キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
はい、今日も元気にいきますよ。司書の花鏡ヒジリです。ちなみに読み方はカキョウと言います。私の好きな作家と似ている名前で、風流を感じませんか?
さて、そんなことは脇に置いといて、本日の私はお休みなので、少し足を延ばしてトリニティ自治区の古書館に来ています。普段は司書としての業務で過ごす図書館を利用者側として過ごしてみましょう。
まず足を延ばす先は、文学の棚です。読みたかったものが、こちらにならあると伺ったので・・・・・・
「あら? おはようございます」
「ひぅ!? あっ、おはようございましゅ!」
私よりちょっと背の高い女の子が、ワゴンを押しながら歩いていたので声をかけると、彼女はびっくりして飛び跳ねました。
「あの、お聞きしても良いですか?」
「・・・・・・は、はい、何でしょうか」
「『嵐が丘』ってどこにありますか?」
「───原語版と翻訳版、どちらがいいですか?」
「翻訳版でお願いします」
質問良いですかには少し嫌そうな顔をされてしまいましたが、司書への質問とわかると雰囲気が変わりました。できれば、最初からあまり嫌な顔はして欲しくないのですが、もしかしたらそうなる程の何かが彼女にはあったのかもしれません。
ともあれ、私は彼女に導かれて書架の間を抜けていきます。
古書館というだけあって、そのどれもが古そうな資料ばかりです。縦が六十センチもありそうな本も見かけました。皮でできた装丁も多く、もしこれを修復しろと言われたら、ちょっと私にはできない物ばかりです。あ、図書館でも壊れてしまった資料の修復を行いますよ。時たま見かけませんか? ちょっと特殊っぽいテープで破れた箇所を貼り合わせてる書籍資料を。
それと、もし破れてしまったりしたら司書を頼ってくださいね。セロハンテープなどを使ってご自身で直してしまわれる方もいるのですが、セロハンは時間が経つと黄ばんでしまいますし、ネチャネチャしてしまうので、後から読む人が余計に困ってしまうんですよ。
閑話休題。いくらかの棚の間を通り抜け、文庫本を纏めているところに着きました。『ブ』から始まる作者の場所へ移動した古書館の司書さんは、「こっ、こちらです」と言って、手で示しました。
「エミリ・ブロンテ著 『嵐が丘』の翻訳版です」
「ありがとうございます」
見ると棚には複数冊あります。上下巻に分かれていると言う意味でもありますが、この『嵐が丘』は歌劇や映画に何度もなっている作品です。その為翻訳版も複数の出版社から出ているというわけです。
と言うわけで、私は全部書架から引っ張り出しました。司書さんが少し不思議そうな顔を私に向けます。
「な、何してるんですか?」
「あぁ、いっぱい種類があるので自分にあった物はどれかなと・・・・・・」
これは完全に私個人のやり方ですが、小説の文章って作者の癖が出ますし、それに対して読者は合う、合わないがあります。ですから、取り敢えず複数種類の出ている物は、最初の数ページを見て、一番合いそうな物を見つけることにしています。
あと、出版社によって文字のサイズや詰め込み方も違うので、私個人はそうでもないのですが、サイズが小さくて読みにくい人や、文字がぎゅうぎゅうで目が滑ると言う人も試してみると良いかもしれません。
「あの、もう一つ探して欲しいんですけど、いいですか?」
「えぁ───は、はい、どの子を探しましょうか」
「『月と六ペンス』をお願いします」
「あ、サマセット・モームですね。えぇっと・・・・・・」
「あぁ、こちらも翻訳版でお願いします」
分かりましたとスタスタ歩き始めるのに私は続きます。
「・・・・・・ぶっ、文学がお好きなんですね」
「はい、面白いですから」
先ほどのエミリ・ブロンテと同じ地域の作者です、一つ隣の書架に移って司書の子が本を探す間、棚の他の小説の背表紙を眺めていると、おずおずといった感じで司書の子が訊ねてきました。私がそれに答えると、きょとんとして司書の子の手が止まります。
「へぁ!? それだけですか?」
「それだけですよ?」
司書の子はさらに訳が分からないと言った表情を深めます。うーん、求められていた答えと私の答えは違ったんでしょうね。でも、正直なところ、一々そんな高尚な考えを持って本を読むのって疲れません?
「気を悪くされたら申し訳ないんですけど、やっぱり面白そうだから読んでみたいって思うだけでも十分じゃないですか?」
「・・・・・・それはそうですが」
「勿論、学術的な興味というのも無くはないですよ? でも、やっぱり楽しいから読みたいし、面白いから好きだという始まりの衝動が多くを占めてます」
司書の子はなんだか少し残念そうな顔をしています。もしかして、文学トークでもしたかったのでしょうか。それなら、確かに私の答えは間違っていたかもしれません。
「・・・・・・よかったら、ちょっとお話ししませんか? 普段はD.U.の方で図書館の司書をしているんです。同業者として少しお喋りしてみたいなと思うんですが」
「あ、少し前にできたあの・・・・・・ちょ、ちょっと興味はありました。か、貸出もありますし、あっちで話しましょう」
少し嬉しそうな表情に変わってくれてよかったです。ついでにおすすめの本も聞いてみようかな。
ちなみに、司書の子こと古関ウイさんの誕生日と私の誕生日が同じだったことが判明しました。本の日が誕生日の司書とかもう運命だねと盛り上がっちゃいました。
「おっ、おすすめの子ですか?」
「はい、できればモームやブロンテと同郷の作者がいいのですが・・・・・・」
少し考え込んだ後、彼女は席を立って文学の棚へ歩いていきました。しばらくして戻ってきた彼女の手には一冊の本がありました。タイトルは『チョコレート工場の秘密』です。チョコレート工場と聞いて多くの人はある映画を思い浮かべるでしょう。そう、これがその映画の原作です。
「こ、これとか面白いかもしれません」
「これ読んでみたいなとは思っていたんですよ! ウイさん、ありがとうございます」
「あ、えっと、はい、こちらこそ・・・・・・そ、それと実は、続編があるんですよ、この子には」
「そうなんですか?」
「え、えぇ、ですから読み終わったら私のところへ来てください。その時また持ってくるので───その時は感想を教えてください」
「はい、是非」
ふふふ、映画とどこが違うんでしょうね。続編も楽しみです。
と言うわけで、古関ウイさんのお話でした。今回は分類番号とどこの文学なのかを意図的にボカしています。トリニティってイギリスモチーフですから、英米文学とするべきかトリニティ文学とするべきか迷ったからです。今まで日本の小説を百鬼夜行のものと紹介してないのに何言ってんだって話ではありますが、まぁその通りです。
嵐が丘は現在読んでる最中で、月と六ペンスとチョコレート工場の秘密は過去に読破済みですが、チョコレート工場は映画の方が印象強くて、読んだのも中学時代なのでだいぶ記憶が曖昧です。結構映画と印象が違ったような記憶はあるんですが、どう違ったかまでは思い出せません。
月と六ペンスも読んだのは少し前で、ポスト印象派のゴーギャンがモデルらしいぞ。てことは最推しのゴッホも出てくるのか?! の勢いで読み始めました。結果ゴッホをモデルとしていそうな人物は出てきました。ちょっと残念。
作品の感想としては、結構柔らかい文章だなと思いました。それと、モデルのゴーギャンらしさや史実をなぞりながらも、ゴーギャンとはちゃんと違う人物として捉えることのできるものでした。
あ、評価や感想お待ちしております。