キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ!   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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一冊目 短くて繰り返されるお話


 皆様こんにちは、シラトリ区にある図書館の司書 花鏡ヒジリと申します。普段は司書として業務に励んでおります。皆さんの助けになれて、図書館がどんなところか知っていただけるお話になると幸いです。

 と言ったところで、本日最初の利用者さんがいらっしゃったみたいですね。

 最初の利用者さんは……どうやら、どこかの学校の生徒さんみたいです。あっ、真っすぐこちらに向かってきますね。

 

「あの、すみません、少しいいですか?」

「はい、何かお探しですか?」

 

 肩までの長さのブロンド、それをハーフアップにした生徒さんは、恐る恐ると言った感じで声をかけてきます。

 

「『短くて読みやすい本』を探してて……でも、『詩とかポエミーなのはよく分からない』ので、お話がいいんですけど」

 

 これは本を探して欲しいというお願いですね。今回のお願いは探すのが簡単な方です。

 記憶だよりで、こんなお話がのってたはず~だったり、タイトルしか覚えてないという場合もあります。それだけなら可愛い方で、教えてもらったタイトルや作者が間違ってるなんて時もあるので、明確で分かりやすい条件は探しやすくて助かります。

 

「……それでしたら、短編集などいかがでしょうか? ご案内しましょうか?」

 

 一体この子の気に入るジャンルは何かな? なんて立ち上がろうとしたとき、利用者さんは、モジモジとしながらさらに声を小さくして言いました。

 

「できれば『2頁で終わる』くらいで、あと『全部共通したテーマ』が欲しいです」

 

 私は立ち上がろうとしたままの姿勢で固まります。前半だけなら『三円小説』をお渡ししようと思っていました。でも、さすがに全部共通のテーマではないです。

 ですが、本の神様は私を見捨てません。大丈夫、そんな本がちゃんと一冊思いつきました。

 

「わかりました、一冊思い当たる本があるので、ご案内いたします」

 

 当館での分類は953.7 つまり、20世紀以降のフランス文学を示す番号を背表紙に貼る一冊。

 レーモン・クノー 著 『文体練習』です。

 

 

 

「これが、そうなんですか?」

「はい、2頁ぐらいの短くて読みやすく、一つのテーマだけで書かれた本です……ちょっとポエミーだったりする部分もあるので、全部の条件を完全に満たせるものじゃないですけど。きっと面白いものだと思いますよ」

 

 そう伝えて、私は離れます。

 

 あぁ、そうそう。皆様にも軽く説明しておきましょうか。この本は、たった一つの内容を何十通りもの書き方で描写したものです。

 『バスの中に居た変な乗客が、数時間後に彼の友人と思わしき人物からファッションについて助言を受けている所をまた見かけた』

 上記の内容を、倒置法を使って描写したり、変な乗客の主観で書いたり、メモに書きつけるように書いてみたり、擬音だけで表現して見たり……とにかく小説家の力をとことん詰め込んだ一作です。コレの類似例だと、『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』なんかがありますね。海外の作品ですので、翻訳者も苦労して翻訳したと思います。

 たぶん、条件は満たせたんじゃないかなと思うんですけどね。

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