一度ヤった後の物語   作:すっごい性癖

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感想で親切な方がタグが繋がっていることを教えてくださり、急遽区分けさせていただきました

今回は幕間というか、作中時間の一週間が終わったのでその中間のお休み回なので短めですごめんなさい

次回以降、時間は(都合よく)加減速します

【追記】柚が部活を引退してるのを完璧に忘れてましたので、訂正しました 申し訳ありません


最初のお別れと休日

「……え?」

 

ドサリ、と地面に落ちたスクールバッグ。

 

玄関の、硬いタイルの上に落ちたのでかなり大きめな鈍い音が聞こえてきた。中身の安否が気になるところで。携帯とかが入っていたら、割れていてもおかしくないだろう。

 

しかし、手放した本人はそれ自体に気づいていないのか、それともそれ以上に気になることがあるのか。驚愕に顔を染め上げ、大きく口を開きながらこちらを見てくる。

 

「ね、ねーちゃん……。そ、それ」

 

わなわなと、指先を震わせながら私の顔を指してくるのは、たった今、学校から帰ってきたばかりの妹、柚。受験生として学校での拘束時間が伸びている彼女は、私よりも帰宅が遅い。ので、こんな風に帰宅のタイミングで鉢合わせすることもままあることだ。

 

そんなわけで、日によって汗を先に流したい日と、とにかく何かを胃に収めたい日があるわけで。

 

「おかえり、柚。お風呂にする?それともご飯?」

 

 

「え……、ご飯食べたい、けど――」

 

 

「そっか、なら温めておくから部屋に荷物置いてきな?」

 

 

きゅ、と身体の向きを玄関からリビングへ、と回転させようとする。と、

 

 

「いやいや、そこじゃないよッ?!」

 

 

「ねーちゃん、なんで髪切ってんの?!」

 

 

勢いに乗ったのか、今度は指先をピン、と張り、まっすぐに私の頭、正確には髪の辺りに指を指してくる柚。

 

その瞳には『なんで?どうして?いつの間に?どこで、どうやって?』などと、世に言う4W1Hを映していて、おそらく彼女の脳内ではミステリが渦巻いているのだろう。

犯人は私だけど。

 

 

「なんでって。知り合い、的な何か?が、そっちの方が良いって言ったから」

 

 

「何故に疑問形……。ってか、今朝は髪長かったでしょ?!帰りに切ってくる時間なんて無いし、あったとしてもねーちゃん、メンドクサイって嫌がるでしょ?!」

 

 

「うん。だから学校で切った。――ヤバいよね?学校に散髪道具持って来たんだよ?」

 

 

「ヤバいのはねーちゃんもでしょッ?!学校で切るって何!?しかもそれを自分から受け入れたの!?」

 

 

「まぁ、うん」

 

 

「……」

 

 

ウソだろ、と小さく零しながらその場で愕然としている柚。まるで宇宙人を見るかのような眼差しでこちらを見てくる。

 

少しして、

 

 

「……」

 

 

ザッ、ザッ、ザッ。と、彼女は無言で歩み寄ってきて、ガッ、と肩を掴まれた。

 

その表情は正に鬼気迫る、と言ったもので、逃げられそうにもない。

 

 

「……柚、どうしたの?」

 

 

「ねーちゃん、ちゃんと答えてね?誤魔化さないで……」

 

 

「えっ、うん」

 

 

いったいどうしたというのだろうか。やけに余裕がなさそうだ。

 

柚は、ゆっくりと、確かめるような口調で話しだす。

 

 

「ねーちゃん、いじめられてるの?急に、学校で髪切られるとか――。普通じゃないよ」

 

 

……。

 

 

(あぁ、そういう)

 

 

それはそう。当たり前の反応だろう。急に学校で髪を切ってくるとか普通じゃない。母さんなんかは何も言ってこなかったから失念していたけど、これが普通の反応だと思う。

 

 

「大丈夫なの、その知り合い?だって人……。何かあるんだったら、私が力になるから……」

 

 

「大丈夫、合意だよ。合意。――似合ってるでしょ?」

 

 

「……本当に?」

 

 

「うん、本当」

 

 

柚の心配はありがたいことだとは思う。こうして、親身に心配してくれているのだから。でも、実際のところ虐められている、という事実は存在しないし、ただの杞憂でしかない。

 

何度か、本当だよ、と言い聞かせて、渋々納得してくれたのか、彼女は肩から手をどかした。

 

 

「まぁ、ねーちゃんが良いっていうならイイケド……。でも、なんかあったら言ってね?」

 

 

「うん、ありがと。――じゃあ、ご飯温めてくるから」

 

 

身体を翻し、今度こそリビングに向かう。その途中、後ろから声が聞こえた。

 

 

「その知り合いさん、見る目ないよ。確かにねーちゃんの見た目的にはさ、その髪型のほうが合うと思うよ?」

 

 

「でも、『ねーちゃん』に合う髪型は、前のだったと思うよ。――上手くは、言えないけど」

 

 

……そっか。柚は、そう思うのか。思ってくれるのか。

 

これは自分で選んだ選択肢。自分の意志で、歪められることを選び取った。

 

その選択に後悔はない。きっと、そっちを選んでいなかったら私はこれから先も、ずっとあのままだったから。あの選択が、ちょっとは私の生活を面白くしてくれそうだから。

 

 

「ありがとう、柚。――じゃあね」

 

 

バイバイ、とリビングの内に入り扉を閉める。

 

 

 

「……じゃあねって、変なの」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――ッ!」

 

パチン、と指先に力を込めてピアッサーを押しつぶす。

 

金曜日、彼女に聞いた私にしてほしい恰好の一つにあった『ピアス』。

 

私はその手のファッションに詳しくはないので、どんなものが良いのかと聞いて見せてきた画像はどこかのゲームのキャラクター。右向きの顔で描かれていたその絵には、確かに耳元に丸いピアスが描かれていた。

 

 

本人曰く、『ゴリゴリのピアスもカッコよくはあるけど、さりげない、ワンポイント位のピアスが好き』とのこと。

 

 

私の感覚では、ピアスというものは着けてるだけでイカツイというか、ワンポイントと呼ぶには主張が強いイメージがあったけど。まあ、私の感覚は時代に遅れているのだろう。

 

 

そんなこんなで、午前中、本を買いに行くついでに購入してきたピアッサー。初めての買い物何も分からなかったが、ピアッサーは穴を開ける数購入するとのことで2個、買ってきた。

 

 

現在は右耳にピアッサーで穴をあけたところ。痛みがあるかどうか、とかは人それぞれだと聞いたが、私は痛みはあまり感じなかった。注射とよく似た感じの感覚で、なんかチクっとしたかな、程度。痛みよりも、耳元近い甲高い音の方が気に障った。

 

 

「ん~、どうなんだろ……」

 

 

左手に持った手鏡を覗き込む。髪を切り、くっきりと見えるようになった右耳には確かに、蒼銀に輝く丸いピアスが輝いていた。

 

ピアスというモノをあまり知らなかった私はてっきり、穴を一度開けて、その穴にピアスの針を通すのだと思っていた。だけど、ピアッサーを使う場合、穴あけと装着を同時にしてくれるとのこと。自分で刺す必要が無いのは楽でありがたい。

 

まぁ、今後当分アフターケアが必要らしいので穴を開けている時点で楽でも何でもないのだが。

 

 

「……」

 

 

顔の向きを変え、いろんな角度で自身の耳元を覗いてみるも、あまりピンとは来ない。こういうファッションはやっぱり、各々の持つ、所謂フェチに依存するものだから刺さらない私にはまったく刺さらない。逆に、刺さる彼女にとっては必要な要素なのだろう。

 

 

「そう言えば――」

 

 

そんな、自身の片耳のピアスを覗いていて一つ、思考の雲に上ってきた。

 

何でも曰く、片耳のピアスは同性愛を意味することもあるらしい。そんなことが書かれた小説を、いつか読んだ記憶が存在している。どっちの耳が、どっちの意味を持っているか、だとか、そもそも場所以外にも色とか形とかにも制限があったかも、とか。詳しいことは覚えていないのだけれど。

 

 

(――私の場合)

 

 

右耳の片耳ピアスが示すのは女性愛なのか、男性愛なのか。その明確な答えは分からない。だけど。

 

 

「まぁ、どちらでもいいか」

 

 

もし、左耳に先にピアスを着けていたとしても同じ疑問を口にして、そして同じ結論に達していただろう。

 

 

「――ッ」

 

パチン、と再度同じ音が室内に響き渡る。

 

 

「どっちがどっちかわからないのなら、両方に着ければ良い。両片耳に着けてるって、考えれば……」

 

 

「どっちもな私が、どっちもな彼女と触れ合うんだから……。きっと、それが正解だ」

 

 

 

片耳が同性愛を示すのならば、両耳ならば人間愛。そう思うのがちょうどいい。

 

 

「……」

 

 

ちらり、と左手に持つ鏡を覗き込む。

 

そこに映っているのは、紛れもなく今の私で、数日前までの面影なんて無くなっている。

 

正しく、新しいワタシ。

 

 

「誰だろうね、君――」

 

 

今の自分に違和感を持っているのなんて、きっと長くて1週間。

 

それ以降はきっと、コレが普通の私に生まれ変わっているのだろう。

 

 

私がその道を選んだのだから――。




おそらく現実で主人公みたいな人間が身内に居たら、柚の反応が正常だと思います
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