさんの両脇を私とナナコさんの二人で支えて外へ出るために廊下を進む。

しかし途中までは歩くことができたもののそこから先は瓦礫の山で人が通れるような道はなく、たった今歩いて来た道も天井が崩れて塞がってしまっていた。

前にも後ろにも進めない。

まさに絶体絶命の状態だ。

 

「このままじゃ生き埋めになってしまう…。どうすればいい…?」

 

私が半ばあきらめかけた時、ナナコさんは私の手にCCを握らせた。

 

「これを使ってちょうだい」

 

「これは…CC」

 

「そう。あなたならわたしたちを連れてジャンプできるはずよ」

 

「そうか! …でもやったことがありません。単独でのジャンプなら経験はありますが、二人を連れて一緒にジャンプするなんて…。失敗したらみんな無事じゃ済まないですよ」

 

「今はそれ以外に方法はないわ。ここで生き埋めになるくらいならあなたにすべてを委ねることにする。もし自信がないのならあなた一人だけでもジャンプして逃げなさい」

 

「一人で逃げるなんて、そんなことはできません! …そうですね、一か八かでやってみます!」

 

私はジャンプイメージを膨らませる。

そして私たちはボソンジャンプの光に包まれた。

 

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