ゆーしゃちゃん転生 ~ボクの武器は耐久力不詳の体質しかない~ 作:揉み入る比丘
「回収ついでに、ちょっと付き合ってもらえないカ、勇者サン?」
眼下で仰向けから起き上がり、こちらを若干嫌そうな顔で見上げる少女――今代の【勇者】である少女を見つめる。
先ほどまでの戦闘を眺めた感想としては「実に異質で興味深い」というものだ。
アルケインの呼び出した召喚獣、カナキリ。
あれは雄叫びで相手を止める、極めて攻撃的な召喚獣だ。
巨体による重い一撃と長いリーチは安易な反撃を許さない。
消耗前提の削り合いか、現界時間の経過を待つか、いずれにせよ消耗は免れない相手だ。
ところがだ。
雄叫びを受けて勇者が止まったのは最初だけで、二回目はすぐに動き出し、三回目には何もなかったように攻撃を続け、そのままカナキリを解体して、驚愕に固まるアルケインまで飛び掛かって切り伏せてしまった。
異常だ。
そこにある『何か』がとてつもなく興味を引く。
「―――ごめん、ティゴさん、ロッテちゃん。兵士の人達と一緒に、城壁の中に退避して」
こちらが退かないことが分かったのか、勇者が後ろの仲間に指示を出す。
先ほど回収したアルケインを見ると、こちらもとうに気絶していて、残った魔物も強化が失われたようだ。
いても邪魔だ、転移結晶で送り返す。
勇者の方に目を向ければ、仲間はもう撤退を開始し、勇者の表情も戦意が高まっている。
「さて、いいかな? では味見といこウ」
ワタシの呟きには答えず、こちらに向かって飛び掛かってきた勇者に対し、まずは牽制に一発、手を振るように魔法を放つ。
疾風魔法、
高速で不可視の斬撃で、魔力次第で大きく威力を挙げられる一撃。
避けられない空中でもろに受けた勇者が吹き飛んで、城壁に叩きつけられた。
が、地面に落ちずにすぐさまこちらに向き直り、今度は城壁を蹴って飛び掛かる。
「ほう、やはり効きが悪い!」
迎え撃つために
術種変更、
魔法同士の干渉による甲高い音が響き渡る。
剣全体、または肉体全てに効果がいきわたっている?
近くで見ると、勇者の背後に霊的な、円盤状の何かがある。
「うっそ、硬すぎない!?」
「これでも
掴んだ剣ごと勇者を投げて、直射式の雷撃魔法、
態勢を崩しながらも剣で受けられたが、そのまま放射を続け、防御を固めさせる。
その時間で威力を上げた
「……ッ」
通った!
背後の石畳にまで斬撃が走った。
断面に合わせて少女の頭部が斜めにずれる。
あわてて頬に添えられた手がこぼさぬように頭部を押さえ、
がこん、と響く、音のない音。
「――ほう。今、何かしたネ?」
三度勇者が飛び掛かる。
軌道に合わせて
魔鳳の絨毯を移動させると、もう一度跳んで向きを変える。
「まったくひどいデタラメだネ?!」
「
追いつかれた剣を
表面の魔力を削り、自身の強化と相手の弱体化を同時にこなす。
だが先ほどよりも速度が遅い?
直観に従い足先に
「ぎっ…!」
離れたところに氷結魔法
一点ではなく面制圧、実体弾による衝撃で地に落ちた後も縫い付ける。
そして規模を引き上げた大地魔法で巨大な石柱を作り出す。
建設用の
轟音。
沈黙。
「普通はこれで潰れてくれると思うが……」
がこん、と響く無音。
勇者を押しつぶしていた石柱群が一斉に大きく砕け、巻き上がった粉塵から飛び出す、人間大の瓦礫の数々。
「やはりそうだろうネ!!」
魔法ではない巨大な投石を、連射の効く
絨毯を移動し次の魔法を用意しようとし、何かが足に絡みつく。
これは鞭、勇者の仲間が置いていったものか!
「まずっ…!」
冥力が絶たれるのはまずい。
引っ張る力に抵抗せず、絨毯の追従を最優先。
地面に叩きつけられる直前に疾風魔法で衝撃を殺し、その場で鞭を切断。
その時にはすでに眼前まで勇者の両足が飛んできている!
「地上へようこそ!!」
「ガッ!!」
冥力を込めた腕で庇った顔面に、勇者のドロップキックが突き刺さる。
大きく吹き飛ばされる体、軋みをあげる腕。
転がりながら視界のうちに、追撃に駆ける勇者の姿。
「なめるな!!」
地面に触れ、大地魔法で地形変更、表層を排除。
先の
「へっ? うそぉ!?」
突然の大穴に虚を突かれ、変なポーズで落下する勇者。
今のうちに絨毯に乗りなおし、
耳をつんざく大轟音が響き渡った。
「……ふう」
空中で罅入った腕を回復しつつ、アスタロトはたった今自分が作った人造湖を警戒する。
逃げ場のない水中での雷撃、酸欠。
まっとうな生き物なら
がこん。
水が渦巻き、円錐形に立ち上がり、飛び散る。
穴の底から跳躍してくる勇者に向けて
「なんのぉ!!」
「!?」
勇者の剣の振り上げにより、ギィン、と音を立て、
「
「やれないネ!」
そのまま振り下ろされる剣を、前方下方、勇者の足元に絨毯ごと飛び込み回避。
振り向きざまに
バランスを崩して墜落した勇者は、しかし、あの音とともに傷を癒して立ち上がる。
その光景を前に、アスタロトは勇者の異能に大まかな目星をつけていた。
(ふむ……やはり
(月輪の満ち欠け、変化と循環。攻撃魔法への耐性も、見えない斬撃への対処も、あの円環が回ってからだ)
(つまり、勇者の能力は―――)
(あらゆる事象への適応。最強の後出しジャンケン)
「冥力の準備が出来ていなければ、敗れていたかもしれないネ」
迫る勇者を前に、いっそ悠然と、アスタロトは笑みと共に呪印を切る。
「二重究極魔法 『
二重究極魔法 『
これは単一属性を極めた他の究極魔法と異なり、疾風魔法と大地魔法の両方において高度な技量が求められる。
極大威力の局地的な地震波による地形破壊と、高密度の竜巻による飛行阻害。そして巻き上がった瓦礫や破片は高速度ミキサーのごとく範囲内の物を削り取る。
さらに粉塵の摩擦によって生まれた静電気は雷の雨となって降り注ぐ。
巻き込まれた中の地形、生物、建造物、あらゆるものが形を失い消えていく、天地全てが爆散したような破壊をもたらす、まさしく大呪法。
発動するのに膨大な魔力を要するこれを、アスタロトは範囲を城門前の一部に局限し、また予め自分の放った魔法の残渣を
勇者の唯一の破り方、『初見の技にて適応前に屠る』
アスタロトの
―――勇者の再生が終わろうとしていた。
砂塵と電撃の嵐の中に、アスタロトは立ち上がる影を見る。
地を砕いていた地震の魔法を切り替えて、舞い上がった粉塵、瓦礫を変質する。
摩擦がなくなり雷撃が消え、竜巻の中に微細な霧が立ち込める。
そして、炎を弓のごとく構え、
「―――
着弾、着火。
巻き上げられた粉塵と瓦礫が変換されて霧状になった鉱物油が、空間そのものを爆弾と化して焼き尽くす。
激しい轟音と燃え上がった火柱は王都全域に知れ渡った。
煙が薄まり、高熱によってガラス状になった爆心地が姿を現す。
そこに人影は見当たらず、ただ凄惨な破壊の後だけが残されていた。
「………フゥゥゥ……ようやく倒れたか……」
絨毯の上から見下ろす魔族が、深い疲労の溜息をもらす。
「実に興味深かったが、さすがに疲労困憊だネ。
侵攻自体は失敗だったが、まあ、勇者を討ち取れたことで良しとしようか」
満足げに呟き、上る朝日を背にしながら、アスタロトは東の空へと帰っていった。
―――数十分後。
周囲に人の気配が多数戻ってきたのを感じ、上に被さっている土の層を持ち上げ……ん? おも、っていうか硬い?!
なけなしの魔力を振り絞って追加で適応、オラァどけやガラス層!!
「うわあああ!!」
「モ、モンスター!?」
ああ、死ぬかと思った。
騒ぐ周囲に突っ込む体力も残ってなくて、仰向けのままそんなことを思いながら、ボクの意識は遠のいていった。
渋谷がやりたかっただけなの