キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
十七・五冊目 私の一番
お久しぶりと、言うべきでしょうか。元からいつまで続くかも分からない日々でしたし・・・・・・と言い訳させてください。
まぁ、とにかく、今日は特別なのです。なんたって私の誕生日ですから! ふふふ・・・・・・まだ誕生日にそわそわする年頃ですよ? 戦々恐々したり気づかなくなる日がいつか来るかもしれませんけど、そうなったらちょっと悲しいです。
さて、4月23日ですが、本の日となっています。いえ、正しく言うならば世界本の日ですかね。サン・ジョルディ、聖ゲオルギウスの日でもあります。というより、このサン・ジョルディで本を贈る風習からこの日が本の日になったらしいので、サン・ジョルディの日とするのがいいかもしれません。
まぁ、言葉や由来は大事ですが、本質から離れるのもあまりよろしくないですよね。なにが言いたいのかといえば、私の誕生日が本の日で運命的ですよねってことです。
みなさんもよかったら本を贈ってみるとかしてみましょうね。
春の陽気をしっかり感じる・・・・・・どころか夏の始まりを感じると言えるような時期になってきた。カウンターの方を伺うと人は少なく、ふぁ~と口元を押さえて欠伸する司書さんが見える。あぁ、よかった。少なくとも私の姿を見られることは無さそうだ。
私はカウンターに座る司書さんに声をかけた。
「あら、サオリさん。どうされました? 何か探します?」
「いや、特には・・・・・・あぁ、だが少し気になってることは・・・・・・」
「ふふっ、何です? 私にできることなら何でもしますが」
私がそう言うと、サオリさんはじゃあと気になっているコトを話し出しました。
「司書さんの、一番好きな本はどんな本なのか、教えてほしい」
ふむ、私の一番好きな本ですか・・・・・・私の一番好きな本? 一番、一番って何でしょう。一番とは、順序・順番の最初、序列が最高のものだそうです。
・・・・・・いや、分かってますよ? 一番、一番かぁ。読書好きに一番好きな本訊ねたら何日経っても返答なんて返ってきやしませんよ。だって永久に悩んでるんですもの。
自分の一番好きなもの、それを決めることはとっても難しいことなのです。
「・・・・・・私には教えられないような本だったか? なら、忘れ───」
「そんなことは! 今、何が自分の中の一番か考えてるので、もうちょっと、もうちょっとお待ちを!」
悲しそうな顔をさせてしまって本当に申し訳ないのですが、どうしてもすぐに答えられるものを用意は出来ないのです。でも、もう少しだけ考えさせてもらったら、きっと出せるはず・・・・・・!
最近読んで一番興味深かったのは・・・・・・『南京の基督』ですが、あくまで最近読んだ中でというだけ、一番好きかと言われると首を横に振らざるを得ません。信頼できない語り手。述べられ方に偏りがあるという視点の論文も一緒に読みましたが、中々面白い着眼点でした。
一番はじめに読んだ本も思い出せませんね。6歳くらいの時に絵本と出会ってドハマりしたのは確かなんですが、明確にこれと言えるものは無いですね。
好き・・・・・・とは、何なのでしょう。難しいです。
小さい頃読んでいたお気に入り? それとも、何度も読み返したシリーズ? いえ、もしかしたら一度読んだだけでも脳裏から離れないインパクト抜群の一冊かもしれません。
小さい頃読んでいたお気に入りなら『黒魔女さんが通る』か『夢水清志朗の事件ノート』あとは『マジックツリーハウス』でしょうか。黒魔女さんの方は六年生編から追えてませんし、マジックツリーハウスもフーディーニの頃が最後です。夢水清志朗は・・・・・・新刊待ちです。『怪盗クイーン』は今度映画がするみたいですね。おっと話が逸れました。どれも好きではあるのですが、一番なの? と聞かれると首を縦には振りにくいです。
何度も読み返したシリーズなら・・・・・・『BACCANO!』とかですかね。群像劇の名手成田先生の初めての作品ですが・・・・・・アニメも何周かするぐらいには好きですが・・・・・・これも一番とはちょっと言えません。
一度読んだだけで頭から離れないというならば夢野久作の『死後の恋』か谷崎潤一郎の『春琴抄』です。性癖といったらいいんですかね、ちょっとねじ切られた嫌いがあるのですが、『乙女の本棚』シリーズの死後の恋はリヤトニコフの目が、今でも頭から離れないぐらいにはゾクッときました。
確かにこの二つは割と好きな部類ではあるのですが、これを他人に勧めるのはちょっとはばかられるというか・・・・・・いえ、やましい訳では決して!
「・・・・・・司書さん?」
「ごっ、ごめんなさい。今、自分の人生とは何なのかから問い直して居てですね・・・・・・」
困っているというより、訳が分からないといった表情で私を見つめるサオリさん。ふふふっ、いつか本をいっぱい知った暁にはきっと貴女もこうなるんですからね???
でも、早く決めてあげた方がいいのは確かです。一番・・・・・・そうですね、今の私が暫定的に、現状から判断して述べるとすれば・・・・・・。
「───『蟲師』ですかね」
漆原友紀先生による漫画作品、それが『蟲師』です。図書館の分類ならば726なのですが、大抵は他の7分類とは別のYAエリアに置いてありますね。
さて、蟲師の解説といきましょうか。多少は名前の売れている作品だとは思うのですが、少し昔のものですからね。
舞台は明治か幕末の間のような雰囲気の時代です。ただ明確な歴史ではなく、多くの和の雰囲気に混じって少しだけ洋の雰囲気のある世界といったらいいんでしょうか。登場人物は主人公以外和服ですし、都会が出てくることもありません。ノスタルジーな世界です。
そしてタイトルの蟲。これは昆虫のようなものではなく。もっと神秘的かつ原始的な存在。人や鳥などが指先だとするならば、手首の両生類、ミジンコやミドリムシのような単細胞生物の肘を通り過ぎた、心臓のすぐ横にいるようなそういう不可思議な生物です。
その蟲や蟲に関わった人の問題を解決したり、時には見過ごしたり、何も出来ずにその場を去ったりと、主人公がその場所々々で起きる事柄に関わり、事件を描く作品です。
この作品の推しポイントは、雰囲気です。なんといってもノスタルジックな和の雰囲気。日本画というんでしょうか、淡いながらもしっとりと重みのある絵柄は作品の味をよく表してると思います。
「・・・・・・それは、ここで読めるのだろうか?」
「ふふふ、そうですよね、気になりますよね・・・・・・ですが、当館では所蔵してないんですよ」
そうなのか、としょんぼりしてしまったサオリさんの手を握る。当館では、ですよ。勿論私は持ってます。
「今度、ウチに来てくださいよ。一番以外も読みたいの読んでいいですよ」
サオリさんはびっくりした様子です。でもすぐに難しい表情に戻ってしまいました。いえ、理由は分かりますよ。私の心配なんでしょうけど、気にしませんよ。
「友達家に招いて、お茶して、好きな本の話をする・・・・・・いいじゃないですか。そんな平穏な日々は素晴らしいでしょ? なんなら、今日来ます? 私誕生日なんですけど、一人でケーキ食べても寂しいだけですから、一緒に食べません?」
サオリさんは少し悩んだ後に頷いてくれました。
「・・・・・・司書さん」
「何ですか?」
「誕生日、おめでとう・・・・・・それと、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」