一度ヤった後の物語   作:すっごい性癖

6 / 13
ちなみに桜はバラ科の植物です


君色に染めて

「じっとしていてくださいよ~」

 

「忙しないのは何時だって君だろうに……」

 

もはや毎度おなじみ図書室の中。私たちは珍しく、対面しておらず、彼女が私の後ろに立つ形となっている。ちなみに私はいつも通り椅子に座っているので、今の声は後ろの高所から落ちてくるように聞こえていた。

 

「私に任せてくれたら万事解決しますからねー。大丈夫、大丈夫」

 

「解決する問題を作ったのも君自身なんだから、それは言いがかりだろう?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

口では勝てない、と思ったのか彼女は『大丈夫』とだけ答える。

 

何がどう『大丈夫』なのかはわからないのがやや恐ろしいけど、まあ信用するほかにない。

 

 

「──人前に出られるラインは守ってくれよ」

 

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

 

「──はぁ」

 

 

事の発端は、彼女の発言だった。

 

10分ほど前までは、私は本を読み、彼女はスマホとにらめっこをしていたのだが、急に彼女は立ち上がり

 

『先輩、髪、切りましょう?』

 

そう言ってきた。

 

何でも、二日前の髪を纏めるようになった日からずっと気になっていたらしい。曰く、『もっと似合う髪型がある』とのこと。

 

そう言えばその日の帰りにも、そんなこと言われた気もする。

 

正直、私としては髪型にこだわりはない。人前で恥をかかない位であればそれで充分、と考えている。

 

だから、わざわざお金と時間を消費して髪を切る、なんて面倒なことはしたくない。移動時間、滞在時間含め4時間は少なくとも取られるし、お金だってバカにならない。家で毛先を整えるだけなら無料なのに、だ。

 

そんな理由で、彼女の提案を断った。

 

しかし。

 

『切りに行くの面倒なら、私が切ってあげます』

 

『私、髪型には思い入れ強いんですよね。いろんな美容院行っても納得できなくて、中学の頃から独学で整えてたんですよ』

 

と。彼女は私を逃がすつもりが無かったらしく、再度新たな提案をしてきた。

 

正直、その提案は私にとっても、かなりアリではあった。勝手に髪を切ってくれるというのなら、私に面倒は何一つないし。言った通り、拘りなんて無いから素人の多少のミスなんて気にしないし。

 

だから、

 

 

『そうだね──。それじゃあ、その内お願いしようかな』。

 

 

その内、予定が合ったらお願いしよう。そのくらいの発言だったはず。

 

しかし、彼女はそれを聞くと、ニンマリとした笑顔を浮かべて『それじゃあ、今やっちゃいましょう!』などと、言うとカバンからいそいそと道具を取り出し始めた。

 

 

正直、ハメられたというか、してやられたと思った。

 

 

これが、事の経緯である。

 

 

 

「君さ……、普通学校に散髪道具とか持ってくる?しかもご丁寧にビニール布まで持ってきて」

 

 

切って落ちた髪をこぼさないように、と地面に敷かれた布は正に、彼女の計画性の表れだ。少なくとも、今朝家を出る頃にはコレを見越していたという訳で。

 

初めから私を今日、逃がすつもりはなかったという訳だ。

 

 

「──で、どのくらい切る予定なの?」

 

 

「どのくらいというか~、このくらい……ですかね?」

 

 

そう言い、パッと差し出してきたのは彼女のスマートフォン。赤いカバーに覆われたそれの液晶画面には、どこかのモデルだか、アイドルだかの写真が写っている。

 

なんというか、すっごい短い。

 

 

「──こんなに切るの?」

 

 

画像の中の写真では、髪は耳元を越すか、越さないか辺りで切りそろえられている。現在、腰辺りまで伸びていることを考えてみると、1メートル弱切るという訳で……。

 

 

「別に普通のショートですよ?今までが長すぎただけですって。──ほら見てくださいよ」

 

彼女はすっ、すっ、と指を横にスライドさせ画像を次から次へと変えていく。写真に写る人物たちに、人種や国籍、性別などは関係ない。ただ一つのつながりはショートヘアであることのみ。

 

「やっぱり、先輩みたいな方向で顔がいい人たちってショートが一番似合うんですよね~」

 

「──まぁ、良いか」

 

 

別に奇抜な髪形を提案されたわけでは無い。普通に、ありふれている髪型の一つだ。これで見せてきた画像がどこかのアニメキャラとかで、いや、それ実際にやるのか?みたいな感じだったらNO、と言ったかもしれないが。

 

「よろしく頼むよ」

 

「はい♪」

 

────────────────────────────────────────

 

その後、髪を濡らし、櫛で髪を解かれた私の髪は、髪ゴムで纏められ馬の尾のようになっていた。

 

 

「それじゃあ、切りますね~」

 

 

シャキン、シャキン。と金属音が耳元に届く。引っかかりなどは一切感じない。

 

先ほどまでの準備の手際の良さでもうすうす感じていたが、本当に髪を切る、という行為には慣れているらしい。

 

取り出した鋏も、専用の鋏の様だった。持ち手などがプラスチックで覆われたような市販品では無く、薄く、鋭い銀の鋏。美容院や床屋で使っている物と同じなのかは素人の私にはわからないが、似ていると、そう思うくらいにはそっくりであった。

 

しばらくすると、

 

「──おぉ?」

 

頭が軽い。

 

正確に言うならば、軽いというより、先ほどまでは重かったのだな。と、そう感じた。髪の重量というモノは、生えている時より失ったときに感じるものらしい。

 

「どうですか?だいぶ楽でしょう?」

 

「──あぁ、ココまで違うとは正直驚きだ」

 

「それじゃあ、次は細かくいきますね?」

 

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

 

────────────────────────────────────────

 

それから1時間ほど過ぎたと思う。

 

もう窓の外は茜色に染まっている。きっとそろそろ、下校の校内アナウンスが流れてくる頃だろう。

 

彼女は、何度か話しかけてくるくらいで、基本静かに、黙ったまま私の髪に鋏を入れていた。

 

 

 

「──完成です」

 

 

そろそろ時間だ、一旦切り上げよう。そう言おうとした時、彼女は終了を告げた。

 

「我ながら、会心の出来映えですね」

 

ふー、と深い息を吐きながら、汗を拭いてる彼女はやり遂げた、と非常に満足そうだ。

 

 

「先輩も見てください。きっと満足していただけるはずです!」

 

 

ピッ、と鏡を手渡す彼女は今すぐにでも自信作を見てほしい、と言いたげだ。ふんす、と鼻息が漏れ出ているようにさえ見える。

 

私は彼女から鏡を受け取り、自身の後ろ姿をそっと映す。

 

 

「どうです、どうです?」

 

 

「うん、やっぱりメチャクチャ切ったね。完成形は知っていたけど、こう、目の当たりにすると衝撃が凄い」

 

 

「今、足元の方もスッゴイですよ~?絶対暴れないで下さいね?」

 

 

ちらり、と視線を下に向ければ確かに、青いビニールの布だったはずなのに、今ではぱっと見真っ黒だ。これ全部自分の髪だと思うと、昏い図書室の雰囲気も相まって、なんだか呪いだとかそう言ったものを連想してしまう。

 

 

「──で、髪型自体の感想は?」

 

 

「え、別に……。コレと言ってないけど──」

 

 

「ええーっ!!色々あるでしょう?!確かにこっちの方がイイね、とか!上手だね、とかッ!」

 

 

「上手だとは思うよ?でも、別にこっちがイイとか、前が良かったとかはないかな?顔自体がすげ変わったわけでもないし」

 

 

うん。大きく変わったな、とは思わない。多分、自分の髪ってそこまでちゃんと見ないというか、見えないから変わったという感じが薄いんだと思う。鏡で自分を見たって、長髪の殆どは身体で隠れてるわけだし、肩から耳元までの髪が無くなったようにしか見えない。

 

「いやいや、肩から耳って大分ですからね?それに、前髪だって短くして、無理しなくても顔が出るようになったでしょう?」

 

 

彼女は私が気に入ったかどうか、を重視しているみたいで必死にアピールポイントを探しては挙げてくる。きっと、不安なんだろう。私からの評価を貰わなければ、自身が勝手に振り回しただけになるから。

 

 

 

「逆にさ、君好みの髪型にたどり着けたの?」

 

 

そもそも、この散髪は彼女が提案したもので、結果の良し悪しを決める裁量など、そもそも私にはないはずだ。

 

彼女が良いと思ったなら、それは成功だし、逆にダメだ、と思ったのなら、それは失敗だ。

 

彼女は、私からの逆質問に面食らったのか、少し戸惑った表情を見せる。が、すぐに笑顔になり

 

 

「はい、私は大満足の結果ですよ!──で、ほら、先輩は?」

 

先輩、私は気に入っているか。それを、またしても尋ねる彼女。

 

 

……私は、

 

 

「──そうかい。満足かい」

 

 

「それはよかった……よっ」

 

 

ぐるり、と。身体を捻らせ、後ろに立つ彼女を片腕で抱きしめる。座っている私に対し、立っている彼女の方が頭は幾分も高く、私の頭は彼女の腹の辺りにある形だ。

 

「なっ──急に何をッ?!危な──」

 

 

「昨日私は君にこう言った。君の中の女性も、男性も。等しく愛してあげる、と」

 

 

下から彼女の顔を覗き込むようにして、私は話し始める。

 

 

「長い髪は、私にとっていわば女性性の象徴の一つだった」

 

 

「これで私は一つ、女性であることを捨てた、いや、君の手で、奪い取られたことになる」

 

 

「今後、私は鏡を見る度に心の奥深くで自身に催眠を掛けるだろう。昨日言ったように、長い髪という、私にとっての女性的なシンボルを失った分、心は男性にわずかながらに近づいていく。君が、男装をより男寄りに仕立てる為に行った散髪は、確かに私の中の性を歪めるんだ」

 

 

「別に、それ自体に怒っている訳じゃない。私自身、了承したことだからね」

 

 

「けどね、君。さっきからずっと、私が気に入ったかどうかばかりを気にして……」

 

 

「私に『気に入っている』とか、『すっごく良いよ』とか、言ってほしかったんだろう?そう言ってもらえれば、自分の行いで相手はすごく喜んだ。自分は悪いことなんてしていない。と、その行動の責任を、私に押し付けられた気持ちになれるから」

 

 

「わかってる?君は、自身のエゴで他の人間を自分の好みに染め上げた」

 

 

「『髪型はショートの方が好きだ』、という自分自身の欲望で、私という人間の在り方を変えたんだよ?」

 

 

「なのに君はその責任を放り出して、今回の行動はあくまで私の責任であり、君自身はほとんど関与していない。と、そう思おうとしているんだ」

 

 

 

「次はなんだ?ピアスがある方がイイ、と思ったから私に穴を開けさせて『似合ってると思いません?』って聞いてくるのかい?それとも、筋肉ある方が好みだからと運動させて『健康的になってよかったでしょう?』とか、聞いてくる?」

 

 

 

「──それってさ、不誠実だよ」

 

 

 

「私は君に言ったんだ。その性の両方を愛してあげるって、真正面から」

 

 

「だから、君もそうしたいと思うんだったら、真正面から私に言ってくれよ」

 

 

 

「君は、こういうモノが好きな人間だから。私にそう言う人間になってほしい。染まってほしい。だから、」

 

 

 

「『私に歪められて欲しい』って。そう、言いなよ──」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、咲良?君はどんな人が好きなの?」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

「ーー私は」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

「──そう。咲良はそう言う人が好みなんだ」

 

 

「……はい」

 

 

 

「そっかーー」

 

 

 

「そう言う先輩は、好みってないんですか?」

 

 

 

 

「私?──別に私、好みとかは無いよ。興味ゼロ」

 

 

「……」

 

 

「ただ……」

 

 

「?」

 

 

「ただね、面白い子が好き、というか。気になる、かな?」

 

 

「面白い……ですか」

 

 

「うん。面白い子」

 

 

 

「先輩の中で、私はその面白いに入っているんですか?──だから、ここまでして」

 

 

 

「いいや?」

 

 

「まだ興味はほとんどないかな」

 

 

 

「──でもこのまま行ったら、きっと面白い子になる。もしくはその前に潰れてしまう」

 

 

 

「そのどちらかだとは思っている。──だから、ちょっと期待してる。そのくらい」

 

 

 

「──そうですか」

 

 

 

 

「ふふーー。私、これからどのくらい君に歪められるんだろう。要望、すっごく多かったからね。十数年、溜め続けてきた思いの丈だ」

 

 

 

 

「これも、ちょっと──楽しみ」




すっごい最終回みたいな話になったけど、むしろ予定だとここまでで一話なんですよね

スッゴイ脇道にそれたせいで長くなってしまいましたけど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。