キヴォトス D.U.近郊 シラトリ区立図書館へようこそ! 作:ぱる@鏡崎琴春夜
あの頃リクエストした人はまだ見ていてくれているでしょうか。
二十冊目 夢か現か境目か
お久しぶりですと何度目になるでしょうか、司書の花鏡ヒジリです。
皆さんは、夢とか見てますか? 私は昨晩、不思議な夢を見ました。
とても大きな邸宅に、何かの撮影スタッフとしてお邪魔していた私は、そこで小さな女の子とで会うんです。それで、その小さな女の子がとても厄介なことに、気に入らない相手の存在の記憶を世界から消し去るという技能持ちで、私はその子に気に入られてしまうという感じの夢だったんですが・・・・・・オチまであったはずなんですけど、忘れちゃいました。
とまぁ、こんな感じの不思議な夢を年に数回ほど見るんですけど、大抵はすぐ忘れちゃいますよね。
覚えられてたら楽しいんでしょうか、それとも恐ろしくなっちゃうんでしょうか?
なんてお話ししていたら、お目当ての生徒さんがいらっしゃいました。
短く切った髪の毛と同じ色合いの黒の制服。ゲヘナの生徒さんですね。
「お待たせしました。お問い合わせの『月の骨』やっとご用意できました」
サイズは文庫本、厚さは───そうですね、良くあるライトノベルより少し薄いという感じですが、ボリューム感はそこまで薄くは感じませんでした。
表紙は小さな男の子が独特のタッチで描かれています。
ゲヘナの生徒さんは、表紙を撫でました。
どんなに大事にされた本でも、やはり経年劣化というものは避けられません。ブックコートフィルム───あの図書館の本のカバーに施されているフィルムです。───をしていても、日に当たる部分は色あせますし、中まではカバーしきれません。カバーだけに。
この『月の骨』も初版は1989年のものです。その時間の経過が、本に味を与えると私は思っていますが、ゲヘナの生徒さんも同じようなことを思っているのかもしれません。
「あんがとね、楽しませてもらうよ」
貸し出し手続きを済ませると、彼女はそう言って退館なさいました。
さて、それでは内容のお話に参りましょう。
『月の骨』は翻訳小説です。裏表紙にあらすじが書いてありますが、このあらすじの内容はそこそこ間違っているエアプあらすじなので、お気をつけください。
作者はジョナサン・キャロル。問い合わせを受けるまでは存じ上げなかった作家ですが、幻想文学の作家さんのようです。
『月の骨』以外では『死者の書』などを書いていらっしゃるとか。いつかは読んでみたいですね。
では次にあらすじをお話ししましょう。本作は、現実と夢の世界の二つが語られます。
物語はカレンという女性の一人称で進んでいきます。彼女はいたって普通の女性で、大学生活を楽しみ、恋をして───社会に出て、孤独の夜の寂しさと過ち・・・・・・セックスの後に、出来てしまった子供を中絶したり、そのことに負い目を感じながら、本当の愛に気づいたり・・・・・・よく言えば人生の描写がうまく、悪く言うならばドラマとしては少し薄味と言ったところです。
しかし、変わってくるのはここから、運命の相手とも言うべき、素敵な夫ダニーとの間に新しく子供を授かった頃からです。
カレンはロンデュアという島にペプシという息子と降り立ったのです。大きな犬の案内人やら、駱駝やら・・・・・・まぁとにかく個性的な、まさに夢の世界を見続けるようになりました。
それは、娘を出産してからも変わらず、まるでもう一つの世界は実在するように、ずっと続いて───現実に影響を受けながら、月の骨を求めて進み続ける。
そういうお話です。
冒険小説の様でもあり、一人の女性に寄り添った現代小説のようでもあり・・・・・・平均を取ればきっとローファンタジーになるんでしょうか。言い表すのが難しいですね。
私が面白いと思ったのは、現実編です。喜びと苦しみ。葛藤もあれば、考え足らずの決断もあり・・・・・・どこか生々しいというか、あぁ、現実を描いているなと思える部分が、どこか好きなんですよね。
あとは、台詞回しもでしょうか。ジョークや皮肉が軽快に混ざりながらも、そればっかりでは無く、普段の会話ややりとりで現実感もある。そんな自然なものがうらやましくも感じます。
ただこれ、ホラーの文脈もあるんですよね。
夢と現実がだんだん混ざっていって、最初はほとんど現実パートばかりだったのが、次第に夢の方へ偏重していって・・・・・・そう、このバランスの偏りが進んで行っているという実感を感じさせるんですよ。
読み出したら止まらない作品かもしれません。
・・・・・・とまぁ、語りすぎました。夏らしく読書感想文のようです。私アレ得意じゃありませんでしたけど。
もしよろしかったら、皆さんも是非探してみてください。あ、本の話ですよ? ロンデュアを見つけてしまうと大変なことになってしまうかもしれないのでね。