キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ!   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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ミノリのエミュは心に哲学者を持つことです。


十四冊目 闘争の中にも批判あれ

 こんにちは、今日もお仕事を頑張るヒジリです。今回は久しぶりに本メインのお話が出来そうな気配がしています。というわけで、早速行きましょう。

 

「すまない、少し本を見繕って欲しいのだが」

「はい、お手伝いしますよ。どういったものをお探しでしょうか?」

 

 温かそうな服にヘルメットを被った女の子。何度かD.U.で見かけたこともあります。確かレッドウィンター工務部とか言ってたような?

 

「あぁ、プロレタリア文学を探しているんだ。けれど有名なものは読んでしまっていてな……だから、マイナーなものが読みたいんだ」

「マイナーな物、ですか……そうですね。では『防雪林』などいかがですか? プロレタリア文学の名手の作品ですが、彼の代表作よりは知られていないと思います」

 

 『蟹工船』は有名ですが、それ以外だと調べないとあんまり思いつきませんよね。というか、小林多喜二を学校で習ったとしても、『蟹工船』が有名とだけ言われて、内容を読んでみた人は少ないんじゃないでしょうか。私は捕まるレベルで危なかった『蟹工船』とはいったいどんなものかしらと読んでみたのですが……労働者はすごいなという感想と結構ノリで革命してるんだなって気分がしました。昔のことなのであらすじすらあやふやになってしまいましたが……。

 

「『防雪林』か。それは読んだことがあるんだ。労働者が大自然の中に移り住み、拓き、資本家への抵抗まで綴る、いい作品だったよ。少し読みにくかったけど、その分読み応えはあった」

「そうですか……」

 

 ふむと、私は考えます。そう言えば、大学時代に習った内容で、『防雪林』に関連する書籍があったなと思い出しました。

 

「では『カインの末裔』などはいかがでしょうか?」

「───知らないタイトルだ」

「『防雪林』はこれに影響を受けて書かれたと言われています。この作品もまた舞台は北の大地、主人公は労働者です」

「それは、面白そうだな! どこにあるんだ?」

「ご案内いたしますね」

 

 カウンターを出て、私は文学の方へ向かいました。

 

 

 

 数日後、彼女は本を返却しにやってきました。彼女の顔は楽しそうでした。

 

「プロレタリアの色合いは少し薄かったが、労働者が過酷な大地を拓いていくのは良かった。それに読みやすかったからな」

「そうですね、有島武郎はキリスト教徒だったので、そちらの風味もあったかもしれません」

「そうか、だからタイトルも『カインの末裔』だったのか……しかし、労働者がテーマで、なぜ彼らがカインの末裔と題されているんだ?」

 

 そんな風に疑問を抱いた彼女に私は一つのお話をしてみます。

 

「カインは罪人として昔いた場所から別の地へ移りました。恐らくそこが反映されているんですよ」

「ふむ、確かに善人とは言い難いが……だが、労働者が粗野な所は蟹工船でも描かれていたし、辛い暮らしの中では粗野になってしまうこともあるだろう? だからこそ、そんなことにならないように私たちは闘争をしているんだ」

「───えぇ、ですが『カインの末裔』と『防雪林』にはある違いがあります。『防雪林』はその地名が後からやってきた移民がつけた名で呼ばれています。それが普通だからです。でも、『カインの末裔』はかつてそこにいた者らの名付けた名前を使っています。労働者だから、圧政を受けるものだから……そんな風に自分たちが下だとしても、さらに下にいる者の存在を忘れないように───」

 

 昔読んだ教科書の言葉を記憶だよりに引きながら、それっぽく語ります。えぇ、自分の知識を披露したくなってしまっただけです。ですが、疑問には答えられたと思います。

 

「……あぁ、私もまだまだだな。反省しないと」

 

 目から鱗が落ちるとはこういう顔をしているのかもしれません。ぱちくりと開いた眼で、工務部を束ねる彼女は、反省を口にしました。

 

「また、来ることにするよ。今日はありがとう。相手だけでなく、自分たちの中にもブルジョワジーの芽が出ていないか常に批判することも大事だと気づかされたよ」

 

 そして、もう一度ありがとうと言って、彼女は図書館の出入り口の方へ向かいました。




 というわけで、ミノリさんのお話でした。
 今回は『大学生のための文学レッスン 近代編』にて書かれていた内容をもとに書いたお話です。こんなにも都合のいい展開が書ける内容があっていいのですかと思いながら書いてました。

 勿論これも解釈の一つなので、実際のところは分かりません。ですが、確かにそうかもしれないと納得できそうな所ですよね。

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