一度ヤった後の物語   作:すっごい性癖

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後輩ちゃんも沼ってますけど、主人公もだいぶ沼っているよという回です


男と女

男装騒動ーーというか、男装喜劇、もしくは男装愉快噺からは一夜明け、その翌日の放課後。

 

私と彼女は例のごとく、図書室の中。私はいつもの部屋の隅の方の席に座っており、彼女もその対面に椅子を引き寄せている。

 

私は本を、彼女はスマホを片手に眼を下ろし互いに無言。図書室の中に響く音階は一つとして存在しておらず、まさに静寂であった。

 

で、あった。

 

 

「ねぇ、先輩?」

 

「……何?」

 

 

それまで続いていた静寂はいとも容易く解かれ、部屋には二人の声が反響しだす。

 

かれこれ30分、スマホとずっとにらめっこ状態だった彼女は、飽きが来たのか机の上にそれを置いている。声には己の退屈さを乗せたのか、酷く平坦だった。

 

私としては、本を読んでいて忙しいので後にしてほしいのだが。

 

しかし、邪険にして臍を曲げられても困るので乗ることにした。

 

昨日、一昨日と彼女と接してみて思ったのだが彼女は少々激しやすいというか、ヒステリック気味のようだし。

 

なんて、こんな失礼気味な内心など知る由もなく。

 

彼女は一瞬、『えっ、マジで乗ってくれるの?』と言いそうな顔をするも、すぐに口角を上げ話しだす。

 

そんな反応をするあたり、彼女自身、無視されると思っていたのだろう。きっと。

 

 

「なんで今日は眼鏡かけてるんです?昨日はかけてなかったでしょう?」

 

「なんでも何も……。本、読んでるんだけど」

 

「えーっ、もったいない……」

 

「『なんで』っていうか、むしろ昨日の方が例外なんだけどね。昨日は眼、悪くても問題なかっただけだし」

 

昨日の目的はあくまで彼女、そしてその周辺。私の目が悪くて彼女たちの視界が歪むなどありえないわけで、昼や放課後は眼鏡をはずしていても問題はなかった。

 

でも今は、目的は本、活字だ。読み手が私である以上、眼鏡を外していてはその視界は歪められるわけで、眼鏡をしない理由が無い。

 

というか、

 

「文句言う割に顔ばかり見てくるじゃないか?存外、気に入っているんじゃないかい?」

 

 

「……」

 

 

図星なのか、どうなのか。彼女は返す言葉に貧窮した。

 

しかし、そうなるのも仕方が無いと言えば仕方がない。彼女のタイプは眼鏡が無い方、ということなのだろうが、『眼鏡が無い方の顔が好みなんで眼鏡外してください♪』なんて、言えるはずもなし。

 

甘口が好きな男の子が夕飯のちょっぴり普段より辛いカレーに対し、『なんか、今日ちょっと味がいつもと違うくね?』という感じと大体一緒。『中辛は辛いから嫌だ、甘口が良い』と、言うには気恥ずかしいのだろう。

 

ーーなんというか、連想するものが微笑ましくて目の前の彼女も若干微笑ましく思えてきたぞ?正直、言ってる内容、面食いのえり好みそのもので可愛げなぞ、一切ないのだが。

 

しばらくすると、彼女は返答を何とかひねり出してきたようで

 

 

「身体……」

 

 

 

「え……?」

 

 

『身体』、とそう一単語だけ零し、次点、

 

 

「そうッ、顔を見てるんじゃなくて、身体を見ていないんです!脳、バグるんで!」

 

 

「……そっか」

 

 

と高らかに宣言した。

 

 

正直、いくらでも詰めようはある理論だが、まぁ、先ほどの連想よろしく『恥ずかしくて言えない』のだろうと考えると可愛げがあるのでやめておこう。せめてもの情けだ。

 

けど代わりに、

 

 

「なら身体の方見たら……?」

 

 

あくまで見逃すのはカレーのルーの話。辛いか、甘いか。眼鏡があるか、眼鏡が無いか。

 

でも、ルーか白米。顔か身体かは話が別で。

 

どちらか一方を選べと言うのなら、別の選択肢も当然ある。

 

でも、まあ答えは……

 

 

「嫌です!!」

 

 

「まぁ、そうだよね」

 

彼女の性分的に、肉付きのいい女体と整った中性的な顔を並べられて前者を選ぶはずがない。

 

分かり切っていたことだった。

 

ルーと白米、どっちを選ぶ?という選択肢を重度の白米アレルギー持ちの人間に聞いたようなものだし。

 

 

「ねぇ、先輩」

 

 

「何?」

 

 

そして、この話題は終わったとばかりに始まりの会話が再演され、すべては振出しに戻る。

 

 

「さらしとか興味ありません?」

 

 

「……興味あるかと聞く割には、かなり目がマジのようだけど」

 

 

今日、初めて顔以外に視線を向けた彼女。

 

ジッ、と親の仇かのように胸を睨みつける彼女の姿はまさに鬼気迫る、といったもので、辺りに呪詛をまき散らしているかのよう。

 

 

「髪とかコンタクトとか。そう言ったものは休日じゃないと手入れできませんけど、さらしだったら手ぬぐいなり、タオルなりで代用できます。おススメです」

 

 

「今日、帰りにでも買ってきましょうよ。お金、出しますから」

 

 

ぐいぐい、と徐々にヒートアップしながら詰め寄ってくる彼女は己の欲を曝け出す。

 

最初は何となくの雑談、『さらしをしたらもっとカッコよくなるかもしれませんよ?』くらいの口調だったのに、今ではそこに『デカい胸、ムカつく』とか、『理想のイケメンを作りたい』とかの欲望を混ぜ込み、歯止めが利かない様子だ。

 

 

「買ってくれるとは言うけど、巻くの私でしょう?メンドクサイから嫌なんだけど」

 

 

「私が毎朝巻きますよ……」

 

 

「いや、冷静になりなよ?まさか学校で巻くつもりかい?」

 

 

「ええ、ココ集合でイイですよね?」

 

 

「いやいやいや、見つかったら2人そろって危ないんだけども?」

 

 

「大丈夫です、きっと、大丈夫ですから……」

 

 

「……君、何となくわかっていたけどタガが外れると結構ヤバい娘だな、さては?」

 

じりじり、じりじりと接近してくる彼女は、瞳を暗く染め落し、正気でないことは一目瞭然だ。

 

……んむぅ、

 

 

「ていっ」

 

 

「あたッ?!」

 

 

彼女を正気に戻さなければ、私が飲まれそうだったので急いで彼女の頭にチョップを1つ落す。

 

古来より、壊れたものにはコレが効く。コツは斜め45度。今回は人の首への負担を考えて直角に落としたけど。

 

 

「正気に戻ったかい?」

 

 

「……すみません」

 

 

「まったく、そんなに羨ましいもんかねぇ、コレが……」

 

「正直、重くて邪魔なだけなんだが」

 

 

ぐい、と下から胸を押し上げれば、感じるのは確かな質量。

 

確かに、男だったころは私も好きではあったが、正直、今はそんな気持ちなどほとんど残っていない。

 

男の頃の巨乳への憧れなど、成長痛や揺れ、重みによる肩こりでとうに消え去ってしまった。普通に考えて、身体の前にかなりの大きさの脂肪の塊が二つ、など生物としてバランス悪いだろ、重心とか。

 

 

「胸をそこまで敵視する必要なんてないだろう?別に、女性の中でだって胸が大きくない人、中には男性とさして変わらない人だって大勢いる」

 

 

「それに、胸が小さい娘の方が好きという男だって世には大勢いる。問題はそこじゃなかったはずだ」

 

 

 

「それは、そうです……けど」

 

 

ぐっ、と彼女は唇を強く結ぶ。

 

彼女だってわかっている。それは、一昨日の叫びで聞いていた。

 

『愛されるには、女でなければ。穴が無ければ』

 

酷く、俗に塗れた結論だが、一種の真理でもあると思う。彼女が拒絶されるのは結局、その性が全ての理由であるから。

 

 

 

「やっぱり羨ましいって思ってしまうんです……」

 

 

……。

 

 

「……これは、経験則だけど」

 

 

「……?」

 

 

「女と男、というものはある種、別の生き物だと考えてもらって相違ない場面も多い」

 

 

経験。

 

前世、そして今世と、異なる性別を渡り歩いてきた私なりの見解だ。

 

 

「そもそも、だ。男と女、その二つは何が違う?」

 

 

「臓器、ホルモン、DNA。これらはすべて、男女で違いを持っている。男に子宮はあるか?女に精巣は?ーーホルモンだって、性別の違いで分泌量は大きく変化する。DNAだって、二者間にはY染色体の有無が存在している」

 

 

「箱がよく似ているだけで、中身はだいぶ異なっていると。それが男と女、オスとメスだ」

 

 

 

「……何が言いたいんですか?」

 

 

 

「そう結論を急がないで。ーー君の心が女性寄りだ、ということに私は何ら異論を挟まない。男性に恋をして、身体を女性的に仕立て上げ、同族に嫌悪を向けている現状は正に乙女そのもの」

 

 

「だけど、君の身体が男性であるということもまた、私の中での絶対的な認識だし、これは覆らない」

 

 

 

 

「君はね、自分で思っているよりも男性的なんだよ」

 

 

 

 

その姿、その声、その思考。

 

 

それらすべて、外から見たとき彼女は正しく女性的に映るだろう。

 

道行く人にも。クラスメイトにも。友達にも。

 

そして

 

 

『鏡に映った自分』にも。

 

 

彼女は幼い頃から自身に対し無意識に、少しずつ暗示を掛けてきている。

 

見た目が女の子っぽい、思考が女の子っぽい、好みが女の子っぽい。

 

 

『だから自分は女の子だ』、と。

 

 

そう暗示を掛け続けた彼女の性の内訳は、成長とともに変化している。

 

 

ーーだって、私がそうだった。

 

 

前世に男性の頃の記憶を持つ私は、転生当初、自身の性を男性だとして疑わなかった。たとえ身体は女性のモノであったとしても、精神、心は男なのだ。それは永劫変わらない、と。そう思っていたのは過去の話。

 

けど、そんな思いとは裏腹に。成長とともに精神は少しずつ、だけど確かに身体に引っ張られていっていた。

 

鏡を見る度に映る自身の姿も、学校で経験する未知の女性社会も、確かに性徴を感じてく日々の変化も。

 

すべてがすべて、私を女性だと言ってくる。

 

身体の機能が完全に違う。

 

女性であるからには女性の社会に所属して、嫌が応にも自覚させられる。

 

 

私が、私に言ってくる。

 

 

いつしか、100%男だって言い張っていたはずの性の内訳も、気が付いたら少しずつ変動して。

 

 

気が付いたころには、『私』は自身を『オレ』とは呼ばなくなっていた。

 

 

「君の心の内訳が、実際どんな数値になっているのかなんて私にはわからない」

 

「だけどね、君の中には確かに最初から存在した男の子の部分が、わずかながらでも残っているんだよ」

 

「性別を組み分けていく上で、心と身体、そして環境は絶対に切り離せないし、その影響を0にもできない。お互いの要素が相互作用しあって、ちょうどいい釣り合う割合を、一生かけて模索していくんだ」

 

 

 

 

「おいで、咲良」

 

 

 

ぎゅ、とその身体を抱きしめる。

 

自身の肉体で温めるように、絶対に離さないように。

 

 

彼女、咲良の頭はそのまま私の胸元に沈んでいく。抵抗は、無かった。

 

 

 

「貴方の心の男性は『私』が愛します」

 

 

 

「貴女の心の女性は『オレ』が満たすよ」

 

 

 

『だから、どうか悲観しないで』




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