キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
ご無沙汰しております、司書のヒジリです。前語りを長々とするのもなんですが、挨拶だけというのも味気ないので、適当に引き延ばす小噺をいたしましょう。
物流という言葉があります。読んで字のごとくモノの流れのことですが、普段よく目にするのはトラックでしょうね。運ぶものは様々で、本の様な小さいものから大型家電まで様々です。しかし、物流を担うのはトラックだけではありません。飛行機による空輸、船による海運、そして鉄道による陸送……今回は形のないものまで運ぶお話です。
「……?」
「パヒャ!」
「ひそひそ~」
「……???」
カウンターの縁から二隻の帽子がひょこひょこしています。そして謎の声……いったい何が何やら。私はカウンターから身を乗り出して正体を探ります。
「あの、何かご用ですか?」
「みつかったー。なぜー?」
「パヒャッ!? 完璧に隠れてたのに!」
「いえ、帽子が浮上してましたよ……?」
カウンター下に隠れていたのは、緑髪の双子の女の子です。無表情っぽい子と表情がコロコロ変わる子とで、なんだか釣り合ってる感じがします。服は、学校と言うより企業の制服っぽいので、実務系の学校の方でしょうか。
「あれー?」
「えー? そうだった?」
「他の利用者様のご迷惑になりますのでかくれんぼはご遠慮くださいね。それで、何かご用がありますか?」
遊びも学びという考えを私は持っていますが、何事も節度は大事。他の利用者の迷惑になることは止めないといけません。そして、ご用があるならお助けするのもお仕事です。
「あのねー、面白い本ないかな~って、探してるの~」
「とびっきり面白い奴ね! やっぱ面白さって大事っしょ?」
「面白い本ですか……流石にそれだけですと……」
「えぇ? お姉さんもプロでしょ? ズバーっと見抜いて面白いの持ってきてよ」
「我も、面白いもの所望~」
うーん、困りましたね。案外厄介な利用者様かもしれません。根気強く……なんて思っていると、入口の方から砂色の髪の毛の少女がツカツカやってきました。軍人みたいなコートも相まってなんだか怖そう。
「お前たち、さっそく面倒を起こすんじゃない」
「うげぇ~撒いたと思ったのに」
「わお、思ったより早かったね」
「行く先は分かってるのに撒けるはずないだろう……失礼した、この馬鹿どもは私が責任もって大人しくさせるから、貴女は貴女の業務に戻ってくれ」
ひょいと少女は双子の女の子をつまみ上げてしまいます。そしてそのまま奥の方へ行こうとするので、私はあわてて引き留めました。
「えっと、もっと詳しく条件があれば探せますので、資料のお探しなら喜んでお手伝いしますよ」
ニヤニヤと小脇に抱えられた双子の女の子が保護者的少女を見上げます。彼女は少し考えてから、ちょっと大きめの溜息を吐きました。そんなに大きなの吐くと幸せが逃げてしまいますよ?
彼女は備え付けの椅子二つに双子を座らせると自分は座らずに、恐らく逃げないようにでしょうけど、二人の肩に手を置きました。
「えっと、なにかお探しではあるんですよね?」
「かだいー。かんそうぶん~」
「選んだ本について紹介しあうとか面倒だよね」
話の内容からして読書感想文とブックトークかビブリオバトルをすると言った課題なのでしょう。ビブリオバトルは台本を用意しないのですが……まぁ、いきなり話すというのも難しいですし、まずは感想文で話す内容を整理させると言ったところでしょうか。
「それなら、好きな内容とかありますか?」
「パヒャヒャッ、そんなの決まってるじゃん」
「ぽっぽー」
「……なるほど。それと聞いておきたいんですが、発表はいつ頃ですか?」
「わすれたー」
「えーっと、いつだったっけ。工期は長めだったはず」
ちらりと保護者役の少女を見ます。彼女はまた溜息を吐いた後に記憶を呼び起こすように目を細めました。
「そうだな、十二月初めの頃だったか、私の時はそうだった」
「少し長いですね……まぁ、感想文を書いたりするなら相応……そうですね、感想文の書き方の本も一緒にご紹介しましょうか」
「よきにはからえ~」
「あ~それめっちゃ助かるぅーあり~♪」
「でもまずは、感想を書く本ですね」
普段の業務もあるでしょうし、あんまり長いのはダメですね。サクッと読めて、それでいて味があって……そうですね冬っぽさもあるといいでしょうか。むぅ、それに鉄道要素となると……。
「少々お待ちください、色々持ってきますので」
えぇ、色々回らないといけないので、今回は私だけで取りに行くことにします。
「こちらは、文章の書き方についての本です。いくつか種類がありますのでお好きなものをどうぞ……そしてこちらがおススメする書籍になります」
「おぉ~」
「……絵本と文庫本?」
露骨に嫌な顔されましたね。でも、あの条件ならばっちりですし、面白いはずなんですよ。
「『銀河鉄道の夜』と『急行「北極号」』です。どちらも面白いと私は個人的に思っていますが……人によりけりですからね」
「おぉ~北極」
「銀河鉄道ってあれでしょ? 機械の身体をってヤツ」
「古いの知ってますね。でもそれじゃないですよ」
松本零士の作品も素敵ですが、今回は名前の元になった宮沢賢治の方です。また『急行「北極号」』のほうは海外の絵本の翻訳ですね。原題は『The Polar Express』翻訳は村上春樹です。アニメーション映画にもなっていますね。
「ホントにおもしろいのこれ?」
「えーほーんー……迫力でかし?」
絵本の方を手に取ったのはのんびりしていらっしゃる方の女の子です。文章は読まずにぺらぺらとページをめくっていますね。それも一つの楽しみ方ではありますし、この絵本、絵がしっとりしてていい味があるんですよね。
映画を先に知ったせいで、私としては少し物足りないこともあるのですが……ココア飲みたくなってきましたね。
まぁ、それは置いといて。『銀河鉄道の夜』にいきましょう。皆さんもどこかで読んだことありますよね。小学校の教科書にも掲載されてたと言うことですし。私は見たことないんですけど。
「古臭いかもと思うかもしれませんが、宮沢賢治の文章は柔らかくてずっと読まれてるんですよ」
「名前も聞いたことないけど、ホント? 騙そうとしてない?」
「騙してどうにかなるものでもないですし……絵本版もありますけど、そちらにしますか?」
「みたーい」
「ちょ、ヒカリ?」
「では、そちらもお持ちしますね」
絵本ってたまに読むと暫く絵本読みたいって欲求が生えてくるんですよね……皆さんそんな時、ありません? ないかな? 無いかも。
「複数冊シリーズ? いっぱい~」
「いえ、有名なのでいっぱい種類が出ているだけですよ。ほら、絵も綺麗ですし、宮沢賢治は童話なんかも多いので……『注文の多い料理店』とか『やまなし』とかは有名ですよね」
「パヒャ? 料理店は聞いたことあるかも。確かアレでしょ? いっぱいの扉くぐってく奴!」
「えぇ、そうですね。映像化や読み聞かせに選ばれることも多いですし、料理店も教科書に採用されていたはずですから学校で習ったかもしれませんね」
「あれの作者かぁ……」
おや、絵本の方を手に取って読まれ始めましたね。まぁ、確かに文庫本を前にするよりは絵本の方が試しに読んでみる気力は湧きやすいかもしれません。
お二方はそのまま『銀河鉄道の夜』と『急行「北極号」』。それと感想文の書き方の本を借りられました。
そして、最後に私は砂色の髪の毛の少女に一冊の文庫本を渡しました。
「……私は頼んでないが?」
「そうなんですけど、一人だけ蚊帳の外って感じでしたし、双子の方もしばらく図書館で読むそうなので、よかったらその間に……」
「───『蜜柑』?」
私が渡しましたのは、かの天才芥川龍之介の『蜜柑』です。これも鉄道が絡む作品ですね。芥川は『トロツコ』などもありますけど、なんとなく私の直感が、彼女には『蜜柑』が合うって告げてきたんです。
『蜜柑』は鬱々とした日常の中に出くわした一場面のお話です。きっと日記にでも書きつけなければ一年経たぬ間に忘れてしまうような思い出でしょう。ですが、この体験の中で鬱々とした気分は蜜柑の陽によって少々明るくなるんです。
子守というときっと彼女たち全員が怒るので口には出しませんが、その保護者役となっている少女の雰囲気は、自由な二人に引っ張りまわされてるだけでなく、どこか別のところにあると感じましたので、それが少しでも晴れればなと思います。
読み始めてからすぐは、少しムッとしていましたが、しばらくして彼女は少し眉を緩ませていました。ただ、ちょっと私を見る目は険しくなった気もします。何か地雷を踏んずけてしまったかも……。やっぱり、出しゃばりは良くないかもしれませんね。反省です。
はいと言うわけで、ハイランダー組のお話でした。
ポーラー・エクスプレスはいいぞ。映画でもいいから見てくれ。ココアのシーンとか絶対夢が広がってわくわくだから……
銀河鉄道の夜は実は私は未読なんですよね。面白いとは聞くんですけど、まだいいかなの精神で積み上げてるので……はい、また今度読みます……。
蜜柑は私も好きな話です。こう、普段と変わらない日常、と言うより少し嫌な目にも合っていますが、その先にあった景色、トンネルを抜けたあとに待ってる景色に心打たれてしまったんですね。
私の好きな作品にあるセリフなんですけど「あの丘の向こうに何があるんだろうって思ったことはないかい?」というのがありまして、このトンネルを抜けた先の景色が正しくそのわくわくだなって思いました。このセリフの作品は紹介できる相手が思いつかないので、ご紹介の機会はないと思います。
あと、発見なんですけど、ドヴォルザークの第九の新世界第四楽章って、汽車の走る環境音と一緒に聞くとむちゃくちゃ合います。もうチョコとミントの如く合います。