キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
半分くらいキキョウが当たらないかなーの願掛けです。
お久しぶりです、司書のヒジリです。最近暑くなってきましたね。湿気もすごくて大変で・・・・・・本は日差しも湿気も大敵ですから。もちろんそれを管理する人だって暑さにも湿気にも弱いので、除湿冷房をください。湿度戻りしないやつで。
しかし、今日は特に湿度が高いような気がするのですが、利用者さんが来たので、お仕事に移りましょう。
「───ねぇ、芸術を題材にした小説はある?」
スラッとした黒髪の猫さん。では無く、猫耳の生徒さんですね。制服の上から羽織を召していらっしゃいます。たしか、あの制服は百鬼夜行の生徒さんだったと思います。 そういえば、先生が言ってらっしゃったのを思い出しました。百鬼夜行の治安維持は羽織を召した方たちがしているんでしたね。
「芸術を題材にした小説・・・・・・そうですね、他に特徴などはありますか?」
「特定のモノを探している訳じゃないけど・・・・・・そう、百鬼夜行に似合うようなモノがいい」
百鬼夜行に似合うような小説、となると、パッと思いついたのは一冊ですね。
まぁ、芸術が題材かと言われると少し首をかしげてしまうのですが、でも芸術が芯になっている物語ですよね。
「わかりました。では、ご案内しますね」
日本文学の書架、私は『コ』から始まるあたりを探します。いくつか並ぶ同じ作者の作品たちの中から、一冊を抜き出しました。
「こちら『五重塔』という小説になります」
ふぅん、と言うように受け取った黒猫の生徒さんは表紙を撫でてから、パラパラとめくり始めました。
「・・・・・・随分古めかしい言葉ね───百鬼夜行が古くさいから選んだってこと?」
「えっ?! いや、そんなことありませんよ。ただ、五重塔のような建築は百鬼夜行らしさもありますし、お祭りのようなイベントの多い百鬼夜行でしたら、そういった大きな計画の大変さをよく知っているんじゃ無いかなって」
「ふふっ、冗談だから」
変な誤解を生まないように弁明する私のことを面白そうに眺めた黒猫の生徒さん。なんだか試されたというか、遊ばれたというか・・・・・・二股の尻尾が楽しそうにゆらゆら揺れている感じ、遊びが主な気もします。
「ほら、手続きして?」
促され、私と彼女はともにカウンターに戻るのです・・・・・・。
さて、では『五重塔』のお話について話しましょう。
作者は幸田露伴・・・・・・少し詳しい方なら知っているでしょうか。近代文学の初期の作家さんです。今使われている日本語の原型ができあがった時期の方ですが、そのため、言葉が古くさいところもあります。慣れてない人なら上から下まで文字で埋め尽くされたその様にクラリと来てしまうかも?
しかし、読みやすい方であると私は思いますよ。一定のリズムをつかめばどんどんお話が頭に入ってきます───どんなリズムかと言われるとちょっと表しにくいですが、平たく言えば、講談というか、人に語って聞かせるようにと捉えればつかめるはず?
まぁ、内容の方にいきましょう。
『五重塔』はある寺が新たに建てようとする五重塔を誰が建てるかというお話です。義理と仁義、師弟の関係だった二人の大工を中心にいくつかの視点でお話が進められ、職人気質からくる頑固さや上に立つ者としての意地、折り合いをつけられるかどうかが大事なようにも、一本筋の通った人であることが大事であるようにも感じられる・・・・・・そんなお話でした。
私は、譲る派ですけどね。
ペラリペラリとページをめくり、文字を追う。馴染みの薄い文章に少しスピードは落ちるが、着々と物語は進んでいく。
親分大工の妻の視点から始まる物語だが、一方の偏った意見であることを意識しなければならない。
建築を一種の芸術と捉えれば、芸術を題材とした小説となるのだろうが、少し捻った答えであると思う。
頑固で譲らず、言っても聞かないが故に一級品を生み出せる者。
激情家なところもあれど、考えて妥協点を思いつき、すべてを丸く収めることができる者。
どこか重なる人の影が脳裏に浮かぶのは、偶然だろうか、それとも───
ナツとシュロと……思いつきそうなのはいくつか?