一度ヤった後の物語   作:すっごい性癖

3 / 13
キャラクターの名前を考えるのが苦手な私は、この2人の名前をまだ決めていません

正直、名前なんて出さなくてもどっちがどっちか分かるから良いかな、と諦めてます


久方ぶりに

キィ、と音を立てて対面の椅子に座る彼女。

 

図書館という場所故、対面に談話用の椅子など置いてはいないが、図書館という場所だからこそ、適当にそこらからかっぱらってきても咎められないからこそ出来る蛮行だ。誰も来ないし、別にいいよね?精神というやつだね。

 

目の前で椅子に座る様子はどこかソワソワとしていて、見るからに居心地が悪そうだ。

 

まあ、そりゃあ内心をそれなりに見透かされた+大声で怒鳴ったのダブルコンボの直後だから仕方がないことでもある。

 

というか、普通に座れと言われて座る当たり大分肝が太いとも思う。あの流れならその場から逃げ出してもおかしくなかったし。場に飲み込まれているだけかもしれないが、まぁ、どちらでもイイか。

 

「さて……」

 

ビクッ、と彼女の肩が跳ねた。

 

その顔つきは恐々としており、今から何を言われるのだろうと恐れているようだ。

 

やはり、一度クールダウンの時間が挟まったからか激情は消え去ったか、引っ込まっており、先ほど見たいな勢いは出てこない。

 

「……」

 

ーーどうしようかな。

 

イイ感じに『さて……』などと、さも話を始めますよ、と言った感じを出してしまったが、そもそも私たちの会話の始点はすべて彼女だったので、何を言ったらいいものか、と悩んでしまう。

 

彼女はコレまで、どうやって話を始めてただろうか。

 

「…………」

 

沈黙が長引く。

 

なんだか、ココまで悩むといっそ、会話をするのが億劫になってきたな。

 

頭の中で、空想の天秤が揺れている気分だ。会話をするか、それともこのまま沈黙を続けるか。今のところ、若干会話の方が比重が大きい感じだ。主に、先ほどの『さて……』の重みだ。会話を始めようとした責任感とか、相手を待たせてることへの罪悪感が重さになっている。

 

……しょうがない。柄では無いが、私から話題をーー

 

(あっ……)

 

自分から話題を提供しよう、と私にしては珍しい判断を下そうとした瞬間、大事なことを思い出した。

 

 

(そうだ、そうだった……。私としたことが、ついうっかりーー)

 

 

自身のポカに、思わず苦笑してしまう。ふふ、と先ほどまでの悩みがバカみたいで笑えて来た。

 

「さて……」

 

再度、仕切り直しに同じ言葉を吐く。

 

もう、先ほどのように天秤はぐらついていない。完全に、片方に堕ち切っている。もはや、二度と上がることはないと宣言してるかのように。

 

「……」

 

ぺらりーー「ちょっとッ?!」

 

ガシリ、と右手を勢いよく掴まれた。

 

いったい何事だ、と視線を文字列から浮かび上がらせれば、そこにあるのは目の前の椅子から勢い良く飛び上がった彼女の姿だった。

 

「ーーどうしたの?」

 

言葉尻に毒を混ぜ、非難するように言い放つ。

 

しかし、彼女はそんな非難など気にしないようで、

 

「さっき、話をするって言ってましたよね?!『さて……』なんて、どこからどう見ても『私、今から話しますよ~』アピもしてましたよね?!ーーってか、二回もしてましたよねッ?!」

 

「……んぅ」

 

私の言い分としては、正直彼女との会話よりも読書の続きの方が面白そうだった、というモノ。

 

実際、今覗けた1ページの中でまた1人死んでいて、正直、ホントに全キルしてくれるのではとワクワクが止まらない。今も腕を掴まれていなかったら次のページに飛び込んでいただろう。

 

しかし、あくまでこれはワガママだ。

 

正直、彼女の言っていることはすべて正論で言い返せないし、言い返してはいけない。

 

ぐうの音も出ないとはこのことだ。なんとか『んぅ』までは出してみたけど。

 

……。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

私は正直に謝った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからは早かった。

 

長く続いていた沈黙も、一度霧散すれば返って来ない。

 

先ほどの私の行動に若干の怒りを持ったのか、勢いを蘇らせて彼女は話しだした。

 

「そもそも、興味が無いって言ったって普通1か月連絡してこないってなりますか?!あなた、アレが初体験だったでしょ?!初めてヤった相手が翌日から消え去って何も思わずソレまでの生活に戻るって精神どうなってるんですか?!」

 

「……自分だって連絡してこなかったじゃん」

 

「それはそうですけど!!でも、アプリ開いて数回フリックするだけで連絡できる時代ですよ?!」

 

「便利だよねぇ」

 

「一切使ってない人が言いますか?!」

 

「ーーねぇ、ちょっと?」

 

「はいっ、なんですか?!」

 

ーー図書室ではお静かに

 

 

だけど、ちょっと今度は勢いがありすぎるのでブレーキをかける。

 

今度こそ、バランスの取れた会話を始めよう。そう心に誓う。

 

「でさ……」

 

 

「結局キミ、いったい何人の女の子キープしてんの?」

 

 

「んぐッ?!」

 

バランス、失敗したみたい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

むせた彼女の背中をさすり、落ち着いてくるまで1分弱。

 

よっぽど衝撃的な質問だったのか、かなり大きめに咽たらしい。目元に若干の涙が浮かんでいる。

 

ーー、もういいかな?

 

「でさぁ、何人?」

 

「続けるんですか?!」

 

ギョッとした表情でこちらを見上げる彼女。その顔全体に、この状況で?!とデカデカと書かれているみたいだ。

 

しかし、こちらが話題を変えるつもりが無いと悟ったのか、彼女は「はぁ」と大きくため息を吐くと

 

「ーー7人」

 

と、ぼそっと呟いた。

 

って、7人って……

 

「ウッソだあ!絶対もっと多いだろ?あの手慣れよう、2ケタはいるでしょ、普通に」

 

「嘘じゃないですよ……。キープは7人だけです」

 

なんでこんな……とでも言いたそうな表情で答える彼女。

 

彼女の答えようから察するに……

 

「つまりセフレが7人、ヤリ捨てた女が無数ってことだね!」

 

つまりはそういうことだね。うむ。

 

「ひっどい言い方ですね?!……なんで過去一テンション高いんですか。ーーほんと、変な人」

 

「正直、フィクションじみたクズ発言を聞いて過去一にテンション上がってしまってるよ。面白くて仕方がない、出歯亀根性まっしぐらだ」

 

 

「そーですか」と、疲れ切った様子で反応する彼女の姿は正に草臥れの権化。ダルさ全開だ。一転して私は、物語でしか味わえないクズを直に味わえてちょっと楽しくて仕方がない。

 

しかし、そんな風に楽しんでるわけにもいかない。

 

話は纏めるためにあるのだ。

 

素早く、会話を進めよう。

 

「で、なんでそんな話題を?」

 

「ん?いや、君が一体どのくらい迷走してるのかなぁ……て気になってさ」

 

「私が、迷走?」

 

 

 

 

「君、ホントは男の子が好きなのに、女の子に手を出して自分の心を慰めてるんでしょ?」

 

 

 

「ッーー!」

 

ぐい、と思い切り首を引っ張られた。

 

目の前にあるのは真っ赤な瞳。そしてその瞳の中には、困惑と激情が混ざっていた。

 

「けほっ……離してくれよ。流石に痛「どうして……」……ん?」

 

 

「どうして、ーーそれを?」

 

 

ギラギラと、射殺さんばかりに睨みつけてくる彼女の瞳。

 

正に殺気。私を縊り殺そうという感情の発露だ。

 

 

「どうしても何も……、君の行動の理由が『女体への復讐』なら、筋書きは大体そうなるだろ?」

 

 

「……」

 

彼女の行動理由は『女体への復讐』。それの理由は、女の身体が羨ましいから。

 

なら、理由の理由は……。

 

「きっと、その身体、その恰好がなんらかのトラブルを生んだんだろうね」

 

女の子の様な顔つき、身体付きと、自らそう振舞おうとするその態度。

 

当然、最初に引き寄せられるのは女よりも男の方だ。

 

「でも、君が憎しみを持っているのは女体の方……。おかしいだろう?最初に吸い寄せられた性が男であるなら、君は何らかのトラブルがそこで発生した際、男の方に憎しみを抱くはずなんだ」

 

男に揶揄われた、身体を触られた、強姦された。どうなっても、怒りの矛先は男の方に向くだろう。

 

「じゃあ逆に、男との間には問題が起こらなかった……。それもおかしい、次に寄ってくる性が女で、そことの間でトラブルがあったとして君が自分から復讐だからと、女に近寄るか?不自然だろう?」

 

 

「だから、唯一の正解は男と君との間に何かがあって、その際に、女体への渇望、そして憎しみを生じさせた。ということになる」

 

 

「そしてここまでくれば、理由は大方恋愛がらみになることは明白。だから真相は……」

 

「やめてください……。後はーー」

 

 

「後は、私が言いますから……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先輩の言う通り、私は生まれつき男の子が恋愛対象でした」

 

 

「自覚したのは小5の夏。クラスで一番仲がいい友達に、気が付いたら恋心を抱いてました」

 

 

「悩みました。苦しみました。ーーなんで私は、僕はみんなと一緒じゃないんだろう。普通じゃないんだろうって」

 

 

「でも、いくら悩んだって答えなんて見つからなくて……」

 

 

「結局、悩んでいるうちに時間は流れて。彼には中学1年の夏ころには初めての彼女ができてました。とても、可愛らしい方でした」

 

 

「苦しかった。苦しかったんですよ?好きな彼に『可愛い彼女羨ましい』とか、『僕にもできるかなぁ?』とか。周りの目が怖くて、必死に普通の反応を貫いて。好きな彼は、もう誰かのモノなのに」

 

 

「そして一年後。中学2年の夏、僕は再度恋をしました」

 

 

「相手は一つ下の、隣の学校の男の子。部活動の大会で見かけて、思わず一目惚れしてしまいました。『あぁ、カッコいいなぁ』って」

 

 

「そこで僕は考えました。この、女の子っぽい見た目を必死に磨けば。磨いて磨いて磨いて。究極まで磨き上げれば、男の子でも。自分の魅力でモノにできるんじゃないかって」

 

 

「今考えれば浅はかな考えでした。ーーでも、あの時の私にとっては真剣そのもの」

 

 

「必死に体形を調整して、メイクやコーデなんかも必死に勉強して。勉強して勉強して、勉強して」

 

 

「結果、彼と付き合うことに成功しました。うまくいった要因としては、まず、別の学校の人だから最初は性別を知られていなかったところにあると思ってます」

 

 

「付き合ってからは、いろいろなところを巡りました。遊園地や動物園。一緒に公園で運動をしたりもしました。そして、半年ほど過ぎたころ、僕は彼に言ったんです」

 

 

「『実は男なんだ』、と」

 

 

「彼は驚いたような顔をした後、『君が好きだから、そんなことは関係ない』と言ってくれました」

 

 

「それまでの努力が報われたみたいで、とてもうれしかった」

 

 

 

「うれしかった」

 

 

 

 

 

「その二か月後、彼は別に女を作って私のもとを離れていきました」

 

 

 

 

 

「それはもう荒れ狂いました。あの言葉は嘘だったのかと。今までの時間は何だったのかと」

 

 

「そして、そこで私は一つ悟ったのです」

 

 

「『顔が100点、120点、150点になったって、80、70点ほどの女に僕は叶わない』」

 

 

「『穴の有無が、結局男にとって100点加減なんだ』って」

 

 

 

 

「私は女体を恨みました」

 

 

「当然、逆恨みだってわかってます。私を捨てた彼が悪いだけだって」

 

 

 

「でも、恨まずにはいられなかった!女の身体であるってだけで、私の血のにじむような努力をあっさりと、しかも、それなり以下の顔の癖に!!って」

 

 

「ーー私、頑張って可愛くなりました。男の子に、好きになってもらうためにココまで磨き上げました」

 

「でも、私の身体が男だから……。穴も胸もないから、男の子は女の子に鞍替えする」

 

 

 

 

 

「それが私の恨みの理由。身勝手なのも、逆恨みなのもわかっています」

 

 

「でも、思わずにはいられないんです」

 

 

「女の子の身体で生まれたかった」

 

 

「それが叶わなかったのならば」

 

 

「穢してやる、汚してやる。一つでも多くを台無しに、って」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ぽつり、ぽつりと天から雨が降ってくる。

 

それは、私の頬を垂れ、唇の脇をわずかに濡らして落ちていく。舌先が、少ししょっぱい。

 

 

「これが全てです」

 

 

「1人、目をつけては接近して、抱く。そしてそのまま距離を取れば、あとは勝手に相手の方から悲鳴の連絡を送ってくる。そして私はそれを聞いて自身の心を慰めては、別の女の子に接近する。コレの繰り返し。ーーキープというのも、それの延長線上です。いくら距離をとっても寄ってくる人もいるので、離れていくまで適当に穢して捨てるだけ」

 

 

「先輩に近寄ったのだって同じ理由です。まだ抱いていない女の子がいるから、近寄っただけ」

 

 

「ごめんなさい……。謝ってすむ話ではないですけど、本当にーーッ」

 

彼女の瞳は揺れている。

 

光の散乱による錯覚と、実際の行き場を失った視線の混合物だ。

 

 

 

ーー彼女の行いは、許されるものでは無いのだろう。自身の憤りを解消するために行った行動としては、度が行き過ぎている。

 

けど……

 

 

「それだけじゃないよね?」

 

 

「……え?」

 

 

確かに彼女の行動は憎悪有りきのものだった。

 

そこに疑念は一切ない。けど、

 

 

「結局キミは、誰かに求められたかったんだろう?」

 

 

「だから、私からの連絡が無かったことに腹を立てていたんだ。いつもなら、すぐにでも君に会いたい、なりのメッセージが飛んでくるはずだから」

 

 

「でも、私は送らなかった。君がさっきまで、自分を棚上げにして私に対し怒っていた理由はそれだよ。求めてもらえなかったから、怒った」

 

 

 

「なんて自分勝手なんだろうね。君は、女の子を使い捨てることで自身の憤りだけでなく、求められたい、愛されたいという気持ちも同時に埋めていたんだ。まさに、心の自慰行為だ」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

雨が先ほどよりも強くなった。

 

頬に堕ちる雨粒はより大きく、存在感を増している。

 

 

雨は、鬱陶しい。

 

 

 

だから、

 

 

「ココで提案だ」

 

 

雨は晴らしてしまおうか。

 

 

 

「ひとまずその心の穴、私が埋めてあげよう」

 

 

 

ーーこれでも私は、前世は男、今世は女の変態だ。

 

 

「君の暴走は、空腹が原因の一つだろう。ーー愛に飢えているから、より一層愛を求める」

 

 

ーー彼女の苦悩は理解できないが、共感できる。

 

 

「満腹が幸福への第一歩さ」

 

 

ーー先達として、苦しんでいる彼女に手をさし伸ばしたっていいだろう。神じゃないんだ。身近な人間に贔屓して、被害者より加害者を優先して助けるなんて日常茶飯事だ。

 

 

 

 

私はそのまま、彼女の唇に自身の唇をそっと重ねた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。