一度ヤった後の物語   作:すっごい性癖

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今さらですが、私は聞かれたら大体何でも答えてしまう性分なので、感想欄でも度々今後の展開っぽいモノや、まだ出していない登場人物たちの心情や行動理念なんかを書いていたりもしますので、ネタバレが苦手という方はお気を付けください


第8話

 

「ぬ~……」

 

「……」

 

図書室の中、1人の苦悶に満ちた声が響き渡る。

 

部屋の中は、冬に近づく秋にふさわしい寒々しさで満ちており、最近はブランケットが手放せない。手元がかじかむような寒さではないからまだ、読書を行えるが、これからどんどん寒くなるので手袋の使用も視野かもしれない。

 

彼女、咲良と久しぶりに話をしたのはもう、2,3週ほど前の話。

 

現在、10月の半ばから締めの付近。中秋の名月とハロウィンのダブルコンボが押し出されるシーズンだ。ファストフード系列は軒並み月見の名を関した商品を打ち出し、コンビニなどで見かけるお菓子の包装にはパンプキンが描かれている。

 

1年の中でも、かなり上位のシーズンイベント密集期間がちょうど今。

 

そして、そんな風は彼女にも吹いてきている。例に挙げたイベント達とは打って変わって、ハッピーからは程遠いイベントだけど。

 

 

「んぬぬぬ……」

 

 

「……」

 

 

右手には珍しく、スマホでは無くペンを握り締めた彼女。

 

その正面には真っ白な、小さな紙が置いてある。その表題は、『文理選択 希望調査』、と大きく書かれており、何の紙であるかは一目瞭然。そしてまた、目の前で唸る彼女の苦悩の種もなんであるは明瞭であった。

 

 

「ぎぎぎぎ……」

 

 

「……」

 

 

正直、うるさいから黙ってほしいのだが、『うるさいから黙れ』と。そう声をかけたら逆に絡まれることは分かっているので我慢している。きっと言ったら『先輩、どっちが良いと思います~?』とか、そんな風に聞かれるだろうから。

 

 

「ぬににに……」

 

 

「……」

 

 

ぺらり、と小説のページをめくる。タイトルは『帰ってきた雹明館』。こんなふざけたタイトルだが、分類はミステリ、しかも大量殺人物と殺伐としたもの。ちょうど彼女と一か月振りに会ったときに読んでいた本の続編だ。

 

前作は結局、読んでいる前半こそその異常な犠牲者の増加ペースに思わずワクワクしたが、結局終わりはありきたりのモノで、酷くがっかりしたものだった。

 

だから最初、本屋で続編を見つけたときは買うつもりなんてなかったのだ。だけど。

 

 

(まぁ、買うよね……。だって『帰ってきた』、だよ?普通ミステリ作品のタイトルには使わないでしょ)

 

 

映画ならB級を確信するほどの地雷な言葉である『帰ってきた』。誰も帰りなんて待ち望んでいないのだから正確には『勝手に戻ってきやがった』、だと思うその文言。

 

 

ゲテモノ食いみたいな、変な興味が湧いてしまうのもしょうがない。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

しばらくすると、彼女は唸り声のレパートリーが無くなったのか静かになった。打つ手、というか思考の展開が打ち止められたのだろう。将来の展望だとか、向き不向きだとか。そんな感じの条件で考えられる限りのメリットとデメリットの天秤が一向に傾かないでふらふらと漂っている状態。

 

そんな時、求めるのは外力なわけで。無関心が貫けるのも、ココまでかな、と、読んでいた本に栞を挟んだ。

 

 

 

……。

 

 

「――先輩」

 

 

 

「――何?」

 

 

 

「文理選択ってぇ、あるじゃないですかぁ……?」

 

 

 

「――あるね」

 

 

 

「どっちが良いとかって……、無いですかねぇ?」

 

 

 

まさに猫なで声、と言うような媚びた甘い声に、下手に出た態度。取りつく島が無いのなら、何とか自分で埋め立てようと必死だ。

 

どっちが良いかだって?そんなの当然……

 

 

「無いよ」

 

 

「ですよねぇ……」

 

 

そもそも、勉強が好きな人間以外にとってこの手の選択に良い選択なんて存在していない。

 

だって、勉強が好きじゃないのならしなくて済むのが最良だから。

 

文系を選んで法律を勉強したいやつ、理系を選んで車が作りたい奴。そんな感じに、目標でもない限り、答えなんて選択肢の中に存在していない。

 

 

そもそも、

 

 

「私、君が得意な科目とか知らないし。……まぁ、悩んでる辺りどっちも同じくらいなんだろうけど」

 

 

「うぅ……」

 

 

正解、と言わんばかりに顔を顰め、落ち込むその姿は正に高校生、と言った感じだ。進路の岐路で、迷い、戸惑っている。

 

 

「ちなみに先輩はどっちです?」

 

 

「私?私は理系だけど……」

 

 

「え……」

 

 

いや、『え……』って。口をあんぐりと開け、まさか、と言った感じで驚いている彼女の姿は正にハトに豆鉄砲といった様だ。どうやら、私が理系選択ということに心底驚いているらしい。

 

 

「何、そんなに私が理系なのが意外?」

 

 

「いや、意外っていいますか、なんと言うか……」

 

 

彼女は五指の指先を合わせ、グニグニと押し合いながら、気まずそうに目線を彷徨わせる。正直、その態度が一番の解答だと思う。

 

 

「だって先輩、ずっと図書室に引きこもって本読んでるじゃないですか……」

 

 

「それで理系って言われてもピンときませんって……」

 

 

……。

 

 

うん、まあそれもそうか。

 

 

言われて納得したが、彼女の知っている私は、基本ここで本を読んでいるわけで。そりゃあイメージはそっちに偏る。

 

というか、私が理系を選んでいる理由なんて、前そうだったから、ってだけだ。

 

前世で進んだ進路を同じように進めば、既に頭の中にある程度入っているから勉強しなくていい、と、そう考えたから選んだだけ。正直、大学の学士程度なら理系の方が理論の更新が無いから覚えている分、楽できる。

 

 

「先輩が理系なら聞きたいんですけど、忙しいですか?なんか、文系より忙しいイメージがありますけど」

 

 

「あー、あるね。そーいうイメージ」

 

 

文系は楽、理系は苦、みたいなそんな感じのイメージ。特に大学生活なんかはその差が大きいという。片や人生の夏休み、方やリアルの夏休みが削られる。そんな感じの風聞だ。

 

 

「正直さ、私は理系の目線しか持ってないから何とも言えないけどさ」

 

 

「理系ってね、多分文系が思っている以上に忙しいよ。でもね、逆に理系が思っているほど忙しくない……。世の中に上がっている意見の中間くらいがちょうどいいんじゃないかな?」

 

 

まぁ、サンプル数1の意見なので正確さなどは皆無の意見だけど。

 

でも、個人的なイメージとしてはこんな感じだ。

 

 

「なんか、謎かけみたいなこと言いますね」

 

 

「しょうがないだろう、元の質問が悪い」

 

 

それを聞くと、「はぁーっ」と大きく息を吐き、目の前の机に身体を乗せ、大きく伸ばしだし

 

 

「もーいいや、やめやめっ。まだ一週間あるし、また今度考えます」

 

 

と、紙とペンをカバンに仕舞いだした。

 

今日はもう疲れたらしい。身体を机に乗せながら、スマホを取り出し上にスワイプして眺め始めた。まさに、いつもの光景。

 

私としても、これでもう煩くならなそうなのでひとまず安心だ。

 

 

今日のところはひとまず安心。と先ほど綴じた栞を取り出し、本を開こうとすると、

 

 

 

ガラララッ

 

 

 

入り口付近で扉の開く音がした。

 

 

「珍しいですね」

 

 

「ん……」

 

 

基本、誰も訪れないこの図書室に来るのなんて私たちを除いたら司書さんくらい。その司書さんも、基本月曜以外は来ないので、木曜である今日、誰が来たのか皆目見当がつかない。

 

 

まぁ、誰であっても関係ないことだし、目当ての本なり、気に入った本なりがあったらそのうち出ていくだろう。

 

そう思って、開いた本に目線を向けると、

 

「……」

 

 

カッ、カッ、と地面を蹴る音がどんどん近づいてくる。1が2に、2が3に、3が4に。

一定の上り幅で、音は大きくなっていく。

 

 

そして、背後5メートルの辺りで足音は止まり、

 

 

 

「探したぞ、倉持」

 

 

親しみを込めた声がかけられた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「んん?くゆり、何の用?」

 

 

後ろから声をかけてきたその存在。それは、幼馴染の秋風くゆりだった。

 

自前の紺に近い黒髪を首元辺りまで伸ばしたその姿はパッと見、ワイルドさを感じさせるが、自前の口を大きく開いた笑顔がその印象をかき消している。

 

 

「なんの用って、お前。文化祭の役決め、まだ出してないのお前だけだぞ!」

 

文化祭の役決め。

 

言われて、ああ、と思い出した。そう言えば、そんなことを言っていたかもしれない。今年の文化祭はなんかの劇をやるから、希望の役を今日中に担当者に伝えてくれって……。

 

しっかり忘れてた。

 

 

「すっかりだろ、このお馬鹿!」

 

こん、と軽く頭の上を叩かれる。

 

いたい。

 

正直、劇の役なんてなんでもいいのだけど。と、そう思ったからには答えはひとつ。

 

 

「余ったのでいいって言っといて」

 

 

「また、そういうこと言う……」

 

はぁ、と大きくため息を一回。やれやれ、と大げさにするモーションは若干うざったらしい。

 

 

そこに、

 

 

「……先輩、先輩。その方は?」

 

 

きゅ、と私の制服の隅を握って引っ張り質問してくる咲良。若干声が高いのは外面なのか、それとも女体嫌いを必死に抑えているからなのか。

 

 

まぁ、軽く紹介だけしておくか。

 

 

「この子は秋風くゆり。私の幼馴染で、現クラス委員をやってる娘だよ」

 

 

「えっ、そうなんですか?……初めまして」

 

 

ペコリ、と軽く頭を下げて挨拶をする咲良。そんな彼女の姿にくゆりも気が付いたのか、

 

 

「ーーッ!」

 

 

ズンズン、とまっすぐ彼女に向かっていく。私としては、(やっぱりこうなったか)と言った感じだが、何も知らない咲良はてんてこ舞い。「えっ、えッ?!」とテンパっている。

 

距離はさしてなかったので、くゆりはすぐに咲良の目の前にたどり着くと

 

 

「こんにちわ?1年生かな?私は秋風くゆりって言って、2年生だよ。よろしくね?」

 

 

ぎゅ、と咲良の手を握り話し始めた。

 

 

「えっ、あっ……はい」

 

 

「何か困ったことがあったらいつでも相談してね?いつだって力になるから」

 

 

「あっ、ありがとうございます。……あの、手を」

 

 

「コレ、私の連絡先だから、よかったら連絡してね?相談以外にも、雑談とかでも大丈夫だから」

 

 

「あっ、いえ……、大丈夫ですから……」

 

 

ぎゅ、っとずっと掴んだまま離されない彼女の右手。

 

このままだとらちが明かないので、終わらせよう。

 

 

 

「くゆり、その子、男の子だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジ?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「じゃあ、私はもう行くから、次は忘れんなよ!」

 

 

そう言い残し、くゆりは部屋から出ていく。その足取りはまるで逃げるようだ。

 

 

くゆりのやつ、空気を微妙に変にしてから帰っていって……。昔からそうなので慣れたが、やっぱり得意ではないな、あの感じ。

 

 

「……先輩」

 

 

咲良はまるで信じられないものを見た、と言わんばかりの表情だ。例えば宇宙人とかそう言うたぐいの。まぁ、若干当たっているとも思うけど。

 

 

「あれ、なんだったんですか……」

 

 

「あれ?」

 

 

正直、心当たりが多すぎてどれを指しているのかわからない。

 

 

「いや、距離めっちゃ詰めてくるーっ、って思ったら急にメチャクチャ距離とってきたじゃないですか」

 

 

「ああ、それ」

 

 

彼女、咲良が実は男だ、と言った瞬間、距離を大きく離したことが気になったのか。まぁ、答えは単純なんだけど。

 

 

「君と一緒だよ」

 

 

「私と、いっしょ?」

 

 

 

「くゆりはね、女の子が恋愛対象なの」

 

 

 

「……え?」

 

 

彼女との出会いはもう、15年ほど前だろうか。本人は覚えていないだろうけど、私はその頃の記憶も保持しているから今でも鮮明に思い出せる。というか、忘れようがない。

 

正直、生まれて初めて、イヤ、生まれ変わっても初めての体験だったから。

 

 

幼稚園の片隅で1人、本を読んでいた時のこと。

 

幼稚園にある絵本を部屋の角っこで眺めてて、次のページに行こう、と開こうとしたら急に真っ暗になったんだ。

 

これでは文字が読めない。どうしよう、ってなってね。

 

いったいどうしたんだろう、って顔を見上げたらさ

 

 

『ねぇ、ちゅーしよ?』

 

 

って、そう言ってくる彼女が目の前で立ってたんだよ。

 

 

「アレは怖かった~」

 

 

「怖かったですみますかそれッ?!人によってはトラウマ級でしょう!?」

 

 

「んー、正直見た目がかわいらしい女の子だからセーフだった感あるよねぇ。これがおじさんだったら、100パー逮捕だ」

 

 

それまで話したこともないような子が急に目の前に立ってて、しかも『ちゅーしよ』なんて言ってくるなんて、本当に驚いた。心臓飛び出るかと思ったよ。

 

 

「……で、それからの付き合いてわけです?」

 

 

「いいや?そんな訳ないだろう。あの時は普通に走って逃げたよ。話すようになったのはその後から」

 

 

 

あの時は本気の本気で驚いたから、その場で絵本を投げつけて必死に逃げた。

 

会話するようになったのはその半年後。園内のお遊戯会か何かでペアになってから話すようになったのだ。

 

 

「でさ、そのまま小、中、高って一緒なんだけど、小学校の高学年の頃に告白されたんだよね。好きだから付き合ってほしいって」

 

 

「まぁ、断ったけど」

 

 

先ほどのやり取りもそうだが、彼女とは根本的にウマが合わない。なんと言うか、話をしていて疲れるのだ。

 

それに、

 

 

「まったく興味が湧かないし」

 

 

 

正直、あの娘は一種の人間界が生んだバグだと思っている。

 

 

通常、マイノリティという存在は自身の抱えている物に悩んで、時間をかけて折り合いをつけていくものだ。

 

『なんで、私はみんなと違うの』、とか『どうしたら普通になれるの』とか。そう言った思考。

 

中には目の前の咲良のように心を何十にも複雑骨折して、拗らせる存在もいる。まぁ、咲良は咲良で別方向のバグだとは思うけど。

 

 

そう言った、なんで、とか、どうして、の思考がくゆりには無かったのだ。

 

 

「正直さ、あれは一種の仙人みたいなもんだと思うよ。俗には塗れまくってるけど」

 

彼女は生まれたその瞬間から、今日、今この時、そしてこれからも一切の変化をしない。それこそまさに、樹齢1000を超える大木のように微動だにしないだろう。

 

 

彼女の人間性は生まれ落ちたその瞬間に完成しきっているのだ。

 

 

「正直、他の人からしたら毒そのものだね。自己を一切歪めない存在なんて、思春期で揺れ動いている中高生からしたら正に憧れ。創作でよくある、芯がある人間って奴だ」

 

 

 

「――すごい人なんですね。先輩がそこまで褒めるなんて」

 

 

「褒めてなんかいないよ。あくまで、事実だ」

 

まぁ、でも。

 

 

 

「だからツマラナイんだけど……」

 

 

「えっ……?」

 

 

彼女が生まれつき完成している。

 

 

それは凄いことだ。素直にそう思う。

 

だけど、

 

 

「……」

 

 

「まぁ、いっか。それは」

 

 

「えぇ?」

 

 

正直、今日は彼女の進路選択の話でメンドクサイフォルダはいっぱいいっぱいなのだ。これ以上、必要ないことを考えたくない。

 

 

 

「……ん」

 

 

だから、と、両手を拡げ、彼女に向かい立つ。いやな気分になったから口直しだ。

 

 

「なんですか……?」

 

 

「口直ししたい気分だからさ……。来て?」

 

 

「――意味わからないんですけど」

 

 

そう言いながらも、その顔には若干の期待の色が混ざっている。しかし同時に、抵抗感や拒否感も顔をのぞかせていて、彼女の複雑な気持ちを表している。

 

 

――数分後、結局折れた彼女を私は優しく包み込んだ。




というわけで文化祭開始

やっと主人公の苗字が出てきた 本名は何時になるのでしょう
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