キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
こんにちは、夏の暑さにも冬の寒さにも負けるタイプの司書 ヒジリです。
なんだか少し昔を思い出すような頻度ですね。ご紹介できるような本を思いつきやすい時期といいますか、なんというべきか・・・・・・まぁ、そういう感じです。
うまく言えない言葉を繰り返し考えるよりも、やってきた利用者に相対した方がいいでしょう。本日の利用者様はどんな方でしょうか。
「やぁやぁ、知識の番人、導き手よ。本を探しているんだけど」
一風変わった声のかけ方をされる生徒さんですね。髪の毛は薄桃色。やや後ろに下がったサイドテールで、とろんとした赤い瞳は見つめているとこっちまで微睡んできそうです。
堅い言葉と違ってふにょりとした声もそれに拍車を掛けていますね。
多分生徒さんだとは思うのですが、最中色のコートも、その下に着ているシャツも学校が窺い知れるものはありません。胸には・・・・・・しゅがーらっしゅ? とプリントされていますが、ちょっとよく分かりませんね。
「はい、どのような物をお探しでしょうか?」
「うん、スイーツの本を探していてねぇ」
「? でしたら、料理関係の596の方にご案内を───」
私がそう言うと、シュガーラッシュのお嬢さんは指をチッチッチッと振りました。
「面白いのが読みたいんだぁ」
「面白い・・・・・・ですか」
ある意味、小説などでなくて良かったと言うべきでしょう。面白さが千差万別でどう評価するか難しい小説よりは、選びやすいのは救いです。
「はい、ご案内いたします」
料理は5類の技術・工学になります。家政学というジャンルだからですね。その家政学の中にある料理が596、今回の場合、お菓子に関してなのでさらに深くして、596.65となります。この分類に関しては昔話しましたよね? 覚えていらっしゃるかは分かりませんが、図書館で何かを歩いて探すならこの分類を覚えておくといいでしょうね。
機械で探すなら件名の方がいいとは思いますが、それについてはまた別の機会にいたしましょう。
と言うことでたどり着いた料理関係の本が詰まった書架。やっぱりその内容の多くはレシピが書かれた本です。もちろんそれ以外にもありますが。
私が選んだのは小さなサイズの本。だいたい文庫本くらいですかね?
「こちら『小さなお菓子の本』です」
「名は体を表す───か」
サイズは文庫本ですが太さはなかなかの一冊。小さい本シリーズの一つで、名前通りお菓子についての内容が詰まったものになります。
手渡すと、生徒さんは光にかざすように本を掲げました。まるでライオンキングのあのシーンみたいですね。
「それで、これは何が面白いの~?」
しばし見上げた後、私に視線を向けて尋ねる生徒さん。トロンとした瞳の奥には好奇心の星が見えます。
「そうですね、様々な地域のお菓子の紹介、合間合間のレシピ、コラム、パフェとサンデーの違いやバウムクーヘンの名前の由来なんかを教えてくれる豆知識の章、著名な文化人ゆかりのお菓子の紹介、名作文学に出てくるお菓子のシーンなど、色々なコンテンツがぎゅっと詰まってるところですかね」
私がそう言うと、彼女はペラペラとページをめくり始めました。そして、その手は最後の方、名作文学の中のお菓子の章で止まりました。
夏目漱石著『吾輩は猫である』からの引用部分です。
生活費について妻君からくどくど言われるのを聞き流しているシーンですね。少し私も引用しましょう。
『「それでもあなたが御飯を召し上らんで麺麭を御食べになったり、ジャムを御舐めになるものですから」
「元来ジャムは幾缶舐めたのかい」
「今月は八つ入りましたよ」
「八つ? そんなに舐めた覚えは無い」
「あなたばかりじゃありません、子供も舐めます」*1』
こんな会話がありまして、当時はジャムが高級品だったので、妻君は怒っているのですが、苦沙弥先生はどこ吹く風・・・・・・八つも舐めた覚えは無いと反論するところがかわいらしいですね。
さて、お話を戻しましょう。
薄桃髪の生徒さんはそのページを見て、口角をふにっと上げました。
「確かに、これは面白い・・・・・・! ジャム八缶を総舐め───実にロックだ」
「・・・・・・なんですかね?」
やっぱりちょっと感性が飛び抜けているタイプの生徒さんなんでしょうか。
彼女はそのまま、貸し出しの手続きを済ませて、愉快そうに帰って行きました。
新たな試み、引用です。
規約的にも多分大丈夫だと思うんですがね……